クラン・コラ・ブログ(アイルランド音楽の森)

 アイリッシュ・ミュージックなどのケルトをはじめ、世界各地のルーツ音楽を愉しむブログです。そうした音楽の国内の音楽家も含みます。加えて主宰者の趣味のグレイトフル・デッド。サイエンス・フィクション、幻想文学などの話もあります。情報やメモ、ゴシップ、ただのおしゃべりなどもあります。リンク・フリーです。

タグ:イヤフォン

05月05日・木
 てっきりエイプリル・フールのネタかと思っていたら、ホンモノの新製品だった FitEar Silver 開発者インタヴューが面白い。
 


 須山社長も50代、とすれば確かに耳の衰えはやむをえない。高域はずいぶん聞えなくなっているはずだ。20代の若い方が一線で開発を担当するのは、オーディオ・メーカーとしては理想的な形だが、そんなに実例は多く聞かない。本人がやっていた頃のマーク・レヴィンソンはそれくらいだろうか。
 それにしても、この堀田氏、父君がオーディオ・マニアで、高校生の頃からイヤフォンを自作し、イヤフォン作りをするために歯科技工士の資格を取って FitEar に入るというのは、徹底している。レールに載らない、というか、レールは自分で敷くものではある。
 足らないところといえば、須山社長もおっしゃるように、生音の体験だろう。生音が聴けるライヴに通っていただきたいものである。同じシンバルでも、素人が叩くのと、名人が叩くのでは音が違うことも実感していただきたい。
 あえて希望を言えば、ぜひ、わが国のアイリッシュ系、ケルト系のアーティストのライヴを体験していただきたい。そこで、こういう音楽を聴くのに最適なイヤフォンを作ろうという気になっていただければなおのこと嬉しい。

 ヘッドフォン祭の会場で、須山社長は18金でボディを作った FitEar Gold も見せてくれたが、あちらはホンモノのエイプリル・フール・ネタらしい。


##本日のグレイトフル・デッド
 05月05日には1965年から1991年まで9本のショウをしている。公式リリースは2本、うち完全版1本。

1. 1965 Magoo's Pizza Parlor, Menlo Park, CA
 日曜日。バンドが The Warlocks の名で人前で初めて演奏したものと言われる。当時ここで演奏をしていたのはむろんかれらだけではなく、様々なバンドやアクトがやっていた。ピザ屋に来る客はピザを食べに来る人、音楽を聞きに来る人、ピザと音楽と両方のために来る人がいた。
 DeadBase XI でレポートしている Donn Paulk は当時10歳だが、The Warlocks の演奏は楽しいものとして印象に残っているという。

2. 1967 Fillmore Auditorium, San Francisco, CA
 金曜日。このヴェニュー2日連続の初日。テープが残っており、セット・リストの一部がわかっている。

3. 1968 Central Park, New York, NY
 日曜日。グレイトフル・デッドがマンハッタンで初めて演奏し、ニューヨークの人びとにその存在を印象づけたことで有名なショウ。
 ジェファーソン・エアプレインが前日フィルモア・イーストで初めて演奏し、やはり鮮烈なニューヨーク・デビューを果した。その前座は Crazy World of Arthur Brown で、これとジェファーソン・エアプレインの幕間にビル・グレアムが出てきて、翌日セントラル・パークでリッチー・ヘヴンス、ポール・バターフィールド・ブルーズ・バンド、ジェファーソン・エアプレイン、グレイトフル・デッドがフリー・コンサートをすることをアナウンスした。また別の証言では、エアプレインのポール・カントナーも翌日のフリー・コンサートをステージからアナウンスした。
 DeadBase XI でレポートしている Doug とその友人たちにとってはリッチー・ヘヴンスが最大の魅力だった。ジェファーソンはこの日見たばかり、ポール・バターフィールドもグレイトフル・デッドも聴いたことがなかった。結局ヘヴンスは登場せず、替わりに Larry Hankin というコメディアンが出た。バターフィールドも良かったが、デッドには文字通り、ぶっとんだ。同様にぶっとび、以後、忠実なデッドヘッドになった人間は数多い。
 この日は天気もよく、会場の雰囲気もリラックスしたものだった。聴衆の中からステージに向かってフリスビーが投げられ、カントナーの尻にあたった。カントナーはこれを見せびらかした。デッドの演奏の時には、ステージの脇や後ろで出番の終ったミュージシャンたちがビールを飲みながら、デッドの演奏を愉しんでいた。
 この日、バンドが使っていた機材についての詳細なコメントが Setlist にある。

4. 1977 Vetrans Memorial Coliseum, New Haven, CT
 木曜日。7.50ドル。開演7時。
 全体が《May 1977: Get Shown The Light》でリリースされた。
 1977年春のツアーは1972年のヨーロッパ・ツアー、1990年春のツアーとならぶ、デッド史上最高のツアーの一つ。メンバーが30代前半、1974〜76年の大休止によって心身ともにリフレッシュしたこと、年頭の《Terrapin Station》録音での経験などが相俟って、バンドは最高の状態にある。
 この1977年のサウンドにはこうして音楽をやっていること、やれることの幸福感が満ちあふれている。1972年は原始デッドの最後の残照がどこか悲劇的な色合いを加えている。1990年には時代の流れに逆らっている状況が、72年とは異なりながら、やはり悲劇的な色合いを忍ばせる。デッドとしては意図して逆らっているわけではなく、ごく自然に、あたりまえにデッドであろうとすることがそのまま逆らうことになってしまう構造であるにしても、だ。
 1977年はそれまでの蓄積が花開き、音楽の上でやりたいことを自在にできるようになり、グレイトフル・デッドというバンドの音楽が最も実り多い形に結実している。そのことをバンド自身も、周囲もファンも日々実感しながらツアーをしている。この春の音楽を聴いていると、この音楽に浸れることの歓びがふつふつと湧いてくる。気分が昂揚し、生きてあることの幸せを噛みしめる。
 この年は2月下旬、サン・バーディーノ、サンタ・バーバラでの2日間で始動し、3月半ばにウィンターランドで三連荘をした後、04月22日、フィラデルフィアからツアーを開始、05月28日コネティカット州ハートフォードまで26本の長丁場だ。フロリダまでの大陸東岸のほぼ全域から、西はアリゾナまで含む。この長いツアーからもどったバンドを迎えたビル・グレアムは、「ご苦労さん、ご褒美だよ」と6月上旬、ウィンターランドに3日間ブッキングする。それに答えて、バンドはここでも最高の演奏を披露する。アウェイのツアーに対して、こちらはホーム感たっぷりだ。

 《30 Trips Around The Sun》収録の1977-04-25ニュー・ジャージー州パセーイクでのショウのライナーでデヴィッド・レミューは、同じ春のツアーでも4月中はまだ1976年版のデッドから77年版のデッドへの移行期だと言う。完全に入れ替わるのが05-03、ニューヨークのパラダイムでの5本連続のランの4本目だそうだ。
 76年と77年では確かに違うが、この移行はあたしには正直まだわからない。もっと聞きこめばわかるようになるかもしれないが、2時間半のショウをそう何回も聴くだけの時間はまずない。
 とまれ、この05月05日ニューヘイヴンでのショウは前述の幸福感がふつふつと湧いてくる体験をさせてくれる。オープナーの〈The Promised Land〉だけでまずご機嫌になるが、その次〈Sugaree〉が凄い。15分を超える演奏はまさに「モンスター」。ガルシアの歌もすばらしいが、ギターがほとんど人間業ではない。ごくごくシンプルな、ほとんど四分音符だけをただ並べてゆく。起伏もあまりないメロディを繰返し、繰返しながら少しずつ変えてゆく。それだけでどこまでも盛り上がってゆくのだ。他のメンバーもこれにならって、各々にシンプルなフレーズを繰返し、波が波を呼び、干渉しあって大きくなる。なんで、こんな単純なものに感動するのだ、と自分でもわけがわからなくなる。単純でシンプルだからこそ感動するのだろう。デッドの演奏としてもこれは尋常ではい。デッドのベストの演奏としても尋常ではない。あらゆる基準を超えてしまっている。
 ガルシアのギターはただシンプルなだけではない。この頃になると、まさに自在、ジャズにもブルーズにもロックンロールにも、あるいはほとんどアコースティックなフォークにも、融通無碍に遊びころげる。流麗と言ってもいい。かと思えば〈Deal〉では丈夫なバネがそなわったように弾むこと弾むこと。もともと即興の曲である〈Supplication〉でも、第一部クローザー〈The Music Never Stopped〉でも、同じ人間が弾いているとも思えない。
 しかも、そういう超人的なギターが独り突出するわけでもない。バンドがちゃんとついてゆく。ガルシアのギターもアンサンブルの一部、核心ではあるが一部として成り立っている。そして、メンバー各々に遊んでいる。〈Scarlet Begonias〉で "in the heart of gold band" でブレイクするところで、キースがピアノで軽く残るのが粋だ。この後でもガルシアはごくシンプルなのに心に響くフレーズを連発する。
 これもこの時期の特徴だが、全体としてゆったりとしている。テンポが遅いとまではいえないが、タメ、余裕がある。それと優しさがある。タッチがやわらかい。〈Good Loving'〉でさえ、優しくやわらかく水のごとく流れるように演奏される。
 その流れを汲んで始まる〈St. Stephen〉では、歌の後の即興がメインのメロディからは完全に離陸する。そこからさらに別の位相に転換し、ほとんど〈Truckin'〉のノリで延々と続くかと思うと最後にテーマにもどり、歌が出てくる。この回帰のカッコよさには唸るしかない。
 「ウィリアム・テル・ブリッジ」直前のコーラスで切り、一拍おいてウィアがリフを始めて〈Sugar Magnolia〉。ここでもガルシアがすばらしいギターを聞かせ、"Sunshine Daydream" では、ドナとウィアがやはり優しく歌いだす。だんだんに熱を帯びるが、エッジは立たない。
 〈Johnny B. Goode〉はアンコールとしては定番だが、ひどく新鮮に響く。
 春のツアーの中でも、ここから07日ボストン、08日バートン・ホール、09日バッファローの「三部作」はピーク中のピークになる。

5. 1978 Thompson Arena, Dartmouth College, Hanover, NH
 金曜日。8ドル。開演8時。
 会場の音響は最低だったそうな。

6. 1979 Baltimore Civic Center, Baltimore, MD
 土曜日。短かめだが、良いショウの由。

7. 1981 Glens Falls Civic Center, Glens Falls, NY
 火曜日。10.50ドル。開演7時。
 DeadBase XI で Stu Nixon は〈Uncle John's Band〉での2回のジャムを誉めたたえている。

8. 1990 California State University Dominguez Hills, Carson, CA
 土曜日。このヴェニュー2日連続の初日。開演7時。FM放送された。
 気温38度で、演奏もホットだった由。

9. 1991 Cal Expo Amphitheatre, Sacramento, CA
 日曜日。このヴェニュー3日連続のランの楽日。開演6時。
 オープナーの〈Help On The Way> Slipknot> Franklin's Tower〉のメドレーが2010年、最初の《30 Days Of Dead》でリリースされた。(ゆ)

 夜、Zionote のブログで ES903 用の試聴曲を集めたページを全部聴く。近頃流行りのポップスがどういうものか、どういうものを試聴に使っているのか。音楽がまったく面白くないので、かえって試聴には使える。


 ただ、たまたまかもしれないが、打ち込みの音が多い。打ち込みの音はあたしには全部同じに聞えるので、それ以外の音を探すことになる。1番違うのは声。声と歌い方はどれも違う。そこに注意を集中して聴くと、少し面白くなる。

 ギター1本の歌も1曲だけあって、国内と海外の音の録り方の違いもわかる。声よりもギターの録り方が違う。

 使ったのはもちろん ES903IIMacBook Air M1 上の SafariiFi iSilencer+ + iDefender3 をかませて DenDACDenDAC が再発になったというので、どんなだったっけ、と実に久しぶりに聴いてみた。これが出た頃はこういうタイプのものはまだなく、少し後で Audioquest DragonFly が出たと記憶する。今でも立派な音で、YouTube などネット上の音源ならこれで十分だ。

 ES903II にはあらためて惚れなおす。オープンのヘッドフォンも好きだが、オープンのイヤフォンにはまた別の魅力がある。上のページで比べられている ES1103 のニュータイプを待っている。待つのも愉しみのうち。解放感は同じだが、イヤフォンの方がより精密に聞える感じがする。プラシーボかもしれないが。ヘッドフォンは限界のない広がりが娯しい。



##本日のグレイトフル・デッド

 0403日には1968年から1991年まで10本のショウをしている。公式リリースは3本、うち完全版2本。


01. 1968 Winterland Arena, San Francisco, CA

 水曜日。5ドル。開演6時。終演2時。KMPX-FM 一周年 "Super Bash" ベネフィット・コンサート。ポスターには名前が出ていない。DeadBase XI によればこの時期の典型的なセット・リスト。


02. 1970 Field House, University of Cincinnati, Cincinnati, OH

 金曜日。3ドル。開演8時半。休憩無しで2時間を超える一本勝負。

 9曲目で〈Candyman〉がデビュー。ハンター&ガルシアの曲。1995-06-30、ピッツバーグまで、計281回演奏。演奏回数順では45位。スタジオ盤は《American Beauty》収録。ジャムではなく、歌で聴かせる曲。


03. 1982 Scope, Norfolk, VA

 土曜日。8.50ドル。開演8時。


04. 1985 Providence Civic Center, Providence, RI

 水曜日。このヴェニュー2日連続の初日。12.50ドル。


05. 1986 Hartford Civic Center, Hartford, CT

 木曜日。このヴェニュー2日連続の初日。15.50ドル。開演7時半。


06. 1987 The Centrum, Worcester, MA

 金曜日。このヴェニュー3日連続のランの中日。開演7時半。


07. 1988 Hartford Civic Center, Hartford, CT

 日曜日。このヴェニュー3日連続の初日。開演7時半。

 第一部5曲目〈Cold Rain and Snow〉が2021年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。


08. 1989 Pittsburgh Civic Arena, Pittsburgh, PA

 月曜日。このヴェニュー2日連続の2日目。前売18.75ドル、当日19.75ドル。開演7時半。

 《Download Series, Vol. 09》で全体がリリースされた。


09. 1990 The Omni, Atlanta, GA

 日曜日。このヴェニュー3日連続の最終日。春のツアーの千秋楽。次は0505日のカリフォルニア州立大学まで1ヶ月休む。18.50ドル(テーパー)。開演7時半。

 《Spring 1990 (The Other One)》で全体がリリースされた。

 クローザーが〈Not Fade Away〉で、聴衆は例によって手拍子とコーラスを延々とくり返しつづけた。客電が点くのと同時にバンドがステージに戻ってきて、アンコールを歌いおさめた。

 グレイトフル・デッドにとっての「作品」はスタジオで作られたアルバムではなく、1本1本のショウである。毎回演奏する曲目が異なり、順番が異なり、そして何よりも演奏そのものが異なる。ロックやポップスのライヴではない。むしろジャズに近い。あるいはアイリッシュ・ミュージックなどの伝統音楽に近い。もちろん毎回成功するわけではなく、むしろどこかがうまくいかないことの方が多いが、うまくはまった時に出現する音楽は、どんなジャンルでもフォーマットでも追いつけない高みに翔けあがる。デッドのリスナーはそれを聴くことをめざす。

 うまくはまったショウが続くこともある。あるヴェニューでの3日間連続とか、あるツアーの一部とかでスイッチが入ったまま翔けてゆく。それが一連のツアー全部で続いたのが1972年、1977年、そして1990年の春のツアーだ。199003月から04月にかけての18本のショウは、四半世紀にわたるライヴ活動の蓄積がある化学反応を起こして、グレイトフル・デッド・ミュージックの究極を生みだした。ブランフォード・マルサリスという外部からの注入は、究極の中の究極を生みだした。

 この千秋楽のショウは、究極のツアーに最高のしめくくりをつけている。こういう長いツアーや連続公演の時には、最終日はえてしてあまり良くないことが多い。それよりもその前日がピークだったりする。しかし、この時には最終日はまさしく掉尾を飾ることになった。

 まず、ガルシアのギターが絶好調である。正直に言うと、この前2日間は、どこかもがくようにギターを弾いている。思うようなフレーズが出てこないように聞えることがある。そうしたことが気にならないくらい、全体の出来は良いのだが、細かくクリティカルに聴いてゆくと、そう聞える時がある。何らかの体の不調でもあるのかといささか心配になったりもする。

 おそらくそれは「マルサリス・ショック」の後遺症の一つだったのではないか。マルサリスがやってみせた当意即妙の演奏は、ガルシアにとって最高の相手として歓ぶと同時に、脅威にも映ったであろう。そのショックを何とかして自分の中にとりこもう、消化しようとする苦闘が音に出ていたのではなかったか。

 この日はそのショックを完全に消化して、ほとんど新たなギタリスト・ガルシアが生まれたかのような演奏を展開する。弾きやめたくない症候群とあたしが呼ぶ現象も出現する。しかもその音が軽い。軽快に一音一音がはずみ、飛ぶ。流れるように続くことはほとんどなく、むしろ、ぽつんぽつんと等間隔で連なってゆく。すると他のメンバーの演奏も軽くなり、全体の音楽も絶妙の浮遊感をたたえる。ゆったりともしているが、遅いわけでもない。

 加えて、曲の移行が実に自然に感じられる。唐突なところ、無理矢理移るようなところがまるでない。あらかじめ綿密に計画されていたかのように、すうっと次の曲が始まる。第一部2曲目の〈Hell In A Bucket〉はきちんと終るのだが、一拍置くだけでガルシアが〈Sugaree〉を始めると、ウィアがピーンと反応する。第一部後半でも〈Picasso Moon〉から〈Tennessee Jed 〉への移行がやはり一度きちんと終って、一拍あるかないか。さらに次のクローザー〈The Promised Land〉へ、今度は前が終るか終らないかでウィアがコードを弾きだし、ガルシアが反応する。

 この後半、〈Row Jimmy〉からの流れにはユーモアも軸になっていて、〈Picasso Moon〉も本来ユーモア・ソングなのだと気づかされる。この曲はメロディはウィアお得意の尖ったものだが、基本はロックンロールでもある。

 第二部では曲のつながりはさらに自然になる。2曲目〈Scarlet Begonias〉からいつもの〈Fire on the Mountain〉に行かずにガルシアが〈Crazy Fingers〉のイントロを始めるのに無理がない。これまた通常の曲順を裏切る、好調の証拠でもある。この曲ではコーダに向けて Spanish Jam もとびだす。そこから〈Playing In The Band〉への転換は魔法の域。だんだんとフリーなジャムになってゆく、と思うと、回帰のフレーズが始まる。

