今月2日にドナ・ジーン・ガチョー Donna Jean Godchaux が亡くなったと、今日配信の Grateful Dead Bulletin で知らされました。がんで闘病していたそうです。享年78歳。

 ドナはグレイトフル・デッドの紅一点として、1972年から1979年まで在籍しました。デッドには有能な女性を集める力があって、黎明期から彼女たちの存在がバンドの存続に必要不可欠でありましたが、いずれもスタッフ、クルーとして裏方を努めていて、メンバーとして表舞台に立ったのはドナだけです。

 ドナはアラバマ州出身。若い頃はマッスルショールズでセッション・シンガーとして活動し、パーシー・スレッジ、エルヴィス・プレスリーのナンバー・ワン・ヒットでバック・コーラスに参加した他、ボズ・スキャグス、デュアン・オールマン、ニール・ダイアモンドなど幅広いミュージシャンのバックに入っています。1970年にサンフランシスコに移住し、そこでキース・ガチョー Keith Godchaux と出逢い、結婚。デッドのライヴを見たキースが、自分はなんとしてもあのバンドに入らなければならないと告白すると、一緒にジェリィ・ガルシアのライヴに行き、終演後、ガルシアを摑まえてキースを売りこみ、ガルシアがうんと言うまで離さなかった、という話は有名です。

 当時デッドは鍵盤担当のピグペンの健康問題で替わりの鍵盤奏者を探しており、キースはそのピアノによって、1970年代のデッドのサウンドを支えます。

 ドナはキースがバンドのメンバーになってほどなく、バック・コーラス要員としてバンドに呼ばれて参加。1972-03-25 のニューヨークのショウを初ステージとして1979年4月まで在籍しました。

 ガルシア、ウィアを核とするハーモニー・コーラスはデッドの魅力の1つです。どちらかが低域を担当し、初期にはレシュ、ドナが入ってからはドナ、後にはブレント・ミドランドやヴィンス・ウェルニクが高域を担当しました。そしてドナはその声と歌の上手さで、70年代デッドのサウンドを特別なものにしています。コーラスのハーモニーのみならず、終始ウィアとのコーラスで歌われる〈Cassidy〉〈Looks like rain〉〈The music never stopped〉そして〈Sugar Magnolia〉就中後半の Sunshine daydream のパート、〈Playing In The Band〉でのスキャット、さらには〈He's gone〉後半の歌いかわしなど、ドナが入ることによって70年代のデッドの音楽はそのキャリアの中でもひときわ強い輝きを放っています。とりわけ「大休止」から復帰後の1976〜78年のドナの活躍は比べるものがありません。2,300本を超えるショウ=ライヴの中でベストと言われる有名な 1977-05-08のコーネル大学バートン・ホールのショウをはじめ、デッドの黄金時代を築いたのには、キースの鍵盤とともに、ドナの声の力が大きく貢献しています。

 デッド以外でもこの時期ジェリィ・ガルシア・バンドに参加し、ライヴ録音が出ています。またキースと2人で1975年に出した《Kieth & Donna》は、デッドに代表されるサンフランシスコ・サウンドと「スワンプ・ロック」と呼ばれた南部の音楽が融合した、他にあまり類例のない独自の魅力があります。

 1979年4月にキースとともにバンドを離脱。翌年、キースが交通事故で亡くなると、ベーシストの David MacKay と再婚。その後は Donna Jean Godchaux-MacKay と名乗っていました。キースとマッケイとの間に1人ずつ男子があり、2人は共にミュージシャンになっているそうです。キースとの間の子を妊娠中もステージに立っていました。

 デッドを離れた後もずっと自分のバンドで音楽活動を続けており、ガルシア死後のデッド関連のライヴに参加してもいました。また、キースが両親と一時期住んでいたボートから発見されたデッドのライヴ録音のテープを、デッドのアーカイヴィスト David Lemiuex に渡す仲介をしたこともあります。

 コアなデッドヘッドの中にはドナの声を嫌う "Donna hater" と呼ばれる人たちもいますが、ドナがいたことでデッドの音楽が何乗にも豊かになったことは確かだとあたしは思います。天国でガルシアやキースやレシュたちと楽しくやっていることを祈ります。合掌。(ゆ)

2025-11-21 追記
 今月15日配信の 30 Days Of Dead の1本〈Weather Report Suite〉は1973-11-25, Feyline Field, Tempe, AZ のショウからのトラックで、ドナのコーラスの貢献がどのようなものであったかの一端が聴けます。

https://www.dead.net/30daysofdead/nov-15-2025

 なお、このトラックは演奏もとびきりですが、録音がとびきりで、ウィア、ドナ、ガルシアのコーラスが明瞭に聴けます。