新年のご挨拶を申しあげます。

 今年が皆さまにとって実り多い年になりますように。


 昨年後半はとにかくグレイトフル・デッドばかり聴いていましたが、今年はもっと聴くことになりそうです。これまでは公式リリースを追いかけていましたが、年末の《30 Days Of Dead 2022》にひっかけて、AUD つまり聴衆録音も聴きだしました。これからできるかぎり聴いていこうと思ってます。

 オーディオ方面では昨年末に買った final ZE8000 がすばらしく、当分、これがあれば他は何も要らないくらいです。Amarra Play を通じて iPhone で Tidal も聴けるので、iPhone と M11Pro と ZE8000 で完結してしまっています。せっかく買った RS2 は、有線で聴くことが突然なくなってしまったので、宝の持腐れになってしまいました。また突然気が変わるかもしれませんけれど。

 今年、期待するものといえば final の耳かけ型ヘッドフォンです。

 読書では昨年秋、突如ハマってしまった石川淳を今年も読みつづけるでしょう。小林秀雄> 隆慶一郎の言葉を借りればあたしは今石川淳という事件の真只中です。いずれ読もうと買っておいた最後の全集が役に立っています。ただ、各種文庫の解説がなかなか面白い。

 さらに年末に宿題が出たドストエフスキーからトルストイ、プラトーノフ、グロスマン等のロシア文学も読むことになるしょう。 今だからこそのロシア文学です。それにグロスマンはウクライナ生まれですし。

 仏教関係にもハマりつつあります。今のところ鎌倉周辺。法然、親鸞、日蓮、道元、栄西あたり。それと原始仏教という、いわば両極端が面白い。これもあって、承久の乱前後の鎌倉時代がまた面白くなりだしました。

 SFFではアジア系をはじめとする女性の書き手たちという一応のテーマはありますが、あいかわらずとっちらかることでありましょう。

 しかしまあ、時間はどんどん限られているのに、読みたい本、聴きたい音楽は増えるばかり。ライヴも復活してきましたし、優先順位をつけるのがたいへん。一度つけてもしょっちゅう変わります。『カラマーゾフの兄弟』のように突然入ってくるものもあります。

 ということで、ここの記事はこういうことが主になるでありましょう。よしなに、おつきあいのほどを。



 では、《30 Days Of Dead 2022》のリスニングを続けます。

30 Days Of Dead 2022 を聴く。その10

 1986、85年からは今年はピックアップされず、次は1984年から2本、13日リリースの 1984-10-15, Hartford Civic Center, Hartford, CT のショウから〈Hell In A Bucket> Sugaree〉と、04日リリースの 1984-04-16, Community War Memorial Auditorium, Rochester, NY から〈Dupree's Diamond Blues〉です。それぞれ春と秋のツアーからです。

 前者はこのヴェニュー2日連続の2日目。10-05から10-20までの短いツアーの5つめの寄港地。ノース・カロライナでスタート、ヴァージニア、マサチューセッツ、メイン、そしてここ。この後はニュー・ジャージーとニューヨークのアップステート。1週間あけてバークリィで6本連続をやると、後は年末です。

 この日のショウからは4曲目の〈Bird Song〉が2018年、第二部3曲目の〈Playing In The Band〉が昨年の、それぞれ《30 Days Of Dead》でリリースされています。なお、〈Playing In The Band〉の返りはその後、クローザー〈Sugar Magnolia〉の前です。すなわち、Drums> Space> 〈The Wheel〉> 〈Wharf Rat〉までが〈Playing In The Band〉にはさまれています。

 〈Playing In The Band〉は演奏回数の最も多い曲の一つで、1968年のデビュー以降、キャリア全体にわたって演奏されていますが、変貌の最も大きな曲でもあります。初めは5分で終っていたものが、1972年春のヨーロッパ・ツアー中に長くなりはじめ、ついには大休止の前には30分を超えるのも珍しくないほどになります。極限まで伸ばされたその次に、間に別の曲がはさまりだし、それも1曲2曲と増えていって、やがては第二部全体がはさまる、つまり〈Playing In The Band〉でスタートして、クローザーないしその前でまた還ることも起きてきます。最後にはその日には還らず、数日置いて還るようにまでなりました。同じ曲の様々な演奏、ヴァージョンを続けて聴いてゆくのは、デッドの音楽の聴き方としてショウを丸々1本聴いてゆくのに次いで面白く、また成果も大きいものの一つです。ショウを聴いてゆくのを横糸とすれば、同じ曲を聴いてゆくのは縦糸になるでしょう。その中でも〈Playing In The Band〉の聴比べは最高に愉しいものです。ただし、とんでもなく時間もかかります。

