7月24日・土
 
 7月23日が Ulysses S. Grant の命日とのことで、Washington Post Book Club でグラントの回想録をとりあげている。ウェスト・ポイントの教授による注釈入りのものが出ていたので注文。士官学校時代に読んだ小説まで掘り出しているらしい。ハードカヴァーしかなく、1,100ページ超。

 この回想録はマーク・トウェインが出版して当時大ベストセラーになったが、それにはちゃんとワケがあり、トウェインはグラントの回想録を不見転で、Hail Mary として買ってから、全国的な販売キャンペーンを事前にしていた、という話。もっとも当時 USA はほとんどミシシッピ以東だけだし、南部にグラントの本が売れるはずはないから、全米といってもごく狭い範囲ではあったろう。とはいえ、鉄道はあったにしても、交通手段も限られたわけで、トウェインの努力は今の大出版社がくり広げるプロモーションよりも、手間暇がかかったものだったかもしれない。

 LOA版は回想録に加えて、手紙も入っている。LOA はそれとは別に夫人宛の書簡をまとめて1冊にして出している。夫人からの返信はまったく残っていないそうな。おそらく本人が処分したのではないか。回想録がベストセラーになった後、夫人はこのグラントの自分宛の書簡も集めて1冊にすることをトウェインに提案し、トウェインも乗り気だったが、トウェインとグラント家の関係が別のことで冷えたためにそれっきりになった。これなら電子版でもいいか。


 

 国会図書館で調べると、グラント関係は以下の書物がヒットする。グラント夫妻は1879=明治12年に国賓として来日した。没年は1885=明治18年。この中で回想録邦訳の可能性があるのは『自著克蘭徳一代記』と『米国偉観』。岩神本はページ数からして抄訳だろう。大阪外蘓渊颪里發里鷲読本か。古すぎて、版元のサイトでも出てこない。国会図書館も普通に使えるようになったら、一度確認してみるか。

北米聯邦前大統領藕蘭土氏成績記; 太田実 著, 瀬谷正二 抄訳, 東京: 鳴門堂, 明12.5, 26p ; 19cm
米国前大統領哥蘭的公伝; 山田享次 著, 岸田吟香 閲, 東京: 学農社, 明12.6, 41p 図版 ; 19cm
グランド公略伝; 豊島左十郎 編, 大阪: 北島禹三郎, 明12.7, 12p ; 17cm
米国前大統領虞蘭将軍全伝, 岩神正矣 著, 東京: 九春堂, 明19.4, 142p ; 19cm
米国偉観; グラント 著, 青木匡, 島田三郎 訳, 東京: 輿論社, 明19,20, 4冊 (合本2冊) ; 22cm
                                青木, 匡, 1856- 
                                島田, 三郎, 1852-1923
自著克蘭徳一代記: 一名・南北戦争記; グラント 著, 山本正脩 訳, 奥井清風 校, 東京: 精文堂, 明19,21, 2冊 (5巻合本版) ; 19cm
米国前大統領格蘭土将軍小伝; 石山敬太郎 (嫩葉) 著, 東京: 石山敬太郎, 明25.2, 7p ; 19cm
虞蘭得将軍; 布施謙太郎 著, 宮川春汀 画, 世界歴史譚 ; 第27編, 東京: 博文館, 1901.9, 116p ; 23cm
                                布施, 謙太郎, -1914
                                宮川, 春汀, 1873-1914
回想記, Ulysses S.Grant 原作, 大井浩二 編注, 大阪: 大阪教育図書, 1989.4, 76p ; 22cm

 ついでに Ron Chernow の Grant も注文。グラントの最新の伝記の1冊で、評価の高いもの。

Grant (English Edition)
Chernow, Ron
Head of Zeus
2017-11-02






 グラントは主な伝記だけで十数冊は下らず、どれにしようか手をつけかねていたが、これはちょうど良さそうだ。Chernow はワシントンとハミルトン、それにワールブルグ=ウォーバーグ家の伝記も書いていて、いずれもベストセラーかつ専門家の評価も高い。

 一族の一人、アビ・ワールブルグの伝記は読んだはずだが、ほとんどまったく記憶に残っていない。弟の銀行家に、跡継ぎを讓る代わりに本を買う金は無条件で出すという約束をさせて古書を買い漁り、膨大な蔵書の私立図書館を作る。この図書館は後、ロンドンに移って Warburg Institute となる。その蔵書の大半が大英図書館にも無いものだった。美術史家としての業績は別として、その話だけ、覚えている。ウォーバーグのバーグは burg で、Warburg はドイツで本拠を置いた都市の名前。ユダヤ系によくある berg では無い。

 グラントは戦争について実に醒めた見方をしていて、大統領にもなったが、シャーマンは三度の飯より戦の好きな生粋の軍人、ということか。もっとも政治に関わることを拒否したそうだから、自分の器はわかっていたのだろう。それにしても、南北戦争に対するアメリカ人の関心は、傍から見ると常軌を逸していると見えるところもあるが、わが国のこの無関心もなかなか面白い。まあ、南北戦争が戦われていた頃、わが国では幕末の騒動が最高潮に達していたということもあるのかもしれないが、それにしてもね。

 シェルビィ・フットの本とグラントのこの伝記、それにグラントとシャーマン、各々の回想録を読めば、まず南北戦争について一通りは押えられるだろう。いかに複雑で、わかりにくいものかということぐらいはわかるだろう。ロバート・E・リーにも回想録があるなあ。伝記も読んでみたいが、さて、どれがいいのか。奴隷制に反対しながら、奴隷制擁護のために戦ったわけで、南部では神格化されてるようだが、この人も一筋縄ではいかない。


 

Ulysses S. Grant, 1822-1885
William Techmuseh Sherman, 1820-1891
Robert E. Lee, 1807-1870

 グラントとリーは同じく63歳で死んでいる。ふうむ、ヘンリー・ソローは南北戦争の最中に死んでるのか。(ゆ)