 Drums Space も面白すぎて聞き惚れてしまう。

 ミドランドの〈I Will Take You Home〉はドラムレスで、ほとんど自身のピアノだけで切々と歌われる。この日はガルシアのバラッドが無いのは、これがあまりに良いせいかもしれない。次は一転〈Goin' Down The Road Feeling Bad〉。〈Throwing Stones〉の最後のコーラスは次の〈Not Fade Away〉とビートが同じ。例によって最後は聴衆にうたわせる。

 アンコールは〈And We Bid You Goodnight〉。復活してからのこの歌は、時に歌詞を忘れて不完全燃焼になることもあるが、この日はガルシアがしっかりリードをとって、最高の締め。

 18本のツアーを聴きおえて、しばし茫然。


10. 1991 The Omni, Atlanta, GA

 水曜日。このヴェニュー3日連続のランの初日。22.50ドル。開演7時半。(ゆ)


0212日・土

 アメリカで Apple のヘッドフォン、イヤフォンがヘッドフォン市場の半分、という調査結果という記事

 世界で Apple Sony を抜いたのが2018年で、AirPods 発売前。これには iPhone 付属のイヤフォンも含まれていた。発売されたら、あっという間に他は置いてけぼりになった。というわけだ。

 上記アメリカ国内の調査では、3位 Bose、以下、サムスン、JBLSony。日本なら Sony がもっと上で、Skullcandy LE が落ちて、オーディオ・テクニカや Shure が入ってくるかもしれない。いずれにしても Apple のシェアはそう変わらないか、もっと大きい可能性も大きい。

 Apple がマイナーだった頃、我々はシェアを大きくすることが目的ではない、と言っていた気もするが、今は、Apple 以外のイヤフォン、ヘッドフォン・メーカーがシェアよりもちゃんと利益を上げることが大事、なんだろう。Apple のシェアがさらに増えて、4分の3を超えるようになると、そうも言っていられなくなるか。しかし、今のところ、Apple の牙城を突き崩す方策は見えない。かつての Apple の場合、市場シェアが1割に満たなくても、その独自性で存在価値を主張できた。ウインドウズ以外の選択肢があることは価値があった。ヘッドフォン市場に限ったとしても、そのシェアが9割を超えるとなると、レゾン・デートルが問われた他のメーカー、ブランドに答えはあるのか。もちろん、Apple の完全独占にはならないとしても、他はデザイナー・ブランドかマニア向けハイエンドだけ、というのも問題ではないか。

 余談だが、Apple は個人相手でシェアを広めている。Amazon Google も同じ。Microsoft も個人を重視するようになって持ち直したのではなかったか。先日、車載用バッテリーの再利用を普及する業界団体が立ち上がったが、普及の相手をまず企業だと言っていた。しかし、企業、とりわけわが国の企業は先例の無いものには消極的だ。新しいものにはなかなか手を出さない。大容量の大型バッテリーがあれだけ売れてるんだから、まず個人を相手にする方が新しいものの普及には有利ではないのか。わが国の起業がなかなかうまくいかないのは、企業や自治体などを最初のターゲットにするからではないか。



##本日のグレイトフル・デッド

 0212日には1966年から1989年まで、6本のショウをしている。公式リリースは無し。


1. 1966 Youth Opportunities Center, Compton, CA

 トム・ウルフが『エレクトリック・クールエイド・アシッド・テスト』で描いた、ロサンゼルス、ワッツ地区のアシッド・テストがこれだと言われる。こちらはクロイツマンが回想録 Deal の中でも触れていて、実際に行われた。


2. 1967 Fillmore Auditorium, San Francisco, CA

 リンカンの誕生日記念。共演モビー・グレープ、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、New Salvation Army BannedNotes From The UndergroundCouncil for Civic Unity のためのベネフィット。2ドル。セット・リスト不明。

 New Salvation Army Banned 1967年にシアトルで結成された5人組。New Salvation Army Band として出演することもあり、キリスト教団の救世軍から訴えられもしている。サンフランシスコに移って、そのロック・シーンの一角をなした。1967年に Salvation に改称して同名のデビュー・アルバムを出し、翌年セカンドも出す。が、離陸できず、1970年解散。録音は残念ながらストリーミングにも無いようだ。YouTube に短かいクリップがあるが、音はナレーションのみで、音楽はわからない。Salvation という名のアーティストは無数といっていい程いる。

 Notes From The Underground 1968年にバンド名を冠したアルバムが1枚あるバークレー出身の5人組。メンバーの一人 Fred Sokolow はバンジョー弾きで、後、ソロで活動する。バンド名はドストエフスキーの『地下室の手記』から。2011年に出た《Follow Me Down: Vanguard's Lost Psychedelic Era (1966-1970)》に2曲収録されている。これを聴くかぎりでは、楽曲、演奏は水準は超えている。鍵盤がリードなのはドアーズに通ずる。ドアーズの前座もしていた由。

 《Notes From The Underground》というアルバムは複数あり、その1枚はメデスキ、マーティン&ウッドのファースト。というのは余談。


3. 1969 Fillmore East, New York, NY

 ジャニス・ジョプリンの前座として2日連続の2日目。DeadBase XI のブルース・コットンのレポートはこの両日のどちらか、はっきりせず、コットンが聴いたとしている楽曲も、判明しているセット・リストには無い。セット・リストはテープによる遅番ショウのみなので、早番ショウでやった可能性はある。

 遅番は〈Dark Star> St. Stephen> The Eleven〉というこの年の定番組曲から始まり、〈Alligator> Caution〉を経て〈And We Bid You Goodnight〉まで一気に突走る1時間強。原始デッドのエネルギーに溢れたものだそうだ。原始デッドが本当に熱くなった時のエネルギーは、その後2度と感じられないことは確か。


4. 1970 Ungano's Night Club, New York, NY

 この前後はフィルモア・イーストでのショウで、たまたま空いていた日に、急遽設定されたギグだったらしい。この日のテープと称されるものが出回っているが、そのテープは実際には翌日のフィルモア・イーストの早番ショウの録音だ、というのが結論になっている。


5. 1986 Henry J. Kaiser Convention Center, Oakland, CA

 16ドル。開演8時。この日も第二部半ばの Drums 以降クローザー〈Johnny B. Goode〉までネヴィル・ブラザーズが参加。この日はネヴィル・ブラザーズがデッドの後にやり、大いに盛り上がった。


6. 1989 Great Western Forum, Inglewood, CA

 19.50ドル。開演6時。このヴェニュー2日連続の2日目。第一部クローザーの2曲〈How Long Blues〉〈Gimme Some Lovin'〉にスペンサー・デイヴィスが参加。第二部の前半オープナー〈Iko Iko〉から〈Stuck Inside Of Mobile With The Memphis Blues Again〉までとアンコールにボブ・ディランがギターで参加し、〈Stuck Inside Of Mobile With The Memphis Blues Again〉とアンコールの〈Knockin' On Heaven's Door〉ではヴォーカルもとった。第2部後半の〈The Other One〉に鼓童が参加。

 鼓童は後2001年に20周年記念アルバム《Mondo Head》をミッキー・ハートがプロデュースした。このプロデュースのためにハートが来日したのが、デッドのメンバーが公式に来日した唯一の例。プライヴェートでは、親族が日本に住んでいるウィアが頻繁に来ているそうな。

 〈Monkey and the Engineer〉の最後の演奏で唯一のエレクトリック・ヴァージョン。Jesse Fuller のカヴァーで、デッドの前のバンドの一つ Mother McCree's Uptown Jug Champions 1964年に演奏している。デッドでは19691219日サンフランシスコで初演。1970年の大晦日で一度レパートリィから落ち、19800905日、サンフランシスコのウォーフィールド・シアターのアコースティック・セットで復活。この時のサンフランシスコ、ニューオーリンズ、ニューヨークでのアコースティック・セットをフィーチュアしたレジデンス公演で集中的に演奏され、以後は散発的で、跳んでこの日が最後。計39回演奏。

 ショウ全体としても、油が回って、引き締まったいいものの由。(ゆ)


0205日・土

 人間の耳は正直なもので、本質的に必要でないものは無くてもちゃんと聞きとることができる。空間オーディオなるものも、一時的に夢中になったり、中毒したりすることはあっても、人間の聴覚体験を一新することは無い。

 2日ぶりにインターバル速歩散歩すると、えらく気持ちがよい。やらないと調子が悪いところまではまだだが、やると気分爽快、体が軽くなったように感じるまでになってきた。

 夕方、試すと Tidal は問題なく使える。サブスクリプションが切れてるぞと出たあれは何だったのか。

 久しぶりに denAmp/Phone を使ってみる。バスパワーで CS-R1 で聴いて、いや、すばらしい。hip-dac に劣らない。MQA のマスター音源ではさすがに違いがあるが、比べなければ、全然問題ない。HiFi Master の違いもしっかり出す。この二つがあれば、もう他に USB-DAC は要らない。denAmp は販売休止中だが、春には再開するらしい。

 T60RP でも試す。音量ノブはさすがに正午まで上げるが、しかし、がっちりと鳴らす。バスパワーのくせに、何がどうなっているのか。中身は何かは明かしていないし、開ける気もないが、このサイズだから DACチップにオペアンプのはずだ。DAC チップは Cirrus だろうか。

 伝聴研の傳田さんは、あれだけ見事な自然音録音ができる人だから、耳は抜群だし、自分自身ミュージシャンで、生音も十分知っている。おかしなものは作るはずがない。あそこのものはどれも音がいいが、それにしても、denAmp は凄い。ヘッドフォン祭で一度、これを外付にして DAP と組み合わせている人を見たことがある。これは音がいいですよね、と盛り上がった。


 溜まっていたリスニング候補の音源を Tidal でざっと聴く。アルバムの各々冒頭のトラック。

Marcin Wasilewski Trio, ECM

En attendant
Marcin Wasilewski Trio
ECM
2021-09-10


Ayumi Tanaka, Subaqueous Silence, ECM



Tim Berne & Gregg Belisle-Chi, Mars

Mars
Berne, Tim
Intakt
2022-01-21


Undercurrent Orchestra, Everything Seems Different


Jorge Rossy, Robert Landfermann, Jeff Ballard – Puerta, ECM

Puerta
Jorge Rossy
ECM
2021-11-05


Maria-Christian Harper, Gluten Free


Chien Chien Lu, The Path

ザ・パス
チェンチェン・ルー
Pヴァイン・レコード
2021-08-04


Banquet Of Boxes: a Celebration of the English Melodeon

Banquet of Boxes-Celebration of the English Melode
Banquet of Boxes-Celebration of the English Melode
Imports
2011-05-10


Elton Dean Quartet, They All Be On This Old Road

They All Be On This Old Road: The Seven Dials Concert
Elton Quartet Dean
Ogun Records
2021-11-26

 

 どれも一通り聴く価値がある。

 Maria-Christian Harper は面白い。名前の通り、ハーパーで、良い意味でアヴァンギャルド。ヴィブラフォンの Chien Chien Lu も良い。Badi AssadArooj Aftab は文句無い。Thea Gilmore はもう少し聽いてみる。Saadet Turkoz & Beat Keller はウイグル族の危難に反応した録音。伝統かつ前衛。とりあえず聴かねばならない。

 Saul Rose Tidal で検索したら、 Banquet Of Boxes: a Celebration of the English Melodeon というアルバムがヒット。思わず顔がほころぶ。 オリジナル録音のオムニバスかな。これは CD を探そう。

 エルトン・ジョンの芸名のもとになった Elton Dean のカルテットも面白い。キース・ティペットが大活躍。こういう音はイングランドでしか出ないだろう。



##本日のグレイトフル・デッド

 0205日には1966年から1989年まで5本のショウをしている。公式リリースは2本。


1. 1966 The Questing Beast, Berkeley, CA%

 テープが残っているので、各種サイトではショウとしてリストアップしているが、内容はリハーサル。〈Viola Lee Blues〉を何度もやっている由。


2. 1969 Soldier's And Sailors Memorial Hall, Kansas City, KS

 アイアン・バタフライの前座として1時間強の演奏。セット・リストはこの年の典型。


3. 1970 Fillmore West, San Francisco, CA

 3ドル。4日連続のランの初日。共演タジ・マハル。こういう組合せでコンサートを企画するのがビル・グレアムの面白いところ。

 この4日間はいずれも一本勝負のショウ。オープナーの〈Seasons Of My Heart〉と〈The Race Is On〉でガルシアはペダルスティールを弾いている。

 3曲目〈Big Boss Man〉が《History Of The Grateful Dead, Vol. 1 (Bear's Choice)》でリリースされた。ピグペンの声はまだまだ衰えてはいない。


4. 1978 Uni-Dome, University of North Iowa, Cedar Falls, IA

 オープナー〈Bertha> Good Lovin'〉とクローザー〈Deal〉を含む第一部の5曲と第二部8曲全部が《Dick's Picks, Vol. 18》でリリースされた。計1時間半。

 3日のショウに並ぶすばらしい出来。全体としてのレベルは3日の方が若干上かとも思うが、こちらの第二部も強力。〈Scarlet Begonias> Fire On The Mountain〉がまずはハイライト。特に〈Scarlet Begonias〉後半のガルシアのギターを核としてバンド全体が集団即興になるところは、デッド体験の醍醐味の一つ。そして〈Truckin'> The Other One> Wharf Rat> Around and Around〉と続くメドレーを聴くのは、この世の幸せ。〈Wharf Rat〉はいつもの囁きかけるような、どちらかというとウェットなスタイルとはがらりと変わり、言葉をほおり出すようなドライな態度をとる。喉の調子がよくなく、囁き声が出せなかったせいかもしれないが、怪我の功名で、3つのパートでどん底から天空に飛翔するこの歌、とりわけパート3にはまことにふさわしい。ガルシアはギターから錆ついた響きをたたき出し、明るいマイナー調のフレーズを聴かせる。〈Around and Around〉でもガルシアが延々とギターを弾いているので、ウィアがなかなか歌いだせない。この歌は197606月の大休止からの復帰後、はじめゆったりと入り、途中でポンとテンポを上げる形になる。ここではその前半のゆったりパートのタメの取り方の念が入っているのと、後半、ウィアとドナの声が小さくなるのが早いのとで、その後の爆発のインパクトが大きい。実に実にカッコいい。

 DeadBase XI での Andy Preston のレポートによれば、〈Truckin'〉の前の音は、ステージ両側に駐車したセミトラックに仕掛けられた爆竹のようなもので、バックファイヤのつもりらしい。続いてエンジン音が大きくなるとともに、バンドは演奏に突入した。

 会場は屋内フットボール場で、片方の50ヤード・ラインにステージが設けられ、残り150ヤードが椅子もなく、解放されていて、聴衆は自由に踊れた。音がよく響き、バンドを迎えた歓声の大きさに、レシュが「実際の人数以上の音だね」とコメントした。

 第二部オープナーの〈Samson And Delilah〉で、ウィアのヴォーカル・マイクが入らず、マイクを交換する間、バンドは即興を続けた。ガルシアは苛立って、ギター・ソロが獰猛になった。マイクの面倒をみていたクルーがガルシアを見て、お手上げというように両手を挙げたので、ガルシアはギターでクルーの心臓を狙い、機関銃の音を立ててみせた。その後、マイクはきちんと作動して、歌は続いた。

 さらに機器のトラブルがあり、ウィアがかつての「黄色い犬の話」に匹敵する「木樵の話」をして、時間を稼いだ。もっともその冗談はいささか混みいっていて、聴衆の反応は鈍かった。

 この年、アイオワは百年に一度の寒い冬。


5. 1989 Henry J. Kaiser Convention Center, Oakland, CA

 開演7時。このヴェニュー3日連続の初日。この年最初のショウ。春節記念。この3日間に続いて、ロサンゼルスで3日連続をした後、1ヶ月休んで3月下旬、アトランタから春のツアーに出る。

 バーロゥ&ミドランドの〈We Can Run〉とハンター&ガルシアの〈Standing On The Moon〉の初演。

 〈We Can Run〉は19900710日まで計22回演奏。スタジオ版は《Built To Last》に収録。

 〈Standing On The Moon〉も同じく《Built To Last》所収で、19950630日まで、計75回演奏。これについてハンターは、いきなり頭に浮かんだのをとにかく書き留めたので、何の修正も改訂もしていない、と言っている。ガルシアはブレア・ジャクソンのインタヴューに答えて、理屈ではなく、とにかくこの歌が好きで、この歌が自分の口から出てゆくのが歓びなのだ、それはできるだけそのまま出るにまかせて、余計なことはしたくない、と言う。(ゆ)


1008日・金

 FiiO FD7, FDX 国内販売発表。FD78万はまあ妥当なところ。ケーブルもすでに独立販売されているから、FDX を買う必要もない。先日もダイヤを鏤めた300万のイヤフォンが出ていたけれど、こういうものを欲しい、と思う心情は正直わからん。あるいは音が変わるかもしれんけど、良くなるとも思えないし、あたしにその違いがわかるかも疑問。イヤフォンはどんどん進化かどうかわからないが、変化していて、新製品が次々出るから、こういうものも装飾以外の中身はすぐ古くなる。オーディオ機器はどんなに「最高」のものが出ても、必ずそれを凌ぐものが出てくるので、「一生モノ」などありえない。だいたい「一生」使えるほど頑丈な機械なんぞ、滅多にあるもんじゃない。この年になると「一生」も短かいから、死ぬまでこれでいい、というのもある。A8000はその一つだけど、だから買っちゃうと死んじまうような気がするのだ。


 iFi ZEN Stream 5万。FD7よりこちらの方が先だな。これにも Tidal は入ってるが、Qobuz は入っていない。


##1008日のグレイトフル・デッド

 1966年から1989年まで7本のショウをしている。公式リリースは完全版が1本。


1. 1966 Mt. Tamalpais Amphitheatre, Marin County, CA

 "1st Congressional District Write-In Committee for Phil Drath and Peace Benefit" と題された午後2時からのイベント。ポスターは熊のプーとコブタが地平線で半分に切られた朝日または夕陽に向かって歩いてゆく後ろ姿がフィーチュアされ、出演者としてジョーン・バエズ、ミミ・ファリーニャ、デッド、クィックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィスの名がある。デッドとボラ・セテの名があるチラシも残っている。


2. 1966 Fillmore Auditorium, San Francisco, CA

 前日に続き、ウィンターランドから移動した公演。バターフィールド・ブルーズ・バンド、ジェファーソン・エアプレインと共演。


3. 1968 The Matrix, San Francisco, CA

 ここでの3日連続の初日。"Jerry Garrceeah (Garcia) and His Friends" の名義になっていて、ウィアとピグペンは不在。一方、San Francisco Chronicle のラルフ・グリースンのコラムでは同じ日付で "The Grateful Dead and Elvin Bishop" が演奏する、となっている。

