28日リリースの〈Feel Like A Stranger; Stagger Lee〉。1993-03-10, Rosemont Horizon Arena, Rosemont, IL のオープナーです。
春のツアー2日目。初日はエンジンがかからなかったようですが、この日はうって変わって最高のショウになった、とファンは口を揃えます。
1993年のショウは計81本。180万枚のチケットを売り、4,650万ドルを稼いで、この年のコンサート収入の全米トップになりました。新譜もなく、ラジオでかかることもまずなく、チケット1枚あたりの金額は同クラスの他のアクトの3分の1、4分の1で1位になっています。
一方でこれはデッドが巨大なビジネスになっていたことも意味し、それがバンドの行動を縛る結果にもなりました。この頃、ガルシアが1974年の時のようなツアー休止を全社会議に提案した時、マイナス面が大きすぎるとして、却下されています。
この時期のデッドのショウでは、大物のアーティストが前座を勤めることがありますが、この年には1月にサンタナ、5月、6月にはスティング、8月にはインディゴ・ガールズが出ています。
ガルシアとともにステージ裏にいた当時上院外交小委員会委員長だった民主党上院議員パトリック・レーヒィのところにホワイトハウスから電話が入ったのは、6月のワシントン、D.C.は RFKスタジアムでのショウの前座にスティングが出ていたときでしょう。レーヒィ議員は有名なデッドヘッドで、議員としてのオフィスにもテープのコレクションを置いていたそうです。
この年のレパートリィは143曲。そのうち「新曲」としてロビー・ロバートソンの〈Broken Arrow〉、ビートルズの〈Lucy in the Sky with Diamonds〉、Bobby Fuller Four の〈I Fought the Law〉のカヴァーとハンター&ガルシアの3曲に加えて、ボブ・ウィアがロブ・ワッサーマンとウィリー・ディクソンと作った〈Eternity〉と、ボブ・ブララヴ、ワッサーマン、ヴィンス・ウェルニクとの共作〈Easy Answers〉があります。
この2曲はワッサーマンのアルバム《Trio》の企画から生まれたもので、後者はニール・ヤングとウィアとワッサーマンのトラックのためでした。これはライヴで演奏されるうちにかなり形が変わり、またウィアはデッド以外でも後々にいたるまで演奏しつづけます。ただ、あたしにはデッドでの演奏はついに満足なレヴェルには届かなかったと聞えます。
対照的に〈Eternity〉はこの年ガルシアがハンターと作った3曲とともに、デッド末期を飾る佳曲でしょう。
《30 Days Of Dead》にもどって、これはすばらしいオープニング。ガルシアの好調は明らかで、こうなれば鬼に金棒。2曲目の〈Stager Lee〉のヴォーカルも声に力があり、茶目っ気がこぼれます。この後の〈Ramble on Rose〉も同じ系統で、こういう歌をうたわせたら、ガルシアの右に出る者はいません。ガルシアより歌の巧い人はいくらでもいますが、このユーモアの味、どこかとぼけた、しかし芯はちゃんと通っている歌唱ができる人はまず見当らない。あからさまなユーモア・ソング、お笑いのウケ狙いではなく、でも時には思わず吹きだしてしまうようなおかしみをたたえた歌。こういう歌もデッドを聴く愉しみの一つです。
この第一部はきっちりウィアとガルシアが交替でリードをとり、それぞれの持ち味を十分に出して、対照的です。「双極の原理」はデッドを貫く筋の一本ですが、それがよく回って、カラフルな風光を巡らせてくれます。第一部クローザーの〈Let It Grow〉はこの曲でも指折りの名演。聴いていると拳を握ってしまいます。(ゆ)
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