いやあ、浴びた、浴びた。ハモクリの快感はここにある。あたしにとってかれらの音楽は、とりわけライヴは、聴くのではない、浴びるのだ。会場の大小は関係ない。大きければ大きいだけ、小さければ小さいなりに、浴び方が変わるだけだ。どちらかというと小さなところで浴びるのが好きなのは、あたしの人間のスケールが小さいからだろう。大きいところに放りだされると、どうしていいかわからなくなってしまう。野外などでは、音楽なんぞ、浴びていられなくなる。

 ここのところハモクリのライヴは対バンが続いていた。それはそれで相手方との出会いがあって楽しい。前回の古川麦も、その前の踊ろうマチルダも、いいミュージシャンで、出逢えて嬉しい。

 とはいえ、何はばかるところなくハモクリの音楽を浴びられる快感はまた格別だ。対バンではなかなか聞けない大渕さんの歌も聴けて、堪能しました。歌は唄いつづければうまくなるので、高い声が無理なく出るようになっている。

 大渕さんのフィドルも変わっている印象。一つはワウワウやファズのエフェクタの使い方が一段と巧妙になった。ハープがむしろ高音へ飛んでゆくのに呼応して、五弦ヴァイオリンの低い方へ低い方へと下ってゆくのも気持ちがよい。アイリッシュ的なソロでは、弓と指がそれぞれにまるで別のことをしているように聞えるし、見える。さらに、これもエフェクタを使うのか、音の輪郭をぼかす。音のエッジを立てない。以前の彼女のフィドルからはちょっと考えられないのだが、これまた妙に気持ちが良い。

 ドラムスの渡辺拓郎氏は、清野さん、長尾さんの同窓だそうで、小田原出身ということもあるらしい。ふだんはメジャーなバンドのメンバーの由。シュアーなロック・ドラマーというところ。ぐいぐいとドライヴするよりも、どっしり構えて、フロントが勝手にできるように支える。

 こういうとき、ロックにいかずにむしろジャズ的になるのが、このバンドの面白いところではある。

 ここは小さい。小田原の駅からは5分ほど歩いた、国道1号、東海道に面した古い家を改造した店だ。店の前の東海道は正月には駅伝のルートになるはずだ。正面から入った土間にバンドが位置し、聴衆はそこから上がった板の間に靴をぬいであがる。前半は入りきれずに外で聞いていた人もいたとかで、後半はどんどん詰めこみ、みな立ち見で踊る。クライマックスでは、狭いなかで輪をつくっている人たちもいる。それがごく自然に見えるバンドではあり、音楽ではある。いつもとは違うロケーションも楽しい。次は御殿場だ。(ゆ)

ステレオタイプ
ハモニカクリームズ
Pヴァイン・レコード
2018-03-28