 残っているセット・リストでは三部に別れ、第三部はエルヴィン・ビショップ、ジャック・キャサディ、ミッキー・ハートという面子で演奏したそうな。第二部の終りにガルシアがビショップとベースのキャサディを呼出し、Mickey Hart & the Hartbeats と紹介。ビショップは、今日ここで演奏するはずだったんだが、リズム・セクションが来られなかったので、これでジャムをする、とアナウンス。後の2日も同様のことをやったらしい。


4. 1981 Forum Theatre, Copenhagen, Denmark

 この年、2度目のヨーロッパ・ツアー。ロンドン4日間の次の寄港地。


5. 1983 Richmond Coliseum, Richmond, VA

 まずまずのショウ、らしい。


6. 1984 The Centrum, Worcester, MA

 2日連続の1日目。後半は冒頭から最後まで1本につながっている。この日は Willie Dixon の曲でマディ・ウォーターズの持ち歌〈I Just Want To Make Love To You〉をやって、全体にブルーズ基調だったそうだ。この曲は1966年、1984年(2回)、1995年に4回のみ演奏された。


7. 1989 Hampton Coliseum, Hampton, VA

 2日連続の初日。18.50ドル。夜7時半開演。2日間の完全版が《Formerly The Warlocks》ボックス・セットとしてリリースされた。

 この2日間のショウは1週間前まで開催が伏せられ、チケットはいつもの通販はせず、ハンプトン市内3ヶ所のみで販売され、さらに "Formerly The Warlocks" の名前で行なわれた。1987年の〈Touch of Grey〉のヒットによってデッドの人気が高まり、デッドのショウについてまわる「サーカス」が膨れあがって、ショウの会場周辺がキャンプと "Shakedown Street" と呼ばれた青空マーケットに埋めつくされるようになり、これを嫌う地元の住人との軋轢が深刻になっていた。トラブルを最小限にするため、実験として、サプライズの手法がとられ、ある程度成功したことで、後に何度かこの方式が採用される。

 デッドヘッドの大群は会場周辺に多額のカネを落としたし、デッドヘッドは他のロック・コンサートの聴衆とは別次元なほど暴力を嫌い、平和的な人間だったから、商店は一般に歓迎したが、そうでない住人は、普段は見慣れない外見と、非合法とされるブツがごくあたりまえに存在するのに鶏冠を逆立てたらしい。自分は偏見や差別意識などない「まっとうな市民」だと思いこんでいる人間ほど、偏見と差別にこり固まって騒ぎたてるものだ。しかし、この頃になると、そういう人間たちのたてる騒音がショウそのものの成立を脅かすほど大きくもなっていた。バンドは会場周辺でのキャンプや物販をやめるよう要請する手紙を、メンバー全員の署名入りで通販のチケットに同封することもする。

 音楽ではなく、キャンプや物販だけを目当てに来る人間も多かったから、そういう連中にはバンドの声は届かなかっただろう。また、問題を起こすのはそういう連中でもあった。このことは古くからのトラヴェル・ヘッド、デッドのショウについてまわるデッドヘッドたちにとっても死活問題になりえた。こうなった要因の大きなものは1980年代後半の急激なファン層の増加だ。新たにファンとなった人たちはいわばデッドヘッドとしての作法をわきまえなかった。デッドの音楽、それも表面的な部分に反応していたので、古くからのデッドヘッドたちのようにバンドと世界観を共有するところまでは行っていなかった。デニス・マクナリーはバンドの公式伝記 A Long Strange Trip の中で、もう一発ヒットが出たなら、バンドは潰れていただろうと言う。

 一方でデッドが生みだす音楽、ショウの中身の方は、1986年末のガルシアの昏睡からの復帰以後、右肩上がりに調子を上げてゆく。1988年から1990年夏までは、1972年、1977年とならぶデッドの第三のピークだ。あたしにはこの第三のピークはその前二つのピークを凌いで、デッドが到達した頂点とみえる。そしてこの2日間は1989年の中でもピークと言われる。

 後半冒頭〈Help On The Way> Slipknot!> Franklin's Tower〉は1985-09-12以来、4年ぶりに登場。会場を埋めた14,000のデッドヘッドの大歓声が音楽をかき消さんばかり。デッドヘッドはなぜか、長いこと演奏されなかった曲が復活すると喜ぶ。翌日にもかれらには嬉しいサプライズがある。

 ある人の回想。ショウが始まって間もなく、彼とその友人たち数人が入口前のロビーのゴミを掃除していた。この頃になると新しいファンが増えたために、会場周辺のゴミの量もケタ違いに増えていたらしい。これを掃除していたわけだが、それを見ていた警備員の一人が、掃除を終えた彼らに合図して扉を開け、中に入れてくれた。そこらにたむろしていた連中も続こうとしたが、たちまち数人の警備員が現れて、掃除をしていた者たちだけを入れた。

 ライナーでブレア・ジャクソンが、前半を終えた時点で、「こいつら、今日はオンになってる」と思ったと言うとおり、すべてがかちりと噛みあって、湯気をたてている。いつもはあっさり終る〈Big River〉でソロの投げ合いがいつまでも続く。こうなっても、もちろんミスはあり、意図のすれ違いもあるのだが、ミスもすれ違いもプラスにしか作用しなくなる。〈Bird Song〉の後半のジャムは、混沌と秩序、ポリフォニーとホモフォニー、音の投げ合い、エゴのぶつかり合いと音楽の共有の理想がすべて共存する、デッドのジャムがこの世を離脱してゆくゾーンに入る。わやくちゃなのに筋が通ってゆく。やっている本人たちもどこへ行くのかわからない。でも、その最中にふっと道が見えて、もとの歌にするりと戻る。この快感!

 後半、〈Help On The Way> Slipknot!> Franklin's Tower〉は見事だが、〈Victim or the Crime〉の荘厳さに打たれる。こんなに威厳をもってこの歌がうたわれるのは、覚えが無い。(ゆ)


9月23日・木

 北日本音響からクラウドファンディングしたイヤフォン Mother Audio ME5-BORON 着。ドライバーの素材にボロンを使用したダイナミック型。ボロンはダイナミック・ドライバー振動板の素材としてはベリリウムに継ぐ優秀な特性を持つのだそうだ。

 純粋ベリリウム振動板は加工が極端に難しく、Campfire の Lyra II も、final の A8000 も、20万近い。最近中国の Nicehck が3万を切る値段で出した。と、思ったら、その後からも出てきた。もっとも、「純粋ベリリウム・ドライバー」というのが何を意味するのかは、ユーザーは確めようがない。ただ、やはり中国の FiiO が、純粋ベリリウム・ドライバーをうたって FD7 を出し、そちらは直販で7万しているから、Nicehck 他は疑わしくはなる。それに、スピーカーの音が振動板の素材だけで決まるわけでもないことは、A&Cオーディオのブログでも散々言われている。イヤフォンといえど、極小のスピーカーなわけだ。A8000 はしかし究極とも思える音で、こんなものを買ってしまったら、そこで終ってしまう、さもなければ死んでしまうような気がしきりにする。

 ME5-BORON はクラウドファンディングの立ち上げが4月で、その時にはまだ Campfire と final しか無く、二番手の素材を使っても3万以下というのは面白くみえて、乗ってみた。それから待つこと5ヶ月にして製品が届く。

 早速試す。箱出しでは低域が弱い。しかし、聞えている音はまことにクリアで、ウィアの歌っている歌詞が明瞭に聴きとれる。分離もいい。明朗でさわやかな音。聴いていて気分のよくなる音。どんどん音楽が聴きたくなる音。A8000 のあの深み、掘ってゆくと後から後からいくらでも現れてきそうな奥行きは無いが、曇りやにじみの無い、愉しい音だ。一方でただキレがいいだけではなく、曖昧なところはきちんと曖昧に聞かせる。深みはまだこれから出てくるかもしれない。

 ピンクノイズをかけ、《あかまつさん》を聴いているうちによくなってくる。Yaz Ahmed のセカンドではベースも活き活きしている。デッドでもそうだが、ヴォーカルが前面に出て、微妙なアーティキュレーションもよくわかる。様々な細かいパーカッションの響きが実にきれい。聴こうとしなくても耳に入ってくる。とともに、ボロンという素材のおかげか、インピーダンスや能率の数字推測されるよりも音量がずっと大きい。いつも聴いている音量レベルよりかなり下げてちょうど良い。

 これは先が楽しみだ。
 

あかまつさん
チェルシーズ
DANCING PIG
2013-07-14



 watchOS 8.0。今度は Apple Watch 3 にもインストールできた。使う頻度が一番多いタイマーの UI ががらりと変わっていて、面喰らう。


##本日のグレイトフル・デッド

 9月23日は1966年から1988年まで7本のショウをしている。公式リリースは1本。


1. 1966 Pioneer Ballroom, Suisun City, CA

 2日連続の初日。サスーン・シティはオークランドの北40キロにある街。サンフランシスコ湾の北に続くサン・パブロ湾からさらに東にサスーン湾、グリズリー湾があり、その北のサスーン・マーシュという北米最大の沼沢地の北側。サスーンはかつてこの辺に住んでいた先住民の名前。ここで演ったのはこの2日間だけ。ポスターが残っているのみ。セット・リストなし。the 13 Experience というバンドが共演。


2. 1967 Family Dog, Denver, CO

 前日と同じヴェニュー。デンヴァーの Family Dog で演ったのもこの2日間のみ。ポスターのみ。


3. 1972 Palace Theater, Waterbury, CT

 同じヴェニュー2日間の初日。料金5.50ドル。開演7時半。ある人が開演3時間前に会場に行くと、ここでやる他のロック・コンサートなら前3列の席がとれるのに、この時はすでにデッドヘッドが2,000人ほど集まっていてショックを受けたそうな。そのうち、デッドのクルーが卵サラダ・サンドイッチを大きなゴミ袋に入れて運んできて、配ってあるいた。さらには、でかいオープンリール・デッキと自動車用バッテリーを2本、堂々と持ち込んでいるやつがいた。この日は比較的短かくて前後3時間。アンコール無し。


4. 1976 Cameron Indoor Stadium, Duke University, Durham, NC

 良いショウらしい。チケットが残っているが、開演時刻と料金の頭のところがちょうど切れていて、確認できず。


5. 1982 New Haven Coliseum, New Haven, CT

 秋のツアーもあと1本。前半最後の〈Let It Grow〉が2011年の、後半2曲目〈Lost Sailor > Saint Of Circumstance〉のメドレーが2014年の《30 Days Of Dead》で、各々リリースされた。後者、音は少し上ずっていて、ベースがほとんど聞えないが、ウィアの声はすぐ目の前だし、演奏はすばらしい。

 会場は正式名称 New Haven Veterans Memorial Coliseum で、1972年オープンした多目的屋内アリーナ。2002年に閉鎖。2007年に取り壊された。定員11,500。デッドはここで1977年から1984年まで、主に春のツアーの一環として11演奏している。秋に行ったのは79年とこの82年。うち公式リリースされたのは6本。1977年5月の完全版、78年5月のショウの大部分がある。


5. 1987 The Spectrum, Philadelphia, PA

 3日連続の中日。これも良かったらしい。


6. 1988 Madison Square Garden, New York , NY

 9本連続の8本目。こういうレジデンス公演の場合、この日がベストになることが多い。この日も好調だった由。(ゆ)


9月11日・土

 駅前の皮膚科へ往復のバスの中で HS1300SS でデッドを聴いてゆく。このイヤフォンはすばらしい。MP3 でも各々のパートが鮮明に立ち上がってくる。ポリフォニーが明瞭に迫ってくる。たまらん。他のイヤフォンを欲しいという気がなくなる。FiiO の FD7 はまだ興味があるが、むしろ Acoustune の次のフラッグシップが気になる。それまではこの1300で十分で、むしろいずれケーブルを換えてみよう。



##本日のグレイトフル・デッド

 9月11日には1966年から1990年まで、10本のショウをしている。うち、公式リリースは1本。ミッキー・ハートの誕生日。だが、2001年以降、別の記念日になってしまった。


1. 1966 Fillmore Auditorium, San Francisco, CA

 単独のショウではなく、ジャズ・クラブのためのチャリティ・コンサート。"Gigantic All-Night Jazz/Rock Dance Concert" と題され、他の参加アーティストは John Hendricks Trio, Elvin Jones, Joe Henderson Quartet, Big Mama Thornton, Denny Zeitlin Trio, Jefferson Airplane, the Great Society そして the Wildflower。料金2.50ドル。セット・リスト無し。ジャンルを超えた組合せを好んだビル・グレアムだが、実際、この頃はジャズとロックの間の垣根はそれほど高くなかったのだろう。

 ちなみにデニィ・ザイトリンは UCSF の精神医学教授でもあるピアニスト、作曲家で、映画『SF/ボディ・スナッチャー』(1978年のリメイク版)の音楽担当。


2. 1973 William And Mary Hall, College Of William And Mary, Williamsburg, VA

 2日連続ここでのショウの初日。ここでは1978年まで計4回演奏していて、どれも良いショウのようだ。1976年と1978年のショウは各々《Dave's Picks》の Vol. 4 と Vol. 37 としてリリースされた。

 このショウでは前座の Doug Sahm のバンドからサックスの Martin Fierro とトランペットの Joe Ellis が一部の曲で参加している。マーティン・フィエロはジェリィ・ガルシアの個人バンドにも参加している。またブルース・ホーンスビィが一聴衆として、おそらく初めて見ていたそうだ。


3. 1974 Alexandra Palace, London

 2度めのヨーロッパ・ツアー冒頭ロンドン3日間の最終日。このショウの前半から6曲が《Dick’s Picks, Vol. 07》に収録された。が、ほんとうに凄いのは後半らしい。

 とはいえ、この前半も調子は良いし、とりわけ最後で、実際前半最後でもある〈Playing in the Band〉は20分を超えて、すばらしいジャムを展開する。この日の録音ではなぜかベースが大きく、鮮明に聞える。アルバム全体がそういう傾向だが、この3日目は特に大きい。ここでは誰かが全体を引張っているのではなく、それぞれ好き勝手にやりながら、全体がある有機的なまとまりをもって進んでゆく。その中で、いわば鼻の差で先頭に立っているのがベース。ガルシアはむしろ後から追いかけている。この演奏はこの曲のベスト3に入れていい。

 それにしても、この3日間のショウはすばらしい。今ならばボックス・セットか、何らかの形で各々の完全版が出ていただろう。いずれ、全貌があらためて公式リリースされることを期待する。


4. 1981 Greek Theatre University of California, Berkeley, CA

 2日連続このヴェニューでのショウの初日。ここでの最初のショウ。前売で11.50ドル、当日13ドル。

 この日は、開幕直前ジョーン・バエズが PA越しにハートに「ハッピー・バースディ」を歌ったそうだ。


5. 1982 West Palm Beach Civic Center, West Palm Beach, FL

 後半冒頭 Scarlet> Fire> Saint> Sailor> Terrapin というメドレーは唯一この時のみの由。


6. 1983 Downs of Santa Fe, Santa Fe, NM

 同じヴェニューの2日め。ミッキー・ハート40歳の誕生日。


7. 1985 Henry J. Kaiser Convention Center, Oakland, CA

 地元3日連続の中日。80年代のこの日のショウはどれも良いが、これがベストらしい。


8. 1987 Capital Centre, Landover , MD

 同じヴェニュー3日連続の初日。17.50ドル。6年で6ドル、35%の上昇。デッドのチケットは相対的に安かったと言われる。


9. 1988 The Spectrum, Philadelphia, PA

 4本連続ここでのショウの3本め。前日の中日は休み。


10. 1990 The Spectrum, Philadelphia, PA

 ここでの3本連続の中日。(ゆ)


9月10日・金

 バラカンさんの著書『ピーター・バラカン式 英語発音ルール』を版元からいただく。まえがきとあとがきを読む。これは『猿はマンキ、お金はマニ』の改訂版で、まえがきは新旧ともにある。バラカンさんは日本を海外に紹介する番組をずっとやっていて、その視聴者が日本にやってきて会ったりすることもあるそうだ。そういう過程で、いわゆる「インバウンド」の対象が有名な観光地だけでなく、実にいろいろなところになっていることを確認している。そのことは、なんとなく感じていたけれど、バラカンさんが裏付けてくれている。



 それにしても「ローマ字は英語ではありません」と、表紙に刷りこみ、まえがきでもあとがきでも大文字で繰返しているのに、いささか驚く。これだけ強調するということは、つまりはローマ字を英語とみなしている実例にたくさんでくわしてきたのだろう。あたしがそういう体験が無い、というか、気がついていないのは、あたしが日本語ネイティヴで、同じ勘違いをしているからか。ローマ字読みしてるつもりはないんだけど、知らずにそうしているのだろう。これは別の言い方をすれば、英語が日本語とは違うことをちゃんと意識しよう、ではないか。ローマ字読みをしてしまうのは、その意識が甘いからだろう。これがフランス語やドイツ語だったら、ちゃんと身構えてローマ字読みなどしないはずだ。英語だと自動的にローマ字読みしてしまう。James はジャメスになり、Graham はグラハムになる。「ジャメス」なんてありえないように思うが、バラカンさんが息子さんの名前を役所に屆けようとしたら、こう読まれたそうだ。これが Johann だったら「ジョハン」とは読まれまい。

 でも、ほんと、もういい加減に「グラハム」はやめましょうよ。

 まえがきで面白いのは、アメリカ英語の発音の方が日本語からずっとかけ離れていて、イギリスの標準的な発音の方がまだ近いから、そちらを採用している、という点。ああ、そうだったのか、と納得がゆく。ここは旧版のまえがきなので、読んでいるはずだが、完全に抜けていた。


 1973-09-08の《Dave's Picks, Vol. 38》 を Acoustune HS1300SS Verde で聴く。すばらしい。デッドのライヴ音源を聴くためのイヤフォンがようやく見つかったか。全ての楽器、ヴォーカルがハーモニーの一人ひとりまで、みずみずしく、活き活きと聞えてくる。それも音の方から耳に飛びこんでくる。意識して耳をすませなくても、音楽が流れこんでくる。聴くにしたがって、ガルシアとウィアのギターの響きに艷が乗ってくる。デッドのライヴ音源を聴くヘッドフォンはといえばまず Grado The Hemp になるけれど、イヤフォンではまだ、これだ、というのは無かった。Unique Melody の 3D Terminator はいい線を行っているけれど、HS1300SS の方がどんぴしゃ感がある。




