Science Fantasy, Vol.10, No. 28, 1958 の BookFinder で出てきた一番安いものを注文してみたら、60年前のものとは思えないほど綺麗な本が届いた。

この古雑誌を買ったのは目玉作品の Harry Harrison と Katherine MacLean の共作ノヴェラ Web of the Norns を読むためである。二人の共作は2本ある、その2本めで、今のところ、この雑誌掲載のみだ。もう1本の Web of the Worlds (1953) は Damon Knight の Rule Golden とのカップリングで2012年に単行本として復刻されている。
ハリィ・ハリスンも過小評価されていないか。SFWAのグランド・マスターではある。SFを読みだした頃、創元文庫の『死の世界』三部作は愛読した。ヴァン・ヴォクトの『宇宙船ビーグル号の冒険』『非A』『武器店』とともに、SFの面白さの基本を教えてくれた作品だ。あたしの場合、これにクラークの『地球幼年期の終わり』と『銀河帝国の崩壊』が加わって、土台になる。その次の基礎が『終着の浜辺』までのバラードと光瀬龍の宇宙年代記。続いてメリルの『年刊傑作選』によって一気に世界が広がった。
しかしここではハリスンではなく、マクリーンが目的だ。マクリーンの中短篇集の作品を選んでくれという依頼もあって、あらためて読みだしてみたのだが、全部で50本弱ある中短編のうち、単行本にまとめられているのは3割ほど。全体像を摑もうとすれば、古い雑誌を集めるしかない。
この中篇に編集部のつけたマクラによれば、マクリーンにしても、この頃はまだアメリカの作家だったハリスンにしても、その作品がイギリスの雑誌に掲載されるのはこれが初めて、とある。また、元は長篇だったものを、編集部の要請で短縮したものだ、ともある。元の原稿がどこかに残っているとすれば、読んでみたい。もっともこの頃は35,000語あれば長篇だったから、もともとそんなに長くはないかもしれない。
これが雑誌掲載のみで終っていることには、それなりの理由があるはずだ。それを確認するために、この雑誌を買った。前作と関係があるのか、無いのかも、読んでみなければわからない。そして、読むためには、初出雑誌を手に入れるしかない。こういう古いSF雑誌の図書館、野田昌宏文庫はアメリカものはまあまあだが、イギリスのものは手薄のようだ。それに、ここは大宅壮一文庫とは異なり、新たな蔵書の獲得、受け入れは行っていないらしい。
それにしても、この表紙のモダンなことはどうだ。ほとんどシュールレアリスムではないか。描き手の Brian Lewis は前年からカヴァー絵を担当して、洗練された表紙を生んでいるが、これはその中でも出色。
雑誌の発行元 Nova Publications は New Worlds の発行を続けるために編集長の John Carnell が仲間とともに設立した。Science Fantasy は1950年に創刊され、1951年からカーネルが New Worlsd の編集長と兼ねる。New Worlds よりもファンタジィ寄りで、毎号ノヴェラを1本と短篇という構成。1964年に Nova は倒産するが、Roberts & Vinter が引き取り、Kyril Bonfiglioli を編集長にする。1966年に Impulse と改名。ハリスンは1966年10月から半年、編集長を務める。
アメリカの雑誌との違いで目立つのは、内部にイラストが一切無いところ。ひたすら活字だけがならんでいる。F&SF も作品にはイラストを付けないが、ひとこまマンガを載せている。
広告も自社広告のみであるのは、創刊当時の『SFマガジン』にも通じて、どこかほほえましい。
さて、このハリスンとマクリーンの共作を読む順番をどこに押しこもうか。(ゆ)
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