12月04日・土
奈加靖子さん『緑の国の物語』のCDを聴く。定番曲ばかりだが、こういう定番曲を新鮮に、瑞々しく聞かせてくれるのが奈加さんの身上。
緑の国の物語 アイルランドソングブック [ 奈加靖子 ]
前作《Slow & Flow》の流れを受けてゆったりと歌う。鳥の声が入っているのは屋外で、樹の下ででも聴いている気分。〈Molly Malone〉ではモリーが売りあるいた街の様子がまず聞える。
この歌での力の抜き方がすばらしい。これだけゆっくりで、ここまで力を抜いて、なおかつ、崩れずに聞かせられるのは、大したものだ。
〈Danny Boy〉は終始低いレジスターで歌う。これはいい。そう、このメロディは高くなるのに任せないことで本当に美しくなる。対照的に〈Irish Lullaby〉では、スタンザの最後のところは十分に高く伸ばす。〈An Mhaighdean Mhara〉 はことさらにテンポを落とす。一つひとつの音をたっぷりと伸ばす。その響きの快さ。
第3章は前2章と少し毛色が変わる。ここの曲は伝統というより、アイルランドの今を映しだす。奈加さんの中ではたぶんシームレスにつながっているのだろう。これが伝統ではないとは言わない。ただ、音楽伝統の中核からは離れたところに立っていると、あたしには聞える。
むろん、それがまずいわけでもなく、歌唱の価値を落すわけでもない。こういう伝統の捉え方もあるのが、あたしには興味深いのだ。この先に、あるいはここと並んで、たとえばコアーズやもっと若い人たちの音楽を伝統に連なると捉えている人たちもいるだろう。伝統とはそれくらいしぶとい柔軟性を備えているものだ、ということを、あらためて思い知らされる。
それにしてもアイルランド共和国の国歌はまるで国歌らしくない。兵士たちがこういう歌で気勢を上げていたというなら、悪辣なイングランド人たちにしてやられるのも当然とも思える。というのはやはり偏見であらふ。
##本日のグレイトフル・デッド
12月04日には1965年から1990年まで6本のショウをしている。公式リリースは3本。
1. 1965 Big Nig's House, San Jose, CA
San Jose Acid Test。Grateful Dead としての初めてのギグと言われる。当初かれらは The Warlocks と名乗ったが、同名のバンドのレコードをレシュがレコード店で見つけたことから、改名した。と言われるが、この先行バンドの存在は確認されていない。
改名の事情がどういうものであれ、また新しい名前の出現のしかたがどうであれ、The Warlocks のままでは、こういう事態にはならなかっただろうことは想像がつく。やはり Grateful Dead という突拍子もない、印象の悪い名前であって初めてこの異常な現象が起きているのだ。Dead Head という呼称、死のイメージがあふれるその世界、他に比べられるものの無い、唯一無二のその音楽は、Grateful Dead という名前と共にその芽が出た。こう名乗るとともに、かれらは死んだ。死んだ以上、恐れるものは何も無い。身を捨てた。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。身を捨ててこそ、初めて可能になることがある。
2. 1969 Fillmore West, San Francisco, CA
3ドル。4日連続の出演の初日。共演 Flock、ハンブル・パイ。
The Flock は1966年頃シカゴで結成されたジャズ・ロック・バンドで、1969年と70年にコロンビアからアルバムを出している。ヴァイオリンの Jerry Goodman の最初のバンド。グッドマンはこの後マハヴィシュヌ・オーケストラに参加する。
約2時間の一本勝負。〈Uncle John's Band〉の11月01日に続く2回目の演奏で、完成形としては初めてとされる。1週間後の3回目の演奏は《Dave's Picks, Vol. 10》で出ている。
2日後に迫ったローリング・ストーンズ、CSN&Yなど大物がたくさん出るフリー・コンサートの会場が直前になって二転三転し、結局オルタモント・スピードウェイになったことが、ビル・グレアムによるバンド紹介の中心だった由。
当初はゴールデン・ゲイト公園で開催の予定で、混乱を避けるため、直前まで発表しない申し合わせになっていたのを、ミック・ジャガーが早々に漏らしてしまったために、公園を管理するサンフランシスコ市当局が会場提供を降りた。そこで Sears Point Raceway に移されたが、24時間経たないうちにさらにオルタモントに変更になった。と、いう事情はよく知られているだろう。
3. 1971 Felt Forum, Madison Square Garden, New York, NY
このヴェニュー4日連続の初日。3.50ドル。
会場はマディソン・スクエア・ガーデンのメイン・アリーナの下にある多目的ホールで、現在は Hulu Theater と呼ばれる。1968年のガーデンのオープンから1990年代初めまで、Felt Forum と呼ばれた。座席数はコンサートで2,000〜5,600。オープン直後から1970年代初めにかけて、様々なロック・アクトがここでコンサートをしている。デッドのここでの演奏はこの4日間のみ。
オープナー〈Truckin'〉が2018年、第一部10曲目の〈Comes A Time〉が2017年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。前者では歌の後、いいジャムを展開する。後者、ガルシアの歌が絶好調。
4. 1973 Cincinnati Gardens, Cincinnati, OH
曲数で半分が《Winterland 1973》のボーナス・ディスクでリリースされた。
開演6時の予定が実際に始まったのは11時だった由。
5. 1979 Uptown Theatre, Chicago, IL
このヴェニュー3日連続の中日。第二部ドラムス前の〈Estimated Prophet> Franklin's Tower〉とそれに続くジャムが《Dave's Picks, Vol. 31》でリリースされた。
各々の歌の後のジャム、後者で一度止まりかけるのがテンポを変えてまた復活するのが楽しい。
6. 1990 Oakland-Alameda County Coliseum Arena, Oakland, CA
22.50ドル。開演7時。セット・リスト以外の他の情報無し。(ゆ)
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