 Sakura craft_lab 006 には物欲を大いに刺激されるが、高すぎる。筆記具にそんなにカネを割けないよ。オーディオの方が先だわなあ。


##本日のグレイトフル・デッド

 9月10日のショウは1972年から1993年までの7本。うち3本に公式リリースがある。

1. 1972 Hollywood Palladium

 前日に続く同じヴェニュー2日め。前半5曲目〈Bird Song〉が2013年の《30 Days of the Dead》でリリースされた。この演奏はちょっと面白い。ひとしきりジャムをした後で一度終ったとみせかけてドラムスが入って再び始まり、やや大人しくなって歌が入って、またジャムをする。ガルシアは難しそうなことは何もやらない。シンプルなフレーズ、同じ音を繰返すのを重ねてゆく。これがなかなかいい。ガルシアのヴォーカルもいい。ハーモニー、コーラスも決まっている。ただ、二度目の歌の後のジャム、ガルシアのギターがノリはじめたところでテープが切れている。残念。

 後半6曲め〈Dark Star〉にデヴィッド・クロスビーが参加している。どうやらギターのみの模様。


2. 1974 Alexandra Palace, London

 3日連続の中日。《Dick’s Picks, Vol. 07》に収録されたのはこの日のショウからが最も多く、前半2曲めからアンコールまで、10曲。

 このショウの録音はキッド・カンデラリオで、かなり良い。すべてのパートが明瞭に聞える。ガルシアのギターは左、鍵盤が右、ウィアのギターとベース、ドラムスがセンターに並ぶ。この遠征にデッドは "The Wall of Sound" を持ちこんでいる。ロンドンのこの会場での設営には40人がかりで2日かかったそうだ。


3. 1983 Downs of Santa Fe, Santa Fe, NM

 同じヴェニュー2日連続の初日。屋外で午後2時開演。


4. 1985 Henry J. Kaiser Convention Center, Oakland, CA

 地元で3日連続のショウの初日。チケットによれば料金15ドル。


5. 1990 The Spectrum, Philadelphia, PA

 ここでの3日連続の初日。


6. 1991Madison Square Garden, NY

 MSG9本連続の3本めで、《30 TRIPS AROUND THE SUN》の1本として完全版がリリースされた。

 ブランフォード・マルサリスが2度めに参加している。ブルース・ホーンスビィ参加。


7. 1993 Richfield Coliseum, Richfield, OH

 3日連続の最終日。(ゆ)


9月9日・木

 伊東屋のニュースレターに、カランダッシュ849のローラーボールが出た、とあるが、まだ国内には入っていないらしい。伊東屋のサイトでも売ってはいないし、公式ストアにも無い。本家のサイトのみ。ボールペンよりも少し太く、長いようだ。849の万年筆には惹かれなかったが、これは欲しい。849はやはりノックで使いたい。


 夕方着いた Acoustune HS1300SS Verde を聴く。AET06 S のチップ。聴くのはもちろんチェルシーズ《あかまつさん》。このアルバムを愉しく聴かせてくれるのがよい機器になる。HS1300SS Verde はまずその関門は楽にクリア。あらためてやはりこのアルバムは傑作だ。アマゾンにある在庫は全部買って、配ろうかとも思う。

あかまつさん
チェルシーズ
DANCING PIG
2013-07-14



##本日のグレイトフル・デッド

 1967年から1993年まで9本のショウをしている。


1. 1967 Volunteer Park, Seattle, WA

 シアトル遠征2日めの昼にこのショウをしたことになっている。


2. 1967 Eagles Auditorium, Seattle, WA

 前日に続く2日め。セット・リスト無し。ポスター以外の裏付けは無いようだ。デッドはこの日、Fillmore Auditorium にジョーン・バエズ、ミミ・ファリーニャとともに出ていたというビル・グレアムの言明も裏付けがあるかどうか。


3. 1972 Hollywood Palladium, Hollywood, CA

 同じヴェニュー2日間の初日。

 〈One More Saturday Night〉のアンコールの後、あまりに聴衆がしつこいので、ガルシアとウィアが出てきて、クルーの大半はティファナに向けて出発したし、ベース・プレーヤーはかわいい女の子のシケこんだから、今日はおしまい、とアナウンスした由。でも、翌日も同じこの場所でやる。


4. 1974 Alexandra Palace, London

 2度めのヨーロッパ・ツアーの初日。ロンドン3日間の初日。この3日間の各々から一部ずつが《Dick's Picks, Vol. 7》に収録される。1本のショウとしても聴け、また3日間各々のハイライトも味わえる、一石二鳥を狙ったもの。

 この日は休憩なしの一本勝負で、5、6、7曲めと13曲め〈Truckin'〉からのジャムと〈Wharf Rat〉が収録された。


5. 1982 Saenger Theatre, Los Angeles

 秋のツアー初日。前半最後の〈Althea〉が2015年の《30 Days Of Dead》でリリースされた。この〈Althea〉の途中でウィアが楽器のトラブルでいきなり引っこんだが、残ったメンバーがすばらしい演奏をした。

 後半開始、ステージにメンバーが出てきて、普通はチューニングとかあるのが、この日は前振りなしに、いきなり〈Uncle John's Band〉が始まった。


6. 1987 Providence Civic Center, Providence, RI

 3日連続このヴェニューの最終日。前半最後がいつもとは違う選曲と並び。


7. 1988 The Spectrum, Philadelphia, PA

 3日連続同じヴェニューの中日。チケットによると料金は19.50ドル。

 5日間、4本連続のこの一連のショウでは珍しく警察が介入せず、ヴェニュー向かいの公園はデッドヘッドの天国と化したそうな。


8. 1991 Madison Square Garden, New York , NY

 9本連続 MSG の2日め。


9. 1993 Richfield Coliseum, Richfield, OH

 3日連続同じヴェニューの中日。(ゆ)


9月8日・水

 LRB のチャーリー・ワッツについてのブログに孫引きされた Don Was のコメントを読んで、Tidal で『メイン・ストリートのならず者』デラックス版の〈Loving Cup〉の正規版と別ヴァージョンを聴いてみる。まことに面白い。別ヴァージョンが採用されなかったのはよくわかるが、あたしとしてはこちらの方がずっと面白い。ミック・テイラーのギターもたっぷりだし、何よりもドン・ウォズが「リズムの遠心力でバンドが壊れる寸前」という有様が最高だ。こうなったのは、ワッツがいわば好き勝手に叩いているからでもあって、ストーンズのリズム・セクションの性格が陰画ではあるが、よく現れている。


 対してデッドの場合も、ドラムスがビートを引張っているわけではない。この別ヴァージョンでのワッツ以上に好き勝手に叩くこともある。けれどもリズムが遠心力となってバンドが分解することはない。遠心力ではなく、求心力が働いている。ドン・ウォズの言葉を敷衍すれば、おそらくデッドでは全員がビートを同じところで感じている。だから、誰もビートを刻んでいなくても、全体としてはなにごともなくビートが刻まれてゆくように聞える。このことは Space のように、一見、ビートがまったく存在しないように聞えるパートでも変わらない。そういうところでも、ビートは無いようにみえて、裏というか、底というか、どこかで流れている。ジャズと同じだ。デッドの音楽の全部とはいわないが、どんな「ジャズ・ロック」よりもジャズに接近したロックと聞える。ジャズそのものと言ってしまいたくなるが、しかし、そこにはまたジャズにはならない一線も、意図せずして現れているようにも聞える。デッドの音楽の最も玄妙にして、何よりも面白い位相の一つだ。デッドから見ると「ジャズ・ロック」はジャズの範疇になる。



 FiiO から純粋ベリリウム製ドライバーによるイヤフォン発表。直販だと FD7 が7万弱。FDX が9万。同じ純粋ベリリウム・ドライバーの Final A8000 の半分。DUNU Luna も同じくらいだが、今は中古しかないようだ。FiiO のはセミオープンだから、聴いてみたい。FDX はきんきらすぎる。買うなら FD7 だろう。ケーブルが FDX は金銀混合、FD7 は純銀線。それで音を合わせているのか。どちらも単独では売っていない。いずれ、売るだろうか。いちはやく YouTube にあがっている簡単なレヴューによれば、サウンドステージが半端でなく広いそうだ。こんな小さなもので、こんなに広いサウンドステージが現れるのは驚異という。



##本日のグレイトフル・デッド

 1967年から1993年まで8本のショウ。


1. 1967 Eagles Auditorium, Seattle, WA

 シアトルへの遠征2日間の初日。ポスターが残っていて、デッドがヘッダー。セット・リスト無し。

 ピグペン22歳の誕生日。当時ガルシア25歳。クロイツマン21歳。レシュ27歳。ウィア20歳。ハンター26歳。

 ビル・グレアムは、この日デッドは Fillmore Auditorium に出ていた、と言明しているそうだ。


2. 1973 Nassau Veterans Memorial Coliseum, Uniondale, NY

 前日に続いて同じヴェニュー。この日のショウは《Dave's Picks, Vol. 38》に完全収録された。残っているチケットによると料金は5.50ドル。

 ガルシアのギターが左、ウィアのギターが右。

 珍しくダブル・アンコール、それも〈Stella Blue > One More Saturday Night〉というまず他にない組合せ。さらに後半4曲目〈Let Me Sing Your Blues Away〉ではキースがリード・ヴォーカルをとる。この曲はロバート・ハンターとキースの共作でこの時が初演。同月21日まで計6回演奏。《Wake Of The Flood》が初出。〈Here Comes Sunshine〉とのカップリングでシングル・カットもされた。

 〈Weather Report Suite〉も組曲全体としてはこの日が初演。

 演奏はすばらしい。この年は前年のデビュー以来のピークの後で、翌年秋のライヴ停止までなだらかに下ってゆくイメージだったが、こういう演奏を聴くと、とんでもない、むしろ、さらに良くなっていさえする。もっとちゃんと聴いてみよう。


3. 1983 Red Rocks Amphitheatre, Morrison, CO

 3日連続同じヴェニューでのショウの最終日。


4. 1987 Providence Civic Center, Providence, RI

 3日連続同じヴェニューでのショウの中日。


5. 1988 The Spectrum, Philadelphia, PA

 同じヴェニューで4本連続のショウの初日。


6. 1990 Coliseum, Richfield, OH

 前日に続いて同じヴェニュー。後半3曲目〈Terrapin Station〉の後のジャムが《So Many Roads》に収録された。


7. 1991 Madison Square Garden, New York , NY

 1988年に続いて MSG で9本連続という当時の記録だった一連のショウの初日。ブルース・ホーンスビィ参加。


8. 1993 Richfield Coliseum, Richfield, OH

 秋のツアー初日で、同じヴェニューで3日連続の初日。(ゆ)


 John Crowley, And Go Like This 着。この人、ディレイニーと同い年だった。デビューは一回り遅い1975年。やはり長篇でのデビュー。
 
And Go Like This: Stories
Crowley, John
Small Beer Pr
2019-11-05



 散歩で久しぶりに高松山に登る。頂上に展望盤が新設されていたが、冬の晴れた日に、しかも頂上そのものではなく、脚立かなにかで少し上から撮った写真らしく、木の枝などが邪魔になってその通りには見えない。新宿副都心やスカイツリーまで見えると写真には写っているが、今の季節に見えるはずがない。裏に降りて森の里に出る。若宮公園の上、富士通側の山の斜面一面に染井吉野が植えられて、なかなかの見もの。若宮橋を渡り、向こうから見る。気候が良く、眺めも良く、気分良く歩けるからついつい長くなる。

 ブリスオーディオの TSURANAGI は音は聴いてみたいが、買う気にはなれん。M11Pro の THX アンプ+DSD変換出力のおかげで、アンプにつなぐことがほとんど無くなってしまっている。アンプそのものもマス工房の 428 があるし、PhatLab の PHAntasy II もあるし。それにしてもここの製品名は意味がわからん。方言だろうか。

 M11Pro > Unique Melody 3D Terminator + OSLO Cable 4.4 で酒井絵美さんのハーディングフェーレのソロ Vetla Jento Mi を聴く。すると、楽音と倍音が明瞭に聞える。ひどく明瞭に聞える。そのために否応なく引きこまれ、集中してしまう。凄いことをやっているのも明瞭に聞えてくる。一体どうすればこんな音が出てくるのか、実際の演奏を見たくなる。映像ではなく、生で見たくなる。一方で、そんなことはどうでもいいとも思える。ただただ音楽に浸っていたい。もっとも、あまりに内容が濃いので、全体で25分弱しかないのがありがたい。これで1時間とかやられたら、死んでしまう。

 共鳴弦は勝手に鳴ると思っていたが、何らかの形でコントロールして鳴らしたり、鳴らさなかったりできるのか。少なくともある音を鳴らすことはできるように聞える。そして弾いている音と共鳴している音の重なりは計算されているらしい。重なりが美しく響くような音、フレーズ、メロディを探りあて、組み合わせて曲ができているらしい。そうとしか思えない。そこまではっきりとそれがわかったのは、これが初めてだ。スピーカーでここまで鳴らすには、金も時間もかなり注ぎこむ必要があるだろう。イヤフォンもケーブルもほとんどおろしたてで、この先、エージングが進んで練れてくるとどうなるか、そこも愉しみだ。

 カーサ・モーツァルトで Winds Cafe 291。山中信人&山本謙之助。いやもう、すばらしかった。

 前半で山中さんが、津軽民謡で三味線は何をやっているかの解説をしたのがまず面白い。うたい手が自由に即興で引き延ばし、コブシを回すところで、三味線も即興でそれに合わせてゆく。むろん、ある程度の基本の型はあるはずだし、いつも一緒にやっていれば、その日の調子の良し悪しもわかる。とはいえ、やはりたいへんなことにはちがいない。

 津軽三味線の楽器、三味線についての話も面白い。通常、三味線は猫の腹の皮を使う。そこには乳腺が四つあるので、それを「ヨツ」と呼ぶ。津軽三味線は犬の背中の皮を使う。東南アジアからの輸入品に頼っていたが、そちらで犬肉を食べることが減り、供給不足になったため、代用品がいろいろ試されている。カンガルーの皮もその一つで、そのカンガルーの皮の楽器を使われる。カンガルーの皮はどこを使うといいか、まだ試行錯誤だそうだ。

 山本さんは久しぶりのライヴで、COVID-19 のため、練習がほとんどできなかった由。公民館の会議室などを借りてされるそうで、確かに自宅では無理だろう。当日、会場に来て練習されたそうだが、最初に声が出たときは、練習が不足とも思えなかった。ところが、歌ってゆくにつれて、どんどん声にハリが出て、よくなっていく。5曲めだったか、いきなりどかんと来た。なるほど、練習不足とはこういうことなのか。

 こういう歌と三味線にひたると、元気が出る。もりもり湧いてくる気がする。今年も聴くことができて、ありがたや、ありがたや。

 雨が止んでいたので、歩いて四谷に出る。そこから電車で御茶ノ水、歩いて秋葉原のファイナルの直営店。試聴してオスロ・ケーブルを購入。A4000 では、シルバーコート・ケーブルとは方向が異なる。悪いわけでは全然ないが、これにはシルバーコート・ケーブルの方が合うようだ。Unique Melody 3D Terminator にはモロにハマる。試聴なのに聴くのをやめたくなくなる。駿河台下まで歩くがザ・ハンバーグは臨時休業。まっすぐ本厚木までもどり、慶福楼で食事してバスで帰宅。17,000歩超えて、くたびれる。

 
 表参道と明治通り交差点から四谷に出るには、竹下口から斜めに入って北東に向かい、国立競技場脇を通って、日本青年館前から神宮球場の外周を通り、絵画館前の銀杏並木の通りを横切りながらまわって東宮御所の西側に沿い、迎賓館から四谷の交差点に出る。東宮御所の周りは日曜なのに走っている人が結構いる。警官がぶらぶらしている。国立競技場脇の付属工事は中断されたまま。神宮球場では試合があったのか、これからあるのか、という雰囲気。後で、電車に神宮球場帰りの若いカップルがいた。球場の中に入るのはゲートがあるが、外は公共空間。東宮御所手前で左折すれば信濃町の駅にも出るが、時間調節で四谷まで歩く。途中、あちこち、桜、桃、その他いろいろ咲いている。落葉樹の芽も萌えでている。

 3日連続で医者に通う。

 月曜日、眼科。先月下旬の人間ドックで「左眼底網膜神経線維層欠損疑い」で、要精密検査。視力、眼圧、眼底写真、視野検査をして、昨年夏の時と変化がほとんどないから、まだ緑内障の治療を始めるほどではない。もう一度年末くらいに検査をしてみましょう。

 火曜日、歯科。左下門歯の隣にかぶせていたのが外れてしまったのは割れたためで、作り直し。前回型をとったのがぴたりとはまる。

 水曜日、内科。同じ人間ドックで「右上肺野孤立性結節影疑い」で、要 CT 検査。早速 CT をとってもらうが、何もなし。一応放射線の専門家に出し、腫瘍マーカーもとってみましょう、来週またいらっしゃい。半分以上覚悟していたので、拍子抜け。同時にほっとする。

 久しぶりに電車に乗り、M11Pro > A4000 + final シルバーコート・ケーブル 4.4mm で聴く。秋葉原のファイナルの試聴室で確認はしていたものの、この化けぶりはかなりのもの。まず音量のレベルをアンバランスから2割は落とさねばならない。ステージがわっと広くなり、音楽がぎょっとするほど生々しくなる。ここまでの生々しさは初代T1バランス版に匹敵するか。距離が近いのが違うところ。この組合せは A8000 とタメを張る。ケーブルの値段がイヤフォンより高いが、合計しても A8000 の5分の1。もう1セット買って、遊ぶかとも思うが、それよりはたぶん A3000 を買う方が面白いかもしれない。

 A4000 は接続が 2pin というところも気に入った。MMCX はどうも信用できない。A4000 と A3000 は 2pin にしたから、ファイナルはこれで行くのかと思ったら、糸竹管弦はまた MMCX。あれが欲しいとならないのはそれもある。

 聴いていたのは Hanz Araki の最新作《At Our Next Meeting》。アイルランド録音で、プロデュースと録音はドノ・ヘネシー。トレヴァーはじめ、練達のサポート陣で、派手なところはまるでないが、出来は相当にいい。かれの録音の中でもするめ盤になる予感。

ha-aonm 



























Hanz Araki - vocals, flute, whistle, shakuhachi, bodhran
Donogh Hennessy - guitar, baritone guitar, bouzouki, keys
Niamh Varian-Barry - violin, viola
Trevor Hutchinson - bass
Meabh Ni Bheaglaoich - button accordion
Laura Kerr - fiddle
Colleen Raney - chorus

