1029日・金

 あたしは知らなかった。Tor.com で Victoria Goddard を強力に推薦する Alexandra Rowland の記事で知った。自分にぴったりとハマった書き手に遭遇し、これにどっぷりとハマるのは確かに無上の歓びに違いない。その歓びを率直にヴィヴィッドに伝え、読む気にさせる見事な文章だ。しかもネタバレをほぼ一切していない。

 わかった、あんたのその見事な推薦文に応えて、読んでみようじゃないか。

 ちょと調べるとヴィクトリア・ゴダードはまたしてもカナダ人。そしてまたしても自己出版のみ。生年は明かしていない。トロントの生まれ育ちらしい。好きで影響を受けた作家として挙げているのはパトリシア・マッキリップ、コニー・ウィリス、ロイス・マクマスター・ビジョルド。この3人とニール・ゲイマンの Stardust の中間を目指す、という。

 刊行は電子版が基本で、紙版はアマゾンのオンデマンド印刷製本で、相対的に高い。

 2014年4月以来、これまでに長短20本の作品を出している。長篇7本、ノヴェラ6本、短篇6本。短篇の一部を集めた短篇集が1冊。今年年末に長篇が1冊出る予定で、来年出る長篇も1冊決まっている。大部分は Nine Worlds と作者が呼ぶ世界の話。これに属さない短篇が3本。

 最初は短篇を3本出し、2014年7月に初めての長篇を出す。2016年1月の Stargazy Pie から Nine Worlds の中心となる Greenwing & Dart のシリーズが始まる。2018年9月、900頁のこれまでのところ最大の長篇 The Hands Of The Emperor で決定的な人気を得る。アレックス・ロゥランドもこの本に出会って、ゴダードにハマりこんだ。来年出るのはこれの続篇だそうだ。ロゥランドの Tor.com の記事でも、著者のサイトの読む順番のページでも、この本をまず読め、と言う。

 あたしはへそ曲がりだし、基本的に刊行順に読むのが好みでもあるので、201411月に出たノヴェラ The Tower at the Edge of the World から読むことにした。もっともロゥランドはこれもエントリー・ポイントの一つとして挙げているし、著者サイトには話の時間軸ではこれが最初になるとあるから、それほど突拍子のない選択でもない。まだ頭だけだが、文字通り世界の果てに立つ塔で、何ひとつ不満もなく、儀式と祈りと勉強の日々を過ごしていた少年の世界に、ある日、ふとしたことから波風が立ちはじめる。ゆったりと、あわてず急がない語りには手応えがある。

 ここから Starpazy Pie、そして The Sisters of Anramapul の第一作 The Bride Of The Blue Wind と進めば、Nine Worlds 宇宙の中心をなすシリーズ3つのオープニングを読むことになる。


 それにしても、この人も ISFDB には、この Starpazy Pie だけがリストアップされている。それも8人の自己出版作家の長篇を集めたオムニバスの一部としてだ。自己出版は数が多すぎて、とてもカヴァーしきれないのだろうが、いささか困った事態だ。


 自己出版のもう一つの欠点としては、図書館に入らないことがある。ロゥランドの記事のコメントでも、地元の図書館には何も無いというのがあった。


 ところで自分にぴったりとハマる書き手に遭遇したことがあったろうか、と振り返ると、部分的一時的にはそう感じることはあっても、ある作家の作品全体というのはなかった気がする。全著作を読んだ、というのは宮崎市定だけだから、そういう書き手はやはりいなかっただろう。宮崎はとにかく喰らいついていったので、とても自分にハマるなどとは感じられなかった。相手の器の方が大きすぎる。

 そう考えるとあたしの小さな器にぴったりハマるような書き手はつまらんということになる。ぴったりハマってなおかつ読むに値すると感じるためには、己の器も相応に大きくなくてはならない。それには、ロゥランドのように自分もしっかり書いている必要がありそうだ。ただ読むのが身の丈に合っている、というのでは器の大小というよりは形が異なるんじゃないか。自分は結局読むしか能がない、と言いきったのは篠田一士だが、あれくらい読めれば読むだけでも何でもハマる器になれるかもしれない。あたしも読むしか能はないのだが、しかし、その読むのもなかなかできない。かくてツンドクがまた増える。



##本日のグレイトフル・デッド

 1029日には1968年から1985年まで6本のショウをしている。公式リリースは4本。うち完全版2本。


1. 1968 The Matrix, San Francisco, CA

 ピグペンとウィアが「未熟なふるまい」のためにこの時期外されていたため、このショウは Mickey and the Hartbeats の名で行われた。San Francisco Chronicle のラルフ・グリーソンによる "on the town" コラムでは Jerry Garcia & Friends とされている。

 演奏はジャム主体でラフなものだったらしい。1曲エルヴィン・ビショップが参加。


2. 1971 Allen Theatre, Cleveland, OH

 会場は1920年代に映画館として建てられた施設で、キャパは2,500。この時期、映画が小さな小屋で上映されるようになり、このサイズの映画館がコンサート向けに使われるようになっていたらしい。内装は建築された時代を反映して、金ぴかだが、楽屋などは当然ながら貧弱だった。ただ、座席はずらしてあり、視野が邪魔されなかった。

 ニュー・ライダーズ・オヴ・パープル・セイジが前座。ガルシアはペダルスティールで参加。長いショウで終演は真夜中をかなり過ぎていた。 WNCR FM放送された。

 この日、デュアン・オールマンが死去。


3. 1973 Kiel Auditorium, St. Louis, MO

 このヴェニュー2日連続の1日目。全体が《Listen To The River》でリリースされた。3ヶ所 AUD が挿入されている。テープの損傷か。特に〈El Paso〉は全曲 AUD。使われた AUD の音質は良く、全体がしっかり聞える。〈Eye of the World〉はベスト・ヴァージョンの一つ。


4. 1977 Evans Field House, Northern Illinois University, DeKalb, IL

 8ドル。開演8時。全体が《Dave's Picks, Vol. 33》でリリースされた。


5. 1980 Radio City Music Hall, New York, NY

 8本連続の6本目。第二部5・6曲目〈Candyman> Little Red Rooster〉が《Dead Set》でリリースされた。

 どちらもすばらしい。〈Candyman〉ではガルシアのギターが尋常ではない。この人が乗った時のギターは尋常ではないが、その中でも尋常ではない。〈Little Red Rooster〉ではウィアのヴォーカルがいい。どちらもかなり遅いテンポであるのもいい。


6. 1985 Fox Theatre, Atlanta, GA

 このヴェニュー2日目。前半短かいが、後半はすばらしかったそうだ。(ゆ)