新作《Storyteller》レコ発、なのだが、パーカッションの熊谷さんが持病の腰痛の発作勃発で涙の欠席。急遽トリオという形になる。とはいえ、高梨さんも言うように、そこがアイリッシュの柔軟なところで、どんな形でもできてしまう。ギターの音をやや大きめにとって、打楽器の欠如をまるで感じさせない。初めて見る人はこういうバンドだと思うだろう。
初っ端、あたしの大好きな〈北海道リール〉から始まるので、嬉しくなる。つくづくこれは名曲だ、と聴くたびに思う。とりわけ b. の〈牡蠣〉から c. の〈帆立〉への流れ。くー、たまりまへん。
次の〈かぼちゃごろごろ〉のホーンパイプになる後半がいい。中村さんのギターのカッティングが冴えて、曲全体がスイングする。次の〈鮭の神話〉の c. の変拍子もそうだが、バンド全体としてのリズム感覚が一皮も二皮も剥けている。それが決定的になったのは、前半最後の〈とりとめのない話〉。新作では冒頭に置かれて、いきなりのノックアウト・パンチになっているテンポを上げたヴァージョン。これあ、すげえ。
アンサンブルの安定感もぐんと増している。こちらでは高梨さんのコンサティーナの進境が大きい。もうセカンド楽器とかいうレベルは完全に脱けている。11月には tipsipuca と生梅という組合せで、横浜・赤レンガ倉庫の Bellows Lovers Night に出るそうだが、パイプの鞴だけでなく、このコンサティーナも大いに活躍するにちがいない。新作からの〈Genghis Khan's Polka〉の躍動感はハイライトのひとつ。
酒井さんのハーダンガー・フェレもいよいよ味が出てきた。こちらは後半冒頭に高梨さんのロゥホィッスルとデュオでノーPAでやった新作からの〈むかしばなし〉にまず陶然となる。が、後半も終り近くの〈眠る前の話〉での、半音下げたチューニングの響きには、異界に連れてゆかれる想いがわいてくる。後で訊くと、チューニングそのものは前の曲と同じらしいが、半音下げただけで、なんともいえぬふくよかさが出る。
高梨さんの MC も絶好調で、直前の北海道ツアーでのごちそうの数々をいかにも旨そうに話す。聞いていると、北海道は風景もさることながら、食べ物が抜群に旨そうだ。あたしは札幌のビール園ぐらいしか知らないが、確かにあそこで飲むビールは他のどこにもない旨さがあるし、ジンギスカンも絶品ではある。知床の帆立は食べてみたいぞ。もっとも、鹿肉は食べなかったらしい。
熊谷さんの欠席は残念だが、おかげでおそらく滅多にないトリオで見られたのは収獲。熊谷さんが復帰してのリベンジ・ライヴも来年には見られるだろう。新作を聴くにつけ、そちらはまたたいへん楽しみ。
それにしてもこの新作には喜ぶ。国内の録音は、今年も昨年に輪をかけて豊作だ。(ゆ)
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