05月19日・木
 Victoria Goddard から新刊 The Redoubtable Pali Avramapul。

The Redoubtable Pali Avramapul
Goddard, Victoria
Underhill Books
2022-05-18

 
 わーい、パリ・アヴラマプルの話だ。Nine Worlds の世界の中でも最もシャープでカッコいいキャラではないか。アヴラマプル姉妹の真ん中、フルネームは Paliamme-ivanar。「風に乗る隼の鋭どい爪をもち」芸術家の魂をそなえた戦士。Greenwing & Dart のシリーズの3作目 Whiskeyjack にちょいと出てくる。すでに初老の域だが、実にカッコよい。今度の長篇はアスタンダラス帝国の没落とそれに伴う魔法の失墜前後の話らしい。

 今年はこれで4冊め。前3冊はノヴェラだけれど、これはフルレングスの長篇。この後 The Hands Of The Emperor の続篇 At the Feet of the Sun が控え、Greenwing & Dart もこれまで年1冊だから、長篇が2冊出るわけだ。それで全部だとしてもこれまでの新記録。ブランドン・サンダースンはパンデミックでツアーがなくなり、時間ができたから小説4本書いちゃった、と言ってクラウドファンディングをしたわけだが、ゴダードも他にやることがなくて、やたら書いていたのか。嬉しい悲鳴ではある。


##本日のグレイトフル・デッド
 05月19日には1966年から1995年まで5本のショウをしている。公式リリースは完全版が2本。

1. 1966 Avalon Ballroom, San Francisco, CA
 木曜日。2ドル。開演8時半。Straight Theatre 主催の朗読とダンス・コンサートのイベント。共演 the Wildflower, Michael McClure。
 この時期でセット・リストがはっきりしている数少ないショウの一つで以下の曲のデビューとされている。いずれも第一部。いずれもカヴァー。
 オープナー〈Beat It On Down The Line〉は Jesse Fuller の曲。1961年のアルバム《Sings And Plays Jazz, Folk Songs, Spirituals & Blues》に収録。デッドは1994-10-03のボストンまで、計328回演奏。演奏回数順で34位。ウィアの持ち歌。イントロのダッダッダッダッを何発やるか、気まぐれで変わる。20発近いこともある。
 4曲目〈It Hurts Me Too〉は Tampa Red が1940年5月に録音したものが最初とされるが、タンパ自身がそれ以前に録音していたものが原曲らしい。1957年にエルモア・ジェイムズが歌詞を変え、テンポを落として録音し、以後、これがスタンダードとなる。デッドのヴァージョンもこれにならっている。ピグペンの持ち歌で、1972-05-24のロンドンまで57回演奏。
 5曲目〈Viola Lee Blues〉は Norah Lewis の曲とされるが、似た曲は他にもあり、おそらくは共通の祖先か。デッドは1970-10-31のニューヨーク州立大まで計30回演奏。長いジャムになることが多い。
 7曲目〈I Know It's A Sin〉は Jimmy Reed の1957年の曲。1970-06-04のフィルモア・ウェストまで11回演奏。これに基くジャムが1974-06-18、ケンタッキー州ルイヴィルで演奏された。
 Michael McClure (1932-2020) はアメリカの詩人。カンザス州出身。1950年代前半にサンフランシスコに移る。ビート・ジェネレーションの中心人物の1人。ジャック・ケルアックの Big Sur の登場人物 Pat McLear として描かれている。
 The Wildflowerは1965年にオークランドで結成された五人組。サンフランシスコ・シーンの一角を成すユニークな存在ではあったがブレイクしなかったため、ほとんど知られていない。Wikipedia にも記事は無い。記事があるのは同名異バンドのみ。今世紀初めまではメンバーを替えながら存続していた。

2. 1974 Memorial Coliseum, Portland, OR
 日曜日。前売5.50ドル。開演7時。
 《Pacific Northwest '73–'74: The Complete Recordings》で全体がリリースされた。
 第二部後半、〈Truckin'> Jam> Not Fade Away> Goin' Down The Road Feeling Bad〉のメドレーはデッド史上最高の集団即興の一つ。とりわけ、〈Truckin'〉後半から〈Not Fade Away〉にかけて。デッドを聴く醍醐味、ここにあり。

