今年のコンサートは開演が13時と昨年より早い。ミュージシャンたちは即席で作るのでいろいろと大変だ。昨年は前の晩からいろいろと相談していたが、今年はセッションが2ヶ所に分れたのでそれもできない。そこで朝9時の集合になったわけだ。加えて豊田さんとサムはダンスのワークショップに「奉仕」していたから、さらに大変。昼食をちゃんと食べられただろうか。
コンサート会場は小淵沢の駅にほど近い小淵沢生涯学習センター大ホール。傾斜のきつい客席で座席数は300ほど。まずまずのホールだ。
参加のミュージシャンたちはメインが
豊田耕三:フルート、アコーディオン
hatao:フルート、ホィッスル
須貝知世:フルート、コンサティーナ、ハープ
青木結子:フィドル
下田理:ギター、司会
これに昨年の講師のお2人がゲスト。
青木智哉:フィドル
内野貴文:イレン・パイプ
さらにアイルランドからやって来た
Enda McCabe:ヴォーカル、ギター、マンドーラ
マッケイブ氏は須貝さんが留学したコーク大学での同窓の由。年がだいぶ違うが大学のコースに年齡制限は無いのだろう。
コンサートはまずメインの5人によるリール演奏から始まった。セッションではなく、こういうライヴの形でトリプル・フルートが聴けるのは滅多にない。しかも今のわが国でトップの3人だ。
2番目は hatao さんがホィッスルに持ちかえる。メドレーの3曲目で寺町さんが登場、見事なシャン・ノース=オールド・スタイル・ダンスを披露する。あたしはモダンよりもこの古いスタイルの方が好きだ。
3番目は豊田さんのソロ。サムがギターで付き合う(記憶違いでした。乞う御容赦)。1曲目はこういうチャンスはなかなかないのでとスロー・エア。そう、あたしももっとスロー・エアを聴きたい。
次はトリプル・フルートでホップ・ジグ。ホップ・ジグとスリップ・ジグの違いを hatao さんが解説する。シングル・ジグを三拍子にするとホップ・ジグ、というのだが、演奏する場合、この違いは大事なのだろう。聴いている分には曲さえ面白ければそれでいい。
5番目はホーンパイプからリール2曲。ホーンパイプ、いいですねえ。あたしにはこれが最もアイルランド的と聞える。たぶんアイルランドで最も古く、土着なのはジグなんであろうが。
6番目、マッケイブ氏のソロ。自身のギター伴奏で〈Gillie mor〉。世間一般にはスティングが歌ったのがたぶん最も有名だろう。アイルランドでは何といってもミホール・オ・ドーナルの歌唱がある。マッケイブ氏の唄はとつとつとしながらもなかなか味わい深い。こういう大きなところよりも、パブのようなところでギネス片手にじっくり聴いてみたい。
次にまたメインの5人、hatao さんホィッスルで演奏して前半終了。
昨年も思ったことだが、ここでのメンツはたまたま一つ所に集まったので、おそらく空前絶後、一期一会。実に貴重なライヴなのだ。それもあってか、休憩中、主催の斎藤さんが言いだして、全体の集合写真を撮る。
後半、まずは午前のダンス・ワークショップの選抜=志願者チームがフルバンドの演奏で、習ったばかりのセット・ダンスをステージで披露する。メンバーには今日生まれて初めてアイリッシュ・ダンスなるものを踊った人も含まれていた。見せるためのダンスではないから、楽しさが伝わればいい。
後半2番目は青木結子さんのソロで、サムが伴奏。1年のアイルランド留学から帰ったばかりで、向こうではイレン・パイプが大好きになり、パイパーに人気のある曲ばかり習っていたとのことで、スロー・エア。このスロー・エア演奏があたしには新鮮。弓を弦にはずませる。または軽く叩きつけるように弾く。パイプの装飾音のエミュレートだろうか。左手で入れる細かい音がすばらしい。そこからリールにつなげる演奏からすると、ドリゴール・スタイルだろうか。わが国のフィドラーにはこれまであまりいないタイプだ。
