昨年11月ひと月かけてリリースされたグレイトフル・デッドの《30 Days Of Dead》を年代を遡りながら聴いています。今回は05日リリースの 1969-10-25, Winterland Arena, San Francisco, CA から〈Dark Star〉22:11。
この日のショウは同じヴェニュー3日連続の2日目。ジェファーソン・エアプレイン、サンズ・オヴ・シャンプリンとの三本立。三つのバンドのメンバーの顔を散らしたポスターと3ドル50セントのチケットが残っています。初日はエアプレインがトリ、この日はデッドがトリ、3日目もエアプレインがトリだったようです。なお、ポスターには24、25日しか記載がなく、26日日曜日のギグは急遽追加されたらしい。当時のビル・グレアムの興行ではよくあったそうな。
デッドの演奏として〈Dark Star > St. Stephen > The Eleven > Turn On Your Lovelight〉の60分強のテープが残っています。テープは2本あり、1本では冒頭に〈High Time〉の断片が入っています。〈Dark Star〉以下の4曲のメドレーはこの年の定番で、ほとんど組曲のように何度も演奏されています。
1969年は60年代デッド、いわゆる原始デッドが頂点に達した年です。146本のショウは30年間の最高記録。レパートリィは97曲。うち3分の2の63曲が初登場。オリジナルは11曲。
Dupree's Diamond Blues; Robert Hunter+Jerry Garcia, 1969, Aoxomoxoa, 78
Doin' That Rag; Robert Hunter+Jerry Garcia, 1969, Aoxomoxoa, 38
Dire Wolf; Robert Hunter+Jerry Garcia, 1970, Workingman’s Dead, 227
High Time; Robert Hunter+Jerry Garcia, 1970, Workingman’s Dead, 133
Casey Jones; Robert Hunter+Jerry Garcia, 1970, Workingman’s Dead, 318
Easy Wind; Robert Hunter+Robert Hunter+1970, Workingman’s Dead, 45
Uncle John's Band; Robert Hunter+Jerry Garcia, 1970, Workingman’s Dead, 335
Cumberland Blues; Robert Hunter+Jerry Garcia & Phil Lesh, 1970, Workingman’s Dead, 226
Black Peter; Robert Hunter+Jerry Garcia, 1970, Workingman’s Dead, 346
Mason's Children; Robert Hunter+Jerry Garcia, Phil Lesh & Bob Weir, (none), 19
New Speedway Boogie; Robert Hunter+Jerry Garcia, 1970, Workingman’s Dead, 55
カヴァー曲では以下の三つが定番になります。
Mama Tried; Merle Haggard, 307
El Paso; Marty Robbins, 396
Johnny B. Goode; Chuck Berry, 285
いずれもウィアの持ち歌。
この年の出来事としては8月のウッドストックと12月のオルタモントが音楽界としては大きいわけですが、どちらもデッドの世界ではほとんど脚注扱いされています。オルタモントでは会場には一度入ったものの、結局演奏はしませんでした。ウッドストックでは、デッドの常として、フェスティバル形式では実力が発揮できず、不本意な出来で、映画にも録音にも収録をことわりました。先年出たウッドストック全公演の録音ボックスに初めて収められました。
デッドにとっては6月の《Aoxomoxoa》、そして11月の《Live/Dead》のリリースの方が大きい。とりわけ後者で、LP2枚組にわずか7曲という破格の形と、さらに破格のその音楽は、グレイトフル・デッドの音楽を強烈にアピールし、セールスの上でもベストセラーとなり、バンドにとって最初のブレイクとなりました。なお、ここに選ばれた02月27日から03月02日の4日間のフィルモア・ウェストでのショウの完全版が2005年11月に《Fillmore West 1969: The Complete Recordings》としてリリースされています。
〈Dark Star〉は原始デッドのみならず、デッド全体の象徴のような曲であります。この曲を演奏することでデッドはデッドになっていった、バンドとして独自の性格を育てていった、ということもできましょう。ところがこの曲もライヴ盤以外のアルバム収録がありません。スタジオ・ヴァージョンとしてはシングルのみ。また、「大休止」から復帰後の70年代後半から80年代にかけて演奏回数が極端に少なかったため、全体の演奏回数は235回と、代表曲の割に多くありません。