 昨日は今年初めて燕を見ました。今年も見られて嬉しい。

 恥も外聞もない宣伝です。

 本日、オーロラサウンドさんと Jaben Network の共同で「Jaben バランス・スペシャル・セット1」のプレス・リリースを出しました。

 先だっての「ポタ研」でお披露目したセットです。ベイヤーダイナミック T1 と T5p をバランス仕様にモディファイしたものと、これ専用にオーロラサウンドさんにチューニングしていただいたバランス・ヘッドフォン・アンプ BDR-HPA-02 を組み合わせ、さらに CEntrance DACport も添えました。下の写真には DACport が映ってませんが、ご想像ください。

bbotmt

 ちなみに、T1、T5p のバランス化は製品にするまではウィルソンおやじが自分でやってます。

 本製品はヘッドフォンとアンプで構成されており下記の組合せがあります。

 ヘッドフォンは Beyerdynamic 社の T5p(32Ω)とT1(600Ω)を用意いたしました。それぞれに専用のバランスドライブができるよう改造を施し特性の4ピンXLRの高信頼性コネクタを装備しました。さらにオプションとしてクライオ処理を施した交換ケーブルも用意いたしました。

 ヘッドフォンアンプ “BDR-HPA-02” は JABEN の要求により本ヘッドフォン用にオーロラサウンが特別にチューニングしたもので4ピンXLRジャックによるバランス駆動、また標準フォーンプラグによるノーマル駆動ができるようになっています。また T5p と T1 というインピーダンスや感度が異なるヘッドフォンも適正な音量で駆動できるようにゲイン切り変えスイッチを(High/Low)を備えています。

BDR-HPA02 仕様
入力           RCA アンバランスラインレベル信号
出力           4pinXLRバランスジャック x1  標準フォ-ンジャック x1
周波数特性        5Hz -80kHz
全高調波歪率THD+N   0.0046%
最大出力                     1500mW   x2   @45Ω負荷  Highゲイン時
ドライブ可能ヘッドフォン 16Ω -  600Ω     High/Low ゲイン入り変え
電源           AC100V 50-60Hz
大きさ          W230mm x D180mm x H80mm     突起物含まず


 アンプ側のバランス・コネクタは 4pin XLR 端子で、これに合わせたケーブルも同梱しています。オプションのクライオ・ケーブルの価格はまだ未定です。すみません。

 販売は 05/20 から Jaben Online の日本語ページをオープンして開始します。価格は 248,000円。税込、送料込みです。なお、念のために、これは T1 か T5p のどちらかのセットの価格です。両方欲しい、という方はご相談ください。

 もちろん、05/11 の春のヘッドフォン祭2013でも展示し、会場特価で販売します。展示は Jaben のブースとオーロラサウンドさんのブースの両方でします。

 もうひとつ、小生はあくまでも「代理人」で「代理店」ではありません。あたしには「代理店」をやれる能力も資格もございません。注文は Jaben Online で、つまり直販です。細かいことかもしれませんが、念のため。

 ということでひとつ、よしなに。

 それと、これからこの製品を含め Jaben Online ショップに関しては、Facebook の専用ページでサポートします。ご連絡もそちらにいただきますよう、お願いします。
(ゆ)

 昨日は半日、Jaben のウィルソンおやじにつきあっていました。新宿の伊勢丹で昼食を食べた際、おやじが携帯を忘れ、あわててもどってみたら、レストラン入口の椅子の上にちゃんとのっかっていました。30分はたっていたでしょう。こんなことは日本でしかありえない、とおやじはあんびりばぼーを連発し、大喜びで帰っていきました。

 先週のポタ研では、Jaben のブースにお越しいただき、御礼申しあげます。

 1週間前まではまったく参加を予定していなかったので、まるで準備不足だったんですが、展示したモノはどれも好評で、ありがたく楽しませていただきました。それでも熱気にあてられたか、ヘッドフォン祭のときよりもくたびれました。

 今回の展示の目玉はまず Hippo ProOne で、ワンBAドライバーのイヤフォンです。これも木曜日の夜、前触れもなくメールでポスターが送られてきて、これをプリント・アウトしてもってきてくれ。金曜日に無印良品でプラスティックのフレームを買って入れたのが展示したもの。サンプルも1セットしかなく、おやじが持って帰ったくらいのホヤホヤの製品です。それでも来月には発売予定です。

hippopro1


 試聴された方にはいずれもかなり好評で、1BAドライバーの音とは思えない、というありがたい評価もいただきました。価格は1万円前後の予定です。この価格に驚かれる方も多かったです。なお、ポスターにあるコンプライ流のフォーム・チップがデフォルトですが、シリコン・チップも用意されてます。

 2、3時間聴いたかぎりでは、中高域にフォーカスして、低域もしっかり出してくれます。前面にあるパートや楽器にスポットを当てながら、バランスもよくとれている、というところ。モニター的というよりは、鑑賞用。うたものや生楽器のアンサンブル向きかな。クラシックなら交響曲よりは協奏曲でしょう。もっとも癖がない、すなおな音なので、たいていの音楽はOK。ふだん重低音たっぷりのヘッドフォン、イヤフォンで聴いている音楽も、意外な面を発見できるかもしれません。

 ふたつめは xDuoo のポータブル・アンプ2機種。

 XD-01 は光、同軸、USBのデジタル入力を備えた DAC &アンプで、主に AK100 などのデジタル出力のあるプレーヤー用です。サイズも AK100 よりすこし大きいくらいで厚さも1センチほど。ゲイン切替、アナログ入力もあります。充電は USB 経由。

 XP-01 は Android 用のマイクロ USB 入力のある DAC &アンプ。こちらは厚さは XD-01 と同じで、サイズは一回り大きいです。Android のスマホに合わせてあるようです。

 これも Jaben で扱うことは決まっていますが、価格などは未定。そんなに高くはなく、たぶんどちらも300ドル以下になるだろうとのこと。

 これについてはささきさんのブログをご参照ください。ささきさんは AK100 で試聴されて、驚いてました。ぼくはこのあたりは無知なので、これから勉強します。これまで Android は無視していたのですが、こうなると未知の世界を探索する気分で面白くなってきます。

 もう一つ、お披露目したのはポタ研の趣旨からはちとはずれますが、バランス化した Beyerdynamic T1 と T5p と特製のバランス・アンプです。

 これは実は昨秋のヘッドフォン祭の産物です。たまたま Jaben のブースの対面がオーロラサウンドのブースで、そこにオーロラサウンドが「音松」のブランドで出されているバランス・ヘッドフォン・アンプ・キットの完成品が展示されていました。ウィルソンおやじがこれを聴いてみてたいへん気に入り、自分でバランス化して出している T1、T5p(もちろん公認)と組み合わせることを提案しました。オーロラサウンドの唐木さんがこれに乗ってくれまして、キットをベースに、ケース、ヴォリューム・ノブを上質のものに替え、また部品の一部もグレードアップして、音をバランスド・ベイヤー用に調整したものがこの音松アンプです。

 バランス・コネクタは4ピン・シングルで、別にシングルエンド用端子もあります。また、ゲイン切替も備えています。入力はアンバランス・アナログRCAです。

 バランス化した T1 または T5p と、4ピン・バランス・ケーブル、音松バランス・ヘッドフォン・アンプ、それに CEntrance の DACport をセットにして販売します。セットのみの通販オンリーです。バランド・ベイヤー単体は Jaben のオンライン・ショップでも買えますが、アンプはあちらでもセットのみになります。

 国内でも販売します。実際に販売開始をアナウンスできるのはもう少し先になります。価格は20〜25万円を予定しています。予約は受け付けています。氏名、住所、電話番号、メールアドレスを、こちらまでメールでお送りください。お支払いは PayPal が使えます。春のヘッドフォン祭では試聴できるはず。公式発表もそのあたりになるでしょう。今でしたら「早期予約特価」で申し受けます。

 先週月曜に、急遽出るから頼むと言われてひええと思ったら、やはり満杯だから出ない、ということになってほっとし、いやなんとかなるそうだレッツゴー、でこんなにあわただしい思いをしたのは、もう何年ぶりでした。

 来場者も多く、隣が ONKYO さんで、例の新しいヘッドフォンは興味津々だったんですが試聴できず。結局、トイレに行ったついでにミックスウェーブさんのところで CEntrance の HiFi-M8(ハイファイメイト)をちょっと聴けただけ。これは早期割引につられて予約を入れているので、とにかく楽しみ。あと2ヶ月待ってくれ、と CEntrance のマイケルさんは言ってました。

 それにしても、T5p を首にかけて来てる方が目についたのは驚きました。たしかに "p" が付いているように、インピーダンスやプラグからしてモバイル用を意識した製品ではありますし、Ultrasone の Edition 9 を頭にかけた人を駅のホームで目撃したことはありますが、これも日本ならではの現象でしょうねえ。ニューヨークあたりでは考えられない。

 白状するとバランス化した T1、T5p を聴いてベイヤーをあらためて見直しました。それにバランス化の効果は想像をはるかに超えていて、さらに音松アンプのおかげで、まさに天国、いわゆる "Nirvana" 状態に入れます。たぶんただヘッドフォンをバランス化してアンプにつなぐだけでは不十分で、その効果を十分に引き出すにはアンプとの相性が大事なんでしょう。

 ウィルソンおやじはいま還暦ですが、ヘッドフォンにとり憑かれたのは14歳の時だそうですから、年季は入ってます。コレクションもかなりのもので、かの「オルフェウス」もある由。ベイヤーのバランス化もそういう経験と熱意の賜物でしょう。他にもアレッサンドロの MS1 をバランス化したりしていますし、いくつか公認のバランス化をすすめているものがあるそうです。

 それと『ヘッドフォンブック2012』英語版ですが、なんとか国内でも販売できるようにする予定だそうです。Hippo Cricri M が付録です。"M" は "Magazine" の "M" で、これ用に調整したもの。『ヘッドフォンブック2013』も英語版を出します。春のヘッドフォン祭にはたして間に合うか。間に合ったらご喝采。

 肝心の音楽も、個人的には聴きたいものがあふれていて、Sam Lee が来るというので舞い上がったり、1941年録音の日本の伝統音楽のCD復刻が国内発売されていたり、スーザン・マキュオンの新作がやたら良かったり、ジェリィ・ガルシア・バンドのライヴ・シリーズ第一弾がハイレゾ配信で出たり、もうてんやわんやです。アルタンの旧マネージャーでその前はダブリンの Caladdagh のマスターをやっていたトム・シャーロック編集の THE OTHERWORLD: Musc & Song from Irish Tradition という、CD2枚付きのみごとな本も出てます。これはあらためて紹介したいですが、アイルランド伝統音楽のなかでも、「あの世」、超自然をあつかったものに焦点をあててます。2枚におさめた計40曲のうたとチューンについて、曲とシンガー、演奏者、それに収集家もとりあげて解説したもの。有名な録音もありますが、ほとんどはこれでしか聴けません。すばらしい写真がたくさん入ってます。一家に一冊。

 今朝はまたいちだんと冷え、雪の予報も出てますが、近所では梅が咲きだしました。(ゆ)

 TouchMyApps というサイトにはヘッドフォンのコーナーがあって、セレクションも個性的ですが、内容も微に入り細を穿ったもので、読み応えがあります。その中に GoVibe Porta Tube+ のレヴューがあるのを、最近、発見しました。これはもう「銘器」といってよいかと思いますが、なかなか情報が少ないので、著者の了解を得て邦訳してみました。お楽しみください。なお、元記事には美しい写真がたくさんありますが、著作権の関係でここには載せられません。また、後ろの方に出てくるグラフも同様です。これらは元記事をご覧ください。

Big thank you to Nathan Wright who wrote the oritinal review for his kind permission to translate and put it up here.


PortaTube-iPhone2


 チープなことは悪いことじゃない。ぼくはチープなものを食べて、チープなものを着て、チープな冗談を言っている。もうずいぶん久しい間、Jaben がぼくのまわりに送ってきていたのは、チープなアンプばかりだった。大量生産品だね、アーメン。ところが Jaben はとうとう好みを変えたらしい。いずれ慈善事業にも手を出すことになるんだろう。いやその前にまずは Porta Tube+ だ。iPad/Mac 向けの真空管ヘッドフォン・アンプ兼DAC だ。ブルジョアが聴くにふさわしく、王様にぴったりの音を奏でる。

 どこの王様かって。GoVibe 王国のだよ。

スペック
24/96kHz アップサンプリング DAC:CIRRUS CS4398-CZZ (24/192kHz)
真空管:72 6N16B-Q
USB コントローラ:Texas Instruments TIASIO20B
一回の充電で使用可能な時間:7-10 時間
驚異的な音

 Jaben 製品ではいつものことだが、スペックを知りたいとなると、あちこちつつきまわらなければならない。探しものが見つかることもあるし、みつからないこともある。付属の文書類はいっさい無い。Jaben 製品が使っている DAC チップが何か、まるでわからない。オペアンプもわからない。Porta Tube や Porta Tube+(以下 Porta Tube/+)が使っている真空管の種類然り。事実上、わかることはなにも無い。(セルビアの Zastava のブランド)ユーゴかトヨタの部品を寄せ集めて作った1990年型現代(ヒュンダイ)自動車の車を買うのによく似ている。部品が何か、知っているのは販売店だけだ。ありがたいことに、Porta Tube/+ には良い部品がふんだんに使われている。もうひとつありがたいことに、Jaben はありえないようなスペックをならべたてたりはしていない。ダイナミックレンジが 120dB だとかぬかしているアンプ・メーカーはごまんとある。嘘こくのもいいかげんにしてくれ。いやしくも音楽信号を扱うのに、そんなことありえるか。負荷がかかれば、なおさらだ。

 先へ進む前に、Jaben の Vestamp を覚えているかな。あれも GoVibe だ。GoVibe は Jaben のハイエンド・ブランドだ。そして、こと音に関するかぎり、GoVibe はハイエンドの名にふさわしい。そうでない製品も少なくはないが、たいていはハイエンドと呼ばれておかしくはない。


造りの品質
 アルミ製のアンプというのはどれもこれも皆同じだ。Jaben も例外ではない。そう、前後は4本ずつのネジで留められている。ネジはヴォリューム・ノブにもう1本隠れている。マザーボードは2枚の波形の板にはさまれ、三連 three-cell の充電池がかぶさっている。

 出入力用ポートはマザーボードにしっかりと固定されて、3個のきれいにくりぬかれた穴に首を延ばしている。パワー・スイッチは形がいい。がっちりした金属製で、ぴかぴかの穴から亀よろしく頭をのぞかせる。

 全部で28個の空気穴が世界に向かって穿けられている。上下半分ずつだ。内部は熱くなるから、この穴がなくてはいられない。冬にはあまり頼りにならない懐炉。夏にはまるで思春期にもどったようになる。とにもかくにも、ちゃんと作動していることだけはわかる。

 Porta Tube に傷があるとすれば、ゲイン切替装置だ。こいつは例の8本のネジを延べ百回ばかり回さないと現われない。調節そのものは難しくはない。ジャンパ・スイッチのジャンパを隣のスロットに移すだけのこと。ピンセットか小さなドライバさえあればいい。左右は別々に調節できる。簡単すぎて気が抜ける。ただし、だ。そこまでいくには、フロント・パネルの4本のネジを回してはずし、次にバック・パネルのネジも回してはずし、そしてマザーボードをそっと押し出さなければならない。つまり、百回は回さなければならないわけだ。だいたいそこまで行く前に、バック・パネルにでかでかと書かれた注意書きを見て、手が止まってしまうこともありえる。
 「警告! 高電圧につき、中を開けるな!」
ブザーが鳴ってるだろ。こうこなくっちゃウソだよ。ホント、イタズラが好きなんだから。このブログを昔から読んでる人なら覚えているだろう。Hippo Box+ のツリ用のウエブ・サイト。中身が何もないアレ。ベース・ブーストとゲイン・スイッチの表示が裏返しになっていたヤツでもいい。ったく、笑わせてくれるぜ。

 ジャンパ・スイッチを前の位置に移すとハイ・ゲイン・モードになる。笑いごとではない人もいるかもしれない。いきなりネジ回しを握っても、バック・パネルで諦める人も出てきそうだ。それはもったいない。というのも、Porta Tube と Tube+ のパワーはハンパではないからだ。IEM を使っているのなら、あり過ぎるくらいで、ゲインは低く抑えたくなるにちがいないからだ。最後にもうひとつ障碍がある。ゲイン・スイッチには何の表示もない。初歩的な電気の知識をお持ちなら、プリント回路をたどればおよその見当はつくだろう。電気のことはもうさっぱりという方に、切替のやり方をお教えしよう。

 ジャンパ・スイッチを二つとも動かすと、ゲインは高くなる。ジャンパ・スイッチを「前」の位置、つまり、アンプのフロント・パネルに近づけると、ゲインが高い設定になる。他の位置では、すべて、低くなる。左右のチャンネルはそれぞれ独立に設定できる。左右の耳で聴力に差があるときは便利な機能だ。バック・パネルのジョークを別にすれば、Porta Tube にはイラつくところは何もない。そこにさえ目をつむれば、これはすばらしいアンプだ。これだけ注目されるのも無理はない。

 音量調節はどうかって。すばらしいですよ。つまみやすいし、動きもなめらか。目印の刻み目は暗いところでも、どこにあるか、すぐわかる。


エルゴノミクスと仕上げ
 ブラウザで Porta Tube+ の写真がちゃんと見えるか自信がない。このマシンは美しい。ケースのブルーは両端のシルバーとみごとな対照をみせる。ブルーの LED ライトに比べられるものは、少なくともポータブル・オーディオの世界では他にない。このライトの明るさはそれほどでもないが、夜遅く、暗くした部屋の中では、アンプの正面にテープを貼るか、またはつまらないミステリー小説かなにかでおおっておきたくなるくらいだ。

 いろいろな意味で、美しさというのはごく表面だけのことだ。700ドルの値段が付いているのなら、隅から隅までそれにふさわしくなければならない。フロント・パネルの文字はレーザーで彫られていて、硬化鋼のネジの頭はちゃんと削られて突き出していないでほしい。マザーボードに組立て工の指紋が着いていたり、フロント・パネルにすり傷がある、なんてのも願い下げだ。ゲイン・スイッチを切り替えるにはバック・パネルを開けるしかないのに、そこには「開けるな」と書いてある、なんてのもないだろう。GoVibe Porta Tube+ ではそういうことが体験できる。それもパッケージのうちだ。これにそれだけ払うだけの価値があるかどうかの判断はおまかせする。

