矢島絵里子さんと岡皆実さんのデュオ Failte(フォルチャ、確か、welcome の意)のレコ発。前半は二人での演奏。後半はアルバムて1曲だけ加わったゲストを迎えて5人での演奏。ゲストはイレン・パイプ、ホィッスルの中原直美、フィドル、マンドリンの山田拓斗、バゥロン、ブズーキの植松波音の三氏。

 矢島さんはウッドとメタルの2種類のフルート、ホィッスルを持ちかえるほかに、小さな鉄琴,口にくわえて風の音を出すもの、鉦などのパーカッションを随所にはさむ。

 岡さんはブズーキとピアノ。ピアノは一見オルガンにみえる小型のもの。ピアノとブズーキの配分はほぼ半々。ピアノもコードを押さえるだけでなく、フルートとメロディをユニゾンしたり、カウンター・メロディを弾いたり、ハーモニーをつけたり、いろいろやる。ブズーキも同様で、アルペジオでビートをつけるのからコード・ストロークへ移ったり、逆もある。ピアノもブズーキも即興かと思える時もある。

 こういう2人の多彩な技、音色を組みあわせるアレンジが実にいい。センスがいい。2人だけでやっているとは思えない音の厚みが出る。空間が広がる。ホメリで聴いてもその効果は明らかだったが、今日は小さいながらPAをきちんと入れていて、一回り大きくなった感じだ。このPAは卓は見えず、コントロールはすべて iPad でやっているようだった。実にバランスの良い、センスも良いものだ。例えば、どちらかというと隠れがちのブズーキの音が明瞭によく響いていたのは嬉しかった。この会場はアクセスはお世辞にも良いとは言えないが、この音はそのデメリットを補ってあまりあった。

 アレンジの良さはこのデュオを初めて聴いた時から感心していたけれど、今回はひときわ冴えていた。しかもアレンジのためのアレンジというあざとさやケバケバしさはかけらもない。ごく自然に曲の良さがより引き立つように工夫されている。楽器や演奏手法の組合せ、テンポの変化、パーカッションの入れ方、いちいち腑に落ちる。まさにそれぞれの曲にふさわしく、メロディの良さが染みてくる。こういうセンスは訓練で身につくものなのか。あるいは何かお手本があるのか。日頃の精進の賜物か。あるいは天性の資質を研いているのか。おそらくはその全部の組合せなのだろう。

 そしてまた曲がいい。前は矢島さんの作る曲と岡さんの手になる曲が截然と判別できて、その対比が面白かったのだが、今日は不思議にもその区別が浮かびあがってこない。2人それぞれの曲というよりも Failte というユニットの曲として聞こえる。これもまたアレンジの妙だろうか。

 前半、後半、曲の並びも巧く、ダレることもない一方で大きな流れはあって、どちらもラストの曲がベスト。

 後半ゲストが入って、アルバムでは2人だけでやっている曲も、今日だけは5人でやる。5人の選択がまたいい。フィドルの山田氏はジル・アパップの能舞台ライヴで、ブルーグラスのバンジョーとのデュオで見ている。いわゆるケルト系以外のルーツと素養を備えて、 Failte の音楽にふだんとは異なる色彩を加える。フィドルというよりはヴァイオリンと呼ぶべきところもあって、懐がなかなか深い。

 中原さんのパイプを生で聴くのは久しぶりで、器の大きなゆったりした響きは相変わらず。ただでさえふくらみのあるロゥホィッスルの響きもさらに膨らむ。

 植松氏はたぶん初めて、少なくとも生は初めてのはずだ。堅実な演奏と聞こえた。できればサポートよりもフロントとして聴いてみたい。Chululu というバンドをされているようで、会場で売っていたCDを買いこんだ。

 5人編成の演奏はまたすばらしく、次のアルバムではぜひバンド編成の録音を増やして欲しい。流行りのアナログ盤でいえば、A面デュオ、B面バンドというのはどうだろうか。昔クリスティ・ムーアがやったように。

 曲は新譜からが大半だが、新曲やユニット名がまだない頃からやっているけれどアルバムに入れなかった曲などもやる。新曲に東欧風の曲もあるのは面白い。

 アレンジはいずれも念入りで、曲の性格ぴったりではあるが、劇的なところがほとんどない。唯一ドラマチックだったのがアンコール。というのはおそらく意図したわけではないだろう。

 アルバムは出したわけだが、曲はどんどんできていて、後二枚分くらいはすでにあるらしい。そういえば高梨菖子さんも曲がどんどんできるようで、笛の人はそういうものなのだろうか。それとも曲がどんどんできる人がたまたま笛の名手でもあるということか。できているうちの全部が全部形になるものでもないだろうが、少なくとも今日聴けた曲はどれも佳曲揃いだった。

 それにしても岡さんのピアノはいい。こうなるとセツメロゥズもピアノ入りで聴きたくなる。(ゆ)