青木さんが残り、もう一人の青木智哉さんが加わる。血縁関係は無いそうだ。スタイルの異なる2人のフィドルの名手によるダブル・フィドル。たまりまへん。ジグを2曲やるが、ユニゾンなのに微妙にズレるところにぞくぞくする。本当に良いセッションに立ち会う感覚。こういう演奏はいつまでも終ってくれるなと思う。
続いては内野さんが登場して hatao さんが合わせる。ホーンパイプ>ジグ>リールの組立てだが、内野さんは初めはチャンターだけでドローンは2周目から入れたり、レギュレイターはジグまでとっておいたり、リールの1周目はフルートに任せてドローンだけ合わせたり、実に芸が細かい。
次は内野さんが残ってサムと須貝さんが登場。珍しくもサムのソロ。昔作ったオリジナルをギターでやる。これに須貝さんが始めてまだ間もないハープ、内野さんがパイプで合わせる。このトリオで演奏するのも初めてとのことだが、実に良かった。サムの曲がまずいい。ハープとパイプのからみも品がある。パイプがドローンやレギュレイターでコードをつけるのにしみじみ。コーダでまたギターだけが残るアレンジは秀逸。センスがいい。
再びマッケイブ氏が登場し、今度はサムがサポートする。唄はオリジナルの〈Winds and tides permitted〉。遠く離れても、風と潮が許せばいつでもあなたの許へ戻る、と聞えた。なかなかの佳曲。CDを持ってきたら買おうと思っていたのだが、それは無かった。
コンサートも終盤で、8人全員での演奏。ただし楽器は hatao ロウ・ホイッスル、須貝コンサティーナ、豊田アコーディオン、両青木フィドル、サムはギター、内野パイプ、マッケイブがマンドーラ、という編成。ワルツからリール2曲。
クローザーは曲ごとに編成が変わる。
まず全員で〈Kesh jig〉。hatao ホィッスル、須貝フルートに戻る。
2曲目はフィドル2本とギター。名手のフィドルが重なるのはいつもすばらしい。
3曲目はトリプル・フルートにギターとマンドーラ。
ラストはまた全員。うーん、この音の厚みはいいなあ。どうもただひたすらユニゾンをやっているのでもないように聞える。何か仕組んでいるのではあるまいか。
アンコールは昨年と同じおなじみのポルカのメドレー。前日のスロー・セッションでやった曲で、昨年と同じく聴衆で楽器を持っている人は一緒に。いよいよ恒例になってきた。
終ると寝不足の上に踊らされた疲れがどっと出てくる。老人には限界と挨拶して辞去させていただいた。3時半で陽はまだ高い。小淵沢の駅に向かって歩いていたら、豊田さん、寺田さんのワークショップで見かけた、アイリッシュそのものが初めてという若い女性に追いつく。東京からの参加だそうだ。楽しかったとのことで、来年の再会を約して駅で別れた。満員の特急のうちはそれでもまだ興奮が残っていて保っていたが、八王子で横浜線に乗換えてからがヤバい。必死で眠らずに起きていようとするが、町田で危うく降りそこなうところだった。
今回は斎藤さんとも内野さんとも青木智さんともゆっくり話せなかった。青木結子さんの演奏もコンサートが初めて。土曜夜に斎藤さんから「すなどけい」の方のセッションを覗こうと誘われたのに何となくおっくうで断わってしまったのを、帰りの電車の中で激しく後悔したことであった。人の誘いは断ってはいけない。
斎藤さんはじめ、裏方に徹しておられたスタッフ、ミュージシャンの皆さん、それによたよたする老人を許容してくれた参加者の方々に篤く御礼申し上げる。ありがとうございました。また来年も「幸せの国」に行けますように。(ゆ)

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