想像を遙かに超えた音楽だった。
初めてのライヴだが、国内の初物としては例外的に「予習」を充分に積んでライヴに臨んだ。tricolor の《BIGBAND》ライヴの時よりも聴き込んでいたかもしれない。しかし、そこから想像していたものとはまるで別物の音楽を聴かせてくれたのだ。
まず驚いたのは、加藤さんの上達ぶりだ。上達と言っては失礼になるかもしれない。テクニックだけではない。音楽家としての器がひとまわりもふたまわりも大きくなっている。加藤さんのそうした変身は『夢十夜』全夜上演の時にも明らかだったが、あの時よりもさらに一段と大きくなっている。もっともあちらはあくまでも朗読がメインだったので、こちらは音楽だけでの勝負ではある。
それが最も明瞭に現れたのは後半トップの〈鳥の歌〉。テーマでも即興でも、揺るぎのない土台の上に、芯が一本ぴいんと通った美しい音がおおぶりの絵を描いてゆく。太い筆で黒々と一気にしかし悠揚迫らず書いてゆく。音を伸ばす時の響きが微動だにしないままに伸びてゆくその快感! 即興では shezoo さんがかなり煽るのにしっかり応えてゆくが、クラスタの連続になっても乱れている感じがしない。壮大な建築物が構築されてゆくようだ。サキソフォーンという楽器は、なんというか、もっとヤクザな楽器ではなかったか。
歌のバックをつけるときでは、確固たる存在感がありながら、その存在感によって歌を押し上げる。今回は歌が多かったのだが、そのどれにあっても、シンガーを立てながら、器楽としても存分に唄う。あたしとしては理想に近い。
その歌がまたすばらしい。Ayuko さんはうたい手としては実に幅の広い人で、それこそ歌であれば、ばりばりのジャズやソウルからど演歌まで唄える、それもそれぞれのスタイルのメリットを充分に活かしながら、なおかつ自分の歌としてうたえる人とみえる。例によって shezoo さんの名曲〈Moons〉も良かったが、その次の〈朧月夜〉にまずノックアウトされる。
しかし本当の圧巻は後半2曲め〈星めぐりの歌〉とフォークルの〈悲しくてやりきれない〉の連続パンチ。もう何もかも忘れて聴き入る。惹きこまれる。日本語の歌をライヴで聴くことの醍醐味、ここにあり。これは到底コトバにならない。生きててよかった。
その後のユーミン〈春よ、こい〉もいい。アンコールのクルト・ワイルもいい。もう、この人の唄うものなら何でもいい。何でも聴きましょう、とい気になる。shezoo さんが誘ってくれなければ、この方たちと演ることは無かったと言われるが、まったく、shezoo さんがこのバンドを組んでくれなければ、あたしがこのうたい手の歌に会うことは無かっただろう。いやもう、感謝感謝である。
パーカッションの立岩さんは、終演後にいろいろお話しさせていただいて楽しく、ザッパの《In New York》が好きとおっしゃるのには嬉しくなった。あたしもあれが一番好きだ。ダラブッカや大型で浅いチューナブルのバゥロン、シンバル、鈴(膝に付けたりもしていた)などを駆使して、ここぞというところに、くぅー、たまらんというアクセントを入れてくる。アンコールでは、バゥロンをブラシで軽く叩くのが粋。今回はどちらかというと押えていたようにも思うが、もう少し広いハコで、存分に「叩きまくる」のを聴いてもみたい。今日は「音や金時」で、パーカッションのソロがあるそうだが、残念ながら、John Carty と重なってしまった。3月の「夜の音楽」はエアジンだから、期待しよう。ゆかぽんともうお一人の打楽器奏者のトリオで、ホメリで演られたこともあるそうで、あそこにゆかぽんがフルサイズのビブラフォンを持ちこんだというのに驚く。また演る計画というから、それは何としても見に行かなければ。それにしても shezoo さんが組むパーカショニストはほんとうに面白い人ばかりだ。
その shezoo さんは、このバンドではバンマスではなく、一人のメンバーとして対等に参加しているとのことで、ピアノも弾きまくる。とりわけ良かったのは前半最後、〈君の夏のワルツ〉のソロ(ここでは冒頭のシェイクスピア、ソネット第18番の朗読でも、Ayuko さんがメリハリをつけて、朗読と歌の間を綱渡りするのがすばらしい)。即興でもかなり羽目を外し、他のメンバーを煽る。こういう shezoo さんを見て聴くのは楽しい。まあ、たとえば トリニテでこういうことをすれば、おそらくぶちこわしになるだろう。以前はあそこでも shezoo さんにもっと羽目を外してもらいたいと思ったこともあったが、何度かライヴを見ているうちに、そうではないことが腑に落ちてきた。そういう意味では、来月のエアジンでの「七つの月」の時に、それぞれの組合せで shezoo さんがどう変貌するのかも見てみたいものの一つではある。
ヴォーカル以外はすべて生音。こういうところも小さいハコならでは。極上と食べたミュージシャンが口を揃えるピザはお腹いっぱいで食べられなかったし、座るところに迷ったりもしたが、音楽はもうちょっとこれ以上のものはなかなか無い。今年のベスト・ワンは決まった、とはまだ言わないが、5本の指には充分入ってくるだろう。3月のエアジンが実に楽しみだ。
ここも駅からはほど近く、吉祥寺という街はこういう店を(あたしには)隠していて、あなどれない。(ゆ)

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