04月14日・木
 寒いぞ、と言うので真冬の恰好で出たら、暑かった。

 ジーン・ウェブスターのあれをまた読んでいる。『レンズマン』シリーズと『宇宙船ビーグル号』と『指輪物語』と並んで、ひょっとするとそれ以上の回数読んだものだが、今回初めて原文で読んでいる。原文で読むことをまるで思いつかなかった。初版本がグーテンベルクにある。「あしながおじさん」というのはほとんど普通名詞になっているらしい。「あしなが育英会」というものもある。
 1世紀前の話だ。キンキラキン時代直前のアメリカ。話は「シンデレラ」だ。もっともこちらのヒロインはおとなしく王子様が来てくれるのを待っていたりはしない。今ならさしづめ学費免除に生活費もカヴァーする奨学金をもらったようなものだが、もらっていることを感謝しつつも、雄々しくもこれを返そうとするし、施しの相手の言うなりにもならない。そこがたぶん1番面白いところだ。新生児から孤児院で育ったにもかかわらず、独立不羈、好奇心旺盛、何ごとも前向きにとる。そしてしっかり努力、つまり勉強もしている。とはいえ、孤児院でいったい何を読んでいたのか。そこは出てこない。
 手紙という形式も読みやすい。1本ずつは短かいから、どんどんと読めてしまう。故意に古めかしい文体を模倣しているところを除けば、難しい文章はなにもない。
 原文で読んで気がついたことに、ジュディは終始、Daddy と呼びかけている。Daddy-Long-Legs の略であるわけだが、一方で「パパ」の意味もかけているにちがいない。邦訳では終始「おじ様」だ。邦訳でそうしたのは一応納得はできるし、ジュディも表向きはその意味でおそらく使っているはずだが、それだけではたぶんない。「おじ様」よりも親近感があるし、時にはかすかだが甘えたい気持ちもこめられている。甘えたいというと強すぎるか。頼りにしたい、と言うべきか。
 加えて、この呼びかけが、文章のリズムを整えている。照合したわけではないが、原文に出てくるすべての "Daddy" を訳してはいないだろう。日本語では省略する方が自然な場合がままある。しかし、原文ではこの Daddy が実に効果的に使われている。おそらくはかなり綿密に考えて使っているだろう。
 さて、次はいつもの通り、続篇 Dear Enemy に行くか。翻訳で読むと、いつも必ず続篇も読みたくなる。こちらはもっと「大人」の話だ。やはり隠れた愛が最後に花開く話だが、関係者も増え、手紙の相手も複数になり、対象となる問題も複雑になる。シンプルな学生の手紙ではなく、難しい問題を抱えた大人の書簡になる。一方でヒロインはアイルランド系、相手の騎士はスコットランド系、その間をつなぐのはもう1人のアイルランド名前の少女、という、『レンズマン』と同じくらい、ケルト好きにはたまらない話だ。


##本日のグレイトフル・デッド
 04月14日には1967年から1988年まで8本のショウをしている。公式リリースは3本、うち完全版1本。

1. 1967 Kaleidoscope, Hollywood, CA
 金曜日。このヴェニュー3日連続のランの初日。ジェファーソン・エアプレイン、キャンド・ヒートと共演。セット・リスト不明。
 この名前のヴェニューは1968年春から半年だけハリウッドのサンセット・ストリップにオープンしていたライブハウス。中心になって経営したのはキャンド・ヒートのマネージャー Skip Taylor。
 このコンサートはテイラーがその前に Vine Street 1228番地で試みたライブハウスで予定されていたが、Wilshire Blvd. 3400番地の The Ambassador Hotel 内 The Embassy Bollroom に移された。しかし、このヴェニュー名で記録されているようだ。主催がテイラーだったからか。デッドがここで演ったのはこの3日間のみ。
https://concerts.fandom.com/wiki/Kaleidoscope

2. 1971 Christy Mathewson Stadium, Bucknell University Lewisburg, PA
 水曜日。ニュー・ライダーズ・オヴ・パープル・セイジ前座。バンドは午前2時まで演奏を続けた由。
 第一部9・10曲目〈China Cat Sunflower > I Know You Rider〉が2012年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。

