final の TONALITE を使いはじめて3ヶ月経った。もう他のイヤフォンで聴こうとはむあったく思わない。試してみようという気すら起きない。まっすぐ TONALITE に手が伸びる。リスニングの99.9%は TONALITE で聴いている。一度確認の必要があって有線イヤフォンで聴いてみたら、音がきつくて5分と聴いていられなかった。Accoustune HS1300SS に onso 08 の4.4mmを着けたもので、TONALITE 以前最も気に入っていたにもかかわらず。きついというのはシャープ過ぎる。音が耳につき刺さってくるように感じた。以来、有線イヤフォン、というより DTAS でパーソナライズされていないものは怖くて手にとれない。
AirPods Pro 3 とiPhoneで聴力検査をすると、その結果に合わせたパーソナライズが可能になる。これは耳の中の聞こえ方に合わせる方式。従来のイヤフォンのパーソナライズはこの方式だ。TONALITE が画期的なのは、イヤフォンだから耳の中だけでいいだろう、ではなく、体全体、少なくとも肩から上での聞こえ方に合わせるところ。
bayerdynamic が自社製ヘッドフォン用にキャリブレーション用プラグインを出した。基本的な機能はヘッドフォンでスタジオ環境の再現をするものだが、機能の一つとしてパーソナライズが入っていて、「耳間距離や頭囲を手動入力し、到達時間差を微調整」ができる。
ヘッドフォンでスタジオの再現ができる機能は最近では IK Multimedia ARC ON・EAR にも登載されている。ベイヤーのはもう半歩進んで、パーソナライズまで含む。もっとも「耳間距離や頭囲を手動入力」というのはひっかかる。
従来のパーソナライズは、耳の中での響き方、聞こえ方を測り、イヤフォンを調整するわけだが、その場合、調整とはターゲット・カーブに合わせることになる。ハーマン・カーブに代表される、音が良く聞えるとされる周波数特性のカーブだ。このカーブは多数の人間の耳を測定したデータに基いている。つまり平均値だ。あるいはメリディアン値かもしれないが、あたしにはそこまではわからないし、今はどちらでも問題ではない。いずれにしても、ハーマン・カーブなどの値は多数の人間が良い音に聞える、だろうと推測されるデータで、聞えの周波数がそのカーブに下から上までぴったり合うなどという人間は1人として存在しない。
TONALITE のパーソナライズはこれとは対極にある。平均値またはメリディアン値のカーブではなく、対象の個人固有のカーブに合わせる。したがってそこで作られるカーブは対象の人にとっては上から下までぴったり合うが、それ以外の人間には誰にも合わない。あたしの TONLITE が良い音、最高の音に聞えるのはあたしだけで、あたし以外の人間には良い音には聞えない。
そしてあたしにとってはますます良くなってきた。TONALITE はダイナミック・ドライバーだ。ということはエージングが効く。使用40時間を超えるあたりからぐんと良くなった。スケール感の表現がうまくなり、フルオケやジャズのビッグバンドが気持ち良くなる。空間も広がった。細部の表現にも磨きがかかってきた。ここで面白いのが、いわゆる解像感がよくなるのに音がシャープにならない。というより、すべての音がシャープになるわけでない。シャープな音はシャープに、丸い音は丸いまま、細部が聞える。
クマさんによる TONALITE 紹介の動画の最後にもあるように、音色選択を50時間ほどのところでやりなおしてみた。するとやはり一番下を選ぶことになった。100時間でまたやってみよう。
MacBook Pro M4 上の Tidal で再生し、TONALITE で聴くのと、同じソースを USBから I2S に変換して Ferrum Wandla > マス工房 model 433 > final DX6000 につないで聴くのと比べる。まったく違いがない。いやになるほど違いが無い。あえて違いを探せば、後者の方が音が鳴っている空間が若干広い。
「オーディオは自分の好きな音を見つけ、それを聞かせてくれる機器を探す趣味のはずなのに、評論家が推薦する音を好きになろうと努力する人が多過ぎる」