 今回リリースされたのはオープナーからの2曲。曲は一度終りますが、間髪入れずガルシアがリフを始めます。このあたり、あるいはあらかじめ決めていたか。デッドは次に何を演奏するかはその場で決めていますが、オープナーや最初の2曲はステージに上がる前に決めることもありました。

 演奏はすばらしい。ここではガルシアのソロがひっぱります。どちらもメインのメロディのヴァリエーションながら、意表をつくフレーズを連ねます。〈Hell In A Bucket〉のソロもよいですが、〈Sugaree〉がやはり凄い。大休止からの復帰後、この曲の即興パートはごくシンプルな音を坦々と重ねて壮大な展開になるようになります。1977年春などはこのままついに終らないのではないかと思えるほどです。ここではそこまではいきませんが、それぞれのソロは彩りを変えて面白い。この録音ではウィアの煽りも愉しい。ただ、1970年代に比べると、どこか切羽詰った響きがあります。ウィア、ガルシアともにヴォーカルも好調。

 ガルシアの調子がよいのでしょう、次の〈El Paso〉でも珍しくソロをとり、それも良いギターを聴かせます。ここでソロをやれという指示はこの頃はウィアが出していたようです。

 〈Bird Song〉もテンポがわずかに速い。つんのめるわけではありませんが、のんびりしていられないという、何かに追いかけられているような感覚が無くもありません。その緊張感はジャムではプラスに作用しています。ウィアがほとんど暴力的なサウンドで噛みつくのに、ガルシアが太刀先を見切るようなソロで逃げる。かと思うといきなり丁々発止。こりゃあ、いい。光と影が交錯する、すばらしい演奏。

 〈C C Rider〉はブルーズ・ビート。ここでもガルシアは難しいことは何一つやりません。弾くだけなら誰でも弾けそうなシンプルなギターなのに、じゃあ、弾いてみろと言われれば、たいていのギタリストでは聴くにたえないものになるんじゃないか。2番の後、ミドランドとウィアが各々にまた美味しいソロ。ウィアはやはり相当にアグレッシヴ。さらにガルシア。さらにシンプルで美味しいギター。

 この頃の AUD を聴くとほとんどの歌を聴衆が最初から最後まで大合唱してます。デッドの曲は決してカラオケ向きではない、むしろ歌いにくいものが多いんですが、皆さん、耳がいいのか。〈Tennessee Jed〉もその典型。ビートものんびりしているようで、よく弾む感じをきちんと摑むのは簡単ではないでしょう。ガルシアのギターにはいつものおとぼけがちょっと足りないかな。

 〈Jack Straw〉も始まりこそとぼけていますが、中間部では疾走感がみなぎります。この曲のリード・ヴォーカルはウィアですが、珍しくガルシアが一節歌うところがあります。2人が交互にリードを歌う曲はこれだけでしょう。当初はウィアが終始ひとりで歌っていましたが、何度か試した後、一節だけ、ジャック・ストロウに殺される相棒のセリフをガルシアが歌うようになります。そう、これは人殺しの歌です。

 間髪入れずガルシアがリフを始めて第一部クローザー〈Keep Your Day Job〉。悪い曲じゃないと今聴くと思うんですが、この曲はデッドヘッドにとにかく嫌われ、あまりの不人気に4年ほどでレパートリィから落ちます。それでも4年間は演奏されつづけました。

 後半もテンションは落ちません。オープナーは〈Scarlet Begonias> Fire On The Mountain〉のメドレーという定番ですが、演奏はすばらしい。どちらもヴォーカルに力がありますし、ジャム=集団即興にはぞくぞくします。こういうのを聴くのがデッドを聴く醍醐味。

 続く〈Playing In The Band〉は70年代を髣髴とさせる長いジャムを展開します。これも聴きごたえがあります。半ばでフリーになってますます70年代の雰囲気が濃くなり、さらに宇宙を旅してゆく感覚の演奏が続きます。そこから自然に〈Drums〉ですが、この AUD では短くカットされているのは残念。〈Space〉はギタリスト2人の掛合い。ここから〈The Wheel〉さらに〈Wharf Rat〉という流れも定番ではありますが、この組合せは何度聴いてもいい。〈Playing In The Band〉の還り、つまりしめくくりの演奏が来ると、ここまで長く入り組んだ路を旅してきて、故郷にもどった気分。デッドのショウを聴くのは多様な寄港地をへめぐる旅をするのに似ています。間髪を入れずに〈Sugar Magnolia〉。ここでもガルシアがすばらしいギターで全体をひっ張ります。1980年代前半はあまり評価が高くありませんが、こういう演奏があるなら、もっと聴きたい。

 AUD は残念ながらアンコール〈It's All Over Now, Baby Blue〉は収録なし。(ゆ)