07月27日・水
 Micheal R. Fletcherがカナダの人だと知って、俄然興味が湧く。GrimDark Magazine が騒いでいるのは知っていたが、いつか読もうのランクだったのだが、ISFDB でふと見ると、オンタリオ出身でトロント在住。となると読んでみたくなる。なにせ、カナダはスティーヴン・エリクソンが出ているし、チャールズ・ド・リントがいるし、ミシェル・ウェスト=ミシェル・サガラもトロントだし、ヴィクトリア・ゴダードもカナダだ。ウェストの先輩筋にあたる Julie E. Czerneda や K. V. Johansen もいる。

 フレッチャーは2015年の Beyond Redemption で彗星のように現れた。

Beyond Redemption
Fletcher, Michael R
Harper Voyager
2015-06-16


 
 1971年生まれだから44歳で、遅咲きの方だ。もっともデビュー作は2年前2013年に 88 という長篇をカナダの小出版社から出している。後2017年に Ghosts Of Tomorrow として出しなおした。スティーム・パンクものらしい。このカヴァーを見ると読みたくなる。

Ghosts of Tomorrow
Fletcher, Michael R.
Michael R. Fletcher
2017-02-19


 
 以来今年05月の An End To Sorrow で長篇9冊。共作が1冊。作品集が1冊。
 以前はオーディオのエンジニアでミキシングや録音の仕事をしていたらしいことは今年01月の "A Letter To The Editor From Michael R Fletcher" に触れられている。これは GrimDark Magazine の Patreon 会員用に約束した短篇をなぜ書けないかの言い訳の手紙で、1篇のホラ話になっている。



 長篇は二部作が二つに三部作が一つ。スタンド・アローンがデビュー作の他に1冊、Beyond Redemption、The Mirror's Truth の二部作と同じ世界の話。この世界では妄想を現実にできる人間がいるが、それができる人間は必ず気が狂っている。こんな世界がロクな世界でないことは当然だが、そこからどんどんとさらに崩壊してゆく世界での権力争いと泥棒たちの野心とそれに巻きこまれる各々にろくでなしだが個性だけは強烈なやつら。まさに grim で dark、凄惨で真暗な世界での、希望とか優しさとかのかけらもない話、らしい。そして、それが面白い、というのだ。
 とまれ、読んでみるしかない。


%本日のグレイトフル・デッド
 07月27日には、1973年から1994年まで、4本のショウをしている。公式リリースは1本。

1. 1973 Grand Prix Racecourse, Watkins Glen, NY
 金曜日。翌日の本番のためのサウンドチェック。ではあるが、すでに来ていた数千人が聴いていたし、2時間以上、計11トラックの完全なテープが残っている。
 "Summer Jam" と名づけられたイベントでオールマン・ブラザーズ・バンド、ザ・バンドとの共演。
 後半の〈Me and My Uncle〉の後のジャムの一部が〈Watkins Glen Soundcheck Jam〉として《So May Roads》でリリースされた。
 本来正式なショウではないが、公式リリースがあるのでリストアップ。
 ワトキンス・グレンはニューヨーク州北部のアップステート、シラキューズから南西に車で130キロの村。この辺りに Finger Lakes と呼ばれる氷河が造った細長い湖が11本南北に並行に並んでいる、その中央に位置する最大のセネカ湖南端。会場となったレース場は NASCAR カップ・シリーズなど、全米的催しの会場。かつてはアメリカの F1 レースの会場でもあった。

2. 1974 Roanoke Civic Center, Roanoke, VA
 土曜日。
 Wall of Sound の夏。全体としては非常に良いショウだが、ところどころ斑の出来ではあるようだ。
 この7月末、25日から1日置きでシカゴ、ヴァージニア、メリーランド、コネティカットと回り、8月上旬フィラデルフィアとニュー・ジャージーで3日連続でやって夏休み。9月はヨーロッパに行き、その後10月下旬ウィンターランドでの5日間になる。

0. 1977 Terrapin Station release
 1977年のこの日、《Terrapin Station》がリリースされた。
 バンド7作目のスタジオ盤。アリスタからの最初のリリース。前作 Grateful Dead Records からの最後のリリース《Steal Your Face》からちょうど1年後。次は翌年11月の《Shakedown Street》。1971年からこの1978年まで、毎年アルバムをリリースしている。
 トラック・リスト。
Side one
1. Estimated Prophet {John Perry Barlow & Bob Weir}; 5:35
2. Dancin' in the Streets {William Stevenson, Marvin Gaye, I.J. Hunter}; 3:30
3. Passenger {Peter Monk & Phil Lesh}; 2:48
4. Samson & Delilah {Trad.}; 3:30
5. Sunrise {Donna Godchaux}; 4:05

