1220日・月
 

 Top Floor Taivers のアルバムの前作にあたるソロ。ギター、ピアノ、フィドル、アコーディオンをバックに伝承曲、オリジナルを歌う。

 筋の通った、気品に満ちた声で虚飾を排し、正面から歌う。声域はソプラノよりはやや低いか。発音も明瞭で、スコッツの響きが快い。ディック・ゴーハンあたりだとごつごつした響きが、とんがり具合はそのままに透明感を帯びる。言語学的には英語の方言だが、スコットランドの人びとは独立した言語だと主張する。沖縄のウチナーグチが言語学的には日本語の方言だが、まるで別の言語に聞えるのと似ている。

 歌唱があまりにまっとう過ぎて、芸がないと聞える時もなくはないが、そんな枝葉末節は意に介さず、ひたすら正面突破してゆくと、スコッツの響きとスコットランドのメロディは、ここにしかない引き締まって澄みわたった世界を生みだす。

 それを盛りたてるサポート陣は相当に入念なアレンジで、これまたうるさく飾りたてることはせず、贅肉を削ぎおとしながら、歌の世界をふくらませる。あたしなどはいずれも初見参の人たちだが、皆腕は達者だ。打楽器がいないのも適切。

 録音、ミックス、マスタリングは Stuart Hamilton で、例によって手堅い仕事。



##本日のグレイトフル・デッド

 1220日には1966年から1969年まで3本のショウをしている。公式リリースは完全版1本。


1. 1966 Fillmore Auditorium, San Francisco, CA

 前回1211日から9日ぶりのショウ。メインはオーティス・レディングが3日連続で出演し、それぞれに違うバンドが前座に出る形で、初日がデッド。2日目は Johnny Talbot & De Thangs、3日目がカントリー・ジョー&ザ・フィッシュ。3ドル。開演9時。セット・リスト不明。


2. 1968 Shrine Exhibition Hall, Los Angeles, CA

 このヴェニュー2日連続の1日目。メイン・アトラクションはカントリー・ジョー&ザ・フィッシュで、デッドは前座。サー・ダグラス・クィンテットも出る、とポスターにはある。出演バンドそれぞれが2ステージとこれもポスターにはあるが、判明しているセット・リストは30分ほどのもののみ。


3. 1969 Fillmore Auditorium, San Francisco, CA

 3ドル。開演8時。5本連続の中日。《Dave’s Picks, Vol. 06》で全体がリリースされた。ただし、〈Dark Star〉以下に続くジャムを途切れずに収録するために、CD2CD3に第一部第二部を入れ換えて収録している。

 全体で2時間強。トム・コンスタンティンがキーボードに入ってメンバーは7人。デッド史上最大。このコンスタンティンのオルガンが全篇を貫いてデッドにしては珍しい華やかな味わいを加えている。代わりにガルシアのギターは調子が今一つ。ピグペンも〈Turn On Your Lovelight〉と〈Hard to Handle〉で存在感を示すが、後者の方がいい。〈Lovelight〉では弾丸のような言葉の連発が影を潜める。この二人以外はすばらしい。中でもウィアのヴォーカル、レシュのベースが際立つ。

 11月に《Live/Dead》が出ている。当時、破格の3枚組LPだったが、これがデッドの足許を固めた。それまでの3枚のスタジオ盤はやりたいことが四方八方に飛びちっていて、リスナーはもちろん、当人たちにとっても足掛かりにはなり難かった。この3枚によって、デッドなりのスタジオの使い方が見えてきたとしても、本質的にライヴ・バンドであることを確認することにもなった。その結果がこの年2月のフィルモア・ウェストでのショウから抜粋した《Live/Dead》であり、3枚組に7曲しか入っていない点でも破格のアルバムは、デッドが何者かをリスナーに伝えることに成功して新たなファンを獲得した。

 この演奏はそこからほぼ1年近くを経て、かなりの変化を示している。それまでのピグペンのデッドからガルシアのデッドへの移行期にある。《Live/Dead》を期待してショウに来たリスナーはとまどったかもしれない。一方で《Live/Dead》1枚目の裏表である〈Dark Star> St. Stephen> The Eleven〉という組立ては1969年を象徴するものでもあり、これを生で聴けるのはこの年のデッド体験のコアになっただろう。

 録音はアウズレィ・スタンリィだが、音質は今一つ。ヴォーカルは誰もがクリアだが、楽器は中央にかたまり、ややピントが甘い。(ゆ)