グレイトフル・デッドの《30 Days Of Dead 2022》での1979年の2本目、12日の1979-12-01, Stanley Theatre, Pittsburgh, PA から〈Althea〉。

 このヴェニュー二夜連続の二晩目。前日は午後7時開演なので、おそらく同じでしょう。07日のインディアナポリスとの間にシカゴで三連荘をしています。

 第二部5曲目 space 前で〈C C Rider〉が初演されています。ウィアの持ち歌であるブルース・ナンバー。原曲はマ・レイニーが1925年に〈See See Rider Blues〉として録音したもので、おそらくは伝統歌。1986年までは定番として演奏されますが、それ以後はがくんと頻度が減ります。1987年のディランとのツアー用にリハーサルされましたが、本番では演奏されませんでした。最後は1992年03月16日のフィラデルフィア。計127回演奏。

 翌日、同じ街でザ・フーのコンサートがあり、ロジャー・ダルトリーとピート・タウンゼントが見に来ていたそうです。

 〈Althea〉は第一部クローザーの〈The Music Never Stopped〉の前で8曲目。この年8月4日オークランドでデビューしたばかり、これが14回目の演奏。1995-07-08のシカゴ、ソルジャーズ・フィールドまでコンスタントに演奏され、計271回。この時期にデビューしたハンター&ガルシアの曲としては最も演奏回数の多い曲です。全体でも51位。今回の《30 Days Of Dead》でも25日リリースの 1983-09-04, Park West Ski Area, Park City, UT からのトラックにも含まれています。

 そこでも書きましたが、何を歌っているのか、まだよくわかりません。わからないままに、でもこれは傑作だと思います。もっとも楽曲の魅力に感応するまで、かなり時間がかかりました。ガルシア流スロー・バラードとも違って、はじめはむしろ単調に聞えました。〈Sugaree〉や〈Black Peter〉に近いでしょうか。良いと思えだしたきっかけもよくわかりません。くり返し聴くうちに、いつの間にか、出てくるのが愉しみになっていました。

 "Althea" がここで人名であるのは明らかですが、本来は植物の名前、和名むくげ、槿または木槿とされるもの。原産は中国ですが、世界各地に広まっていて、本朝でも野性化しています。園芸用、庭園用としても植えられている由。韓国の事実上の国花。旧約聖書・雅歌に出てくる「シャロンの薔薇」に比定する説もありますが、「シャロンの薔薇」が実際に何をさすか定説は無いとのこと。

 人名としてはイングランドの詩人 Richard Lovelace (1618-1658) の詩 "To Althea from Prison" (1649) が引合に出されます。王の側近なので実名を出せない女性へのラヴソング。こうした仮名としての女性名としてハンターは "Stella" を使っていて、これが2番目。〈Stella Blue〉はガルシアのスロー・バラードの代表作ですが、この〈Althea〉も勝るとも劣らぬ名曲です。

 またギリシャ神話の英雄の一人メレアグロスの母親の名前との指摘もあります。

 歌詞には『ハムレット』からの引用も鏤められていますが、だからと言って意味がすっきり通るというようなものでもありません。まあ、こういうものはあーでもない、こーでもないと、聴くたびにいろいろ考えるところを愉しむものでありましょう。

 1983-09-04はだいぶ慣れて、歌いまわしにも余裕があります。歌の間に入れる間奏もいい。

 ここではまだ歌いきる、演りきることに集中していると聞えます。1週間後に較べると、この日のガルシアはずっと元気で、歌にも力があります。あるいはいろいろな歌い方を試しているようでもあります。1983年に較べると、アルシアとの距離が、物理的にも精神的にも、ずっと近い。ギター・ソロもすぐ側にいる相手に語りかけてます。

 オープナーの〈Jack Straw〉から続く15分を超える〈Sugaree〉がまずハイライトで、ガルシアは例によってシンプル極まりないながら、わずかにひねったメロディを重ね、さらにミドランドがオルガンで熱いソロを展開するのにウィアが応え、それにまたガルシアが乗っていきます。誰もがクールに、冷静とも言える態度なのに、全体の演奏はどこまでも熱く、ホットになってゆきます。その頂点ですうっと引く。これがたまりません。引いたと思えば、さらに飽くまでもクールに続く演奏は、あまりにシンプルでひょっとしてトボけているのかと邪推したくなります。この曲が「化ける」のは1977年春のツアーでのことですが、この演奏はその77年のヴァージョンにも劣りません。

 中間はカントリー・ソングを並べます。〈Me and My Uncle〉からそのまま続く〈Big River〉では、ミドランドが電子ピアノで、およそカントリーらしくない、ユーモラスなソロを聞かせます。こういうソロはこの人ならでは。こういうソロが出るとガルシアも発奮して、この曲では珍しくソロをやめません。続くは〈Loser〉。あたしはこの曲がもう好きでたまらんのですが、これは良いヴァージョン。この歌の主人公は実に様々な顔を見せますが、この日の「負け屋」はほんとうに参っているらしく、ほとんど嘆願しています。ガルシアのギターがまた悲哀に満ちています。ミドランドの〈Easy To Love You〉は〈Althea〉とほぼ同時にデビューしています。これまたみずみずしい演奏。〈New Minglewood Blues〉も元気いっぱいで、ダンプが撥ねまわっているようなビートに載せて、ウィアがすばらしいスライド・ギター・ソロをくり出すので、ガルシアも負けてはいません。

 そして〈Althea〉が冒頭の〈Sugaree〉と対になるハイライトを現出して、ガルシアのヴォーカルが全体をぐんとひき締めます。〈The Music Never Stopped〉で締めくくる第一部。この歌は本来ドナとウィアの2人で歌ってこそのところもありますが、ウィアが踏んばって、ドナの不在を感じさせません。今の姿を見ると、生き残ったメンバーで一番良い年のとり方をしているのはウィアですが、こういうのを聴くと、なるほどと納得されます。それに応えて、ガルシアが引っぱれるだけ引っぱって盛り上げる。

 ミドランドへの交替はまずはかなりのプラスの効果を生んでます。(ゆ)