北欧好きの3人が集まったトリオの、ライヴを見るのは初めてで、ここで見られるたのはまず最高の体験だった。ここは本当に音が良い、とあらためて確信する。ニッケルハルパもハルダンゲル・フェレも共鳴弦が命の楽器だ。スカンディナヴィアは実に共鳴が好きだ。榎本さんと酒井さんがそれぞれの楽器の共鳴弦の鳴り方を一音だけ弾いて聞かせてくれた、その共鳴が消えてゆくのがはっきりと聞える。こんなに明瞭に聞けたのは初めてだ。ヴェーセンの求道会館もよくわかったが、今回は至近距離でもある。
実際に演奏すると、それぞれの楽器の音がまた明瞭に独立し、かつ溶けあうのもまた手にとるようにわかる。共鳴弦のある楽器の場合、この溶けあうというのはポイントだ。共鳴弦同士が溶けあってくれず濁ってしまっては、せっかくの共鳴が共鳴にならない。生楽器はノーPAがベストだが、こと共鳴弦楽器に限っては、いつもノーPAが良いとは限らない。ここはそこが理想的だ。それが最高に発揮されるのはユニゾンで、ニッケルハルパとハルダンゲル・フェレのユニゾンの、ほとんど艷気と呼びたくなる豊饒さを堪能できたのがまず収獲。
考えてみれば、この二つの楽器のユニゾンというのは、伝統の中ではありそうでなかなか無い類。ひょっとするとここでしか聞けないかもしれない。これにハープが加わるのは、さらに稀になる。ノルディックの音楽でハープは少しは出てきているとはいえ、まだまだ異端だと、この日も梅田さんが言っていた。せっかくだからと、ハープのソロでスウェーデンの曲もやる。こういうのを聴くと、どうしてスカンディナヴィアにハープが無いのかと不思議になる。共鳴が不足なのか。ならば、共鳴弦のあるハープを誰か発明してもよさそうなものだ。そんなものは不可能だろうか。しかし、ハープは隣同士の弦が共鳴することもよくある。フィンランドにはハープを横に倒したカンテレがあるわけだが、スウェーデンとノルウェイには何もない。それとも、かつてはあって、消えてしまったのか。一方で残っていないというのは、やはりそれを面白いと思う人間がいなかったということの現れでもある。
曲はスウェーデン、ノルウェイ、フィンランド、デンマーク産のものをやってゆく。スウェーデン、ノルウェイあたりの曲は独特のスイング感がたまらない。ハーモニーまでが揺れる。榎本さんも酒井さんも、この揺れるスイングはもう体に染みついていて、揺れがしっかりと地に足が着いている。と言うとヘンかもしれないが、揺れが安定している。揺れの軸がぶれないのだ。
やはりスウェーデン、ノルウェイの曲が多いが、後半冒頭にやったハラール・ハウゴーの曲がすばらしい。これが今回のハイライト。
ハイライトはもう一つあって、榎本さんがリードで3人が唄う。こういう音楽をやっていると、どうして唄わないのかとあまりに頻繁に言われるので、唄うことにしました。というので、アカペラでまず榎本+梅田のユニゾンからハーモニー。はじめスウェーデン語でうたい、次に榎本さんがつけた日本語歌詞。これが抱腹絶倒。もっと聞きたい。
外は暑いけれど、中はすっかり北国の気分。真昼のコンサートというのもいいものだ。(ゆ)
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