こういう対バンはたいてい面白い。先日のジョンジョンフェスティバル vs. 馬喰町バンドもそうだったが、とりわけ、ミュージシャンがこの連中と一緒にやりたいと思ってやる対バンはまずはずれがない。というより、意想外の面白さが出るものだ。面白くなるだろうという期待を良い方に裏切る。
NRQ というバンドは初耳だが、もう11年目だそうで、もちろんあたしなんぞの知らない優れたバンドは山のようにある。New Residential Quarters つまり新興住宅地の略だそうだが、NRBQ の本名を誰も知らないように、今や NRQ としか呼ばれないらしい。編成がユニークだ。二胡とエレクトリック・ギターとコントラバス、それにドラムスとサックスの持ち替え。このドラムス、サックスが中尾勘二氏というのは意外だった。まったく世代が異なるからだ。伝統音楽の世界では異世代メンバーのユニットは珍しくないが、これはそういうバンドなのか。中尾氏はシカラムータにもいて、あちらも異世代だが、シカラムータはまあ伝統音楽バンドといってもいい。
聴いてみれば、うーん、これはまた分類不可能の音楽だ。実に面白い。まずギターが尋常でない。あたしがまず連想したのは、グレイトフル・デッドのボブ・ウィアのギター。ウィアのギターは通常のリズム・ギターではないし、リード・ギターではもちろんないが、サイド・ギターというのもあたらない。というよりその全てが含まれる。基本的スタンスはガルシアを煽りながら、全体をまとめる。デッドのジャムは誰も一定のビートをキープしていないことが多いが、そこで筋を通しているのがウィアのギターだ。
牧野氏のギターはもちろんウィアとはまた異なるが、立ち位置としては近いところにいるように見える。バンドのリード楽器は一応二胡になるだろう。それを煽りながら、時に勝手にリードを奪うときもある。もっとも中尾氏がドラムを叩くときには一応ビートをキープするから、ギターはまた別のことをやっている。では何をやっているかというと、これがよくわからない。一定のことをやっているわけではない。常に変わっている。やはり全体に筋を通しているとは言えそうだ。
ダブル・ベースがまた面白い。これまた勝手なことをやっている。アルコでリードをとることもよくある。この楽器の名手は皆一定の枠からはみ出しているものだが、服部氏はまた奔放だ。
中尾氏のドラムスはたぶん生では初めて。シンプルにビートをキープしているように一見聞えるけれど、ここぞというところでふわっとはずれる。これも譬えていえばレヴォン・ヘルムだろうか。
吉田氏の二胡もはずれるといえばおそらくこの中では最もはずれているだろう。普通二胡ではおよそ弾くことはないだろうと思われるメロディやフレーズを頻発する。ラストの曲では楽器を振り回しながら弾く。二胡のサウンドは西洋の擦弦楽器のようなキレが無い。西アジアのケマンチェに近いのは当然といえば当然。キレのいいギターと対照的なのが面白い。
こういう編成で、では何をやるか。曲はオリジナルらしいが、乱暴にいってしまえば、ニッポンのメロディーを備える。ノスタルジックというよりはキッチュだろう。パロディよりもバーレスク。真正面を向くのではなく、半歩下って斜めを向いている。その角度がいい。おそらくは計算と試行錯誤を混合しながら探りあてている。聴く者の中に沈みこんでくる音楽だ。おちつかせる。しかし地面に押しつけることもない。どこまでも沈みこむ。まるで、地殻を造るプレートがその境界で沈みこんでゆくようだ。プレートのように、どこかで跳ね返るのか。今回はそこまではいかなかった。
後半のハモニカクリームズの音楽はまったく対照的で、まずその対比が面白い。いつもと違って、二つのバンドが同じ曲を共演することはなかったが、これはまず不可能だろう。ハモクリの音楽は聴く者を浮上させるからだ。
前回、スター・パインズ・カフェの時は音が大きすぎて、後半はメロディも聞えなかった。今回はハコのサイズもあり、適度の音量で、かれらのあの面白いメロディ・ラインを存分に愉しめた。今回はバックが渡辺庸介さんであることも良かった。田中祐司氏だと完全にロック・バンドになって、フジ・ロックのようなところでは良いだろうが、あたしの趣味からはちょと外れる。ハモクリはやはり広い意味でのワールド・ミュージックであってほしい。
このバンドは当初の頃からするとずいぶん変身してきていて、もはやケルト・バンドとは呼べない。ケルトの要素はあるが、むしろ隠し味になってきている。全体としては独自のハモクリ・サウンドが確立してきている。そこにはブルーズもケルトもあるが、もう一つ、何か別のものが生まれているように聞える。それが何か、まだよくわからない。新作の《ステレオタイプ》はその何かが初めて前面に出てきているようでもある。おそらくそれには田中氏のドラムスの方が良かったのだろう。
まあ、あたしはとにかくナベさんの演奏が好きなのではある。この人は何をやっても面白く聴ける。たとえばトリニテのようなバンドに入ったとしても、面白いにちがいない。熊谷太輔さんもそうだが、いいバンドやアンサンブルを聴くと、ここにナベさんや熊谷さんが入ったらどうなるだろうと妄想してしまうのだ。
終演後、長尾さんと話していて、ハモクリとトリコロールでは客層が違う、ジョンジョンフェスティバルではまた違うと言われる。重なる部分もあるが、中核は異なるそうだ。おそらくはフロントに立つミュージシャンのキャラの違いによるものなのだろうが、長尾さんも、ハモクリのときは服装も、演奏スタイルも変えている。あたしなどは、どれも面白く、愉しませてもらっているが、これはたぶん良いことだ。何にしても、多様性の大きいことが大事なのだから。
ハモクリはフジ・ロックに出た後、ヨーロッパ・ツアー。帰ってくると09/14にまた渋谷で対バン。この相手も初耳なので、たいへん楽しみ。(ゆ)
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