1230日・木

 ふり返ってみると今年はヘッドフォンは買わず、イヤフォンばかり買っていた。ヘッドフォンの新製品に魅力が無かった、あるいは面白そうなものはどれも高すぎたということだろう。HiFiMAN Deva Pro には一瞬よろめいたが、Himalaya DAC チップのもっと汎用性のある製品を待とうとガマンした。以下、買った順。


Unique Melody 3D Terminator


 

 ダイナミック・ドライバー二発、というので買ってみる。悪くないが、ボディ・サイズがやや大きく、出番はあまり多くない。


JVC HA-FW7-T ブラウン


 

 ウッド・ドライバーを試すために購入。エージングはしたが、まだ少しこなれていない感じがある。わずかだがきんきんするところがあって、あるいはあたしには合わないか。


Mother Audio ME5BORON

 振動膜素材としてベリリウムに次ぐボロンを使ったドライバーのイヤフォンとしてクラウドファンディングに参加。音はなかなかなのだが、耳かけ、いわゆるシュアがけ前提のようなのに、ボディの形状がストレートな円筒形なのがマッチしておらず、あまり出番は多くない。


Acoustune HS1300SS Verde


 

 限定版で出たくすんだグリーンの色にやられて購入。一発でお気に入りになった。が、あろうことか、つい先日、上京した際に紛失してしまった。ロマンスカーの席でリュックの中のものをぶちまけた時に、どこかに落ちたか、戻していなかったらしい。反射的に買いなおそうとしたのだが、待て待て、これはもともと縁が無かったのかもしれない、と思いなおした。頭に血が昇った状態で買うとまた事故が起きかねない。当面一番気に入っていたものではあるけれど、それが無いとどうしようもないわけでもない。そうでなくてもイヤフォンはたくさんあるのだ。

 とはいえ、ミリンクス・ドライバーの鮮明な音は聴いていて実に気持ちよいし、耳に入れやすく、安定してしかも存在を主張しないボディ・デザイン、そして太くてからみにくい一方で取り回しはよいケーブルと、三拍子揃っていて、Acoustune のものはいずれまた何か買うことになるだろう。


AirPods Pro


 

 プロの録音エンジニアが、これがスタジオの音に一番近いと言っていた、と愛用しているポータブル・ヘッドフォン・アンプの製作者から聞いて購入。なるほど自然な音で、Mac iPad で試聴したり、YouTube 聞いたりするのが増えた。無線が音楽リスニングの主流になるのも無理はない。


Ucotech/Ubiquo UBQ-ES903MK2

 あたしは特に右側の耳の形が異常で、オープン・タイプのイヤフォンはただ耳にかけるだけでは耳穴にまともに向かず、使えない。これには嘴が突き出した形のシリコンフィットチップなるものが付属していて、これならばあるいは使えるのではないかと買ってみた。結果は大正解で、すっきりと突き抜けて Acoustune 以上に明晰でナチュラルな音は、こたえられない。買ったのは年末だが、今年一番の買物。安価だが音は本物で、屋内でアンプをかませるとさらに良くなる。

 シリコンフィットチップはランニングでもはずれないようにデザインされている由だが、あたしの耳ではいつもの速歩でも外れやすくなる。普通に歩く分には問題ない。

 メーカーではこれのすぐ上のクラスのモデルを来年チューニングしなおすそうで、その際、新たな固定ツールも出すそうだ。オープン・タイプのイヤフォンのファンとしては実に楽しみだ。

 オープン・タイプでは、ファイナルの PF II を愛用していたが、ある日、片方のユニットがぽっかりと割れてしまった。あれも音の出口が少し突き出ていた。生産終了はまことに残念で、代わりになるものが無く、泣く泣くオープン・タイプのイヤフォンは諦めていたので、この登場には狂喜乱舞。


Qudelix-5K Reference DAC AMP 専用イヤフォンQX-over Earphones



 

 その903Mk2と同じディストリビューターが扱っていて、ウエブ・サイトで目についたもの。ささきさんも紹介しているアクティヴ・クロスオーヴァーというのが面白そうだと買ってみたら、MacBook Tidal を聴くときにはこれを使うようになった。

