さいとうさんのフィドル・ソロや、やはりさいとうさんの Jam Jumble のライヴは見ているが、ココペリーナとしてのライヴは初めて。アルバムとしては2枚目、フル・アルバムとしては初の《Tune The Steps》には惚れこんでいたから、ライヴはぜひ見たかった。パンデミックもあって、4年待つことになった。この年になると4年待てたことにまず歓んでしまう。
生で聴くとまず音の芯が太い。さいとうさんのフィドルの音の芯がまず太いのだが、フルートとギターも芯がしっかりしている。
面白いのはフルートと対照的にバンジョーがむしろ繊細だ。普通はもっと自己主張する楽器だが、ここでは片足を後ろに退いている。その響きとフィドルの音の混ざり具合が新鮮。
線の太さと繊細さの対照はギターでも聞える。曲のイントロやつなぎのパート、フィドルまたはフルートのどちらかだけとのデュオの形では、かなり緻密な演奏なのが、トリオになってビートを支えると太くなる。
もっとも、ギターという楽器はどちらも可能で、アニーにしても長尾さんにしても、やはり繊細さと線の太さが同居している。のだが、それに気付いたのがこのトリオを生で見たとき、というのも面白い。アイルランドやアメリカなどのギタリストにはあまりいないようにも思える。ミホール・オ・ドーナルはそうかな。
録音ではイントロやつなぎを中心に、かなり大胆でモダンなアレンジをしている部分と、ギターにドライヴされるユニゾンで迫る部分の対比がこのバンドの肝に見えた。それは生でも確認できたのだが、曲のつなぎは2曲目の b から c へのようにさらに面白くなっている。
生で気がついたのはメインの部分でもさいとうさんか岩浅氏のどちらかがメロディを演奏し、もう片方がそこからは外れて即興をしている。ドローンもよく使う。これをごく自然に、まるでそもそもこういう曲ですよ、と素知らぬ顔でやる。つまり対比させるというよりも、同じ地平でやっている。
見方によってどちらにもとれる。ユニゾン主体の、実にオーセンティックな演奏にも聞えるし、少々無茶な実験もどんどんしてゆく前衛的演奏にも聞える。両極端が同居している。
選曲にもそれは現れて、耳タコの定番曲と聴いた覚えのない新鮮な曲が入り乱れる。
ひと言でいえば、よく遊んでいる。こんなに遊ぶアンサンブルを他に探せば、そう Flook! が近いか。ココペリーナの方が伝統曲を核にしているし、あえて言えばココペリーナの方が洗練されている。どこか上方の文化の匂いが漂う。
歌が2曲。前半の〈青い月〉と後半の〈Hard Times Come Again No More〉。どちらも良いが、後者では他のお二人もコーラスを合わせたのがハイライト。チューンでのハイライトは後半冒頭〈Cup of Tea〉から〈Earl's Chair〉のメドレーに聴きほれる。
今回は石崎元弥氏がバゥロンとパーカッションでサポート。これが実に良い。これまた、もともとカルテットだと言われてもまるで不思議がないほどアンサンブルに溶けこんでいた。後半冒頭、トリオでやったのもすっきりとさわやかだったが、石崎氏が入ると、演奏のダイナミズムのレベルが一段上がる。
さいとうさんのフィドルのどっしりとした存在感に磨きがかかったようでもある。フィドルでもフルートでも、こういう肝っ玉母さん的なキャラはあたしの好みなのだ。ソロは別格だし、Jam Jumble も楽しいが、やはりココペリーナをもっと聴きたくなる。
満席のお客さんにはミュージシャン仲間が顔を揃えていた。あたしのように楽器がまったくできない人間は2、3人ではなかったか。これもまたこのバンドの人徳であろう。(ゆ)
Cocopelina
さいとうともこ: fiddle, concertina, vocals
岩浅翔: banjo, whistle, flute, vocals
山本宏史: guitar, vocals
石崎元弥: bodhran, percussion, banjo
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