夜、Zionote のブログで ES903 用の試聴曲を集めたページを全部聴く。近頃流行りのポップスがどういうものか、どういうものを試聴に使っているのか。音楽がまったく面白くないので、かえって試聴には使える。
ただ、たまたまかもしれないが、打ち込みの音が多い。打ち込みの音はあたしには全部同じに聞えるので、それ以外の音を探すことになる。1番違うのは声。声と歌い方はどれも違う。そこに注意を集中して聴くと、少し面白くなる。
ギター1本の歌も1曲だけあって、国内と海外の音の録り方の違いもわかる。声よりもギターの録り方が違う。
使ったのはもちろん ES903II。MacBook Air M1 上の Safari。iFi の iSilencer+ + iDefender3 をかませて DenDAC。DenDAC が再発になったというので、どんなだったっけ、と実に久しぶりに聴いてみた。これが出た頃はこういうタイプのものはまだなく、少し後で Audioquest の DragonFly が出たと記憶する。今でも立派な音で、YouTube などネット上の音源ならこれで十分だ。
ES903II にはあらためて惚れなおす。オープンのヘッドフォンも好きだが、オープンのイヤフォンにはまた別の魅力がある。上のページで比べられている ES1103 のニュータイプを待っている。待つのも愉しみのうち。解放感は同じだが、イヤフォンの方がより精密に聞える感じがする。プラシーボかもしれないが。ヘッドフォンは限界のない広がりが娯しい。
##本日のグレイトフル・デッド
04月03日には1968年から1991年まで10本のショウをしている。公式リリースは3本、うち完全版2本。
01. 1968 Winterland Arena, San Francisco, CA
水曜日。5ドル。開演6時。終演2時。KMPX-FM 一周年 "Super Bash" ベネフィット・コンサート。ポスターには名前が出ていない。DeadBase XI によればこの時期の典型的なセット・リスト。
02. 1970 Field House, University of Cincinnati, Cincinnati, OH
金曜日。3ドル。開演8時半。休憩無しで2時間を超える一本勝負。
9曲目で〈Candyman〉がデビュー。ハンター&ガルシアの曲。1995-06-30、ピッツバーグまで、計281回演奏。演奏回数順では45位。スタジオ盤は《American Beauty》収録。ジャムではなく、歌で聴かせる曲。
03. 1982 Scope, Norfolk, VA
土曜日。8.50ドル。開演8時。
04. 1985 Providence Civic Center, Providence, RI
水曜日。このヴェニュー2日連続の初日。12.50ドル。
05. 1986 Hartford Civic Center, Hartford, CT
木曜日。このヴェニュー2日連続の初日。15.50ドル。開演7時半。
06. 1987 The Centrum, Worcester, MA
金曜日。このヴェニュー3日連続のランの中日。開演7時半。
07. 1988 Hartford Civic Center, Hartford, CT
日曜日。このヴェニュー3日連続の初日。開演7時半。
第一部5曲目〈Cold Rain and Snow〉が2021年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。
08. 1989 Pittsburgh Civic Arena, Pittsburgh, PA
月曜日。このヴェニュー2日連続の2日目。前売18.75ドル、当日19.75ドル。開演7時半。
《Download Series, Vol. 09》で全体がリリースされた。
09. 1990 The Omni, Atlanta, GA
日曜日。このヴェニュー3日連続の最終日。春のツアーの千秋楽。次は05月05日のカリフォルニア州立大学まで1ヶ月休む。18.50ドル(テーパー)。開演7時半。
《Spring 1990 (The Other One)》で全体がリリースされた。
クローザーが〈Not Fade Away〉で、聴衆は例によって手拍子とコーラスを延々とくり返しつづけた。客電が点くのと同時にバンドがステージに戻ってきて、アンコールを歌いおさめた。
グレイトフル・デッドにとっての「作品」はスタジオで作られたアルバムではなく、1本1本のショウである。毎回演奏する曲目が異なり、順番が異なり、そして何よりも演奏そのものが異なる。ロックやポップスのライヴではない。むしろジャズに近い。あるいはアイリッシュ・ミュージックなどの伝統音楽に近い。もちろん毎回成功するわけではなく、むしろどこかがうまくいかないことの方が多いが、うまくはまった時に出現する音楽は、どんなジャンルでもフォーマットでも追いつけない高みに翔けあがる。デッドのリスナーはそれを聴くことをめざす。
