この組合せでの新年ライヴは今年で6回めだそうだが、あたしは初体験。ついでに Cocopelina のライヴも初体験で、ようやく念願が果たせた。
tricolor の対バンは、最初は全員でやって、おもむろに順番を決める、または決めずに入り乱れてやるというのが定番になっているらしい。今回は中藤、斎藤のダブル・フィドルを長尾さんがギターで支える形で始まった。ゆったりとしたテンポの曲で、長尾さんもフィンガー・ピッキングなど入れて、ソフトな出だし。それから、それぞれの女性陣が代表してあっち向いてほいで順番を決める。
負けた Cocopelina が先攻。いきなり新曲のリールのセット。バンジョー、フィドル、ギターの組合せで、テンポが速すぎず、遅くならず、実にどんぴしゃ。このテンポどりの巧さは終始変わらず、このユニットの1つのウリだろう。そして録音よりも、ライヴで初めてわかる類のものでもある。つまり、どれもこれも同じテンポというのではなく、その曲に最も合うテンポを探りあてていて、それをきちんとあてはめてくる。演奏している間もどっしりと安定しているのはもちろんだ。そしてこのセットでは、ゆったりしているその底で、ひそやかな緊張感が張りつめているのが快感。
次は岩浅氏がバンジョーをフルートに持ち替えて、ジグからポルカを2曲連ねるセット。こういう曲種の組合せは新鮮。岩浅氏はローランド・カークばりに、長短のホィッスルを2本同時にくわえて、ドローンをつけるなんてこともやってみせる。バンジョーもフルートも達者なものだが、この日はどちらかというとフルートを持った方が冴えていた感じ。後半、フルートとギターの演奏から2周めにフィドルが加わってフルートがハーモニーに回るところ、さらにホィッスルに持ち替えて3曲めに導き、またフルートにもどるあたり、こう書くとあわただしそうだが、本人はいたってのんびりとあわてず騒がずやっている。そしてその次、フルートのスロー・エアからのセットがハイライト。リールを2曲続けてからジグに行く。このメドレーのユニゾンがすばらしい。
こういう対バンでは各々のバンドの性格がより明瞭になる。どちらもトリオで、編成も似ているが、Cocopelina はどちらかというと正面突破型だ。それを推進しているのが山本氏のギター。この人のギターは音がまとまらずに発散される。それがきりっとしたさいとうさんのフィドルと、やはり輪郭のはっきりした岩浅氏のフルートやバンジョーを包みこんで押し出す。このギターの音のバランスが実に良い。
この日のサウンド・エンジニアは昨年の同じ場所での tricolor + きゃめる に続いて原田さんで、いやもう、すばらしい音だった。どの楽器も明瞭で、本来の響きで歌い、しかもバランスがしっかりとれている。前回も良い音だったが、このハコの機材、癖にも慣れたのだろうか、さらに良くなって、ほとんど完璧。アコースティックのライヴ・サウンドはこうこなくっちゃ。
Cocopelina の演奏が一段落ついたところで、プレゼント・タイム。メンバーがそれぞれ、思い思いに持ってきたお土産を聴衆に配るのだが、今回は入場時にひらがなを書いた紙片が渡されていて、メンバーがランダムに言うひらがなを持っている人が当選という形式。本や食べ物や手芸作品などなど。ミュージシャンがお客にプレゼントする、というのも珍しいが、なかなか楽しい。
このプレゼント・タイムは休憩でもあって、すぐに tricolor の演奏。Cocopelina に比べると、こちらは洗練を突きつめようとするところがある。ビートの刻み方、フレーズの展開、緻密なアレンジにこだわるようにみえる。最初の〈Lucy〉の3曲目はその象徴。Cocopelina の演奏には、何もかも忘れて身を委ねられると思えるのに対し、tricolor の音楽は、細部のキメに身悶えさせられる。
ここにはピアノがあるので、アニーがピアノも弾く。すると全体がどっしりと腰が座る。中藤さんがコンサティーナで、ピアノ、ギターの形でスロー・エアからリールというセットがハイライト。アニーが先日のソロでも唄っていた〈じかきうた〉は、あらためていい曲だ。
アンコールはもちろん全員で、2本のフィドルが微妙に音程をずらして遊ぶのが楽しい。この大所帯でアニーがアコーディオンを持つと、アンサンブルの厚みがどんと増す。これあ、いいなあ。これですよ、これ。この部厚いユニゾンの愉しみ。
どちらのユニットも10年やっていて、音楽に余裕がある。オトナの音楽だ。やはり正月にはこういう感じで聴きたい。年があらたまるというのは、それで過ぎた年のことが何も彼もご破算になるわけではないけれど、それでも、気持ちを前向きに切替える契機にはなる。こういう音楽はその切替えを後押ししてくれる。
さいとうさんが昨年生まれたお嬢さんを連れてきていて、3ヶ月という赤ちゃんがどういう風の吹き回しか、あたしの顔を見てはきゃっきゃっと笑みくずれてくれるので、何とも嬉しくなる。良い音楽に加えて、この笑顔で、大いに元気をいただきました。(ゆ)
Cocopelina
さいとうともこ: fiddle
岩浅翔: flute, whistles, banjo
山本宏史: guitar
tricolor
中藤有花: fiddle, concertina, vocal
長尾晃司: guitar, mandolin
中村大史: bouzouki, guitar, accordion, vocal
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