新しいDAPを買った。FiiO M11Pro である。実は当初 M15 を買おうとしたのだが、どこにも在庫が無く、取り寄せにも時間がかかりそうだっのでやむなく 11Pro にしたのだが、今はかえって良かったと思っている。


 

 Cayin N6ii のマザーボードとバッテリーを一体化して交換できるコンセプトにも惹かれて、ほとんどそれに決めていたのだが、最後に方向転換したのは M11Pro のDSD変換機能だ。すべての出力をDSD に変換して出す。

 Android の サンプリングレート変換を回避する Pure Music モードもあり、これとDSD変換を組み合わせると、これ以上、何もいらないじゃんという気分になる。

 Pure Music モードへ切替える方法がついにわからず、輸入元のエミライに問い合わせる。どこの画面でもいいから、上端から下へスワイプすると出てくるメニューの中に切替のスイッチがある。Pure Music モードにすると FiiO Music のみが立ち上がり、他のことは一切できない。DSD変換のオン・オフをする「設定」アプリすら出てこない。これを出すには Android モードにもどさねばならない。ゲインの切替だけは、同じく、スワイプで出てくるメニューで切替えられる。

 Pure Music モードは一度入れると戻れない。オフにすると全体にくすんで、音楽に生気がなくなる。

 M11Pro には 15 には入っていない THX が入っている。15 ではなく、11Pro で良かったと思った理由がこれだ。THX に気がついたのは、実は Benchmark HPA4 のささきさんによる PhileWeb の記事を見て、これに実装されている THX ってどこかで見たぞと思い出した次第。

 HPA4 が使っているのは AAA-888 という THX のトップグレードだけど、M11Pro に実装されているのは THX-AAA-78 で、こちらはモバイル用のトップグレードだ。THX のサイトの製品案内によれば AAA-789 になる。DAP で THX を採用したのは初めてらしい。

 THX の効果は低ノイズ、低歪み、そして低消費電力、さらにハイパワーと、ヘッドフォン・アンプにとって良いことづくめだけれど、確かに M11Pro は静かなのだ。いわゆる雑味が無いというやつで、音楽が際立ってくる。個々の音や残響やその重なり具合にピントがぴしっと合って、にじんだりボケたりするところがまるで無い。聴いていて気持ち良いのだ。音楽の一部としてのノイズもきれいに聞える。一方で、録音の良し悪しはモロに出る。良し悪しというより録音の性格、録り方とか、ミックスやマスタリングの方針とか、そういうものが剥出しになる。慣れた人なら使っている機材のモデル名まであてられそうだ。編集でつないだところも、それとわかる。

 消費電力はよくわからない。DSD変換は当然電気を食うが、一度にそう何時間も聴いているわけではないから、まあ、こんなもんだろうで今のところすんでいる。それにバッテリーの充電が速い。100%になるのに2時間かからない。

 驚いたのはパワーだ。Benchmark の HPA4 でも鳴らないヘッドフォンがよく鳴るとささきさんも驚いていたが、M11Pro のパワーも DAP の次元ではない。なにせインピーダンス 600Ω の T1 がまあよく歌ってくれる。あたしのは初代 T1 の特製バランス仕様で、バランスはパワーが出るわけだが、それにしても、この鳴り方はまっとうなヘッドフォン・アンプを介さなければ、これまでは無かった。伸びるべきところはどこまでも伸び、止まるべきところは見事に制動が効いている。もちろんハイゲイン設定だが、音量スライダは下から3分の2あたりでちょうどいい録音が多い。

 EtherC Flow 1.1 もいい気分で歌う。これもなかなか気難し屋で、ただパワーがあるだけではうまく鳴ってくれない。手許のは初代で、あまりに鳴らないので、一時は手放そうかと思って、AMP に品出ししたこともあったが、1.1 にアップグレードし、マス工房 model 428 と組み合わせてようやく実力がわかってきて、売るなんてとんでもない。エージングもいい具合になり、そろそろケーブルを換えてみるかという気になっていた。M11Pro で聴くと、これならブリスオーディオの Mikumari を奢るかと気分が昂揚してくる。

 こうなってくると THX のヘッドフォン・アンプは DAP では必須ではないかとすら思える。少なくとも、あたしは今後、これが入っていないと使う気になれない。

 FiiO Music の使い勝手はまずまずで、この辺りは HiBy と同じ。入れているマイクロSDカード 512GB の3分の2くらい使っていて、アルバム数も結構あるが、画面が大きいこともあり、スクロールして右端に出るアルファベットで跳ぶのもやりやすい。

 デメリットはまず熱くなること。公式サイトのQ&Aにもあるように、やむをえないところだろうし、ささきさんも言うように、オーディオでは熱くなるのは音がいい、というのはたいてい当っている。一度、シャツの胸ポケットに入れて15分ほど歩きながら聴いたら、かなり熱くなった。季節要因もあるだろうが、携帯するにはもっと通気のよいものに入れる必要がありそうだ。今のところ、散歩用はこれまで使っている Hiby R5 で、M11Pro はもっぱら屋内での使用。冬は持ち出してもいいかもしれない。

 DAP は世代交替が激しいし、保ってせいぜい2年でバッテリーがダメになるから、5万前後までのものにしていたのだが、DSD変換に誘われて「清水の舞台」から飛びおりてみたら、別世界が開けた。この方向で、Sony DMP-Z1 を凌ぐようなものを出して欲しいものではある。Chord Hugo 2 のような半携帯式でバッテリー駆動で THX-888 のヘッドフォン・アンプを備えて、部品にもとことんこだわった DAP。バッテリーには先日発表された K100 が採用した円筒型の電気自動車規格の21700型リチウムイオン充電池はどうだろう。半デスクトップなら、K100 みたいな不恰好にすることもないだろう。

 HiBy に比べると FiiO は DAP を作ってきた経験が長い分、いろいろな点で一日の長があるように思う。もっとも R5 も悪くない。M11Pro よりも小さく軽く、熱くなることもないし、シーラス・ロジックの DAC チップの音も好きなので、散歩用としてはまだまだ活躍してくれるだろう。

 オーツェイドの人のように擁護する向きもあるが、あたしはあの 2.5mm バランス端子がでえっきれえなので、A&Kや今度の K100 は使ってみたいと思うこともあるけれど、当面は選択肢に入ってこない。M11Pro にも 2.5mm ジャックはあるのだが、華々しく金色の枠がついている4.4mm ジャックの隣に添え物のようにちょこなんと着けられていて、ちょっと見るだけではあるのさえわからない。こんな扱いにするなら、とっぱらった方がよかったろうに。もっともこれには、両方同時に挿せないようにという配慮もあるのか。

 イヤフォンは耳の中で存在を主張されるのが苦手で近頃はもっぱらヘッドフォンで聴いている。遠出をする機会が極端に減ったので、電車に乗らず、したがってイヤフォンを使うチャンスはますます減っている。光城の Keyagu とか、オーツェイドの intime 翔とか、ファイナルの A8000 とか、使ってみたいものも無いことはないが、ステイホームのうちはヘッドフォンで遊ぶだろう。そうそう、M11Pro と HD414 の組合せが、歌好きにはもうたまりまへん。414 のケーブルもグレードアップしたくなっている。ファイナルのシルバーコート・ケーブルが使えないのは、かえすがえすも残念。

 それにしてもゼンハイザーは HD414 の直接の後継機を出す気はもう無いんだろうなあ。500や600のシリーズを使えというんだろうが、ちょと違うのよねえ。まんまの復刻でもいいんだけど。今使ってるのが壊れると替えが無いのがなんとも不安。(ゆ)