うまくはまったショウが続くこともある。あるヴェニューでの3日間連続とか、あるツアーの一部とかでスイッチが入ったまま翔けてゆく。それが一連のツアー全部で続いたのが1972年、1977年、そして1990年の春のツアーだ。1990年03月から04月にかけての18本のショウは、四半世紀にわたるライヴ活動の蓄積がある化学反応を起こして、グレイトフル・デッド・ミュージックの究極を生みだした。ブランフォード・マルサリスという外部からの注入は、究極の中の究極を生みだした。
この千秋楽のショウは、究極のツアーに最高のしめくくりをつけている。こういう長いツアーや連続公演の時には、最終日はえてしてあまり良くないことが多い。それよりもその前日がピークだったりする。しかし、この時には最終日はまさしく掉尾を飾ることになった。
まず、ガルシアのギターが絶好調である。正直に言うと、この前2日間は、どこかもがくようにギターを弾いている。思うようなフレーズが出てこないように聞えることがある。そうしたことが気にならないくらい、全体の出来は良いのだが、細かくクリティカルに聴いてゆくと、そう聞える時がある。何らかの体の不調でもあるのかといささか心配になったりもする。
おそらくそれは「マルサリス・ショック」の後遺症の一つだったのではないか。マルサリスがやってみせた当意即妙の演奏は、ガルシアにとって最高の相手として歓ぶと同時に、脅威にも映ったであろう。そのショックを何とかして自分の中にとりこもう、消化しようとする苦闘が音に出ていたのではなかったか。
この日はそのショックを完全に消化して、ほとんど新たなギタリスト・ガルシアが生まれたかのような演奏を展開する。弾きやめたくない症候群とあたしが呼ぶ現象も出現する。しかもその音が軽い。軽快に一音一音がはずみ、飛ぶ。流れるように続くことはほとんどなく、むしろ、ぽつんぽつんと等間隔で連なってゆく。すると他のメンバーの演奏も軽くなり、全体の音楽も絶妙の浮遊感をたたえる。ゆったりともしているが、遅いわけでもない。
加えて、曲の移行が実に自然に感じられる。唐突なところ、無理矢理移るようなところがまるでない。あらかじめ綿密に計画されていたかのように、すうっと次の曲が始まる。第一部2曲目の〈Hell In A Bucket〉はきちんと終るのだが、一拍置くだけでガルシアが〈Sugaree〉を始めると、ウィアがピーンと反応する。第一部後半でも〈Picasso Moon〉から〈Tennessee Jed 〉への移行がやはり一度きちんと終って、一拍あるかないか。さらに次のクローザー〈The Promised Land〉へ、今度は前が終るか終らないかでウィアがコードを弾きだし、ガルシアが反応する。
この後半、〈Row Jimmy〉からの流れにはユーモアも軸になっていて、〈Picasso Moon〉も本来ユーモア・ソングなのだと気づかされる。この曲はメロディはウィアお得意の尖ったものだが、基本はロックンロールでもある。
第二部では曲のつながりはさらに自然になる。2曲目〈Scarlet Begonias〉からいつもの〈Fire on the Mountain〉に行かずにガルシアが〈Crazy Fingers〉のイントロを始めるのに無理がない。これまた通常の曲順を裏切る、好調の証拠でもある。この曲ではコーダに向けて Spanish Jam もとびだす。そこから〈Playing In The Band〉への転換は魔法の域。だんだんとフリーなジャムになってゆく、と思うと、回帰のフレーズが始まる。
Drums も Space も面白すぎて聞き惚れてしまう。
ミドランドの〈I Will Take You Home〉はドラムレスで、ほとんど自身のピアノだけで切々と歌われる。この日はガルシアのバラッドが無いのは、これがあまりに良いせいかもしれない。次は一転〈Goin' Down The Road Feeling Bad〉。〈Throwing Stones〉の最後のコーラスは次の〈Not Fade Away〉とビートが同じ。例によって最後は聴衆にうたわせる。
アンコールは〈And We Bid You Goodnight〉。復活してからのこの歌は、時に歌詞を忘れて不完全燃焼になることもあるが、この日はガルシアがしっかりリードをとって、最高の締め。
18本のツアーを聴きおえて、しばし茫然。
10. 1991 The Omni, Atlanta, GA
水曜日。このヴェニュー3日連続のランの初日。22.50ドル。開演7時半。(ゆ)
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