前回の記事を書いた直後、また問題が出てきた。IFSDB のマクリーンのページにもう1篇、ファンジン掲載作品が現れたのである。1951年に Orb, V2 #3 に掲載された "A Fable of the Sholvis"。Orb は1949-10から1952年まで、11冊発行されたファンジン。これはその通巻8号。編集発行人の Bob Johnson は Orb 関連だけが ISFDB にある。この号の執筆陣で他に名前が知られているのは Nelson Bond ぐらいで、他はすべてファン・ライターらしい。
この短篇は Charles Dye and Katherine MacLean Dye の名義になっている。チャールズ・ダイ (1925-1960?) はカリフォルニア出身で、1951-53年にマクリーンと結婚していた。1950年から1953年にかけて、19篇の中短編と長篇が1本ある。そのうち "The Man Who Staked the Stars" と "Syndrome Johnny"はマクリーンの代筆であることが明らかになっている。"Regeneration" も代筆と推測されている。
"The Man Who Staked the Stars" と "Syndrome Johnny" は傑作と言っていい。後者は遺伝子操作を扱った最も初期、それも飛びぬけて早い時期の作品で、その処理の仕方もマクリーンらしいユニークなもの。前者のノヴェラはシンプルだが、おそろしく把握しにくい心理学的アイデアを基にしたスペース・オペラで、一度読んだだけではわからない。少なくともあたしは初め、わからなかった。マクリーンの話ではこういうことが屢々ある。しかも彼女は必要最低限の記述しかしないから、さらにわかりにくくなる。まあ、N. K. Jemisin の言うように、ホンモノは3回読まねばわからないのであろう。
Charles Dye の作品をあらためて ISFDB で見ると、Because of the Stars というものが上記 The Man Who Staked the Stars と同じ月に別の雑誌に掲載されている。しかもこれはノヴェラなのだが、Dye の他の作品はすべてショートストーリィで、ノヴェラを書けるのか、という疑問も湧く。タイトルにも共通性が匂う。
もう1篇、ノヴェレットである "Settle to One" は、例外的に Astounding に載っている。デビュー作とファンジン掲載作を除いて、他の作品はすべて Robert W. Lowndes 編集の雑誌に発表されている。しかもこの中篇は April Smith なる人物との共作で、April Smith はこの他には1955年8月の If にノヴェレット "Birthright" を書いているだけ。SFE3 にも記載が無い。とすれば、少なくともこの3本は実物にあたらなければならない。
ロバート・ラウンズ、通称ドック・ラウンズ (1916-1998) は The Futurians の1人で、パルプ雑誌作家の1人でもある。1940年代から70年代まで、様々なSF、ファンタジィ、ホラーの雑誌の編集長を渡り歩いた。いずれの雑誌も二流と三流の間に位置し、短命で、名前を変えては出しなおす形。ラウンズの雑誌とアスタウンディングでは、格が違いすぎる。しかも、他にも複数あればともかく、これが唯一となると、書き手としてのチャールズ・ダイ単独では載るはずがない。共作者の器量ということになる。
Gutenberg にあった "Birthright"を読んでみる。おそらくは、マクリーンの筆では無い。語りの口調が異なる。マクリーンはもっと引き締まった、贅肉どころか筋肉まで削ぎおとしたような書き方をする。'economical' と形容されるのを見たこともある。もっとも基になっているアイデアはマクリーンが採用してもおかしくはない。話そのものはいささか古いところはあるが、より優れた、しかも人間そっくりのエイリアンというテーマは普遍的で、今書かれたなら、評価されたのではないか。少なくとも雑誌掲載オンリーではなく、年刊ベスト集の Honorable Mentions 級にはなれただろう。April Smith という名前からして筆名だろうが、正体はまったく不明だ。
Future と Astounding は野田文庫にある。
唯一の長篇 Prisoner In The Skull (1952) も SFE3 ではダイ本人の作としているが、やはり読んでみなければなるまいのう。
http://www.sf-encyclopedia.com/entry/dye_charles
それにしても、ISFDB おそるべし。知らなければそれですんでいたわけだが、知ってしまっては探索しないわけにはいかない。マクリーンは他にも共作者がいて、Charles V. De Vet はマクリーンと共作したシリーズの続篇を単独で書いたりしている。これも確認しなければならない。ああ、また雑誌掲載オンリーだ。野田文庫の Analog は1987年までで、1991年2月号は買わねばならない。
マクリーンですらこういう状況だから、作品数の多い書き手で同じことをやろうとしたら、他には何も読めなくなるだろう。James Davis Nicoll みたいに、1日18万語、日本語にして400字詰原稿用紙1,500枚以上読めるなら話は別かもしれないが。(ゆ)
マクリーンですらこういう状況だから、作品数の多い書き手で同じことをやろうとしたら、他には何も読めなくなるだろう。James Davis Nicoll みたいに、1日18万語、日本語にして400字詰原稿用紙1,500枚以上読めるなら話は別かもしれないが。(ゆ)

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