まったく不見転のミュージシャンのライヴに行ったのは、高橋創さんと須貝知世さんがバックで出るというからである。この二人が揃うなら、メインの人がどうあれ、つまらないライヴになるはずがない。おまけに須貝さんは年末に山梨に引越すから、ひょっとするとしばらくライヴはコロナが収まっても見られないかもしれない、という事情もあった。ヒロインのシンガー・ソング・ライターは須貝さんと大学の同じゼミで、近頃、偶然パン屋さんで再会した、という縁だそうだ。
結論から言えば、また追っかけたい人が一人増えた。うたい手としても歌つくりとしても、かなりな人だ。キャッチーなメロディを作る才能もあり、カルト的にブレイクしてもおかしくない。あたしとしては、MCでしゃべることをもう少し整理してほしいところではある。
ご本人もアイリッシュ・ミュージックは大好きとのことで、そのきっかけが『タイタニック』、しかも例の三等船室のダンス・パーティーというのは定番ではあるが、そのおかげでこのメンバーでのライヴをしてくれたのだから、文句を言う筋合いもない。冒頭は須貝、高橋のお二人に、高橋さんがいつも一緒にやっているパーカッションの熊本比呂志さんの3人で、その『タイタニック』のダンス・チューンのメドレーからこれまた定番の〈Raise Me Up〉。この時点ではこりゃあ我慢大会かなと一瞬危惧したのだが、しかし、この歌がまず良かった。この歌も散々あちこちで聴かされているが、これはベスト・ヴァージョンの一つだ。サポートの良さもあるが、本人の歌唱に説得力がある。エモーショナルだがセンチメンタルにはならない。力を籠めるところが充実していて上滑りにならない。声量も不足はなく、だから、後の方で、バックも目一杯音を出しても負けることがない。高橋さんも思いきって弾けて楽しかったと言っていた。
4曲めで自作の〈涙の海〉。アイデンティティ崩壊して、自分が無くなってしまったことがあり、そこからの回復のイメージから作ったという。その時に友人に連れだされて見た映画『モアナと伝説の海』に励まされてニュージーランドへ渡り、1年放浪したそうで、その映画のテーマが前半ラスト。日本語と英語とマオリ語で歌った、そのマオリ語版が良かった。このヴァージョンが一番言葉とメロディが溶け合っていた。原曲は知らないが、マオリの伝統音楽を使っているのか。
後半は自作を並べる。その冒頭、自身のギターのみで歌った〈勾玉のワルツ〉がこの日のハイライト。ここでは5年前のリベンジとて、ベリーダンサーがその歌に合わせて踊った。曲、演奏、ダンス、三拍子揃った名曲名演。こういうものが体験できるのがライヴなのだ。あまりに良かったので、これが入っているシングルも買う。
〈東京ガール〉は海外でのバスキングで日本語で歌っても一番反応が良かったということで、英語ヴァージョン。高橋さんのバンジョーがいい感じ。この日販売されたミニ・アルバムにも収録されていて、こちらでは高橋さんがスティール・ギターも入れてるそうだ。これは日本語の歌の英訳版だが、アンコールは〈We Are The World〉の日本語版。「訳」ではなく、原曲が言わんとしているところを日本語で言おうとしてみて作ったという。もっとも翻訳とはそういうものだ。
それにしても〈ポラリス〉は名曲だ。
このメンバーはヒロインの音楽によく似合う。先は見えないが、ぜひまたこの形でライヴをやって欲しい。音倉はたぶん二度目だが、音のバランスも良く、天井が高く見えて、意外に広々している。年末になってこういうライヴを見られたのは嬉しい。終り良ければすべて良し。(ゆ)
詠美衣: vo, guitar
高橋創: guitar, banjo
須貝知世: flute, whistle, low whistle, percussion
熊本比呂志: percussion, chorus
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