昨年ハロウィーン以来という夜の音楽のライヴ。パンデミックの半年の間に音楽の性格が少し変わったようでもある。あるいは隠れていた顔が現れたというべきか。こういうユニットの顔は一つだけとは限らないし、また常に変わっているのが基本とも言えるだろうから、やる度に別の顔が見えることがあたりまえでもあろう。また、パンデミックはライヴそのものだけでなく、リハーサルや個々の練習にも影響を与えるだろう。もっとも今回の練習とリハーサルはかなり大変だったとも漏らした。
2曲を除いて「新曲」、それも普通、こういうユニットではやらないラフマニノフとかラヴェルとかを含む。そりゃあ、リハーサルは大変だったろう。
どの曲もこのユニットの音楽になりきっているのはさすがだが、いつもの即興が目に見えて少ないのはちょっと物足らなくもある。楽曲の消化の度合いが足らないのではなく、演奏の方向がそちらに向かわないのだろう。つまり、このユニットでやるというフィルターを通すとカオスの即興をしなくても、十分ラディカルになる。
もっともバリトン・サックスを前面に立てて、真正面から律儀にやったラフマニノフやヴィラ・ロボスと、Ayuko さんがゴッホの手紙の一節の朗読をぶちこみ、思いきりカオスに振ったラヴェルで演奏の質やテンションが変わらないのは面白く、凄くもある。しかもこの3曲をカオスをストレートの2曲ではさんでやったのは新境地でもあった。
一方で、新曲ではない2曲、加藤さんの〈きみの夏のワルツ〉と shezoo さんの〈イワシのダンス〉は、さらに磨きがかかって、とりわけ後者はこの曲のベスト・ヴァージョンといえる名演。
ラスト3曲〈夏の名残のバラ〉、ジュディー・シルの〈The Kiss〉、アンコールの〈Butterfly〉(Jeanette Lindstrom & Steve Dobrogosz) のスロー・テンポ三連発も下腹に響いてきた。決して重くはないのに、むしろ浮遊感すらある演奏なのに、じわじわと効いてくる。
今回は加藤さんと Ayuko さんが、それぞれの限界に挑戦して押し広げるのを、立岩さんと shezoo さんが後押しする形でもある。ただ、挑戦とはいっても、しゃにむに突進して力任せに押すのとは違う。このユニットでこの曲をやったら面白そうだと始めたらハマってしまい、気がついたら、いつもはやらないこと、できそうにないことをやっていたというけしきだ。こういうところがユニットでやることの醍醐味だろう。
エアジンは全てのライヴを配信している。カメラは8台、マイクも各々のミュージシャン用の他に数本は使っている。途中でも結構細かくマイクの位置を調整したりしている。このユニットではとりわけ立岩さんのパーカッションがルーツ系で、ダイナミック・レンジが大きく、捉えるのがたいへんなのだそうだ。アラブで使われるダフなどは、倍音が豊冨で、ビビっているようにも聞えてしまう。確かに、冒頭で枠を後から掌底でどんと叩いた時の音などは、たぶん生でしか本当の音はわからないだろう。
パンデミックで、ライヴに行くのも命懸けだが、その緊張感が音楽体験の質をさらに上げるようでもある。(ゆ)
夜の音楽
Ayuko: vocal
加藤里志: saxophones
立岩潤三: percussions
shezoo: piano
コメント