 もっともデコボコはあるにしても、プラスもある。もう一度言うが、ヴォリューム・ノブのなめらかさは完璧だ。入出力のポートの間隔も十分で、でか過ぎるヘッドフォン・ジャックやケーブルでも余裕で刺せる。もう一つ、ヘッドフォン・ジャックが二つ付いているのも大きい。スタンダードとミニと二つ並んでいるから、音量を変えないまま、同じ音源を二つのヘッドフォンで聴ける。Porta Tube も Porta Tube+ も、少々のことでは動じない。中を覗けば、洗練にはほど遠いかもしれない。しかし、全体としては、Porta Tube+ はけっして口下手ではない。


特長
 バッテリーの保ち時間は7〜10時間、充電機能内蔵、6.3 と 3.5ミリのヘッドフォン・ジャックを装備し、それに、外からは見えないスイッチでゲイン調節ができる。Porta Tube も Porta Tube+ も、本来の機能でがっかりさせることはない。Porta Tube に700ドル出すことで、手に入るのは大馬力だ。Porta Tube と Porta Tube+ をもってくれば、ヘッドフォンの能率やインピーダンスは関係なくなる。バランス出力や静電型ヘッドフォン用ではないが、それはまた話が別だ。

 + が付く方は 24/96 をネイティヴ・サポートし、192KHz までアップサンプリングする。コンピュータで音楽を聴いているなら、これだけで買いだ。ヴォリュームの位置がどこにあっても、ノイズは比較的少ない。これだけで National アンプ をしのぐ。そして、VestAmp+ を上回るパワーを出力ポートに注ぎこむから、耳が痛くなるような音量で鳴らしても、ヘッドフォンの音が歪むことはない。そうそう、あらかじめことわっておく。Porta Tube の音はでかいぞ。


音質
 Porta Tube を初めて聴いたのは新宿のカレー屋だった。耳には頼りになる Sleek Audio CT7  をつけていたのだが、自分の顔が信じられないという表情になるのがわかった。Porta Tube の 3.5mm ジャックに伸ばした手は、何十種類ものアンプに何百回となくプラグを刺しこんだものだ。その手も、昔は一刻も早く音を聴きたくて、震えていた。んが、その日は別に特別な日ではなかったし、目の前のアンプに大いに期待してもいなかった。Tube+ も他のアンプと変わるところはない。最初は背景ノイズのテストだ。指がヘッドフォン・ジャックにプラグを刺しこむ。ヴォリュームをゼロに下げる。スイッチを入れる。ノイズはない。適切な音量になるはずの位置まで回す。ノイズはない。ヴォリュームをいっぱいに回す。ようやくノイズが洩れてきた。だが、聞こえるか聞こえないか。たぶん、こりゃカレーのせいだ。

 それが今年の1月。

 それから約5ヶ月後。届いたばかりのアンプを机に置き、窓を閉めきったぼくは唸ってしまった。これだけの馬力を持つアンプとしては、Porta Tube+ のノイズはこれ以上小さくはできないだろう。音量ゼロの時のノイズとフル・ヴォリュームの時のノイズの差はごくごく小さい。というよりも、フルの時の Porta Tube+ のノイズは The National が4分の1の音量の時に出すノイズよりも小さい。こりゃあ、たいしたもんじゃないか。

 IEM 専用アンプなら、Porta Tube+ よりノイズの少ないものはいくらもある。だけど、そういうアンプで 600オームの DT880 のようなヘッドフォンを、耳がつぶれるくらいの音量で、いっさいの歪み無しに鳴らせるようなものはまずない。

 これがどれほどたいへんなことか、おわかりだろう。IEM ユーザは苦労している。HiSound が作った、あのピカピカのゴミと、ソニーがラインナップしているりっぱなウォークマンのなりそこないを除けば、ポータブルの MP3 プレーヤーのノイズはどれもごく小さいから、その音の質を上げるはずのポータブル・アンプのノイズの方が大きいのだ。Porta Tube+ も例外というわけではない。けれど、音量を最大にしたときですら、ノイズは驚くほど小さい。異常なくらいパワフルだが、これを IEM ユーザにも薦めるのは、何よりもそのためだ。

 日本では、Cypher Labs AlgoRhythm Solo か Fostex HP-P1 に外部 DAC、アンプ、それに場合によっては信号スプリッターまで重ねて持ち歩いているマニアがたくさんいる。そこに Porta Tube+ を入れているいかれた人間も少なくない。

 もちろん問題はノイズだけじゃない。ダイナミック・レンジはどうだろう。それに空間表現も大事だ。Porta Tube シリーズの中域と高域はすばらしい。明るく、張りがあって、奥行が深い。これまで聴いた中では、タイプに関係なく、こんな明晰なアンプは他にない。明るいといっても、ぎらついたところや刺さるようなところは皆無だ。どこまでも透明で、解像度も高い。楽器の分離もすばらしく、ことに中域、高域ではっきりしている。フルオケよりは小規模コンボの方が位置関係がよくわかる。どんなヘッドフォンと組み合わせても、一つひとつの楽器の位置が手にとるようにわかる。ただ、中低域から低域にかけて、ほんの少し、にごる。このにごりと真空管特有の歪みのおかげで、温かくやわらかい音になる。

 このアンプはエネルギッシュで明るいという一方で、これはまた人なつこい音でもある。音楽性のとても高いこの二つの特性が合わさって、GoVibe Porta Tube の音は蠱惑的といっていい。

 明るさというのは、真空管特有の歪みにもめげず、高域がはっきりくっきりしている、というのが一番あたっているだろう。どんなイヤフォン、ヘッドフォンを刺しても、聞こえてくる音は実にきれいだ。高域を削ってしまうような信号やノイズをぼくは嫌いだというのは、このサイトをお読みの方はご存知と思うが、ぼくはとにかく高域に弱い。そのぼくにとっては、中域から高域へのつながりが完璧ということで、Porta Tube+ に比べられるものはなかなかない。マッシヴ・アタックの〈I Spy〉でのシンバルは、微妙な綾まで生々しい。音像は正確だ。頭の前方から出て、ゆっくりと包みこみ、後ろへ抜けるが、遠すぎもしない。つまり、中くらいの広さの部屋で、きちんとセッティングしたスピーカーで聴いている具合だ。焦点はスピーカーのドライバーにぴったり合っている。けれど、壁や家具からの微妙な反射が忍びこんで、ごく自然に硬いところがほぐれてるのだ。

 念のためくりかえすが、真空管特有の歪みと、中央にまとまって押し出してくる低域はむしろプラスに作用している。聞こえるのは、どこまでもなめらかで、ほんの少しやわらかく、気持ちよく伸びている音だ。インピーダンスの低いグラドでも完璧にドライブしてくれる。グラドでライヴの生々しさを感じとりたいと願っている向きは、Porta Tube をガイドに立てればまったく不満はなくなるだろう。ぼくのような、表情が豊かで音場の広い DT880 の大ファンにとっても、これはうれしい。DT880 はときどき高域がきいきいいうことがあるが、それがぐっと抑えられて、しかも他のアンプを通すよりもみずみずしくなる。デスクトップのシステムよりも官能的にすらなる。Porta Tube+ は、あまりに真空管真空管していないからだ。

 オーディオにはまりこんで20年になるが、その間に聴いたうちでは、Wood Audio WA3+ が、一番真空管らしい音のヘッドフォン・アンプだった。人なつこさではとびぬけているが、代償も大きい。持っているうちで、これで聴きたいと思うヘッドフォンは半分もない。Porta Tube はそれとはまるで正反対だが、良質の真空管アンプのやわらかい音は健在だ。

 音楽にもどろう。Protection のタイトル・トラック〈Protection〉では、低域ど真ん中のベースが重く正面に立ち、ドラム・マシンがシンプルにきざみ、まるで気のない女性ヴォーカルがのる。その後のトラックはどれも同じように始まるが、男性ヴォーカルが加わり、ベース・ラインはさらに重く低くなる。今度は気合いのこもった、コクのある女性ヴォーカルがゆっくりと入る。ジャズか、マッシヴ・アタックがプロデュースしているようで、リスナーはその魔法から逃れられない。これは、前にも書いたにごりのおかげだろうか。だとしても、それだけではなさそうだ。原因はもうどうでもいい。DT880 と組合せても、CK10 と組合せても、K701 が相手であってすら、Porta Tube はこの録音が秘めている艶をあますところなく描きだす。

 上にあげたのはどれもハイエンド・モデルだ。Sennheiser HD650、HD600、Fischer Audio FA-002W といった中堅どころも、Porta Tube に組み合わせる次点候補にちょうど良いだろう。これが高域のディテールを完璧に再現してくれることはもう一度念を押しておくが、その音はソリッドステートのアンプに比べれば、ほんの少しやわらかい。それをにごりと言うか、歪みと言うかは微妙なところだ。今あげた中堅モデルもこのアンプとよく合うだろう。ただし、これらのヘッドフォンのもつ、やや暗い、囲いこむような性格がいくらか強く出ることもあるかもしれない。

 このアンプには人を中毒にさせるところがあるから、一番のお気に入りのヘッドフォンでじっくり試聴されることを薦める。2、3分でも聴けば、いや2、3時間でもいいが、聴いてしまえば、この青くてかわいいやつを抱え、財布の方はだいぶ軽くなって店を出ることになるのは、まず確実だ。それだけの価値はある。


グラフについてのおことわり
 このレヴューにつけた RMAA のグラフには、iPod touch につないで、Beyerdynamic DT880 と Earsonics SM2 を鳴らした際の違いがあらわれている。ぼくの手許の装置で測っているから、他の装置で測ったデータと直接比べても意味はない。このデータはアンプのヘッドフォンやスピーカーのドライブ能力を示している。


周波数特性
 どんなヘッドフォンをもってきても、Porta Tube/+ は高いレベルの解像度で鳴らす。SM2 は質の劣るアンプだとありとあらゆる形の歪みを聴かせてくれるが、Porta Tube では何の悪さもできない。低域と高域の端が少し落ちているのがおわかりだろうが、これは元々の音楽信号がそうなっているので、アンプのせいではない。Porta Tube のせいで現われるような小さなレベル(-1.5dB)は、犬の耳でも持っていないかぎり、わからないはずだ。

負荷ノイズとダイナミック・レンジ
 Porta Tube+ のダイナミック・レンジは 90.5 dB で、CDクオリティに 6dB 足りない。ノイズ・レベルは −90.5 dB で、やはりCDレベルに届かないにしても、これはひじょうにクリーンだ。なんといっても真空管アンプなので、一筋縄ではいかない歪みとノイズが真空管の魅力を生んでいるのだ。

  真空管アンプのメリットのひとつはここにある。それで得られるのは安定した、気持ちの良い歪みで、しかも音源には左右されない。この歪みはやわらかいとか、心地良いと呼ばれることが多い。どちらもその通りとは思うけれど、Woo Audio 3 の場合とはわけがちがう。GoVibe Porta Tube の音は普通のアンプにずっと近く、ソリッドだ。入力でも出力でも歪みははるかに小さい。それでもリングはあるし、かわいらしいしみもあちこちにある。真空管の常として IMD も THD も高い。

スケーリング
 Porta Tube+ は VestAmp+ と同じ規則にしたがう。USB 入力からの信号が一番小さい。ポータブル音源からのライン入力は USB より大きい。デスクトップまたは AlgoRhythm Solo のような質の高いポータブルからの入力が一番大きく、ノイズも少なくなる。

 このアンプの増幅率はとてもいい。DT880 600Ω のようなヘッドフォンでも、入力がしっかりしてゲインが低いから、フェーズエラーはほとんど起こさない。ハイ・ゲインにするとフェーズエラーは増えるが、増えるのはとんでもなく大きくて危険な音量での話で、そんな音量で聞こうという人はいないはずだ。Porta Tube はパワーの塊だと言えば十分だろう。ALO の National とならんで、デスクトップのアンプとまったく遜色ない。

DAC として使う
 ここ2、3年、USB オンリーの DAC が花盛りだが、ぼくはあまり好きではない。ひとつには USB DAC ユニットの実装がライン入力のそれに比べると劣るからだ。実際、Porta Tube+ はライン入力の時に最高の力を発揮する。チャンネル・セパレーションも良くなり、ノイズ・フロアも低く、ダイナミック・レンジも広くなる。

 とはいえ、コンピュータとつなぐときには威力を発揮する。いやらしい USB ノイズはまったく聞こえない。プラグ&プレイも問題なく、MacBook Pro につないだとたんに認識される。USB モードでは、デスクトップを音源にする時より出力がかなり低くなる。IEM ユーザーにはグッドニュースだ。もっとも出力が低くなるとはいっても、これまでつないだヘッドフォンでパワーが足りないなんてものはひとつもない。

 面白いことに、USB 入力とライン入力は同時に使うことができる。ということはライン入力と USB 経由の音楽信号は Porta Tube+ 内部を平行して流れ、、同時に出力されているわけだ。どちらかだけを聴く時は、使わない方のソースは忘れずに抜いておこう。

iPad で使う
 Porta Tube+ を iPad 用 USB DAC として使うこともできる。ただ、ぱっとみて使い方がわかるというわけではない。iPad の USB から出力される電圧では Porta Tube+ 内蔵の DAC を動かすには足らない。これは内蔵バッテリーで動いているわけではないからだ。DAC を動かすには Porta Tube+ 付属の電源アダプタをつなぎ、 iPad をカメラ接続キットにつないでから Porta Tube+ につなぐ。つなげばすぐに使えるし、音も他と変わらずにいい。ただ、ポータブルにはならない。

 Porta Tube+ はデスクトップと言ってもいいくらいのものだから、携帯できないことはそう大きな問題ではないだろう。ただ、純粋なバッテリー駆動でクリーンな音が欲しい場合には、iPad では無理だ。ノートでは Porta Tube+ は電源につながなくても使える。

ポータブル・アンプとして使う
 正直言って Porta Tube/+ は相当に重い部類のアンプだ。かさばって、重くて、しかも熱くなる。それでもカーゴジーンズもあるし、アンプ・バッグも、肩掛けかばんもある。内蔵バッテリーは7〜10時間もつということは、このアンプさえ持っていれば、日中はだいたい用が足りるわけだ。おまけに背景ノイズは低くて、ヴォリューム・ノブのバランスもとれているとなると、能率のよいイヤフォンがあればばっちり、ということだ。

 実際、SM2 を鳴らしても、DT880 を鳴らしても、歪みや IMD は変わらない。何を刺しても、聞こえる音は同じだ。これができるアンプはめったにあるもんじゃない。Porta Tube+ は合わせるイヤフォンを選ばない。こいつはちょっとしたもんだぜ。

 少しばかり重くなることがイヤでなければ、ポータブル・オーディオとしては Porta Tube 以上のものはない。


結論
 ALO と Vorzuge という手強い競争相手はいるが、ポータブル・アンプとしてぼくは Porta Tube+ を選ぶ。闊達で人なつこいサウンドは、たいていのヘッドフォンと完璧なペアになるし、明るくてディテールを追及するタイプのヘッドフォンと組み合わせると、特に騒ぐこともなく、その実力を十二分に引き出してくれる。ご開帳ビデオで Jaben がグランプリをとることはないだろうが、連中はそれを目的にしているわけじゃない。目的を絞って、かれらはホンモノの、世界でもトップクラスのヘッドフォン・アンプ/DAC を生み出してみせた。見る目のあるオーディオ・マニアなら、これに目を丸くしないやつはいないにちがいない。


プラス
*とんでもなくパワフル
*すばらしく細かいディテール、やわらかいサウンド
*イヤフォンを選ばない
*色が美しい
*つなぐ装置をグレードアップすれば、それだけ良くなる

マイナス
*いただけない仕上げ
*無理難題な警告
*スペック、アクセサリー、マニュアルいっさいなし


 ということで、ご注文はこちらへどうぞ。

 あらためて、ご来場、ありがとうございました。ぼくは単なるヘルパーですが、それでもやはりいろいろな方が立ち寄られて、試していただくのは嬉しいものです。喜んでいただけるとなお嬉しい。

 今回は Jaben の目玉としては Biscuit でした。小さくて、ハイレゾ対応でもないし、派手な話題には欠けたかもしれません。ですが、デジタルでこそ可能なテクノロジーを注ぎこんで、音楽を楽しく聴ける安価なツールです。ハイレゾ対応の高音質プレーヤーが花盛りのご時世にこういうものを出してくるあたりが、ウィルソンおやじの端倪すべからざるところだと思います。

 Biscuit は本来はスポーツをしながら、とか、音楽だけに集中するわけではないシチュエーションでも音楽は欠かしたくないリスナー向けに造った、とおやじは言っています。そういう時にはディスプレイを見るわけではないし、頻繁に操作をするわけでもない。ですから必要最小限のミニマルな機能にする。だけど、音質では妥協せず、鳴らすべきものはきちんと鳴らす。

 実はウィルソンおやじの音に対するこだわりはかなりのもので、客の求めるものは別として、売るものは相当選んでいます。GoVibe を買ったのも、オリジナルの音が好きだったからでしょう。ですから、その後の GoVibe の展開でも、いろいろなタイプを試みてはいますが、音では一貫して一定の質を守っています。

 そのポリシーをオーディオ的にいえば、ローノイズでクリーン、色付けをせずフラットだけど暖かく、十分なパワーがある、というところでしょう。一番重視しているのはローノイズらしい。今回の祭で一番気に入ったのはマス工房のものだったようです。おやじが気に入っていたというので、俄然気になってきました。

 パワーといえば Biscuit はあのサイズにもかかわらず、並べて展示していたベイヤーの H5p のバランス仕様も余裕で鳴らせました。LCD3あたりで試してみたいところ。フジヤや e-イヤホンで試聴できたっけ。

 またミニマルな機能の故に、かえってリスニングに集中できるところもあります。iPod のおかげで、音楽を聴きながら、プログレス・バーが伸びていくのを見るのがあたりまえになってしまっていた、と、Biscuit を使って初めてわかりました。

 サイズもポイントで、その気になればヘッドフォンのヘッドバンドにマジックテープなどで付けることもできます。あんまりカッコよくはないかもしれませんが、iPod やあるいは AK100 や HM901 ではそういうマネはできんでしょう。

 もちろん欠点はいろいろあります。というより、一面から見れば欠陥だらけ。なにしろ再生の順番のコントロールができない、というのは正直ちょと困る。これはなんとかしてくれ、と何よりも強調したことではあります。例えば、PC側のファイル操作でアルバム単位あるいはミュージシャンやジャンル単位だけででもできるとありがたい。

