セカンド《by the way》レコ発ライヴということで、短かいセットを3つ。パート1と3は主に新譜から、パート2は主にファーストからの選曲、という構成。もっともCD自体は10-13発売。

 ライヴになるとフロントの二人の安定感が際立ってくる。録音では、今回のセカンドではアレンジに工夫を凝らし、楽器の絡み合いも念入りに考えていて、そこが大きな魅力の一つなのだが、ライヴになると、フィドルとアコーディオンのユニゾンの滑らかさが何とも言えぬ快感を生む。もともとこの二つの楽器の組合せはアイリッシュ・ミュージックの面白さの核を体現しているところがあって、音のキャラクターとしても似合いの一組なのだが、沼下さんと田中さんの組合せにはそれとは別に、ミュージシャン同士として、互いにハマっているところが聞える。沼下さんによれば特に意識して装飾音などを合わせているわけではないそうだが、細かいところまでよく一致する。音色の合い方と装飾音まで含めたフレーズの合い方が相俟って、ユニゾンの極致とすら思えてくる。とにかく気持ちが良い。このユニゾンによって、カルテットがトリオに聞えたりする。

 一方で、では初めから終りまでトリオかというと、そんなことにならないのが、今のこのバンドの面白さだ。録音よりユニゾンが前面に出るとはいえ、アレンジの冒険があちこちで飛び出してくる。カルテットが今度はビッグバンドにも聞える。CDでも冒頭にはいっているオープニングの曲はその典型だ。異なるビートが並行して進んでいって、やがて一つになり、また別れ、融合する。全体に筋を通して引き締めているのが岡さんのブズーキで、熊谷さんのパーカッションが、時に先頭になって引張り、あるいは地面の下から持ち上げ、そして世界をどーんと拡大する。時には、そこで聴いている空間よりも大きく破裂させる。

 このバンドはそもそも岡さんと沼下さんが熊谷さんと演りたいと思って始まっているが、熊谷さんの演奏の深化が魅力でもある。たとえばパート1ラストの〈House Party〉のスライドのドラミング、パート2〈マルシェの散歩道〉での、他の3人によるユニゾンを浮上させるダイナミズム。極めつけは、新譜の目玉でもある〈Waterman's〉。マイケル・マクゴールドリックによる8分の9拍子と8分の11拍子の組合せのこの曲は、バンドとしての初演からやっている。初めの頃は、変拍子を必死になって叩いていたのが、どんどん良くなってきて、今ではもう余裕をもって遊んでいる。わざとビートをズラすのがいい。そうするとフロントの演奏も良くなって、今回のハイライト。新譜の演奏はこれまでで最高と思えたが、それすら凌駕している。

 速い曲ばかりでなくて、パート2〈ヒコーキ雲とビール〉では、録音よりもテンポを落とし、アレンジも変えて、面目一新。ファーストの曲をセカンドの精神で組み直しているのだ。そういえば他でもテンポのコントロールが一段と冴えて、緩急の差が破綻なしにより大きくなり、劇的効果が効いている。ポリリズムとさえ言えそうな複数のテンポ、ビートと緩急の出し入れは、これからのこのバンドのテーマになってゆくのだろう。そうすると、フロントの二人のメロディ演奏の安定していることが大きくモノを言ってこよう。

 アンコールはもちろん新譜でも最後に入っている〈Shee Beg Shee Mor〉。二人で弾いているのかと思ったら、3人が右手だけで弾く。今回はこれに熊谷さんが低域で茶々を入れるのがまたいい。録音でも、今回も、3人のフレーズはまったくの即興だそうだ。

 こうなると、アイリッシュをベースにしながら、もう少しジャズに振れたアンサンブルも聴きたくなってくる。今回も一瞬、それを連想させる場面もあって、ココロが躍った。

 生きてるだけでとられる税金がまた上がるので鬱になりかけていたのが、救われた気分。ありがたや、ありがたや。(ゆ)

沼下麻莉香(フィドル)
田中千尋(ボタンアコーディオン)
岡皆実(アイリッシュブズーキ)
熊谷太輔(パーカッション)


Blow
セツメロゥズ
ロイシンダフプロダクション
2018-01-14