3. 1972 Tivoli Concert Hall, Copenhagen, Denmark
 金曜日。25クローネ。開演8時。ヨーロッパ・ツアー三つめの寄港地。大陸に上陸。ここからデンマークで3本。3時間半。第二部3曲目〈Brown-Eyed Women〉が《Europe '72》で、第二部7〜9曲目〈Good Lovin'> Caution (Do Not Stop On Tracks)> Good Lovin'〉が《Europe '72》2001年拡大版でリリースされた後、《Europe '72: The Complete Recordings》で全体がリリースされた。またオープナーの〈Bertha〉、5〜7曲目〈Black-Throated Wind〉〈Chinatown Shuffle〉〈Loser〉が《Europe '72, Vol. 2》でリリースされた。
 ボ・ディドリーの〈Who Do You Love〉の断片を20秒ほど〈Caution (Do Not Stop On Tracks)〉の中でやっている由。この日と05-11の二度だそうだ。
 このツアーの各ショウの客にはアメリカから飛んでいったり、たまたまヨーロッパに仕事や遊びでいたアメリカ人たちがかなりの数入っていたようだ。またデンマーク人はとりわけ英語に通じている。言語的に同じゲルマン語族で、語順はほとんど同じだ。
 ショウの始めの方で、曲間でアメリカや日本でならアンコールを促す手拍子が鳴る。ここでは特にもっとやれという意味ではないらしい。が、レシュが、そんなことしなくても、おれたちは続けるよ、と言う。するとウィアが、でもやっていいんだよ、好きなことしていいんだ、とまぜかえす。レシュが、きみら、おれたちの言うことがわかるんだな、と言うと歓声があがる。ウィア、わかるやつどれくらいいるんだ、手を挙げて。そんなに多くないなあ。
 とまれ、イングランド3本で自信をつけて、絶好調で大陸に乗りこんだ。ガルシア、ウィア、ピグペンが各々ヴォーカルをとる曲を順にまわすのもはまってきている。全体としてゆったりしたテンポ。だが、これはむしろ緊張の度合いが高かったためのようだ。ショウを重ねるにつれて、いつものもっと速いテンポにもどる曲もでてくる。
 第一部ではまず〈Playing in the Band〉。この曲のこのツアーでの変化は実に面白い。一つひとつは聴きごたえがあるが、全体として変化してゆく様がまた別のレベルで愉しい。
 第二部で〈Dark Star〉と〈The Other One〉を交互にやることにしていたらしい。この日は前者。やはりゆったりしたテンポが基調で、前回のロンドン2日目とはまったく別の曲になっている。この日の最大の聞き物はしかしその後の〈Good Lovin'〉。ピグペンが全開。延々と即興の歌を続け、バンドもこれに応じて、あるいは盛り上げ、あるいは小さく刻む。ベースだけ、ドラムスだけ、ガルシアとベースだけが伴走することもある。しかし、終始ピグペンがいわば仁王立ち。全盛時もかくやと思わせる。見ようによってはグレイトフル・デッドというバンドの演奏の一つの理想形だ。ただ、原始デッドでこれが可能だったか、というとまた別の話になろう。アメリカーナ・デッドの洗練がこの極めつけの演奏を引き出したのではないか。以後、この曲をやる時は、その日のハイライトになってゆく。
 ここからさらに〈Caution (Do Not Stop On Tracks)〉に移り、再度〈Good Lovin'〉にもどり、盛り上がって、完全にケリをつける。
 普通ならここでこの日は終り、あとはアンコールになるはずだが、この時期のデッドは終らない。ガルシアが新曲だよと言って〈Ramble On Rose〉をやり、そしてあらためて〈Not Fade Away〉でクロージングに入る。次に移る前にウィアが〈China Cat Sunflower〉のリフを始め、ガルシアもこれに応じかける。しかし、さすがにそれでは終らないと思ったのか、結局いつもの定番で〈Goin' Down The Road Feeling Bad〉に移り、〈Not Fade Away〉にもどって見事な締め。例によって〈One More Saturday Night〉のアンコールはむしろテンションが上がる。

4. 1978 Cassell Coliseum, Virginia Polytechnic Institute and State University, Blacksburg, VA
 金曜日。学生6ドル、一般7ドル。開演7時。南部の大学3つを回る中日。普段は何ごとも起こらない、のんびりした田舎で、良いショウの由。

5. 1982 Glens Falls Civic Center, Glens Falls, NY
 水曜日。10.50ドル。開演7時半。第二部オープナー〈China Cat Sunflower> I Know You Rider〉とクローザー前の〈Playing In The Band〉がすばらしかった由。

6. 1984 Coliseum, Hampton, VA
 土曜日。このヴェニュー2日連続の2日目。10.50ドル。開演7時半。
 第一部5曲目〈My Brother Esau〉が2010年と2015年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。良いショウの由。

7. 1985 Irvine Meadows Amphitheatre, Laguna Hills, CA
 日曜日。このヴェニュー2日連続の2日目。15ドル。開演7時。

8. 1988 Rosemont Horizon, Chicago , IL
 木曜日。このヴェニュー3日連続の中日。開演7時半。(ゆ)