 元来、無線で使うのが前提の製品だが、あたしはもっぱら USB-DAC として使っている。とにかく小さいのがまずいい。届いて開けてみてその小さいことに驚いた。胸ポケットなどに挿せるようボディの片側は全体がクリップになっている。ネクタイピンとしてだって、使えないことはなさそうだ。

 そして音が面白い。良い、というのとはまた違う面白さだ。良いことは良いのだが、良さが普通とは違うと言うべきか。たとえば少し古い録音で、ドラムスとベースがローテクな鳴りをしている隣で、トライアングルのような小さな音がしっかり聞えるのだ。これまで Tidal MacBook から AirPlay M11Pro に飛ばして聞いていたのだが、これで聴く方が気持ち良く聴ける。つなげば自動的にオンになる。

 来年、DAC アンプはアップグレードされた新製品が出ると予告されていて、楽しみだ。


Artio CR-S1

Artio カナル型イヤホン【CR-S1】
アルティオ(Artio)
2020-12-19

 

 年末、AV Watch をあれこれ眺めていて、たまたま小寺信良氏がここのイヤフォンを紹介している記事が目に止まった。

 その紹介の仕方が面白く、内容もすっきりはっきりしていて、オーディオ記事にありがちなごまかしている感じが無いのも気分が良かった。ここで紹介されている上位2機種は以前、サブスクリプションのレンタルで数ヶ月借りてみたのだが、その時はどうにもピンと来なかったので、返却してそれっきりになっていた。記事を見て、とびぬけて安いこともあり、再度試す気になってヨドバシのポイントで購入。現在一番出動頻度が高い。

 どこがどう良いと言葉にしにくいが、なぜかこれで聴きたくなるのである。イヤフォンで聴いている気がしない、ということなのか。いずれそのうちもう少し特徴的なところ、固有の性格などもわかってくるかもしれないが、そういうことはどうでもいいという気もする。とにかく、クローズドで聴こうとする時に、気がつくとこれに自然に手が伸びている。聴けばどんどんと音楽が聴きたくなる。音楽を聴くのが楽しい。いずれ上位機種にも手を出すかもしれないが、当面、これで何の不満もない。


 ということで12月に入って買った3つのイヤフォンを取っ替え引っ替え聴いている年末であり、おそらく来年もしばらくはこの体制が続くだろう。それにしても、安くて面白いものを取っ替え引っ替えするのが身の丈に合っているのだ、とあらためて思ったことではありました。



##本日のグレイトフル・デッド

 1229日には1966年から1988年まで7本のショウをしている。公式リリースは2本。


1. 1966 Santa Venetia Armory, San Rafael, CA

 2.50ドル。共演モビー・グレープ、The Morning Glory。セット・リスト不明。

 The Morning Glory というアーティストはたくさんいるが、ここではこの頃ベイエリアで結成された5人組バンドで、女性リード・シンガーを擁し、ママス&パパスとジェファーソン・エアプレインを合わせたようなサウンドの由。1968年に1枚《Two Suns Worth》というアルバムがある。2007年にCD復刻。ストリーミングで聴ける。ネット上の情報では1967年結成とあり、これは結成直後ないし最初のギグなのかもしれない。

 女性シンガーはなかなか聞かせるが、それよりもママス&パパス流の男女のハーモニー・コーラスをやりたかったらしい。一方で、ドラム・ソロ、ベース・ソロの入る曲もある。大部分オリジナルの曲のレベルはジェファーソンに比べればやや劣るが、それほどひどくもない。このあたりが当時のサイケデリック・ロック、アシッド・ロックと呼ばれたジャンルの平均的なところか。こういう録音を聞くと、たとえばレシュのベースがいかに異常か、よくわかる。


2. 1967 Psychedelic Supermarket, Boston, MA

 このヴェニューでの2日連続の初日。セット・リスト不明。

 ヴェニューは放棄されていた駐車場に1967年8月にオープン。オーナーは先にボストンの有名なフォーク・クラブ The Unicorn を経営していた。当初はオール・スタンディングで200300人で満杯。1969年、オーナーの George Papadopoulo The Unicorn をここに移転。Psychedelic Supermarket は閉じた。建物はその後間もなく映画館となり、さらにボストン大学の研究所が建てられた。

