1005日・火

 Moon Audio がしきりに Dan Clark Audio の新フラッグシップ Stealth を薦めてくる。この値段では不見転では買えないし、聴いてはみたいが、日本で聴こうとすれば買うしかない。こんなもの買いそうな知合いもいない。代理店が無いから、イベントでも出てこない。まあ、EtherC Flow から予想するに、悪いものであるはずはないが、ここまでくると好みの音かどうかではあるのだ。それに EtherC Flow との違いが、ほんとに聞きとれるかどうか。もっとも EtherC Flow も不見転で買って、良くなるまで、結構苦労したからなあ。一時は叩き売ろうかとも思った。1.1にアップデートしてようやく真価が現れた。



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本日のグレイトフル・デッド

 1005日は1968年から1994年まで4本のショウをしている。公式リリースは2本。


1. 1968 Memorial Auditorium, Sacramento, CA

 1968-10-04 The San Francisco Chronicle に「明日の晩、Memorial Stadium(サクラメント):グレイトフル・デッド、ヤングブラッズ」という告知があることによる。詳細不明。

 このヴェニューではこの年の0311日にクリームとのダブル・ビルでやっていて、そちらは一部ではあるはずだがセット・リストもある。この後は197219781979年と計6回演奏している。

 会場は座席数3,867の多目的ホールで、1927年にオープン、1986年に閉鎖。改修後1996年に再オープンされた。コンサートの他、高校の卒業式などのイベントに使われている。2007年、シュワルツェネッガー州知事就任式の会場となる。国の史跡。


2. 1970 Winterland Arena, San Francisco, CA

 前日に続くイベント。セット・リストがはっきりしない。このショウのサウンド・ボード録音は The Vault には無い、とのことだったが、《DOWNLOAD SERIES: Family Dog》で後半に演奏されたといわれる〈Dancing In The Street〉がリリースされた。

 後に比べるとぐんとゆったりのんびりしたテンポ。ウィアのヴォーカルは低い声を出す。コーラスのアレンジもまったく違う。はじめ、右のハートが聞えない。ガルシアのギターもゆったりと音を置いてゆく。ジャズ的。技術的にはシンプル極まることをやりながら、繰返し聴いて飽きないフレーズを編みだしてゆく。ギタリストの人気投票などでは決して上位にはこないが、これほど抽斗が多くて、多彩な音、語彙、表現を自在に操っていたギタリストは他にはいない。途中からテンポが上がっていて、ガルシアのギターも切迫感を備え、〈Eye of the World〉を連想させる演奏になってゆく。後の〈Dancing In The Street〉とはまるで別物の演奏。同じ曲では無いよ、もう、これは。ヴォーカルのもどりがいささか唐突に響く。凄い。


3. 1984 Charlotte Coliseum, Charlotte, NC

 13.50ドル。夜8時開演。〈Promised Land〉に始まり、〈Johnny B. Goode〉に終る。良いショウでないはずがない。


4. 1994 The Spectrum, Philadelphia, PA

 30.00ドル、夜7時半開演。3日連続公演の初日。後半3曲目からの〈Playing in the Band> Uncle John’s Band> Jam〉のメドレーが2016年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。

 ボストン後半からの好調は続いていて、これと翌日も引き締まった、良いショウだったようだ。

 そのことは30分近いこのメドレーを聴いてもわかる。やや遅めのテンポ。1976年頃の感じ。PITB のジャムの後半、ほとんどフリー・ジャズに踏みこんでいる。ザッパもここまではやらなかった。混沌としているが、どこかで崩れずに踏みとどまっている。1本の筋が、まっすぐではないにしても、通っている。混沌の中からまたビートが現れ、UJB になりそうでなかなかならない、そこがまたいい。歌が始まり、大歓声が湧くのもまったく同感。ガルシアのギター・ソロ、まだまだ霊感の泉は満々とたたえられている。ガルシアの声もたっぷりの響き。さんざん聴きなれた曲のはずなのに、この演奏にはじっとしていられなくなる。人を鼓舞し、立ちあがらせ、動きださせる力がある。30年、後ろをふり向かず、ひたすら前だけを見つめてやってきた、その末に手に入れた力。その後のジャムガルシアは MIDI でギターの音色を変化させる。またフリーの領域に踏みこむが、先ほどよりもテンポが速く、緊張感がみなぎる。デッドとして最もアグレッシヴな音。さらに Space を先取りする。ガルシアのデーモンが殻を破って現れんとしているけしき。ウェルニクの踏ん張りも貢献している。ここにいてうたっている、演っているのが楽しくて、嬉しくてしかたがないのだ。他のメンバーによって引きだされ、引きあげられている部分はあるにしても、それに応えるだけのものは持っている。(ゆ)