 諸般の事情というやつで、今のところは Jaben のオンライン・ショップでお求めください。

 とまれ Bicuit は好評で、試聴された方はたいてい驚かれていました。

 今回はプレスの方も結構立ち寄ってくださいました。Barks の烏丸編集長も前回に続いて見えましたし、サンフランシスコから来たというトリオがオープン早々に来ました。このトリオは日系とヨーロッパ系の初老の男性二人に、髪を赤く染めたやはり東アジア系のお姉さんという取合せで、なかなか目立っていました。Phile-web の方も全部のブースを一つひとつ回られていたようです。e-イヤホンの岡田氏にもお眼にかかれました。秋葉原のお店に行ったことはありますが、姿はお見かけしませんでした。ただ、あの店は徹頭徹尾若者向けの造りで、あたしのような老人には長くはいづらいところがありますね。

 ブース以外の仕事があって、両日とも、午後、ブースからはずれたり、二日めの午前中は暇だったりしたので、他のところも試聴することができました。

 斜め後ろがコルグさんで、これから出るという新しい DAC/アンプを聴かせてもらいました。PCからDSDを直に鳴らすもので、まるで別世界。かぎりなく無色透明に近く、ヘッドフォンによってまるで音が違ってきます。ヘッドフォンの性格も剥き出しにします。音源の違いも出るでしょう。ある意味、恐しいハードです。音や音楽の本質をストレートに伝えてくる。一方で、夾雑物を削ぎおとして本質だけを抽出するところもあって、長く聴いているとくたびれるかな、とも思いました。アルバム1枚分くらいは聴いてみたい。

 サイズはコンパクトですが、本当はもっと小さくもできるそうで、ぼくは小さければ小さいほど良いと思いました。デジタルの強みの一つはそこでしょう。

 問題は Mac では今のところ事実上対応できないのと、音源のファイル・サイズが巨大になること。5.6MHz だと1GB で20分強というのでは、あたしの程度のライブラリを収納しようとしてもデータセンターが必要になります。

 まあ、あたしが聴きたい音源で DSD 録音はまだほとんど無いので助かってます。

 中村製作所の「パッシブ型ヘッドフォンコンディショナー AClear Porta」は、Elekit の i-Trans と同様のものかと思います。音は良くて、電源がいらないというのも魅力。ですが、円筒の形では、iPod などと一緒に持ち歩くのには不便。それを言ったら、即座に「わかってます、わかってます、事情があってその形になってるんです」という返事が返ってきましたから、その「事情」にはユーザー側の都合は入っていない、ということでしょう。それと9,800円という価格は高いと感じました。とはいえ、電池などが要らないというのは、長期的には安くなるかな。

 筋向いの Agara は100万円というヘッドフォン・アンプでした。試聴したのは PC で再生していたビートルズの〈Penny Lane〉。驚いたのは、この曲はおそろしく細かくいろいろなことを背後でやっていたこと。効果音というには手がこみすぎ、伴奏というには断片的すぎる音が、それも大量に入っているんですね。それが、いちいち耳に入ってきます。聴きとろうとしなくても自然に入ってくる。分解能が高いとか、もはやそういうレベルではない。すみずみまで見通しがきいて、しかもそれぞれが本来の位置とウエイトで聞こえる。凄いとしか言いようがない代物です。

 ですが、ではそのリスニングが楽しいか、と言われると、ちょっとためらいます。細部があまりに多すぎて、肝心のポールのヴォーカルが薄れてしまうのです。うたがうたとして聞こえない。細部の集合に聞こえてしまう。それぞれの細部は生きていても、全体は有機体として響いてこないのです。音はすばらしいが音楽ではない、というと言い過ぎかもしれませんが、そう言いたくなる。たとえば、ほぼ完璧に相手打線を抑えこむのだが、いつも1対0で負けるピッチャー。あるいはどんな場面でボールを受けても確実にゴール前まで持ちこむが、シュートは必ず外すフォワード。

 もちろん1曲だけの試聴では本当の全体像は見えないでしょう。そういう意味ではああいうイベントは、こういうのもあります、ということを示すためのものなのでしょう。実力は別の機会に、あるいは半年ぐらいかけて、いろいろなタイプの音楽、ハードとの組合せで聴いて初めてわかるものかもしれません。

 面白かったのはハイ・リゾリューションが出していた Focusrite の、それもメインの Forte ではなく、VRM BOX。ほんとうに掌にのせられるサイズながら、ソフトウェアとの組合せで、いろいろなタイプのスピーカーやシチュエーションの音をシミュレートするもの。本来はスタジオでエンジニアが使う機能なのでしょうが、これがなんとも楽しい。同じ音源が、いろいろな音に変わるのです。当のハードを買わなくてもシミュレーションでここまでできてしまう。デジタルの醍醐味ここにあり。むろん、DAC でもあって、すっぴんの音も立派。5,000円でこれだけ遊べるのは安い。

 Scarlett 2i4 は調子が悪くて聴けなかったのは残念。

 ゼンハイザーの発表会のために来日していた技術部門の責任者へのインタヴューに立ち合う機会があったんですが、IE800 はあまりの人気に試聴のチャンスはありませんでした。ただ、マスキング効果の対策を施したというところはたいへん興味深く、どこかで聴いてみたいです。というのも、やはりマスキング効果に注目して対策を施した音茶楽の Flat4粋を愛用していて、大のお気に入りであるからです。

 インタヴューの後で音茶楽のことを伝えたら興味を惹かれたらしく、後で音茶楽のブースに行かれて試聴し、たいへん感心していたそうです。技術は違うが目的は同じなので、音茶楽の山岸さんもゼンハイザーが入ってきたことで喜んでおられました。

 ゼンハイザーの方はやはりお好きなのでしょう、会場をひとまわりして熱心に試聴していました。ぼくは不在でしたが、Jaben のブースでは Porta Tube+ がえらく気に入ったそうで、ウィルソンおやじは最後に展示品をかれに贈呈していました。

 音茶楽の新製品 Flat4楓も試聴させていただきました。ヴォーカルや弦のなめらかさに一段と磨きがかかって、なんというか、吸いつくような感じはちょっとたまりません。ただ、粋もまだエージングが十分ではないし、今はあのカネは用意できないので、涙を飲んで見送り。まあ、粋でも滑らかさはハンパではありません。その意味では、IE800 や Ultrasone IQ の価格をみても、粋はほんとうに安い、お買い得だと思います。

 その IQ は試聴できました。Ultrasone は 2500 と iCans を入手して使っていましたが、今ひとつ合わなくて、結局どちらも売ってしまいました。けれど、IQ は良いと思います。すなおな中にもはなやかさがあって、ずっと聴いていたくなります。また、遮蔽性が高いにもかかわらず、耳の中で存在を主張しません。その点では ACS のものがこれまで一番でしたが、IQ は入っていることを忘れられます。また、社長が強調していたように、外に筐体が出っ張らず、入れたまま枕に頭を付けても邪魔にならないのもうれしい。

 ウィルソンおやじは月曜に来日して、あれこれ商談をしていて、ヘッドフォン祭は今回の来日の仕上げみたいなもの。直前には RMAF にも行き、この後は韓国、バンコックを経て帰るので、まだ途中でしょう。店舗も20を超えて、本人は、悪夢だ、と嬉しい悲鳴というところ。製品開発の方面でも、いくつか面白そうなプロジェクトがあり、次回の祭にはいくらか紹介されるのではと期待しています。

 今回は RudiStor の Rudi さんは来られませんでした。ヘッドフォンの新作 Chroma MD2 は聴いてみたかったんですが残念。ブースでご質問もありましたが、RudiStor の製品は公式サイトのオンライン・ショップで購入可能です。クレジットカードも使えます。価格は送料込みです。FedEx で送られますから、1週間ぐらいで着くでしょう。

 今回は初めてスタッフのパスをもらえるというので、開場前に会場入りしました。9時半頃でしたが、もうお客さんが並んでいました。

 お客さんでめだったのは子連れが多かったことです。これまでのヘッドフォン祭では見た覚えがありません。今回、いきなりどっと来た感じ。当然、迷子もありましたし、眠ってしまった子どもをかかえて階段に座りこんでいるお母さんもいました。次回からはこの辺の対策も必要ではと拝察します。女性だけのお客さんもさらに増えていて、そのうち臨時保育所も設けなければならなくなるかも。

 これも含めて、マニアではない、一般のお客さんも確実に増えて、客層は広がっています。

 ただ、こういう爆発的な拡大は、一方で怖い側面もあります。デジタル時代の性格の一つとして、ドーンと爆発してあっという間に消えるというのがあります。たとえば任天堂の Wii の失速などはその典型です。イヤフォンも含めたヘッドフォンとその周辺機器の世界はまだまだ規模が小さいですし、ゲーム機器よりは客層が多様でしょうから、ああいう悲惨なことにはならないような気もしますが、安心はできません。調子の良い時ほど、地道にヘッドフォンならではの魅力を伝えることに精を出すべきでしょう。メーカーやディストリビューターは、地に足のついた製品を供給することに意を用いていただきたい。

 とまれ、実に刺戟の多い、楽しい二日間でした。刺戟が多すぎてくたびれもしました。個人的には、これを受ける形で、もう少しおちついた環境で、腰を据えてあれこれ試聴した上で購入できる場が欲しいところです。今のところ、その点ではダイナミック・オーディオ5555でしょうか。(ゆ)

まずは、「ヘッドフォン祭 2012秋」で Jaben ブースにお立ち寄りいただきました皆さま、まことにありがとうございました。

 ウィルソンおやじからも、心より御礼申し上げる、とのことであります。

 今回は初めて晴れてスタッフのパスをもらいましたが、ブースの他にも仕事があり、両日ともブースからはずれている時間がありました。おかげで、初めて、少しは他の展示を見たり、試聴などする余裕もできました。

 ということでいろいろあったんですが、まだくたびれていて、個人的な印象などはまた後日。

 とりあえず、Hippo Biscuit と GoVibe MiniBox は大好評で、国内正式販売も近いか、という勢い。気になる方はフジヤエービックさんやeイヤホンさんやダイナミック・オーディオ5555さんはじめ、おなじみのお店にリクエストしてみてください。

 すぐ欲しいという方は Jaben のオンライン・ショップでどぞ。Biscuit はまったく同じサイズの Cricri とのペアで買えます

Mini Box 2012 edition

 今回は新製品は少なかったんですが、来年はまたいろいろ新しい動きもあると思います。「ブーム」に浮かれずに、地道にコツコツと楽しみましょう(笑)。(ゆ)

 ご来場、ありがとうございました。

 Jaben ブースの Biscuit はおかげさまで完売しました。MiniBox はシルバーが2個あります。

 明日は予約を受け付けます。予約された方には会場特価で販売します。

 バランス仕様の Beyerdynamic T1 と T5p については、ウィルソンおやじの提案により、小生が預り、販売した上、売上をチャリティに寄付することになりました。販売の方法、寄付先などは後日、当ブログでお知らせします。

 ちとくたびれました。明日もあるので、今日はもう寝ます。

 では、また明日。(ゆ)

 Jaben がらみでもう一つニュース。

 『ヘッドフォンブック2012』英語版が出ます。ウィルソンおやじがこの本に惚れこんで、ぜひ出したいというのでわざわざ出版部門をつくった由。あの本をまんま英語にしたものです。プラス独自記事も少しあります。

 日本語ネイティヴにはあまり用はないかもしれませんが、付録が違います。Head-Fi が David Chesky とつくったバイノーラル録音のCDが付きます。

 それにヘッドフォン、イヤフォンで英語を勉強したい、という向きには絶好の教材です。母語ではない言語を学ぶには、関心のあることを題材にするのがベストです。

 なお、今回だけでなく、これから毎号、『ヘッドフォンブック』が出るたびに英語版も出ます。次からはもう少し日本語版との時差が縮まるはず。

 刊行は12月中旬。日本で入手できるかはまだ未定ですが、各種オンライン・ショップには出るはずです。オンラインはどーしてもヤダ、という方はフジヤさんに圧力をかけてみてください(^_-)。(ゆ)

 明日、明後日の「ヘッドフォン祭」では、Jaben のブースで Hippo Biscuit と GoVibe MiniBox を数量限定で販売します。

 価格は各5,000円。

 にこにこ現金払いでお願いします。領収書発行はご容赦ください。

 Biscuit は 99USD、MiniBox は59USD が本来の価格ですから、これはもってけどろぼーの類。特に Biscuit は「原価割れ」(^_-)ですね。

 その場で試聴もできます。Biscuit はマイクロSDカードしか使えませんので、試聴したい音源がある場合はマイクロSDカードに入れてご用意ください。サポートしているサウンド・ファイルは MP3 と WAV のみです。カードのフォーマットは Windows の方が無難でしょう。Mac は Windows フォーマットのカードも読み書きできます。ウィルソンおやじは Chesky Records が出しているバイノーラル録音を入れたカードを持ってくるそうです。(ゆ)

Jaben のウィルソンおやじとファイナル・オーディオ・デザインの本社に行く。Muramasa の実物にお眼にかかる。ちょっと頭の上にのせる気にはなれない。もっともこれをベースに、はるかにユーザー・フレンドリーなヘッドフォンを開発中だそうな。そちらはヒジョーに楽しみだ。Muramasa の隣には、かの「伝説」のターンテーブル Parthenon がさりげなく置かれていた。



*「法隆寺再建・非再建論争」を、歴史家の気構えを教えられた学生時代の教訓の一つ と宮崎市定が書いている(「中国上代の都市国家とその墓地——商邑は何処にあったか」全集3所収)。この論争における非再建派の主張の基盤を、ウィキペディアは「非再建論の主な論拠は建築史上の様式論であり、関野貞の『一つの時代には一つの様式が対応する』という信念」としている。だとすれば、その「信念」は異なる言語ですべての語彙は一対一に対応する、と主張するようなものだ。こんな理屈がまかり通った背景が面白い。おそらくは「聖徳太子」の「御威光」か。


 もっとも、ウィキペディアの記事のこの記述には参照先が示されていないから、関野の名誉のために検証する必要はある。


 実物実地を重視する立場が、屢々本質を見誤るのは、実物実地という存在のもつオーラに眼がくらんでしまうからだろう。人間の認識力を信頼しすぎる、と言ってもいい。実物実地に直に接して、今自分が認識していることがすべてだと勘違いしてしまう。実物実地に接すると、人間は興奮する。その興奮がすべてで、それ以外はニセモノととりちがえる。


 実物実地は情報量が多い。時には圧倒的に多い。しかもそれがいちどきになだれこむ。人間の認識能力を遥かに超えることがある。オーバーロードしてしまう。すると、その「体験」に比べて記録は重要なものではなくなる。したがって自分の認識ではなく、記録の方が間違っている、と思ってしまう。その場合、記録が間違っているという主張には、明確な根拠はない。当人の「体験」とそれに基く認識だけである。


 これは歴史学のように時間軸上の異世界を探究する場合だけでなく、空間の中の異世界、異文化を探究する場合にもよく起きる。民族学、民俗学、文化人類学のような学問では生のデータでオーバーロードにならないような予防の方法論もできているはずだが、「趣味」の対象になると困ることがある。科学としての厳密さを求められないと、自分のココロがオーバーロードに陥っていることに気がつきにくい。個人の体験など、実はごく限られたものにすぎない。それが当人にとっては「絶対的に正しく」なる。それ以外の見方やとらえ方は「間違って」いるとして排斥する。


 どんなにささやかにみえても、ひとつの文化、ひとつの社会は個人に比べれば巨大なものだ。その前では、己の限界に謙虚でありたい。



*かみさんが読んでいるジョン・グリシャムのペーパーバックのサイズがやけに縦長なのに気がつく。比べてみると、従来のマスマーケット版と横幅は同じだが、縦は2センチぐらい長い。中身は上下もいっぱいに印刷してあるのもあれば、下に大きく余白をとっているものもある。使っている書体も違うのは、アメリカのペーパーバックにしてもいいかげんだが、概ね従来よりも字のサイズは大きい。いつ頃から始まったのか知らないし、最近新刊はまず買わないから、ベストセラーだけに限定しているのかどうかもわからないが、トレードペーパーバック以来の「発明」ではあろう。本のサイズは、表面だけ大きくなるのではなくて、厚みも出る。ということは重くもなる。コストも高くなるはずだ。なぜこういうことをするのか。


 あるいは Kindle iPad への対抗ではなのか。判型を近づけ、字のサイズも大きくする。


 紙の本はハードカヴァーが図書館向けなどの特殊なものに限られ、ペーパーバックと eBook が通常のリリース形態になると予想しているが、こういう試みがされるということは、それだけペーパーバックの売上げが減っているのだろう。



*新しく買った伝聴研の DAC がデジタル入力しかないので、MacBook Pro から光でつなぐ。すると、システム環境設定>「サウンド」で「デジタル出力」にしていても、プレーヤーで再生を始めると「AirPlay」に切り替わってしまう。Audio MIDI 設定でも AirPlay に出力が固定されてしまい、内蔵出力に切り替えることができない。Wi-Fi を切ると「AirPlay」は消えて「デジタル出力」だけになるが、ネットにつないだまま再生をしたい時には不便だ。Audirvana Plus では出力が切り替わると再生も切れてしまう。音も違う。AirPlay をオフにする方法がわからず、さんざん探しまわって、AirMac Express 本体にスイッチがあることに気がついた。AirMac ユーティリティのベースステーション設定に AirPlay のタブがある。心覚えのために書いておく。



*新 iPod touch のストラップはすこぶる便利。むしろ薄くなって、ストラップが無いと、本体をとりあげにくい。この辺、やはり使い勝手をいろいろ試してみた結果なのだろう。



*それにしても、われわれはいったいいつから、難問を前にして「逃げる人」になったのだろう。放射能の影響をできるだけ軽いものとみなそうとする人たち。原発映画という企画と聞いて「蜘蛛の子を散らすように逃げだした」人たち。ひたすら「安心」を求めるならば、かえって「安全」は得られないとわかっているのも「理屈の上」だけなのだろうか。その姿を見ていると、黒船来航後の幕府が髣髴とされてくる。(ゆ)


 前回のヘッドフォン祭でプロトタイプが展示、試聴可能になっていた Hippo Biscuit の製品版は、使い勝手は最低なのですが、あまりの音の気持ち良さに、ほとんどメイン・プレーヤーになっています。

 20時間過ぎた頃から、こちらはヘッドフォン祭で好評だった GoVibe MiniBox をつないでみました。この MiniBox は新しい2012年ヴァージョンで、Ver. 1 の約半分の厚さ、縁は丸くなってます。ヘッドフォン・ジャックからつなぎ、音量調節はプレーヤー側でする形のシンプルな「筒」アンプです。Jaben のウィルスンおやじのつもりではほとんど Biscuit 専用に造ったらしい。MiniBox のパッケージには Biscuit とヘッドフォンの間に MiniBox を置いたイラストが描かれています。

