ザ・なつやすみバンドの sirafu 氏が、アイルランドのパブ・セッションみたいだとMCで言う。その通り、良いセッションの現場に居合わせて、音楽を浴びている感覚だ。
対バンというと、二つのアクトのどちらかが前、もう片方が後、最後に一緒に、というのが定型だが、今回は違う。両方のバンドのメンバーがいきなり全員出てきたのには驚いた。いったいどうなるのだ、全部一緒にやるのか。という危惧は、最初の1曲で雲散霧消した。まあ、tricolor が関わってヘンなことになるはずはない。tricolor がイントロの形で1曲演り、そのまま後をうけてザ・なつやすみバンドが演奏する。ああ、いいバンドだ。その後は tricolor だけで2曲ほど演ると、ザ・なつやすみバンドが演り、《うたう日々》で中川氏が唄っていた曲を全員で演る。さらには、片方の演奏にもう片方のメンバーが加わる。
この二つのユニットの音楽はかなり傾向が異なる。tricolor はアイリッシュをはじめとするケルト系伝統音楽をベースにしたインストゥルメンタルがメインだし、ザ・なつやすみバンドは中川氏のオリジナルの歌が主軸だ。中川氏の音楽の土台はまだよくわからないが、いろいろと入ってもいるようだ。ただ、そこにはケルト系の要素はまず無い。レコードだけ聞いていると、この二つが一緒に演るということはおよそありそうにないと思えるだろう。それが、まったく違和感が無い。各々のキャラはちゃんと立っている一方で、全員で演ってもまるでずっと一緒にやっているように聞える。
一つにはメンバーの音楽的な懐が皆深い。伝統音楽をやっていると深くなるものだが、ザ・なつやすみバンドのメンバーも負けていない。ジャズが共通の土台のように思えるが、それだけでは無いはずだ。中でも sirafu 氏は別格で、天才と言っていい。演奏する楽器としては現時点ではスティールパンが一番ハマっていたが、トランペットもギターも笛もマンドリンも見事。とにかく音楽のセンスがいい。この点では中村アニーが好一対で、かれもアコースティック・ギター、アコーディオン、ホィッスル、最後にはエレクトリック・ギターまで演っていた。アニーはずっと見てきているから、そうは思っていなかったが、こうして並ぶと、sirafu氏が天才なら、アニーも天才だ。
この場合の天才はモーツァルトやポール・マッカトニーやコルトレーンの天才とは異なる。音楽をいいものにするコツを心得ていて、その適確なことが尋常でないのだ。ミュージシャンというよりはプロデューサー的な側面だ。他は全く同じメンバーで同じ曲を演っても、その人が入ると入らないのではまるで別物になってしまう。ドーナル・ラニィが典型だ。sirafu 氏やアニーがドーナルと同列というわけではまだ無いが、あのレベルになる資格は充分にある。
こういう音楽的なセンスの良さはもちろん二人だけではなくて、一級のミュージシャンは皆備えている。というより、このセンスがある人が一級と認められる。tricolor もザ・なつやすみバンドも、他のメンバーも一級だ。一級の集団を天才が引っぱっているわけだ。そういう仕組みが、こうして対バンすると見えてくる。それも、定型ではなくて、このごっちゃの形だからこそ見えてきたのだろう。
もう一つには、この二つのユニットは音楽に対する態度が共通している。ザ・なつやすみバンドは毎日を夏休みにするために音楽を演っている。tricolor も毎日のぶだん着の音楽を演っている。毎日の暮らしに欠かせないものとして音楽を演っている。音楽無しには1日も生きていけない人間のための音楽を演っている。BGMとして聞き流してもいいし、じっくりと全身全霊で聞き入ることもできる音楽を演っている。
音楽にもいろいろある。カネを儲けるための音楽や、理想の一点を求めるための音楽や、ふだんの自分とは別の存在になるための音楽や、おしゃべりするための音楽や、いろいろある。そういう中でこの二つのユニットが各々に演っている音楽は、なぜ音楽を演るのかという点でかなり共通している。一緒に演る時に基盤にできる共通の部分が大きい。
このライヴを見ていて思い出したのは John John Festival と馬喰町バンドの対バンだった。あれも前半後半分担ではなく、二つのバンドが対面して位置し、1曲ずつ交替に演奏し、互いに勝手に相手の演奏に参加していい、という、今回とよく似た形のものだった。JJF と馬喰町バンドも音楽への態度に共通するところが大きかった。
アニーは JJF のメンバーでもあるが、あちらで見せる顔は tricolor で見せる顔とまたキャラが異なる。ザ・なつやすみバンドのメンバー、たとえば sirafu 氏が別のユニットをやっているとすれば、それもまた見てみたい。全く異なるキャラの音楽が聴けるだろうし、それもまたきっと面白いにちがいない。
それにしても、ザ・なつやすみバンドは今回初めて見聞したのだが、メンバーは皆さん素敵だ。それぞれに、他のユニットもされているのなら、追っかけをしたくなる。あたしはパーカッショニストに弱いので、村野氏はふーちんと並ぶ女性ドラマーとして嬉しくなる。
ザ・なつやすみバンドの名前を初めて聞いたのは tricolor の《うたう日々》に中川理沙氏が参加した時で、いい名前だと思ったものの、録音を聴くまでにはいかなかった。中川氏は《うたう日々》のレコ発ライヴにも参加していて、眼の前にいるのに、透明な幕を隔てた「異界」でうたっているような存在感が面白かった。ザ・なつやすみバンドでもそれは変わらないが、自作を唄うので、いくぶん「異界」が近くなっていた感じではある。
会場はホテル地下のレストランだが、座席は両端に少しあるだけで、大半は立ち見。2時間以上立ちっぱなしでさすがにくたびれ、終演後はたまたま遭遇したアニーにだけ挨拶して、早々に退散した。また少し雨が降ったのか、外の空気はそれほど熱くない。なつやすみももう終りだ。(ゆ)

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