晴暖。
山尾悠子『山の人魚と虚ろの王』を読む。この人の作品を読むのはウン十年ぶり。母語で美しい話を読む歓びにひたる。こういう文章を読みたかったのだ、と読むと覚らされる。一つひとつの字、語、節、そして文章全体が、いちいち腑に落ちる。一方で、微妙にずらされる感覚。鉱物の結晶のように明晰明瞭な言葉が連なるのに、すべてが曖昧模糊に移ってゆく。読むそばからぼやけ、焦点がずれ、摑んだはずのものが、指の間から洩れてゆく。それすらも快感。夢と現のあわい、両者が溶けあい、交錯し、また別れ、さらにからみあう一瞬。イメージと見せながら、あくまでも言葉でつむぎだす綱渡り。どこにも着地しないまま浮揚浮遊しつづけおおせる力業。このまま、いつまでも終らないでほしい。せめて、5,000枚あるいは1,000頁くらいは続いてほしい。
巻末の短文4本は、本篇の一部として書かれながら、はみ出たもののようでもあり、本篇とは独立に、しかしつながりのあるものとして書かれたようでもある。それぞれが独立した話、というよりも散文詩に近い。この短文があることで、本篇の世界が一段と深く、広くなることは確か。
この本は筆写したくなる。
1ヶ所だけ、89頁最終行「廃盤品」。「廃盤」はレコード、CDについてのことばで、ここでの舞踏用の靴にはふさわしくない。「廃番品」が妥当ではなかろうか。しかし、この世界ではこのままでよいのかもしれない、とも思ってしまう。
散歩に出ると鴬が聞えた。それも2度。お伴は Claudia Schwab《
Attic Mornings》2017。オーストリア出身でアイルランド在住のヴァイオリニストでシンガーのセカンド・ソロ。1曲を除き、すべて自作。その1作は Aidan O'Rourke の曲。そういえば、ファーストをまだ聴いていなかったが、このセカンドは実に面白い。地元オーストリア、アイルランド、それにインドの音楽に影響されているそうで、フィドラーよりもヴァイオリニストだろう。ダーヴィッシュの Brian McDonough がプロデュースで、ダーヴィッシュ人脈の参加もある。メインのバンドはスウェーデン、エストニア、イングランドのミュージシャンからなる。土台はクラシックなのだろうが、一番近いのはジャズではないか。たとえば自作のジグを自身のフィドルとフリューゲルホーンのデュオでやったりする。2曲だけ参加しているフリューゲルホーン奏者はかなりの遣い手で、このトラックはハイライトだ。ヴォーカルはオーストリアということでヨーデルをフィーチュアするが、歌詞は英語がメイン。上記三つの音楽以外のものもいろいろと入っているようで、それをまとめあげているのがこの人の個性ということになるが、その有り様は20世紀的な強烈な我を押し出す形ではなく、湧きでてくる音楽の流れにまかせて、身は捨てている。
今日は晴れたので、ヘッドフォンは KSC75 にピチップを貼ったもの。
Claudia Schwab: violin, vocals, compositions
Marti Tarn: bass, piano [07 10], vocals [11]
Stefan Hedborg: drums & percussion, vocals [11]
Hannah James: accordion, foot percussion [01], chorus [01 10]
Special guests:
Lisa- Katharina Horzer: harp [02 07], yodelling [01]
Seamie O'Dowd: fiddle, guitar [02]
Matthias Schriefl: flugelhorn [07 09]
Brian McDonagh: mandola [06]
Irene Buckley: electronics [06]
Leonard Barry: whistle [02]
Cathy Jordan: bodhran [02]
Wolfgang Schwab: Rastl (yodelling [01]
Anna Schwab: Rastl (yodelling [01]
Sebastian Rastl: Rastl (yodelling [01]
Sophie Meier: Rastl (yodelling [01]
Produced by Claudia Schwab & Brian McDonagh.
Recorded by Brian McDonagh at the Magic Room, Sligo
Mixed by Brian McDonagh at the Magic Room, Sligo
Mastered by Bernie Becker, Pasadena, CA and Brian McDonagh (track 7, 8 & 9)
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