 この年と1969年の2度、デッドはボストンで大晦日に向けてのショウをしている。


3. 1968 Gulfstream Park Race Track, Hallandale, FL

 マイアミ・ポップ・フェスティヴァル。前売6ドル、当日7ドル。フェスティヴァルは2830日で、デッドは2日目に登場。1時間ほどのステージ。2日目のラインナップは

ステッペンウルフ

マーヴィン・ゲイ

グレイトフル・デッド

ヒュー・マセケラ

フラット&スクラグズ

バターフィールド・ブルーズ・バンド

ジョニ・ミッチェル

プロコル・ハルム

ジェイムズ・コットン・ブルーズ・バンド

リッチー・ヘヴンス

ボックストップス

 多様性ということでは、昨今よりもよほど多様な顔ぶれだ。


4. 1969 Boston Tea Party, Boston, MA

 大晦日に向けてこのヴェニュー3日連続のランの初日。会場は1967年から1970年末まであったクラブ。ニューヨークのフィルモア・イースト、サンフランシスコのフィルモア・ウェスト、フィラデルフィアのエレクトリック・ファクトリーなどに相当する。当時、名のあるロック・アクトは軒並みここでやっている。

 ボストンではもう一つ、The Ark が有名だが、そちらが経営の失敗で閉じると、その同じ建物に移った。


5. 1977 Winterland, San Francisco, CA

 大晦日に向けての4本連続のランの3本目。《Dick’s Picks, Vol. 10》で第二部2曲を除いて全体がリリースされた。偉大なこの年を締めくくるにふさわしい偉大なランの中でもベストのショウと言われる。

 始まる前にウィアが宣言した。

 「おれたちはすべてをまったく完璧にやろうと努めるおれたちの新しい名前は〔まったく完璧なブラザーズ・バンド Just Exactly Perfect Brothers Band〕というからな」

 この年は完全版もたくさん出ていて、有名なバートン・ホール公演をはじめとしてどれもこれも名演揃いだが、この年末のショウはその中でも指折りの1本ではある。《Dick's Picks》のシリーズは nugs.net でストリーミングでも聴けるし、ファイルをダウンロードで買うこともできる。デッドのアーカイブ録音をまず1本というのなら、これを薦める。


6. 1984 San Francisco Civic Center, San Francisco, CA

 大晦日に向けての3本連続のランの中日。開演8時。

                                                       

7. 1988 Oakland-Alameda County Coliseum Arena, Oakland , CA

 大晦日に向けての3本連続のランの中日。開演7時。第一部5曲目〈Queen Jane Approximately 〉が《Postcards Of The Hanging》でリリースされた。

 デッドがカヴァーしたことで歌の良さを教えられた実例の一つ。というよりも、デッドのカヴァー曲はほとんどが原曲とはまるで別物の歌になっている。まったく新たな歌としての生命を与えられている。ディランの曲でも傾向は同じだが、ディランの曲の場合、原曲が有名すぎて、聴けば誰でもディラン・ナンバーとわかるから、そこで原曲に引っぱられる。さすがのデッドも完全に呑みこめない。いや、デッドは呑みこんで、完全に自家薬籠中のものにしているが、聴く方がディランの声をそこに聴きこんでしまう。

 1980年代後半、デッドのディラン・カヴァーは増えて、第一部半ばにほぼ毎回演奏されるようになり、「ディラン・ポジション」と呼ばれるまでになる。この時期増えるカヴァーに《Highway 61 Revisited》からの曲が多いのは興味深い。デッドのカヴァーをディランも好み、翌年のツアーに結実する。デッドやガルシアの個人プロジェクトによるディランのカヴァーの主なものは《Postcards Of The Hanging》と《Garcia Plays Dylan》で聴ける。(ゆ)
 

Postcards of the Hanging
Grateful Dead
Grateful Dead / Wea
2005-02-14

Garcia Plays Dylan: Ladder to the Stars
Garcia, Jerry
Rhino / Wea
2005-12-12