Side two
1. Terrapin Part 1
Lady with a Fan {Robert Hunter & Jerry Garcia}; 4:40
Terrapin Station {Robert Hunter & Jerry Garcia}; 1:54
Terrapin {Robert Hunter & Jerry Garcia}; 2:11
Terrapin Transit {Mickey Hart & Bill Kreutzmann}; 1:27
At a Siding {Robert Hunter & Mickey Hart}; 0:55
Terrapin Flyer {Mickey Hart & Bill Kreutzmann}; 3:00
Refrain {Jerry Garcia}; 2:16

 2004年《Beyond Description》収録にあたって、ボーナス・トラックが追加。このアルバムについては録音されながらアルバムに収録されなかったアウトテイクがある。
07. Peggy-O (Traditional) - Instrumental studio outtake, 11/2/76
08. The Ascent (Grateful Dead) - Instrumental studio outtake, 11/2/76
09. Catfish John (McDill / Reynolds) - Studio outtake, Fall 1976
10. Equinox (Lesh) - Studio outtake, 2/17/77
11. Fire On The Mountain (Hart / Hunter) - Studio outtake, Feb 1977
12. Dancin' In The Streets (Stevenson / Gaye / I. Hunter) - Live, 5/8/77

 このアルバムは内容もさることながら、録音のプロセスが重要だ。プロデューサーのキース・オルセンはバンドに対してプロとしての高い水準を要求する。当初の録音に対し、こんなものは使えないとダメを出しつづける。業を煮やしたバンドが、これ以上はできないと言うと、オルセンは答えた。
 「いんや、きみらならもっといいものができる」
 また、スタジオでの時間厳守など、仕事の上でのルールを守ることを徹底する。
 それまで、好きな時に好きなようにやっていたバンドにとってはこれは革命的だった。そうしてリズムをキープし、余分な部分を削ぎおとすことで、音楽の質が上がり、またやっていてより愉しくもなることを実感したのだろう。この録音過程を経て、グレイトフル・デッドはほとんど別のバンドに生まれかわる。1977年がデッドにとって最良の年になるのは、半ばオルセンのおかげだ。それ以前、とりわけ大休止の前に比べて、演奏はよりタイトに、贅肉を削ぎおとしたものになり、ショウ全体の時間も短かくなる一方で内容は充実する。だらだらとやりたいだけやるのではなく、構成を考えたショウになる。シンプルきわまりない音とフレーズの繰返しだけで、おそろしく劇的な展開をする〈Sugaree〉に象徴される、無駄を省いた演奏も、このアルバムの録音ゑ経たおかげだ。
 つまるところ、大休止から復帰後の、デッドのキャリア後半の演奏スタイル、ショウの構成スタイルに決定的な影響を与えたアルバムである。
 一方で仕事をする上でのそうした革新が内容につながるか、というと、そうストレートにいかないのがデッドである。それに、仕上がったものは、バンドの録音にオルセンがオーケストラと合唱をかぶせたため、さらに評価がやりにくくなっている。バンド・メンバーからも批判された。
 まず言えることは、これまでのアルバムの中で、最もヴァラエティに富んでいる。B面はハンター&ガルシアが中心となった組曲〈Terrapin Station〉だが、A面はすべてのトラックで作詞作曲が異なる。しかも珍しくカヴァーを2曲も収めている。
 B面のタイトル・チューンをめぐっては、時間が経って聴いてみると、一瞬ぎょっとするものの、聴いていくうちに、だんだんなじんでくる。アレンジと演奏そのものは質の低いものではない。そして、後にも先にも、デッドの音楽では他には聴けないものだし、ライヴでももちろんありえないフォームだ。オーケストラによるデッド・ナンバーの演奏があたりまえに行われている昨今からすれば、むしろ先駆的な試みであり、デッドの音楽の展開の新たな方向を示唆しているとも言える。
 レパートリィの上では、〈Estimated Prophet〉〈Dancin' in the Streets〉〈Samson And Delilah〉それに〈Terrapin Staiton〉は以後定番となってゆく。

3. 1982 Red Rocks Amphitheatre, Morrison, CO
 火曜日。13.75ドル。開演7時半。このヴェニュー3日連続のランの初日。
 お気に入りのヴェニューでノッていたようだ。第二部は〈Playing In The Band〉に始まり、〈Playing In The Band〉に終る。途中にも入る。

4. 1994 Riverport Amphitheater, Maryland Heights, MO
 水曜日。24.50ドル。開演7時。このヴェニュー2日連続の2日目。第一部4曲目〈Black-Throated Wind〉でウィアはアコースティック・ギター。
 開演前にざっと雨が降り、ステージの上に虹が出た。それでオープナーは〈Here Comes Sunshine〉。
 前日よりは良く、第一部の〈Jack-A-Roe〉〈Black-Throated Wind〉、第二部オープナーの〈Box Of Rain〉、クローザー前の〈Days Between〉など、ハイライトもあった。
 ツアーの疲れが一番溜まる時期ではある。(ゆ)