昨年11月ひと月かけてリリースされたグレイトフル・デッドの《30 Days Of Dead》を年代を遡りながら聴いています。1970年の2本目、26日リリースの1970-02-28, Family Dog at the Great Highway, San Francisco, CA。

 02月28日のショウからは〈Little Sadie; Black Peter〉12:12 がリリースされました。28日は〈Turn On Your Lovelight〉で始め、〈Me and My Uncle〉〈Cumberland Blues〉までやったところで、楽器をアコースティックに切替え、〈Monkey and The Engineer〉〈Little Sadie; Black Peter〉とやって、〈China Cat Sunflower> I Know You Rider〉からまたエレクトリックにもどります。

 この年は《Workingmans Dead》と《American Beauty》をたて続けに出して、路線転換をやってのけますが、ライヴでは1969年までのピグペン・バンドのレパートリィと1970年以降のガルシア・バンドのレパートリィが混在しています。さらに、スタジオ盤でのアコースティック・サウンドをライヴに持ちこむ試みもしていたわけです。

 なお、このショウの録音として Internet Archive に上がっているものは SBD 1本だけです。セット・リストでは〈Big Boss Man〉の次に〈Casey Jones〉をやりかけ、またアンコールとして〈Uncle John's Band〉が演奏されたとされていますが、ともにテープには入っていません。

 この時期は60年代のいわゆる「原始デッド」、ピグペンをフロントとし、レシュが仕切る形のバンドと、70年代のガルシアとウィアを核とするバンドが混在しますが、このショウは前半と後半がはっきりと二つのバンドに別れます。まるで、別々のバンドが対バンでもしているようです。

 オープナーこそ〈Turn On Your Lovelight〉ですが、ここでもかつてのようにピグペンがそのヴォーカルとおしゃべりで圧倒するというよりもガルシアのソロが目立ちます。ガルシアはこの頃から多様なフレーズをくり出すようになり、ガルシア一流のギター・ソロを展開しはじめます。ロックのリード・ギターというよりもジャズのインプロに近い、けれども徹底して流動性を求める点で完全にジャズと言い切れない演奏です。デッドの音楽はフリーであることからも自由であろうとします。ここではガルシアのスイッチが「オン」になったまま切れなくなってしまったようでもあり、いつまでもギターを弾きつづけ、ついにピグペンが根負けします。

 このガルシアのギターのスイッチは次の〈Me and My Uncle〉でも〈Cumberland Blues〉でも落ちません。

 そしてその後は〈Dire Wolf〉まで《Workingmans Dead》以降のレパートリィと演奏が続きます。そして今回リリースされたアコースティックの演奏まで試みます。このアコースティック3曲は事実上、ガルシアとウィアのデュオでの演奏です。この3曲は10年後のサンフランシスコとニューヨークでのレジデンス公演でのアコースティック・パートでも演奏されます。〈Black Peter〉は歌唱では翌日のエレクトリック・ヴァージョンよりもパワフルですが、全体としてピーターはずっと弱気で、一人で奮闘しています。

 ガルシアがエレクトリックに戻るよと宣言して始まる〈China Cat Sunflower> I Know You Rider〉でも、ガルシアのギターが切れに切れます。〈High Time〉では一転してじっくりと歌を聴かせ、〈Dire Wolf〉ではさらにシリアスから一転しておとぼけに徹する。ここまでガルシアの持ち歌が続きます。

 そして、ここでもう一度一転して今度はピグペンの持ち歌を続け、空気はすっかり原始デッドで終りまで突っ走ります。この転換はあっさりとごくあたりまえに行われるので、一瞬、何が起きたのかわからなくなります。ガルシアのギターもすっかり60年代のスタイルにもどります。

 〈Good Lovin'〉と〈The Other One〉の前にドラムスのソロが各々あります。前者はクロイツマン中心、後者はハート中心に聞えます。

 〈The Other One〉はこの日は前後の〈Cryptical Envelopment〉が省略されます。翌日はまた戻るので、あるいはショウの流れとして〈Alligator〉の後に〈Cryptical Envelopment〉をもってくる気分になれなかっただけかもしれません。いきなりのせいか、この〈The Other One〉はむしろゆっくりとガルシアが独りでぽつんぽつんと始めて、ベースは後から加わります。進むにつれてだんだん熱が入ってきて、スピードも出て、歌の2番に突入。終ったとたんに〈Mason's Children〉。この歌の最後の演奏です。こうして今聴くと、これがレパートリィから落ちるのもむべなるかなと思えてきます。終始コーラスで唄われますが、60年代のコーラスで、CSN&Y の衝撃を消化した70年代のコーラスはやはり一線を画しています。ここでのガルシアのソロはどちらかというと70年代的。切れ目なく〈Turn On Your Lovelight〉ですが、こちらは曲の後半。後に〈Playing In The Band〉がやはり曲のコーダに回帰するフレーズの前で他の曲に移り、時にはショウの第二部全体をはさみこんでから回帰する形になっていきますが、その原型をここでやっていたわけです。

 このショウの後半、ピグペンはおそらくステージ中央に仁王立ちで、場内を支配していたのでしょう。ただ、音として聴くかぎりは衰えは聴きのがせません。あるいはこうしたピグペンのパフォーマーとしての衰えも、バンドの変身を促した要因の一つとも思えてきます。

 こうして見ると、この年のデッドは二つのバンドを同時に抱えていたので、休む間もなくショウを続けていたのも、その二つのせめぎあいに駆りたてられていたのかもしれません。(ゆ)