西耕一氏プロデュースによる日本の作曲家のソロ・ピアノ作品のライヴ。必ずしも初めからピアノのために書かれたものだけではなく、フルオケのための作品のピアノ編曲も含む。2曲目の伊福部彰『交響譚詩』がまずそれで、本来オーケストラ用の曲であることはタイトルからもわかる。このピアノ独奏版は今回が初演の由。二楽章からなる兄の追悼の曲。第一楽章は動、第二楽章は静。あたしなんぞは伊福部といえば〈ゴジラのテーマ〉しか知らない。作品が他に沢山あることは知ってはいるが、ふだん日本人作曲家の作品はほとんど聴かない。生まれてからこれまで日本人作曲家の作品で聴いたのは、たぶん片手で数えられる。今回演奏された中で聞いたことのあったのは、アンコールの山田耕筰〈からたちの花〉だけだった。

 今回のテーマは伊福部とその門下の作曲家たちの作品。芥川也寸志、眞鍋理一郎、三木稔、黛俊郎。プロデュースの西氏は三木の門下になるそうな。伊福部、眞鍋各1曲、芥川3曲、三木、黛2曲ずつ。

 芥川の〈ラ・ダンス〉をマクラに、伊福部作品が20分。休憩をはさんだ黛の〈天地創造〉が40分超。その間に眞鍋、芥川、三木を並べる。仕上げは黛の「ジャズ」の曲〈オールデゥーブル〉。実質2時間半。戦中から戦後、最も新しいのは1987年というラインナップ。まさにピアノの音をたっぷりと浴びた。

 ピアニストの斉藤氏は30代だろうか。レジュメの経歴を見るとヨーロッパのコンクールを総なめにしているが、なにかで躓いて再起の途中。今回もいわば再デビューの一環らしい。あたしはそんなことは知らないし、出てくる音に反応する質だから、過去のことなど気にしない。ピーンと芯の通った、表情豊かなピアノにひたすら聴きほれていた。何より音色がきれいだ。鍵盤右端でかなり長い間細かく刻み続けながら左手も左端まで一杯に動かす場面もあったが、ゆるぎない演奏は気持ちよい。

 あたしは最後列の右端、扉の脇の席で、鍵盤の上の手がよく見えた。指の長い、いかにもピアニストの手だ。こういう演奏に出会うと、ピアノというのはヘンな楽器だと思う。弾き手からは楽器を選べない。巨匠になれば別なのだろうが、ほとんどは演奏する場所に備えつけられた楽器を使う。今日はどんな楽器かと毎回楽しみなんですと、谷川健作さんが書いているのをみたこともあるが、本音はそうとでも思わないとやってられないということではないか。

 ここのピアノはフルコンよりは短いが、部屋も相まってよく響くとあたしには聞こえる。少なくとも斉藤氏の演奏は響きが良かった。ピアノだけで2時間半聴かされて全然飽きない。どころか面白い。それでもいちばん感動したのはアンコールの「からたちの花」だった。斉藤氏はこれだけ弾き方を変えて、控えめの音量でそっと弾いた。それが良かった。やはり感動と面白く思うのは違う。

 一曲ずつ西氏の解説が入る。簡潔で面白い。師匠の三木から、そんなにあれこれ言うのなら君がやってごらんと、コンサートの選曲、構成を任されたのがそもそもの初めだそうだ。わが国の作曲家の作品をこれだけ集中して聴いたのは初めてだ。西氏の師匠、三木稔の名前さえ初耳という為体。それでもどれも面白く、どの曲ももっと聴きたいと思えた。フルオケ版も聴きたくなる。でもできれば斉藤氏のようなピアノや少人数のアンサンブルで聴いてみたい。初めてクラシックにハマった中学の時にはとにかく大編成ばかり好んでいたが、年を取ってからは室内楽の方に好みが移った。少人数でのアンサンブルやソロばかり聴いてきたせいか。しかしクラシックのフルオケというのはやはり相当に歪んでいると今は思う。

 西氏のプロデュースになる Winds Cafe は初体験で、これからは全部来ようと心に誓ったことであった。(ゆ)

西耕一: produce, comments
齊藤一也: piano

芥川也寸志:ラ・ダンス(1948)    
伊福部昭:交響譚詩(1943/酒井健吉編曲ピアノ独奏版)
眞鍋理一郎:ある風の曲〜La musica dun colpo di ventoA.F.L.の鎮魂の為に〜(1987)
芥川也寸志:赤穂浪士のテーマ(1964)
芥川也寸志:前奏曲集「田舎より」op.2(1944)
        1.歌
        2.野良にて
        3.踊り
        4.水車小屋のある小景
        5.黎明
        6.行進
三木稔:芽生え(1976/2000ピアノ版)
三木稔:3つのフェスタルバラード op.2(1954)
        1.市のおもいで
        2.夜の地車(だんじり)
        3.木偶(でく)まわし
黛敏郎:天地創造(1965)全曲(ピアノ版)
        1.テーマ
        2.アダムの誕生
        3.イヴの誕生
        4.カインとアベル
        5.ノアの方舟
        6.アララト山
        7.バベルの塔
        8.ソドム
        9.アブラハムとサラ
黛敏郎:オールデゥーブル(1947)

山田耕筰:からたちの花