1990年代からは今年は9回、8本リリースでした。80年代からのリリースも8本。まずは9日リリースの 1989-12-27, Oakland-Alameda County Coliseum Arena, Oakland, CA から〈Playing In The Band> Crazy Fingers〉。第二部2曲目からのメドレーです。が、これは2018年の《30 Days Of Dead》で、この後に続く〈Uncle John's Band〉までのセットがリリース済みでした。重複したばかりか、減ってしまったのはちょとがっかり。

 ショウはビル・グレアム恒例の大晦日の年越しショウにかけての4本連続の初日。10月26日に秋のツアーを打ち上げ、この12月上旬に同じオークランド・オルメイダ・カウンティ・コリシアム・アリーナで1本、続いてグリーク・シアターで三連荘をやり、このランでこの年は終り。

 1989年は翌年春まで続くデッド第3の黄金期。空前絶後の音楽を聴かせてくれています。ショウは73本。2,860万ドルを売りあげて、コンサートの興行収入では4位でした。レパートリィは135曲。新曲ではハンター&ガルシアの〈Standing on the Moon〉が以後最後まで歌われ、後期の代表作となります。バーロゥ&ウィアの〈Picasso Moon〉も面白い。あたしのお気に入り。バーロゥはミドランドと組んで〈We Can Run〉と〈Just a Little Light〉も送り出しました。
 カヴァー曲で定着したのはありませんでしたが、10月に起きたロマ・プリータ地震のニュースをツアー先で聞いたバンドはロドニー・クロゥエルの〈California Earthquake (Whole Lotta Shakin' Goin' On)〉を演奏しました。

 この年は2月に1987年のボブ・ディランとのツアーからのライヴ・アルバム《Dylan & The Dead》、10月に最後のスタジオ盤《Built To Last》がリリースされます。後者は2月に録音を始めて、夏秋のツアー中も作業は続きました。今回は全員一緒ではなく、個別に録音したトラックをガルシアとジョン・カトラーが合わせる形で、誰にとっても嫌な作業でした。この後、スタジオ盤が作られなかったのも、この時の嫌な体験がトラウマになったのかもしれません。

 このヴェニューでのデッドの演奏は66回、デッドが一度でも演奏したことが判明している645ヶ所(DeadLists による)のヴェニューのうち最多です。ここは1966年11月にオープンした屋内アリーナで、収容人員はコンサートで2万。長い間、プロ・バスケットボールのゴールデン・ステイト・ウォリアーズの本拠でした。デッドは1980年代半ば以降、年初の始動と年末の締めくくりをここでやっています。活動後半のホーム・グラウンドと言ってもよいかと思います。現在の名称は Oakland Arena。

 この日の第二部にはE・ストリート・バンドのクラレンス・クレモンズがゲスト参加して、オープナー〈Iko Iko〉ではご機嫌なサックスを吹いていますが、ここでは聞えません。しかしこの〈Playing In The Band〉はすばらしい。とりわけ後半の現代音楽風のジャムはデッドのこの形のジャムとして最もレベルの高いものの一つです。この曲のベスト・ヴァージョンの一つ。続く〈Crazy Fingers〉への遷移もごく自然で、演奏ものっています。歌の後のジャムがいわゆるスパニッシュ・ジャムになるのがたまらん。これに〈Uncle John's Band〉をつなぐのも意表を突かれます。こういう組合せはすべてその場で即興で決められていて、あらかじめ打合せていたわけではありません。ここではどちらもガルシアの持ち歌で、ガルシアが始めるきっかけを出していると思われます。

 〈Uncle John's Band〉の後は Drums、Space。どちらも面白いですが、この後半のヤマはなんといってもクローザー〈Morning Dew〉。ラフすぎる、ぶち壊しという人もいて、それもうなずけないことはない。崩壊寸前になる瞬間もあることは確か。しかし、ここでのエネルギーの爆発はすごい。これほど「猛りたって」うたうガルシアは他には覚えがありません。エネルギーはまだ余っていて、アンコールの〈Johonny B. Goode〉に再び爆発し、ここではクレモンズが吹きまくります。面白いのは、これが終って間髪を入れずにガルシアが〈Black Muddy River〉のリフを始め、一転して、ぐっと抑えた、味わいぶかい演奏を聴かせること。ミドランドのハーモニーが効いてます。この歌のベスト・ヴァージョン。こういう緩急をつけて、ロックンロールで解放したものを回収し、余韻を残してしめくくるのがデッドのやり方。

 やはり、この年はピークです。(ゆ)