当然のことながら、2日連続の2日めは前日とはまったく形を変えてきた。まずドラムス、パーカッションの田嶋ともすけ、バンジョーの高橋創の両氏がサポートで加わる。楽器はすべてPAを通す。ステージ上にユニークな装飾を施す。そしてスペシャル・ゲスト。前日が、会場の性格を活かし、いわば「すっぴんで勝負」だったとすれば、この日は年に一度のお祭りだ。

 田嶋さんの演奏を見るのは実に久しぶりだが、大きく成長している。テクニックもだが、音がよく太り、そして強い芯がぴんと通っている。これはJJFはもちろん、もっといろいろな組合せで見たい。

 高橋さんのバンジョーは、水を得た魚のよう、というのはこういうことをさすのだろう。じょんのフィドルの弦が切れてやりきれなかったのでと言って第2部で再演したチューンでのフィドルとの「バトル」はもちろんだが、その他でもいたるところでバンジョーが入るのが、曲を立体化し、全体の演奏を豊饒にしていた。必ずしも伝統に固執せず、結構即興で自由に弾くのも楽しい。これまでわが国には本格的なアイリッシュ・バンジョー・プレーヤーがいなかったこともあるが、バンジョーがアンサンブルの中でこれほど新鮮に響くのは珍しくも嬉しい。高橋さんにはぜひバンジョー・アルバムを出していただきたい。

 トクマルシューゴ氏はあえて何も聴かずに臨んだ。海外からデビューしたのも、JJFと一緒にやろうというのも面白い。〈藤色の夜明け〉も〈サリー・ガリー〉も、異質の音楽が出逢う面白さがいっぱいだ。もともと器楽曲に歌を持ち込む、それも伝統的なものではなく、ポップスを持ち込むのが、こんなにスリリングになるとは、確かに予想外だった。この形はもっといろいろな曲で試してもいいんじゃないか。というよりも、聴いてみたい。

 けれどもまったく意表を突かれたのは、まずトクマル氏自身の曲で、ここではJJFがまるでもう何十年も一緒にやっているように聞えた。そしてアンコールの〈海へ〉。この1曲のためだけでも、今日来た甲斐はあった、と思えた。なんといってもトクマル氏の歌唱だ。一級のうたい手によって唄われると、まるで本人のオリジナルに聞える。トシさんもじょんもアニーも、グレイトフル・デッドのジェリィ・ガルシアのように、うたい手として一級ではないが、味のある唄を聴かせるうたい手なのだ。それがJJFのウリでもある。しかし、一級のうたい手によって唄われる〈海へ〉は、まったく新しい様相を見せる。もともと良い歌だと思ってはいたが、ここまで良い歌だとはまるで思いがけなかった。

 とはいうものの、なのである。あたしが一番感銘を受けたのは第2部冒頭、3人だけで演った2つのチューンのセットだった。3人とも座り、両側の二人は向き合う。最初はスコットランド、2番めはアイルランドの曲を組み合わせたもの。ごくありふれた、と言うと語弊があろうか。曲そのものは選びぬかれてもいるし、アレンジも凡庸からは程遠いが、表面的にはギミックも派手なところもない、アイリッシュやスコティッシュのダンス・チューンのどこにでもありそうな演奏だ。なんでもない曲をさりげなく演る。それでいて聞えてくる音楽は極上。まさに、今、ここでしか聴けない。ああ、もう他に何も要らない。良い音楽に浸って、幸福感がふつふつと湧いてくる。バンドの実力はこういうところに出る。

 冒頭、じょんのフィドルのマイクの調子が悪く、スタートが遅れ、さらに2曲めの途中でフィドルの弦が切れた。これもまたライヴというものだ。何が起きるかわからない。演奏者だって常にベストの状態で演奏しているわけではない。今回はたまたま切れてしまったから、かえって弦を貼りかえるしかなくなった。たとえば、切れそうなことに気がついて、これをかばいながら最後まで演る、ということもありえるはずだ。

 そういうハプニングや事故があるからライヴは面白いのだ。演奏する側の条件、聴くこちら側の体や心の調子、会場の状態、すべてが最高にどんぴしゃに合うことなど、むしろ稀だろう。一度交換した弦の調子が悪く、お客として来ていたベチコさんが渋谷の楽器店に弦を買いに走ることになった。こんなことは、他のコンサートなどではありえないだろうが、それもライヴの忘れられない記憶の一部になってしまうのがアイリッシュのゆるさではある。

 ステージ上の装飾は天然の素材を使いながら、シュールリアリスティックな要素も盛り込んだもので、これまたJJFの世界にふさわしい。トシさんの上に、円錐の下に房がたくさん垂れた形に藁を編んだと見えるものが下がっていた。立ち上がったとき、トシさんがこの中に頭を入れてバゥロンやタンバリンを叩くのが、さらにシュールな世界を生んでいた。なんか夢に出てきそうでもある。

 年が暮れるまでにはまだ何本かライヴに行くことにしているが、今年のライヴはやはりこれで締めくくり、という想いが帰り道に湧いてきた。すばらしいライヴをたくさん見られたし、おかげでこのクソッタレな世界でなんとか生き延びられ、どうやら年も越せそうだ。その2018年の掉尾を飾るのはこの2日間の饗宴ではある。アイリッシュをベースとして、そこから生まれる音楽の様々な相をたっぷりと味わうこともできた。これを可能にしてくれたミュージシャン、スタッフ、関係者の皆さんに、最大の感謝を捧げる。

 いやさ、ほんとに、いいライヴだったあよ。(ゆ)