昔、ヘッドフォン祭である人に言われて、なるほどと共感した言葉である。「評論家」は今なら「インフルエンサー」を加えてもいいだろう。TONALITE が聴かせる音は誰かが推薦しているわけではない。あなたに最適な音はこれですよと聴かせてくれる。その最適な音を日々聴くたびに好きになってゆく。これ以外の音で聴きたいとも、聴こうとも思わない。したがって、TONALITE 以外のイヤフォンはもちろん、ケーブルの類、ドングルも含む DAC/amp の類、すべて不要になった。したがって関心も湧かない。これは正直ゆゆしきことである。
万一 TONALITE がイヤフォン業界を席捲するようなことがあれば、このシーンは壊滅するだろう。それはやはりまずい。今のところ、そうなる気配が無いのは、とりあえず世間のためにはプラスであろう。願わくは final が研究・開発を続け、DTAS を改良しつづけ、ヘッドフォンなどの新製品を出せるくらいには売れていてほしい。
パーソナライズによって市場が崩壊、消滅してしまったことには実例がある。広告である。屋外の看板、電車の中吊りなど、不特定多数に訴える広告は消えてしまった。残っているのは本来不特定多数を対象にしている商品・サーヴィスのものだけだ。
当然のことながら、Bluetooth が気になってきた。TONALITE を使うまでは、関心がほとんど無かったのと対照的ではある。そうしてみると現状で DAP でサポートされているのは 5.x までだ。iPhone ではすでに 6 がデフォルトになっている。先日発表された iPad Air や MacBook Air, Neo でも6になった。ヴァージョンが上がっても音質が上がるわけではない、というのだが、4.x と 5.x ではやはり違う。6 をサポートしている iPhone 17 で一応比べてみた結果 5 と 6 で音質の違いはわからなかったが、店頭での短時間での試聴だから、日常的に使ってどうか。
Bluetooth が前提なので、近頃ぼつぼつ出てきているストリーマーやストリーマー機能を盛込んだ DAC なども関係がなくなってしまった。こういう機器は有線が前提だから、Bluetooth はサポートしていなかったり、していても受信オンリーだったり、AAC や LDAC はサポートしていなかったりする。
TWS イヤフォンはケースと一体化されている。ケースは本体がぴったりはまるようにできている。したがって筐体に何か貼って音を良くする技は使えない。もっとも今のところ、そうしたいとも思わない。DTAS によるパーソナライズは完璧だ。あるいは現在の技術水準で完璧に限りなく近い。
これまでのところ、一度トラブルがあった。Safari で開いているあるサイトで音が出なくなった。再生はされているようだが、TONALITE から音が出ない。ブラウザの再起動、MacBook Pro の再起動、TONALITE のペアリングのオフ・オンでは一向に直らない。さらに、他のアプリ、Tidal やプレーヤー・ソフトでも音が出なくなった。ペアリングをやりなおすと、他のアプリでは直るが、Safari 上のそのサイトではだめで、そこで試した後ではまた他のアプリでも音が出なくなる。ブラウザを落として、Tidal だけを立上げても、音が出ない。一時は途方に暮れた。
ようやく思いついて、予備の MacBook Air で同じサイトを開くと、ちゃんと音が出る。ここにいたって原因に思いあたった。Safari のキャッシュを空にすることで解決。
さて、万能のように見える Tonalite だが、一つ、できないことがある。DSD 再生だ。DSD は DoP にしても、無線では今のところ不可能だ。DSD 再生はケーブルが要る。
とはいうものの、である。DSD ファイルが手許にいくつあるか、数えてみる。これから急激に増えるか、と考えてみる。DSD 録音・再生では急先鋒の Blue Coast Records のクーキー・マレンコが、先日の NAMM で DSD に興味のある複数の録音エンジニアに紹介されたことに驚き、DSD の時代がやってくるのかとあおっていたけれども、グラミーを獲るような録音が DSD でもリリースされる日は来るとしてもまだ遠い先だろう。
