いきなりですが、アナログ・ディスクつまりLPでアイリッシュ・ミュージックを聴こうというイベントをやります。

きっかけはレーザーターンテーブルに出逢ってしまったことです。レーザーターンテーブルは針の代わりにレーザーでレコード盤の溝をトレースして音を読みとり再生するアナログ・プレーヤー。開発されたのはもうずいぶん前、メーカーによると30年前になるそうですから、そろそろLPからCDへの切替が完成する頃、耳にした記憶があります。その時はそんなことができるのか、半信半疑でした。オーディオにはよく新技術による革新的製品というのが登場します。技術は新しいけれど、それで音が良くなっったか、ようわからんというものもままあります。その頃は「レーザー」といえば光線銃というアタマがありましたから、レーザーを照射したらレコードに穴があくんじゃないの、とか言ってまともに受取りませんでした。
もちろんレーザーといっても多種多様なので、武器として使われるのはむしろ特殊なケースです。だいたいCDはレーザーを使ってるわけだし、文字通りレーザー・ディスクなんてのもあったわけですが、すでにLPの時代は終っていたこともあり、レーザーターンテーブルのことはすっかり忘れていました。
それが偶然メーカーの方にお眼にかかったことから、試聴するチャンスをいただきました。レーザーターンテーブルは5本の細いレーザーをレコード盤面に照射するそうです。2本が先導で溝を辿り、もう2本が左右の壁をトレースする。トレースするのは溝の縁から10ミクロン下だそうで、ここは針が接触しないので傷がついていない。針はもっと深い、溝の底に近いところに接触します。もう1本はレーザー・ヘッドとレコードの盤面の距離を測って、ヘッドの高さを一定に保つ。そうして読み取った振動は針で読み取るより遙かに精確になる、というのはまあわかります。 読み取った後は他のアナログ・ターンテーブルと同じで、アンプを通してスピーカーなりヘッドフォンを鳴らします。
百聞は一見に、じゃなかった、百見は一聴に如かず。とにかく聴いてみようじゃないかと、メーカーの試聴室にでかけました。持っていったのは当然アイリッシュ・ミュージック。その昔、あたしが貧しいシステムで聴いて、その虜になっていった、まあ懐しい盤です。
聴いて引っくり返りました。アンプはマッキントッシュでスピーカーはJBLという、ある意味ひと時代前のシステムですけど、いや、凄い。こんな音が入っていたのか。そして、こんな音楽をやっていたのか。
さんざん聴いた音源です。プランクシティのファーストにボシィ・バンドの Old Hag の類。そりゃ、アナログで聴くのは数十年ぶり、とはいえ、若い頃に「すり切れる」まで聴いて、CDでも数えきれない回数聴いて、隅々まで記憶に刻みこまれた録音。と思っていました。それが、まるで昨日スタジオでとれました、というような瑞々しい、新鮮な音楽に聞えます。
デ・ダナンのセカンド Selected Jigs & Reels は、未だにCD化されてませんから、音源自体聴くのはたぶん四半世紀ぶり。またまた引っくり返りました。こりゃ、凄い。こんな凄いことをかれらはやっていたのか。あたしらはよく「プランクシティ〜ボシィ革命」などと口にしますが、デ・ダナンもちゃんと加えなきゃあかんじゃないか、これじゃ。ダーヴィッシュは絶対にデ・ダナンがお手本だぞ。
マレード・ニ・ウィニー&フランキィ・ケネディのファースト。CDになったとたんに買いこんで、これまたそれこそCDがすり切れようかという程聴いてます。ここでしか聴けないマレードの無伴奏歌唱のなまめかしさ!
音楽自体もさることながら、録音がまた良い。メーカーの方も録音の良さに驚かれています。アイリッシュの録音は昔から音は良いのです。とりわけ生楽器の録音には、ロンドンやロサンジェルスが逆立ちしてもかなわないところがあります。アイルランドの人びとは太古の時代から音楽の大好きな人たちだからか、やはり耳がいいんでしょう。ダブリン録音はメジャーやアニソンなどでもよくみかけます。その昔、アイリッシュ・ミュージックが国内盤で盛んに出ていた頃、アイルランドの原盤を聴いた国内メジャー・レーベルのマスタリング・エンジニアが、どうしてウチのスタジオはこういう音が録れないのだと嘆いたという噂を耳にしたこともあります。
この音と音楽なら、レーザーターンテーブルの宣伝にもなると思われたのでしょう。というのは下司の勘繰りでした。この素晴らしい音楽といい音をアイリッシュ・ミュージック愛好家の方々とシェアしたいと思われたのだそうです。もっともこのT氏もアイリッシュを知らないわけではないらしい。レーザーターンテーブルを使って、アイリッシュ・ミュージックのアナログ・ディスクを聴くというイベントをやりましょうと言われました。あたしはもちろん双手を挙げて賛成しました。
というわけで上記のイベントです。念のため、もう一度書いておきます。
アイルランド音楽 レコード “いい音” 聴き語り
〜レーザー光で甦る、アイリッシュ・ミュージック名盤・名曲 “いい音”たち
開催日時:2018年6月29日 (金曜日)19時から
東京都千代田区神田佐久間町2-11
TEL. 03-3862-0068 (代)
JR秋葉原駅 昭和通り口から徒歩1分。
参加費 : 1ドリンク付き3,000円(税込)
かけるのは鋭意セレクションしてますが、上にも書いた、プランクシティのファーストやボシィのセカンド Old Hag You Have Killed Me、デ・ダナンのセカンド、マレードとフランキィのファーストはじめ、往年の名盤たちです。なるべくCD化されていないもの、CDにならなかったので忘れられてしまったとか、隠れた傑作も選ぶつもり。デイヴィ・スピラーンの初期作とか、ミホール・オ・ドーナルとミック・ハンリィの Celtic Folkweave とか。スコットランドやノーサンバーランドも少し混ぜます。ディック・ゴーハンが Topic から出した、ギターによるダンス・チューン集 Coppers & Brass は、なぜかCD化されてないんですよねえ。あるいはカパーケリーのファースト Cascade。これもCD化されていない。この冒頭の G.S. MacLennan 作の The Little Cascade の演奏は鮮烈です。
良い音で聴くことは良い音楽へのリスペクトだとあたしは思います。それに、良い音で初めてわかる、聞えるものも確かにあります。音楽の全体像が変わることさえある。YouTube や MP3 でいつでもどこでも聴けるのは大きな恩恵ですが、それでこぼれ落ちるものも少なくない。いつでもどこでも常に可能な限り良い音で聴こうとするのは趣味の領域ですが、レコードを作った人びとの意図になるべく近い音で一度は聴いてみるのはライヴの体験に通じるものがあります。
だいたい2時間の予定なので、マックス20枚20トラックというところでしょう。ほんとは片面全部とか聴きたいですが、そうもいかん。なるべくしゃべりは減らして、音に浸っていただこうと思ってます。この日はいわゆる「プレミアム・フライデー」だそうで、あたしなんぞ縁は無いと思っていたら、こういう形で縁ができそうです。(ゆ)
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