ここでの演奏が面白いのは、最初の歌の後のジャムで、二つの曲が同寺に演奏されているように聞えるところ。ガルシアは〈Dark Star〉のソロを弾いているつもりのようで、ウィアとレシュが演っているのは別の曲のようです。それも1曲ではなく、どんどんと変わっていきます。最後には後の〈Eyes Of The World〉のリフを連想させるものまで出てきます。結局ガルシアもそちらに乗り、ジャムは〈Dark Star〉から完全に離れます。こういうところがデッドの面白いところ。しばしジャムを続けてからガルシアがふっと曲の初めにやっていたようなソロにもどり、レシュが追いかけて冒頭のモチーフが出ます。そこからテンポを徐々に落としていって最後に2番の歌詞をガルシアが歌ってコーダ。切れ目無しに〈St. Stephen〉。この頃は通称 "William Tell Bridge" と呼ばれるクラシカルなメロディと雰囲気を持つパートもしっかり歌っていますが、この部分はすでに次の〈The Eleven〉の一部でもあるようです。あるいは、この2曲をつなぐブリッジという位置付けか。実際、後の〈St. Stephen〉では後に〈The Eleven〉が続かず、このブリッジは演奏されなくなります。
〈The Eleven〉はレシュの曲でもあり、いつもベースが一番元気な曲です。ここでもソロをとり、奔放にあばれ回ります。ガルシアはソロをとっても短く、むしろ決まったフレーズにもどって、フロントはレシュに譲っているけしきです。
やはりベースの主導で切れ目なく〈Turn On Your Lovelight〉。ここにはスティーヴン・スティルスが参加して、いつもより少しひき締まった演奏になっています。とはいえ、これはじっと耳を傾けるよりは踊るための音楽。もっともデッドは基本的にダンス・バンドではあります。
なお、Internet Archive に上がっている音源のうち、再生回数のぐんと少ない Charlie Miller ミックスの版の方が音は遙かに良いです。(ゆ)
コメント
コメント一覧 (5)
タイトルから拍子を予想したけど、最初は4/4拍子から始まるのでリズムのことではないのかと思いきや、すぐに12/8に拍子が変わったので、なるほどここから8分音符をひとつカットして11/8になるんだな…などと予測しながら聞いていました。
すぐにスネアが10と11拍目のスネアを合図に11拍子に変化したので、ここだ!楽しいー!と感じてたけど、何かがおかしい…。
なんと、ジェリーガルシアのギターだけが12/8のまま。というか3/8のフレーズを繰り返し弾いている。11/8拍子と3/8拍子が混在したまま。こういう曲はスリリングで大好きです。どこでひとつになるのか集中して聞くのがすごく楽しい!
こういう場合は公倍数でひとつになるパターンが多いのでそれを予想してたけど、私の推理は単純すぎました。
(つづく)
ジェリー以外はそのまま11拍子を4回繰り返すけど、5回目は小節の最後にまた8分音符をひとつ入れて12/8にしてジェリーを迎えに行って、さらにジェリーの方でも3/8拍子を18回繰り返したあと、こちらは8分音符をひとつ減らして2/8にしてメンバーに歩みより、そこでドーンとひとつになってる!8分音符にすると56。ものすごく気持ちのいい展開…。ストーリーすら感じる。いっきに鳥肌が立ちます。これこそがバンド…。
そして、流れるような11拍子のアドリブを聴きながら、なんだこの凄い曲は!と感動していたら、後半にはなんと!こんどはベースが12/8拍子を弾き始めてひとり外れていって…。
彼らのテクニックとアイデアに圧倒されっぱなしです。
それにしても凄いというか、そういうことをどこまで意識してやっていたのか、こうなると本人たちに訊いてみたくなります。そういうインタヴューはまだ見たことがありません。もっとも全部のインタヴューをさらってはいませんが。いつもいつも毎回、それをやっていたとも思えませんし。
他の時期の「The Eleven」はまだ聴いてないので、80年90年代はまた違う曲構成になってるのだとしたらそれも楽しみです。
あと、やはり YouTube で知ったのですが、”The Eleven” は Holly Bowling というピアニストがソロ演奏でカバーしてるんですね。
あの12拍子から11拍子に変化する面白いパートを、左手で11/8拍子を弾きながら、右手ではジェリーガルシアの3/8拍子を弾いていて楽しい!そして合流する瞬間がすごく気持ちいい。
きっとこの Holly さんはグレイトフルデッドファンの間では人気があるんでしょうね。
詳しい分析をありがとうございます。教えていただいた構成を思い出しながらあらためて聴いてみます。
〈The Eleven〉は1970-04-24が最後の演奏です。後の、キース・ガチョーやブレント・ミドランドが入る時期にやっていたら面白いんですが、残念ながら、ありません。
Holly Bowling は2010年代に出てきた人で、元々はジャズの人のようですが、デッドのカヴァーをたくさんしています。ストリーミングや配信の他に、2016年に《Better Left Unsung》というアルバムを出していて、〈Help on the Way> Slipknot!> Franklin's Tower〉もやっています。デッドヘッドの間の評判はわかりませんが、ぼくは大好きです。デッドのカヴァーは少なくありませんが、まったくのソロでやっているのは彼女ぐらいです。
11月は風邪をひいてしまい、なかなか治らず、往生しました。《30 Days Of Dead》を聴いて、なんとかしのいでました。