マヌーシュ・ジャズは熱心なファンではないが、チャボロ・シュミットやストーケロ・ローゼンバーグ・トリオは来日公演を見に行った。アコースティック・ギターが活躍する音楽は何でも好きである。
なぜかサンプル CD と資料が送られてきた。ありがたく聴いてみれば、こりゃあ好みですよ。はっきり好きと言えるのは、ここ数年ジャズを聴くことが増えているせいかもしれない。ただ、ジャズの主流ではギターは日陰者扱いだ。パット・メシーニィ(と読むのが本来の発音)、ジョン・マクラフリン、ジョンスコ、カート・ローゼンウィンケルなどの登場でエレキの存在は大きくなっているけれど、アコースティック・ギターのジャズはジム・ホールくらいしか聴かれていないようでもある。近年ルイス・スチュワートが続々復刻されているけれど、どれくらい聴かれているのだろうか。
スチュワートもそうだが、アコースティック・ギターのジャズはラッパやピアノに比べるとおとなしい印象がある。あまり派手なことはやっていないように聞える。よく聴くと、派手ではないかもしれないが、結構スゴく面白いことをやっているのだが、表面地味ではある。
マヌーシュはジャズのサブジャンルの一つになるのだろうけれども、それだけで一つの世界を作っているようでもある。何よりスタイルないしフォーマットが決まっていて、ほぼそこから外れない。アコースティック・ギターが2本、リードとリズム、ダブル・ベース。フィドルが加わることもある。しかしラッパやピアノが入ることはない。ビートの刻み方もいくつか決まったもののどれかになる。
むろん制限があるから面白くなるのは俳句や短歌もそうだし、ブルーグラスもその点は共通する。まあ、今のあたしにはブルーグラスよりもマヌーシュの方が面白い。とりわけこのトリオのようなバンドを聴くのは面白く楽しい。アコースティック・ギターを限界まで駆使するところはたまらない。
TDC は二人の達人ギタリストとベースのトリオで、ギタリストは実力伯仲の双頭バンドであるのもいい。チャボロは人間離れしていたけれども、サブのギタリストはずうっとリズムだけを刻んでいて、それ以外のことをやらせてもらえないのはいささか気の毒だった。チャボロの前では生半可なことはできないにしてもだ。
手嶋氏と河野さんは実力は伯仲でもタイプが違うのもいい。これはライヴを見るとよくわかる。レコードを聴いているだけだと、そこまではっきりしない。やはり実演を見ることは大事だ。位置はレコードと同じく、右に手嶋氏、左に河野さん、中央奥にベースの阿部氏。
河野さんは使う音域がどちらかというと低めが多く、あるいは好きで、音に温もりがあり、太く、丸い。
手嶋氏は音はシャープでクール、ともすると足どり軽く高域に行く傾向があって、清涼感に満ちる。
演奏そのものがどれだけ熱くなっても、各々の性格は変わらない。
演奏はイントロがあって、テーマの提示、ギタリストが各々交替にソロをとり、時にベースもソロをとり、またテーマに戻る。というのはモダン・ジャズの定型ではある。このトリオには持続音が無い。ベースがアルコをやることはあるが、特別の場合だ。持続音の無いことと、ギターもベースも残響は小さく短いことで、マヌーシュ自体は音数が多い音楽だが、全体にさわやかになる。あたしが好きなのはまずそこだ。比べるとサックスなどは時に暑苦しくなってくる。
そしてお二人の妙技。むろん技だけではない。即興には人が出る。細かく言えば、その日何を食べたか、近頃の人間関係はどうかまで出る。この日は3人とも絶好調と見えた。即興のキレがいい。面白いフレーズが湧きでて、意表をつく展開をする。単に交互にソロをとるだけでなく、一小節ごとにやりとりしたり、同時に別々のことをやることもある。そしてたぶんアレンジなのだろうが、きれいにユニゾンを決める。やりながら二人とも笑みを浮かべる。思わず出てしまう。
そして鮮烈な音。小さなスピーカーで増幅はしていたが、聴いている分には生音が飛んでくる。デビューCDのレコ発ライヴにホメリがあるのを見て、迷わず申込んだ。その目論見はずばりとはまってこの音を浴びられるのは快感。
どちらかというと後半の方が演奏が良くなっていたと感じた。やはり本当にエンジンが温まるまで時間がかかるのだろうか。リハーサルはしているはずだが、本番はまた別なのだろうか。
後半2曲目、手嶋氏自作のマイナー調バラードの〈ランドスケープ〉がまずハイライト。その次のマイナーブルースが凄かった。ベースのソロから入って、ギターが細かいパッセージをユニゾンでやるのにぞくぞくする。ベースがメロディを奏で、ギターがかけあい、からみあう。次の次の曲では3人でユニゾンも飛びだす。この曲はイントロから面白い。レコードよりも曲が多彩だ。アルコ・ベースのイントロから始まる〈Made in France〉という曲にはどこかアラブ音楽の雰囲気もある。このバンド、まだまだ全部さらけ出していない感覚も残る。
アンコールはコートダジュールというムードの曲。コーダで一小節ずつ3人が交互に演奏する。ぐるぐる回していっかなやめない。
マヌーシュというジャンルないしフォーマットがこの音楽を生んでいるのだろうが、このトリオは面白い。ぜひまたここで聴きたいものだ。(ゆ)
Tokyo Django Collective
河野文彦: guitar(左)
手島大輔: guitar(右)
阿部恭平: bass

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