前回の、ユニットとしては初のライヴは見逃したので、初めてのライヴだ。服部阿裕未、高梨菖子、岡皆実のトリオ。服部さんはヴォーカルとアコーディオン、高梨さんが笛とコンサティーナ、岡さんはブズーキに徹する。むろんすべて生音で、こういうユニットだとホメリの音の良さが活きてくる。岡さんのブズーキは、たとえばきゃめるなどの時よりもずっと抑えた弾き方だが、たっぷりと響いてくる。蛇腹二種の音も、それぞれの特徴がよくわかる。

 こういう時、一番不利なのは声だが、服部さんの歌も明瞭によく聞える。もちろん、脇の二人、あるいはご本人のアコーディオンも、バランスを考えているのだろう。

 先日の O'Jizo のものとはまた対照的に、ここに来る客はミュージシャンの関係者だったり、あたしのようにずっと追っかけをしていたり、ホメリのファンだったり、いずれにしても、リスナーとしては白紙ではない。ミュージシャンの方も、片方では耳の肥えた聞き手を相手にしなくてはならないと同時に、あれこれ気を使う必要もない。歌について、楽器について、あるいは音楽とはまるで関係のない個人的体験について、ざっくばらんに、おしゃべりする。まことにゆるいライヴだ。ライヴというよりも、会場の性格もあって、友人の家のリビングで、一杯やりながら、友だちの演奏を聴いている気分だ。

 このユニットの特色の一つは服部さんの歌にある。歌がメインのユニット、というのはまだわが国では珍しい。ようやくバンドとしての形ができてきました、と後で服部さんは言っていたが、そういう手探りでいろいろ試行錯誤しているのがそのまま出るのを聴くのも、実は楽しいものである。バンドと一緒にこちらも成長してゆくような気分になる。あたしのような老人にとっては、若返った気分にもなる。

 初回を見ていないから比較はできないが、今のこのユニットに最もうまくはまっていたのは、後半の〈Johnny Is Gone for a Soldier〉だった。あたしでも名前がわかるホーンパイプ〈Rights of Man〉ではさみ、歌自体もやや速いミドル・テンポで、闊達に唄う。この歌はお手本にしている PPM のヴァージョンもそうだが、哀しみを前面に出すことが多いのだが、こういう明るい演奏の方が、むしろ歌のリアリティが現れるように思う。

 歌では高梨さんの二つもいい。昨年春、服部、高梨にクボッティが加わったトリオでも唄われて良かった〈春を待つ〉がさらに良くなっている。新曲〈金魚の夢のうた〉もかなりの佳曲。高梨さんにはもっと歌を作って欲しい。

 今回あらためて驚いたのは服部さんのノリの良さである。後で聞いたら、豊田さんからもあなたのノリはまるでアイルランドのネイティヴのものだから、ぜひケイリ・バンドに入ってくれと誘われた由。これはおそらく天性のものなのだろう。誰にでも身につけられるものでもないのかもしれない。演奏技術とは別のことである。前半終り近く、高梨さんがコンサティーナで、蛇腹2台でやったリールのセットがハイライト。難しくて、高梨さんはずっとこればかりコンサティーナで練習していて、昨日のリハでもメロメロだったそうだ。終った時に、高梨さんが思わず「できたー!」と叫んだくらい。テクニックから言えば、もっとずっと巧く弾きこなす人はわが国にもいるだろうが、このノリが出せるかは保証の限りではない。とにかく、聴いていて気分が良くなる。昂揚してくる。これはもう聴いているだけでわかることは、この曲に送られた拍手が一際大きく、長かったことが証ししている。上記ホーンパイプの成功も、おそらくここにある。

 もう1曲、後半の〈Swedish Jig〉もすばらしい。わが国ではまだまだ珍しいアコーディオンということもあるから、服部さんにはどんどんとライヴをやってほしいものだ。

 岡さんは歌伴でも良いセンスを発揮する。背景を提供するというよりも、うたい手に沿って、唄を押し上げる。どこで習ったのか、誰をお手本にしているかは知らないが、やはり御本人も歌が好きなのだろう。その岡さんが、服部さんに唄ってもらいたいと持ち込んだのが、スザンヌ・ヴェガの〈The Queen and the Soldier〉というのだから。あたしはこれは Alyth McCormack で知ったのだが、ダーヴィッシュもやっているそうだ。ここでこういうものが聴けるとは、嬉しい驚き。これも、これからどう育ってゆくか、楽しみである。

 これは良いバンドが現れたものだ。歌好きのあたしとしては、多少時間はかかろうとも、ぜひぜひ大成してもらいたい。やっぱり、歌はええ。(ゆ)