作品の数は少ないし、こんなことをやろうという人間も他にいなかろうから、この際、キャサリン・マクリーンの全作品を読んでみようと思いたった。もちろん全作品を読まねばならない作家は他にもたくさんいるが、作品の数が少ないというのは有利だ。ただ、実際にやろうとすると、大きな問題が浮上する。

 Katherine MacLean は今年9月、94歳の高齢で亡くなった。デビューは1949年10月の Astounding。最後に小説を発表したのは1997年2月、やはり Analog だった。作品は長篇4本に中短編45本、ではあるが長篇のうち1本は中篇3本をまとめたもの、別の長篇1本は中篇の拡張版。長篇版だけでなく、原型も読んでみるつもりではある。他に Charles Dye 名義でおそらくマクリーンが代筆していると思われる短篇が1本。この作品数の少なさが災いしてか、あるいはウォルター・M・ミラー・ジュニア(この人もあらためて全作品を読みなおしたい書き手の1人)のような決定的な長篇を書かなかったせいか、アメリカでもまともに評価されているとは言い難い(フェミニズムの方面からも無視されている)が、サミュエル・ディレーニィがマクリーンをネビュラのグランド・マスターに選ぶべきだ、と言ったのは的を射ていた。

 ネビュラにはグランド・マスターとならんで Author Emeritus がある。SFF界に大きな貢献をしたが、その後忘れられた書き手を顕彰するもので、1995年から2010年まで14人に授与されている。マクリーンは2002年にこれに選ばれている。ちなみにジュディス・メリルが1996年に選ばれている。

 他の受賞者を貶めるわけではないが、メリルと並んでマクリーンの影響力の大きさはレベルが違うように思う。デヴィッド・ハートウェルはジュディス・メリルとヴァージニア・キッドとともに1950〜60年代にSFをひっくり返した女性にマクリーンを挙げている。Virginia Kidd (1923-2003) は作家、アンソロジスト、リテラリー・エージェントとして活躍した。エージェントとしての活動が最も大きく、ル・グィン、キャロル・エムシュウィラー、ティプトリー、アン・マキャフリィ、ジョアンナ・ラス、ラファティ、ジーン・ウルフなどを顧客とした。

 あたしがマクリーンの名を知ったのはSFMで「雪だるま効果」を読んだ時だ。掲載は1965年7月号だが、この号は古本で買ったから、ずっと後になってだ。1976年6月の再録の時かもしれない。訳は深町さんで、その後、浅倉さんが編んだ講談社文庫のアンソロジー『世界ユーモアSF傑作選2』に入っている。ネビュラを獲ったノヴェラ The Missing Man も深町さんの訳「失踪した男」をSFMで読んでいるはずだが、よくわからなかったというのが正直なところ。しかし、メリルがあちこちで名前を挙げてもいて、気になっていたのだろう、本は目につくと買っていた。もっとも中短編のうち2冊ある作品集に収録されているのは20本にすぎない。それ以外のほとんどは初出の雑誌やアンソロジー掲載のみだ。
 当初ネックになると思われたのは1950年代の雑誌掲載のみの短篇群なのだが、これは幸い、野田昌宏文庫に1冊を除いて掲載誌の存在が確認できたので、近々閲覧に赴く予定。無い雑誌は Authentic Science Fiction Monthly #54, 1955-02。これは英国の雑誌でチャールズ・L・ハーネスの "The Rose" を掲載したことで知られる。

 それよりも、全篇読破の最大の障碍になりそうなのが1963年の "Six Scenes in Search of an Illustration" の中の1篇である。George H. Scithers (1929-2010) が編集発行していたファンジン Amra, V2n27, 1963-11-16 に掲載された。この号の中央に挿入された Roy G. Krenkel (1918-83) のイラスト 'Swordsman and Saurians' に合わせて6人の書き手が1篇ずつ書いたもの、らしい。ページ数からして各自1ページのショートショートと思われる。

amracover

 Amra (1956-1982) は “swords & sorcery” の呼称を最初に使った媒体として知られ、ロバート・E・ハワードをはじめとしたこのサブジャンルに特化していた。1964年と68年の2度、ヒューゴーの Best Fanzine を受賞している。サイザーズは後1977年に Asimov's 誌創刊編集長となり、さらに2度、ヒューゴーを受賞する。

 マクリーン以外の書き手は Fritz Leiber, John Pocsik, Michael Moorcock, Richard Eney, L. Sprague de Camp。このうち Dick Eney (1937-2006) はワシントン、D.C.周辺の住人で、サイエンス・フィクション草創期からのファン。小説作品として発表したのはこれのみらしい。John Pocsik はまったく不明だが、やはりファン・ライターの一人だろう。

 推測だが、この年D.C.で開催されたSF大会 Discon I でヒューゴー賞のプロ・アーティストをクレンケルが受賞したことの祝賀ないし記念のための企画ではないか。プロの4人が協力したのも当時のSF界の親密さの現れ、ないしサイザーズの人脈であろう。

 クレンケルは Amra でソード&ソーサリーのイラストを描いたことでドナルド・ウォルハイムに注目され、DAW Books のE・R・バローズもののカヴァーを描くことになり、後のヒロイック・ファンタジイはじめ、ファンタジィのイラストレーションに大きな影響を与えた。1960年代のバローズ復権の立役者とされ、その貢献の大きさはバローズの遺族も認めている。Ace, DAW, Lancer などのペーパーバックのヒロイック・ファンタジイものの表紙を数多く描いている

ERBMoonMaid


 ライバー、ムアコック、ディ・キャンプはヒロイック・ファンタジイのつながりからここにいるのはわかるが、マクリーンの作品はヒロイック・ファンタジイとは無縁だ。なぜ、参加したのか、また、これがどんな作品か、気になる。のではあるが、全部で20ページしかないファンジンは、さすがに野田さんのコレクションにも無い。ここに無ければ、国内には無いだろう。アメリカのどこかの大学図書館にでも行かないと見られそうもない。

 ライバーやムアコックを全篇読破しようとすれば、同じ問題にぶつかるわけだし、他の作家でも同様のものはあるだろう。知らなければ知らないですんでいたが、ISFDB にはこういうものまで出ている。(ゆ)