1年ぶりの「春の」ゲンまつり。「春の」とつけたおかげで、夏秋冬にもそれぞれやって、今回一回り。前回、クレツマーをやるアコーディオン奏者がゲストの時は見られなかったので、今回、クレツマー色が一気に濃くなっているのにはいささか驚いた。やりたい曲をやることに徹底すると全部クレツマーになる、というくらいハマっているそうだ。

 面白いのはこの編成でやると、とりわけチェロがメロディを弾くと、クレツマーの中のアラブの要素が前面に出てくる。クレツマーというよりもほとんどアラブのメロディに聞える。クレツマーの中のアラブ音楽の要素はトルコ経由のはずだが、トルコ音楽よりもマグレブやエジプト、あるいはかつてのシリアあたりの感じだ。アラブ音楽でチェロはまず使われないから、どうしてこういう具合になるのか、ちょっと面白いところだ。

 この編成、フィドル、チェロ、ハープのキモはチェロであるわけだが、巌さんはすっかりハマっているらしく、一年前の、おずおずした様子はもうカケラもない。クレツマーやアイリッシュをチェロで弾くのはあたりまえ、という顔をしてがんがん弾いてくる。

 先日の tricolor の《キネン》レコ発もそうだったが、こういうアンサンブルにチェロが入ってアイリッシュなどをやるときには、チェロは低域担当で、ジャズのベースに相当するところがある。のだが、今回はむしろチェロとしては高域でメインのメロディを弾くときの響きがすばらしい。ホメリという環境もあるかもしれないが、意外にシャープでもある。この太くてシャープという感じは、これまで体験したことがない。あるいはクラリネットに近いか。それこそクレツマーの Dave Tarras とか Naftule Brandiwine あるは最近の Anat Cohen の響きだ。とすれば、チェロでクレツマーをやるのはむしろ王道ではないか。

 この編成でクレツマーをやるのは世界でも他に例がない、と梅田さんは言うが、こんな編成、クレツマー以外でも世界に他に例はない。クラシックだってジャズだって、無い。最近出てきたウェールズの VRi はフィドル、チェロ、ギターだから近いかもしれない。しかしギターとハープの違いは大きい。今回のハープは両手ではじくカッティング。これがまたシャープで、しかもギターのカッティングと違うのは残響が入るので、これまた響きが太くなる。この太さがまたチェロとよく合う。

 フィドルはこうなるとちょっと微妙な立場になる。まだクレツマーを弾くスタイルを摑んでいないきらいがある。もちろん、決まったものがあるわけではなく、それを言えばチェロやハープはこれまでクレツマーにはまず皆無だったわけだ。ただ、他の二つはまったく無かっただけに、何をやってもかまわないが、フィドルは一応使われてもきていて、それなりの伝統がある。Alicia Svigals のような人もいる。

 ただ、それを忠実にエミュレートするのも芸がない、というよりも、たぶん、やっていて楽しいかどうかのところだろう。一つ思ったのは装飾音の使い方だ。クレツマーのメイン楽器はクラリネットで、だからデイヴ・タラスにしてもブランディワインにしても、アナト・コーエンにしても、装飾音は半端ではなくぶちこむ。装飾音の量でいえばアイリッシュと変わらない。ただ、使う音や入れ方は違う。これは案外難しいかもしれない。

 一方でそこを中藤さんがどうやってくるかはまことに楽しみなところだ。当然だが、今のこのユニットの音楽は完成形などではない。たぶん完成することは無いだろう。常に変わってゆく。その変わってゆくところがこちらも楽しみなわけで、そこからすると、中藤さんのフィドルがクレツマーをどう料理してゆくか、が当面楽しみの焦点になる。

 夏は8月前半になるらしい。クレツマーに続いて、ウェールズがこのユニットの「マイブーム」になるか。これまた楽しみなことではある。(ゆ)