バンド結成60周年記念で出ていたクラダ・レコードからのチーフテンズの旧譜10枚の国内盤がめでたく来週03月15日に発売になります。ちょうどセント・パトリック・ディの週末ですね。

ザ・チーフタンズ 1 (UHQCD)
ザ・チーフタンズ
Universal Music
2023-03-15

 

 いずれも国内初CD化で、リマスタリングされており、おまけに「高音質CD」だそうです。これらはもともと録音もよいので、その点でも楽しめるはずです。

 今回再発されるのは1963年のファースト・アルバムから1986年の《Ballad Of The Irish Horses》までで、ヴァン・モリソンとの《Irish Heartbeat》以降の、コラボレーション路線のチーフテンズに親しんできたリスナーには、かれらだけの音楽が新鮮に聞えるのではないでしょうか。ファーストから《Bonapart's Retreat》までは、バンドの進化がよくわかりますし、《Year Of The French》や《Ballad Of The Irish Horses》では、オーケストラとの共演が楽しめます。《Year Of The French》はなぜか本国でもずっとCD化されていなかったものです。

イヤー・オブ・ザ・フレンチ (UHQCD)
ザ・チーフタンズ
Universal Music
2023-03-15



 以前にも書きましたが、このライナーを書くために、あらためてファーストから集中的に聴いて、かれらの凄さにあらためて感嘆しました。まさに、チーフテンズの前にチーフテンズ無く、チーフテンズの後にチーフテンズ無し。こういうバンドはもう二度と出ないでしょう。

 言い換えれば、これはあくまでもチーフテンズの音楽であって、アイリッシュ・ミュージック、アイルランドの伝統音楽をベースにはしていますし、アイリッシュ・ミュージック以外からは絶対に出てこないものではあるでしょうが、アイリッシュ・ミュージックそのものではありません。伝統音楽の一部とも言えない。

 それでもなお、これこそがアイリッシュ・ミュージックであるというパディ・モローニの主張を敷衍するならば、そう、デューク・エリントンの音楽もまたジャズの一環であるという意味で、チーフテンズの音楽もアイリッシュ・ミュージックの一環であるとは言えます。

 ただ、ジャズにおけるエリントンよりも、チーフテンズの音楽はアイリッシュ・ミュージックをある方向にぎりぎりまで展開したものではあります。それは最先端であると同時に、この先はもう無い袋小路でもあります。後継者もいません。今後もまず現れそうにありません。現れるとすれば、むしろクラシックの側からとも思えますが、クラシックの人たちの関心は別の方に向いています。

 ということはあたしのようなすれっからしの寝言であって、リスナーとしては、ここに現れた成果に無心に聴きほれるのが一番ではあります。なんといっても、ここには、純朴であると同時にこの上なく洗練された、唯一無二の美しさをたたえた音楽がたっぷり詰まっています。

 ひとつお断わり。この再発の日本語ライナーでも「マイケル・タブリディ」とあるべきところが「マイケル・タルビディ」になってしまっています。前に出た《60周年記念ベスト盤》のオリジナルの英語ライナーが Michael Tubridy とあるべきところを Michael Turbidy としてしまっていたために、そちらではそうなってしまいました。修正を申し入れてあったのですが、どういうわけか、やはり直っていませんでした。

 ですので、「マイケル・タルビディ」と印刷されているところは「マイケル・タブリディ」と読みかえてくださいますよう、お願いいたします。なお、本人はメンバーが写っている《3》のジャケットの右奥でフルートを抱えています。

ザ・チーフタンズ 3 (UHQCD)
ザ・チーフタンズ
Universal Music
2023-03-15



 もう一つ。来週土曜日のピーター・バラカンさんの「ウィークエンド・サンシャイン」でこの再発の特集が予定されています。あたしもゲストに呼ばれました。そこではこの再発とともに、Owsley Stanley Foundation から出た、《The Foxhunt: San Francisco, 1973 & 1976》からのライヴ音源からもかけようとバラカンさんとは話しています。(ゆ)