そのマレンコが先頃、またテスト用のトラックを出した。CDレベルの16/44.1から、24/48、24/96、24/192、DSD64、DSD128、DSD256 の各フォーマットを同じ録音で聴き比べることができる。無料での公開だ。
これを PCM で再生すると TONALITE はちゃんと違いを出す。TONALITE で聴いて、それぞれの違いがわかる。
もっとも、DSD256相当まで聴いていって、また16/44.1にもどってみると、これで十分じゃないかと思ったりもする。そりゃ、DSD版があれば、そしてリーズナブルな価格で手に入るなら買ってもいいが、何が何でも DSD でなければダメだ、とあたしはならない。
TONALITE でもう一つ、不満がある。マルチポイント接続である。TONALITE は一度に2台までしか接続できない。3台目につなぐと、これまでつながっていた相手が2台とも切れ、ペアリングをやりなおさねばならなくなる。おまけに Profile が General にもどってしまい、他の設定もデフォルトに戻る。TONALITEアプリで設定をしなおさねばならない。これを避けるためにはつなぐ相手を固定するしかない。TONALITE は外出時にも使うから、iPad や Mac は母艦にならない。1台は iPhone にする必要がある。ここはもう少し柔軟にしていただきたい。
ということで、今はストリーミングはもっぱら iPhone で聴いている。折りしも JPLAY というアプリが出た。iOS と iPadOS 用だ。2週間無料で試せる。料金は年額5,400円のサブスク。試してみるとなかなか音が良い。Tidal も扱える。今まで使ってきた Amarra がどうも今ひとつ使い勝手がよくないので、JPLAY をメインのプレーヤーにして Tidal を聴いている。
Tidal に無いものは Apple Music で聴く。こちらは iPhone でほぼ何の不満もない。N響の録音が Apple Music で Dolby Atmos で出たというので、これに対応している AirPods Pro 3 と iPad mini で聴比べてみた。Tonalite では Apple Lossless での再生になる。空間の広さは APP3+Dolby Atmos の方が実感できる。オーケストラのサイズ感もこちらの方が近い。ところが、個々の楽器、パートは Tonalite の方が明瞭で、定位もきちんとわかる。 APP3+Dolby Atmos では、とりわけトゥッティの場面でごちゃとなる。ほとんどユニゾン。広い空間でユニゾンで鳴っている。で、どちらが音楽として気持ちよいかというと、Tonalite になる。今回はフルオケで、小編成ではどうだろうか。
Bandcamp も Bandcamp アプリで聴くとなかなか音がいい。ブラウザ上で聴くよりもずっと良く聞える。これの問題は発売前のアルバムの先行リリース・トラックは聴けないことだ。
かくてあたしのオーディオ・ライフは TONALITE と iPhone とストリーミングでほぼ完結している。どんなにカネをかけたシステムよりもこの組合せの音が一番気持ちよい。音楽に没入できる。ここに入ってこないグレイトフル・デッド関連用には Sony の Walkman の高い方から2番目 AM2 の中古を買った。むろんもう不要になった有線イヤフォンを売って、実際の支払いはほとんど無かった。Walkman を選んだのは LDAC の本家だからというのが一つある。AM2+TONALITEの音にも満足している。
それにしても聴くべきものが増えてしまってどうしようもない。また聴けてしまう。聴けてしまうのは恐しいことである。昔は音源、すなわちCDなりLPなりの物理的メディアが手に入らなけば、そこで諦めがついた。他に方向転換できた。今は聴けてしまうから聴く。それだけ時間がとられる。次々に出てくるものをどんどん聴いてしまう。優先順位をつけてもそれを守ることがひどく難しい。(ゆ)