3. 1977 Fox Theatre, Atlanta, GA
 木曜日。このヴェニュー2日連続の2日目。
 全体が《Dick's Picks, Vol. 29》でリリースされた。
 第二部後半の〈Playing In The Band> Uncle John's Band> The Wheel> China Doll> Playing In The Band〉というシークエンスについて Tom Van Sant が DeadBase XI で面白い説を展開している。まったく同じ順番で演奏されることはなかったが、この4曲はこれ以後様々な形でつなげられて演奏されている。ここには夜明けにバンドで演奏を始め、成長を祝い、成熟し、衰弱して死ぬという生命のサイクルが歌われてもいる、と言う。
 そういうサイクルは必ずしも聞き取れないが、〈Playing In The Band〉のジャムからガルシアが〈Uncle John's Band〉を仕舞うコードを叩きはじめ、いきなり最後のコーラスから始めるのはかっこいい。そこから冒頭に戻ってあらためて歌いだす。
 そしてここでの〈The Wheel〉は確かに音楽の神様が降りている。ほとんどトロピカルなまでにゆるい演奏と見事に決まっているコーラスが織りなすタペストリー。
 神様が降りているといえば、第一部半ば〈Looks Like Rain〉と〈Row Jimmy〉の組合せにも確かに降りている。前者ではウィアとドナのデュエットがこれ以上ないほど見事に決まり、それを受けるガルシアのギター、歌に応えるハートのドラミング、コーダの2人の歌いかわしとガルシアのギターのからみ合い。ベスト・ヴァージョン、と言いきりたい。後者のガルシアのスライド・ギターがすばらしすぎる。
 77年春の各ショウでは、こういうディテールと全体の流れの双方がなんともすばらしい。もう、すばらしいとしか言いようがない。最初の一音から最後の最後まで、無駄な音もダレた音も無く、個々の曲の演奏も冴えに冴え、組合せも時に意表をつき、1曲ずつ区切って聞いても、全体を流しても、この音楽を聴ける歓びがふつふつと湧いてくる。
 クローザーの〈Playing In The Band〉に戻ってのガルシアの、抑えに抑えたいぶし銀のギター・ソロに、ドラマーたちが感応して、あえて叩かないところ、ハートがドラムのヘリだけを叩く。やがて静かにドラムスが入り、ガルシアはシンプルながら不安を煽るような音を連ねる。一度盛りあがり、また静かになって戻りのフレーズが小さく始まる。そして爆発してもどっての最後のリフレイン。夜明けのバンド。バンドの夜明け。もうアンコールは要らない。
 次は1日置いてフロリダ州レイクランド。フロリダもまたデッド・カントリーだ。

4. 1992 Cal Expo Amphitheatre, Sacramento, CA
 火曜日。開演6時。このヴェニュー3日連続のランの初日。
 アンコールで〈Baba O’Riley〉と〈Tomorrow Never Knows〉がデビュー。
 前者はピート・タウンゼントの曲。1971年の《Who's Next》が初出。ヴィンス・ウェルニクが持ち込む。1994-11-29デンヴァーまで12回演奏。スタジオ盤収録無し。
 後者はレノン&マッカートニーの曲。1966年の《Revolver》収録。これも前者と同じ、1994-11-29デンヴァーまで12回演奏。スタジオ盤収録無し。初演と終演が同じで回数も同じというのは偶然の一致にしてはできすぎでもあるような気がする。
 このアンコールも含め、全体として良いショウの由。

5. 1995 Sam Boyd Silver Bowl, Las Vegas, NV
 金曜日。30ドル。開演2時。夏のツアーのスタート。このヴェニュー3日連続のランの初日。デイヴ・マシューズ・バンド前座。
 この3日間は最後のすばらしいランと言われる。(ゆ)