奈加さんの恒例、春の楽屋のライヴ、昨年と同じく目黒川花見の日で、中目黒の駅はごったがえし、駅員、警備員が交通整理に動員されていた。今年は屋台などだけで無く、駅前の広場では何やらライヴも行われている。そのステージの裏を通って楽屋に向かう。

 今年は向島ゆり子さんがゲスト。例のヴィオラ・ダ・ガンバらしき楽器とフィドル担当。例によってヴィオラらしいふくよかな響きが美味しい。間奏ではメロディをそのままくり返すのではなく、細かく変奏を入れる。大きく外すのも好きだが、こういう小さな変化もいいものだと思い知らされる。

 奈加さんの調子はいいい。いつになく良く声が出て、よく通る。ただでさえ耳に快い声がさらに気持ちよい。もともと澄んでいるのが、響きからわずかに残っていた不純物が漉しとられたようにさえ聞こえる。いつもはピアノに耳が誘われるが、今日はまず声に引きつけられる。うたっていない時には、ヴィオラとフィドルが空間を満たす。ヴィオラの低い方に膨らむ響きは古楽の味わいも生む。音楽がより原初的になる。ピアノはあえてサポートに徹しているようだ。ほとんど意識にのぼらない。

 今回新鮮だったのはもう一つ、奈加さんの小道具。うたいながら鈴などのパーカッションを使ったり、小鳥の声の笛を鳴らす。こういうビートへの意識はこれまで感じたことがなかった。そのせいか後半月夜の下の物語としてうたった〈As I roved out〉ではレゲエのビートが聞こえて驚いた。

 唄だけでは無く、語りもあった。有名な「リールの子どもたち」で、アイルランドの民話・伝説ではこういう理不尽とも思える話がかなりある。ひょっとすると話の筋よりも語る言葉の美しさを優先しているのかとも思えたりする。奈加さんは比較的淡々と語って余韻を残す。

 歌唱そのものは後半のほうがよかった。上述の〈月夜の下の物語〉そしてラストのわずかにテンポの速めな〈ポンチャートレイン〉。アンコールの〈丘の上にて〉。これを生で聴けたのは久しぶり。奈加さんが〈ダニー・ボーイ〉のメロディにつけたオリジナルのこの詞はやはり名曲と思う。

 濃厚でもありながら、同時に至極あっさりしているようでもある。もう少し聴いていたくもなる。たまにはリズム・セクションまでそろった編成でも聴いてみたい。それには新たな録音が必要になるか。そろそろ次が欲しいものだ。(ゆ)

奈加靖子: vocals, harp, percussion
向島ゆり子: viola da gamba, fiddle
永田雅代: piano