ナベさんがパーカッションを叩きだし、アニーのギターが加わり、少しためて大渕さんのヴァイオリンと秦さんの鍵盤アコーディオンが入った途端、体が浮いた。先月、西の方を5ヶ所ツアーしてきたというその成果は明らかだ。むろん、それだけではないだろうが、バンドとしての一体感が出てきた。メンバーの歯車が噛みあって、滑らかに動くようになってきた。これがもう少し成熟すると、今度は有機的につながってくるが、その前、いわば物理的なシステムとして完成された今の段階もまた面白い。バンドが一つの核になるものを摑んで、一個のマシンとして動きだすのを見るのは快感だ。こうなると各メンバーの腕がまた上がったように聞える。

 実際、上がってもいるのだろうが、大渕さんやアニーの腕は相当に高くて、さすがにそうそう毎回巧くなったとわかるはずはなかろうと思う。それでも、前回よりも腕が上がったように聞えるのは、バンドの中での絡み方、差し手引き手の呼吸が良くなっているからだ。大渕さんもハモクリとはキャラを変えて、おそらくエフェクタなどを使っているのだろうが、音のエッジをまるめてソフトにしている。このバンドの曲は1曲の中でアップテンポのパートとスローなパートが共存し、交互に出てきたりする。ソフトな響きがその構造によく合っている。ラスト〈星空に誓って〉でニッケルハルパのような音を出したのも面白い。

 アニーがバンドによってキャラを変えることにナベさんが感心していたが、そのナベさんもバンドによって変身することでは劣らない。このバンドは主宰でもあり、一番やりたいようにやっている。実際、パーカッションが場の空気を決めている。同じ曲でもどうも叩き方が違う。少なくともそう聞える。そうするとメロディは同じなのに、印象が変わる。明るい曲が昏くなるなどとコトバで言えるような変化ではないが、メロディが備えている感覚とリズム・セクションが生み出すグルーヴがうまくずらされていて、曲全体のイメージが重層的になる。生演奏を聴いているワクワク感が増す。そのずらし方が巧くなった、と言えるだろう。

 明らかに腕が上がったとわかるのは秦さんの鍵盤アコーディオンで、前半ラスト、ケルト系ダンス・チューンを取り入れた曲で、大渕さんのヴァイオリンとすばらしいユニゾンで聞かせる。こういう曲を弾かせて、この楽器では今トップではないかとすら思える。アニーより巧い。目指せ、フィル・カニンガム!と思わず心の中で叫んでしまう。本人は後半のピアノの方が本来の楽器でもあり、おちつくらしいし、ピアノの入った演奏もこのバンドの別の面が出てきて面白いが、あたしとしてはアコーディオンをもっとばりばりに弾きまくるところを聴きたい。

 後半は秦さんがピアノに回り、アニーがギターとアコーディオンを持ち替える。後半冒頭の〈待ち人〉がまずいい。一度終ったと見えてピアノがソロをとり、アコーディオンが受け継いで、再びフルバンドで今度は本当にコーダという構成は、前回も良かったが、さらに良い。だいたいこのバンドの曲は終ったと見せて、実は終っていないことが多々ある。次の次の〈寒暖〉もそうだが、こういう構成の妙はどうやらこのバンドのウリらしい。

 ピアノが入るということで後半はスローなバラード曲が多いがどれも佳曲だ。〈水模様〉のセカンド・テーマのメロディがいい。このバンドはまだまだ全部の顔を見せていないような気もする。あるいは、メンバーも知らない色々な顔がどんどんと現れているのかもしれない。対バンによって新たな顔が引き出されることもあろう。今日はザッハトルテとの対バンで見たかったのだが、残念。次回はピクリブというまた対照的なキャラのユニットとの対バンで、これは楽しみだ。(ゆ)

Groovedge
渡辺庸介: percussion
大渕愛子: fiddle
中村大史: guitar, accordion
秦コータロー: accordion, piano