 この組合せがすばらしい。Biscuit はもともと妙に音が良いんですが、MiniBox をかませるとちょっと信じられない世界です。Biscuit は現段階では MP3 と WAV しかサポートしていません。なので、もっぱら MP3 を聴いていますが、それがまるでハイレゾ・ファイルの音になります。ミュージシャンの息遣い、楽器のたてるノイズ、ホールやスタジオ内の残響、といった、ふつう圧縮音源では聞こえないとされる音も生々しい。一つひとつの音に実体があります。音が伸び伸びしてます。無理がない。フレーズに命が流れてます。そうすると音楽の活きが良くなります。とれたて、というか、みずみずしい、というか。音場は広すぎず狭すぎず。いやむしろ、録音そのまま、でしょう。広い録音は広く、狭い録音は狭く。

 テクニックでは並ぶ者もないが、さてそのテクニックで奏でられる音楽には全然感動しない、というミュージシャンは少なくありません。それと同じで、音の良さは天下一だが、それで聴く音楽はさっぱり面白くない、というハードウェアもあります。というより、オーディオの世界ではそういうケースの方が多いのではないか、とすら思えます。ハードウェアを造るのに夢中になって、肝心の音楽を聴くことが少なくなってるんじゃないでしょうか。たとえばたまにはこういうライヴを体験されてはいかがでしょう。こういう音楽をまっとうに再生できてこそ、ホンモノと言えるはず。

 対照的に、上手いんだか下手なんだかよくわからないが、独得の味があってついつい聴きこんでしまうアーティストがいます。外見などは地味だが、ツボにはまった音楽を「楽しく」聴かせることでは無類というハードウェアもあります。

 たとえば、かつて「BBC モニター」と呼ばれた一群の英国製小型スピーカー。スペックだけ見れば「ジャンク!」と言う人もいそうですが、音楽を楽しく聴ける点では、物量を惜し気なく注ぎこんだ大型スピーカーもかなわないものがありました。

 BBCモニターも、デジタル録音のヒップホップを再生すれば、たぶんひどくショボいものになるでしょう。同じ英国製でも、レディー・ガガはどうかなあ。

 しかし、たとえばビートルズやストーンズやキンクス、アコースティック・ジャズ、デッカのクラシック録音などには無類の強みがありました。とりわけ、英国の伝統音楽、あの頃のぼくらにとってはアイリッシュ・ミュージックもその一部だった、当時「ブリティッシュ・トラッド」と呼ばれていた音楽、フェアポート・コンヴェンションやスティーライ・スパンやニック・ジョーンズやアン・ブリッグスをクォードのアンプで鳴らすロジャースの 3/5A で聴くと、独得の「翳り」がひときわ艶を帯びて、たまりませんでした。

 BBC モニターの音楽再生に関する「思想」が時代を超えた価値をもつことは、最近になって、各モデルが相次いで復刻されていることからもわかります(ロジャースハーベススペンドール)。最新の技術を注ぎこんで現代の音源再生に合わせたものもあり、また当時の製品を忠実に再現したものもあります。かつてのオーディオ・ファンの端くれとしては、こういうもので、最新のハイレゾ音源を聴いてみたくもなりますね。

 Biscuit + MiniBox の組合せも万能ではない。不得手な音楽はたぶんたくさんあります。しかし、得意なものを与えられると、どんな「高性能」なハードウェアもかなわないリスニングを可能にします。何が得意かは、組み合わせるヘッドフォン/イヤフォンによっても、リスナーの嗜好によっても変わるでしょう。ちなみにぼくがつないでいるのは、Final Audio Design Piano Forte II、音茶楽 Flat4 粋、 Superlux HD668B、HiFiMAN HE300、Fischer Oldskool '70s です。Sennheiser の Momentum でこれを聴いてみたいんですけど、まだ販売開始されてないみたいですね。しかし、実は Final Audio Design Piano Forte X で聴きたいなあ。あのみごとな音の減衰が Biscuit + MiniBox でどう鳴るか。

 では音源はといえば、たとえば、オーストラリアのシンガー・ソング・ライター、Rachel Taylor-Beales。現在産休中で、公式サイトに《LIVE AT NEWPORT UNIVERSITY 2012》という MP3 音源が上がっていて、フリーでダウンロードできます。

 マーティン・ジョセフが推薦しているだけあって、うたつくりもシンギングもギターもすぐれた人ですが、ここではチェロやもう一人の女性ヴォーカル、エレキ・ギターなどのサポートで、ゆったりとしながらも切れ味鋭いうたを聴かせます。この人の一番新しい CD も買ってみましたが、これをリッピングした FLAC ファイルを iPod touchでアンプを通して聴くよりも、Biscuit + MiniBox で聴くこのライヴ音源の方に限りなく惹かれます。スタジオが悪いわけではないんですが、演奏も音も、ライヴの方がより生き生きしています。

 試しにオワゾリールから出ている Philip Pickett & New London Consort の《CARMINA BURANA Vol. 1》を XLD で FLAC と Lame MP3 256Kbps VBR にリッピングしたものを聴きくらべてみました。ヘッドフォンは Superlux 668B。

 うん、かなりいい勝負ですね。MacBook Pro の Audirvana Plus による FLAC 再生の方が少し音場が広いかな。それに個々の音の焦点はさすがに FLAC の方がきちんと合っています。が、聴いての楽しさという点では全然負けてません。むしろ、Biscuit + MiniBox の MP3 の方がわずかですが上かも。

 FLAC 再生の環境は Reqst 製の光ケーブルで伝聴研の DenAMP/HPhone です。伝聴研のものは先日出たばかりの DAC兼ヘッドフォン・アンプです。入力は光と同軸のデジタルのみ、24/192までカヴァー。かの DenDAC の開発・発売元だけあって、さすがの出来栄え。外見はチャチですが、実力は立派なもの。製造は Dr. Three がやってるらしい。

 フルオケの試聴には例によってフリッツ・ライナー&シカゴ響の《シェエラザード》。ビクターの XRCD 盤からのやはり 256Kbps VBR でのリッピング。奥行はちょっと短かいかもしれませんが、左右はいつものように広すぎるくらいに広い。高さも十分。第2楽章いたるところでソロをとるクラリネットの音色に艶気があります。途中で曲調が変わるところ、コントラバスの合奏の反応が速い。第4楽章のトランペットの高速パッセージの切れ味の良さ! 

 いやー、聴きほれてしまいました。人なみにこの曲はいろいろ集めてますが、やはりこの演奏が一番好き。

 それにしても Biscuit + MiniBox + 668B という、この組合せはいいな。ヘッドフォンが良いのかな。70時間を超えて、いよいよ美味しくなってきました。ラストのヴァイオリンのハイノートの倍音がそれはそれは気持ちよい。

 ついでながら、HD668B は、メーカー代理店の京都・渡辺楽器が扱わないというので、本家にも相談した結果、ここから買いました。送料込みで 35GBP。

 それと音茶楽の Flat-4 ですね。メーカー推奨のエージング時間のまだ半分ほどですが、ちょっと他では聴けない体験をさせてくれます。たとえば、シンバルの音が消えてゆく気持ち良さ。そしてヴォーカルの肌理のなめらかさ。もっとも、このイヤフォンについてはぼくなどが拙いことばをつらねるよりは、こちらをお薦めします。

 もう一つ。アラゲホンジが OTOTOY で配信したライヴ《月が輝くこの夜に》(DSD ファイルにオマケで付いてきた MP3)の〈斎太郎節〉、後ろでコーラスをつける女性ヴォーカルが気持ち良く伸びます。 〈秋田音頭〉の粘度の高いエレキ・ベースの跳ね具合がよい。ヘッドフォンは HE300。Head-Direct で売っているバランス用にケーブルを交換しでます。このケーブルはバランス用ではあるものの、単純にシングルエンドのハイクラス・ケーブルとして使えます。

 Biscuit のパッケージにはマニュアルもなくて、必要ないくらいですが、一応諸元を書いておきます。

サポートするフォーマット:MP3, WAV
サポートするヘッドフォン・インピーダンス:16〜300 Ohms
充電時間:1.5時間以内
再生時間:9時間
サイズ:62.8×35.7×11mm
重さ:30g

 サイズは Hippo Cricri とそっくり同じです。

 重さ30グラムというと、うっかり落としても、ヘッドフォン/イヤフォンのケーブルに刺さっているだけで支えられます。

 マイクロ USB ポートで充電します。充電用コードは付属。

 メディアは microSD カード。32GBまで。Biscuit 自体がカードリーダーとしても使えます。なお内蔵メモリは無いので、カードから直接再生してるんでしょう。

  機能は、単純な再生と音量の増減、次のトラックに進む、前のトラックにもどる、だけ。メインのボタンを押し続けるとグリーンのライトが点いてパワーが入ります。もう一度押すと再生開始。再生中はグリーンのライトが点滅。トラックが変わるところで一瞬、点滅が止まります。再生中に押すとポーズ。もう一度押すと再生。ポーズまたは再生中に長押しするとグリーンのランプがまばたきしてパワー・オフ。曲の途中でパワーを切ると、次に入れた時、前に再生していたトラックの頭から再生を始めます。

 再生の順番はカードに入れた順、らしい。シャッフル再生はできません。何を再生しているかは、記憶に頼るしかありません。初聴きには向かないです。とにかく、ひたすら音楽を聴くだけのためのハードです。

 万一、ハングしたら、楊枝か、延ばしたクリップでリセット・ボタンを押します。ハングしたトラックから再開します。

 MiniBox 以外のアンプと組合せても、Biscuit はすばらしいです。Rudistor RPX33 + Chroma MD1 につなげてみました。音が出たとたん、言葉を失いました。そのままずーっと聴きつづけました。うーん、この組合せがこんな音を聴かせてくれたことがあったかな。お互いベストの相手には違いないでしょうが、MacBook などからつないだ時よりも音楽に浸れます。こっちの耳がグレードアップしたんじゃないか、と思ってしまうくらい。そりゃ高価なハイレゾ・プレーヤーならもっと凄い音が出るんでしょうが、なにもわざわざそこにカネを注ぎこまなくても、プレーヤーは Biscuit で十分。むしろアンプとヘッドフォンにカネを注ぎこみたい。こりゃあ、次は LCD-3 かスタックスで聴いてみたくなります。

 それでいてなのです、MiniBox との組合せにはちょっと特別なものがあります。もちろんどこにでもその音を持っていけるというメリットは大きいです。MiniBox にはクリップが付いてますから、シャツにはさんだり、バッグのベルトにひっかけたりもできます。そしてそのペアでの音のふくらみが尋常ではありません。「フルボディ」というやつでしょうか。他とのペアで音がやせているわけではないんですが、MiniBox とのペアの音はさらに中身がぎっちり詰まっています。一方で、透明度もハンパではありません。分析的ではないけれど、隅々までよく「見え」ます。だから空間も広い。そのおかげで、とにかく聴いて楽しい。音楽を聴く悦びがわいてきます。これこそがオーディオの役割ではないか。いや、これこそが理想のオーディオ・システムというものではないか、とすら思えてきます。

 今のところ日本から買えるのは Jaben のオンライン・ショップです。

 MiniBox 2012 Version はこちら。シルバーもあります。また、シャツの胸ポケットなどにはさめる形のクリップが片方についてます。

 単体で欲しいとか、英語はちょっとという方には朗報です。今週末のヘッドフォン祭にウィルソンおやじが自分で持ってきて、ブースで販売します。MiniBox との組合せもあります。また、このペアが当たる抽選会もあります。

 ちなみにこの抽選会には Jaben からもう一つ、バランス仕様の Beyerdynamic T1 も提供されます。

 従来のオーディオの愉しみに、高い価格に代表される「価値」をそなえたモノを所有する、という物質欲を満たす面があることは否定しませんが、それはやはり二次的な愉しみでしょう。オーディオはまず何よりも、音楽を聴くための手段であるはず。アナログでは質を高めるためには物量を投入する必要があったかもしれませんが、デジタルでは様相が逆転します。小さく、安価で、能率が良く、しかも質が高いシステムが可能になる。その可能性はちらちら見えていますが、まだ本格的な展開に手がつけられていない。アナログの発想から抜けだせていないように見えます。

 まあ、ものごとの変化は一様に進むわけではなく、変化の小さい長い準備期間の後に急速に大きく進むというパターンが多いですから、今はまだ準備中なのかもしれません。本物の変化が始まるのを見たい、体験したいものですが、生きているうちに始まってくれるかな。

 それにしても、Biscuit が FLAC とギャップレス再生をサポートしてくれたら、もう iPod も要らないな。(ゆ)

*部屋の整理・掃除をしていて、フロッピーディスクがまとまって出てきた。ノートン先生の起動ディスクとか、古いバックアップとか。VZ Editor のパッケージなんて懐しいものもあって、センチメンタルになる。98時代には実によくお世話になった。もっとも、急ぎの仕事をこれでしていて、夜中の3時頃、ふと気がつくと、それまでにやった分がメモリからごっそり消えていたことがあった。どうしてそうなったのか、後になってもさっぱりわからず。それで怖くなり、「章子」や「知子」に移行したりもしたのだが、結局 Mac に転んだのだった。ヴィレッジセンターは解散してしまっていたが、テグレットは健在のようで、嬉しくなる。


*コーヒー豆を切らしてしまって、緊急避難的に近くのタリーズで買った豆が結構おいしい。安くはないが。


*新 iPod touch が着いて、新しい EarPods を試している。想像以上に良い。

 デフォルトのミュージック・プレーヤーで聴くと、中高域寄りになる。エージングで変わるか楽しみだが、Hippo Biscuit + GoVibe MiniBox で聴くと低域もしっかりするから、これはデフォルトのプレーヤーのキャラかもしれない。というよりも、デフォルトのミュージック・プレーヤーとの組合せのキャラだろう。オーディオは「システム」なので、単独で評価しても無意味だ。ソフトとハード、ハードとハードの組合せでとらえるべきだろう。

 Hippo Biscuit + GoVibe MiniBox のペアについては別項に書く。ハイレゾ再生可能な高価なミュージック・プレーヤーが花盛りだが、その流れに逆行する、安くて(100ドル)、小さくて(マッチ箱、って死語?)、軽くて(30グラム)、しかし魔法のツール。MP3音源をまるでハイレゾのように聴かせてくれる。

 EarPods で最初に聴いた西海孝の《空を走る風のように、海を渡る波のように》は中高域に偏った録音で、どんぴしゃにはまる。西海氏の声もテナーで、EarPods はまるでこの声のために造られたようにうたってくれる。一曲だけのつもりが結局最後まで聴いてしまった。ニール・ヤングの声も合う。かれのギターのざらりとした感じもよく出る。ただ、全体に中高域寄りになるから、日本語ネイティヴのリスナーには物足りないところもある。

 もっともフルオケではチェロやコントラバスもちゃんと聴かせる。いつも試聴につかうフリッツ・ライナー&シカゴ響シェエラザード》。空間も広いし、位置関係も正確だし、音域も十分で、やはり聴きほれてしまう。

 これらは Apple Lossless か AIFF のファイルだが、iTunes Store で買った Show of Hands の〈Witness〉のシングル版も楽しく聴ける。どこかS/N比が良い感じがするのは面白い。

 録音の良し悪しをモロに現す性格もあるようだし、単独で買ったイヤフォンやヘッドフォンと同じく、正面から扱う資格はある。

 Apple はこれまで、デフォルトのハードやソフトの質は「寸止め」にして、本当に良いものを造るサードパーティの背中を押してきた。この EarPods はデフォルトのレベルを一段、いや二段ぐらい上げて、もっと良いものを造ってみろ、と言っているようだ。生半可なものなど、造っても売れない。なにせ、これだけのクオリティのものがプレーヤーに付属してくるのだから。

 外に出ると、Apple デフォルトのイヤフォンをそのまま使っている人は結構眼につく。そのたびに、あ〜あ、イヤフォンを変える(例えば Final Audio の Piano Forte II は値段がほぼ同じ)だけで、遥かに楽しい音楽体験ができるのに、と思っていた。しかし、これからはこれがデフォルトとなると、いや、それで十分ですよね、とつぶやくことになるだろう。


*その新 iPod touch のメールの受信がデフォルトで「プッシュ」になっているのはいただけない。サーバに残っているメールを何度も受信してくれるので、いちいち消さねばならない。


*ソフトバンクの Sprint 買収に関して、日本のキャリアの海外進出のメリットとして、基地局建設のノウハウの輸出があげられてたが、発想が逆だろう。日本のように狭い国土と複雑な地形と既存インフラがあるところなら基地局を多数つくるのもありだろうが、ぐろーばる・すたんだーど的には基地局なんぞカネばかりかかって何のメリットもない。みな、通信衛星を使っている。NTT の海外事業関係の部署にいた友人の話では、海外ではずいぶん昔からもう電信柱なんぞ立ててはいない。東南アジアなどでも衛星の方が遥かに安上がりだし、早い。後発は先発が踏んだステップをすっとばすのだ。エジプトのアラブ・ポップスの急速な展開は、衛星放送のおかげ、という話もあった。地上のインフラを造る手間暇とコストがペイしたのは、せいぜいが20世紀までの話なのだ。

 だから孫氏がめざしているのは、衛星を使った地球規模のネットワークのはずだ。国内だけではコストばかりかかる基地局で競争しなければならないが、全地球規模なら衛星を導入する大義名分もたつし、カネも注ぎこめる。自社専用の衛星を打ち上げることだって不可能ではなくなる。というより、そもそもそれが狙いの一つだろう。

 当然、これで終わりであるはずがない。これからどんどん、買収、合併、提携をしかけてゆくはずだ。それも北米やヨーロッパだけではない他地域、中南米やアジア、アフリカの通信会社も対象とするだろう。もう一つの買収先として名のあがった MetroPCS はドイツ・テレコムも買収計画を発表している。

 基地局を建設維持する必要が消えれば、国内の他社など完全に追いてけぼりにできる。というよりも、そうしなければ、グローバルな展開はできず、縮小するパイを奪いあうはめになる。相手は世界だ、国内業者など相手にしていては、遅れてしまう。孫氏にはそういう危機感が強いにちがいない。国内他社の経営者たちとは、たぶん見えている風景が違うのだろう。


*抗がん剤の摂取をやめてからふた月めに入って、だいぶ体が軽くなった。が、足先の痺れがまだ残る。これが消えると一緒に、あちこち出るかゆみもなくなってくれるといいのだが。(ゆ)

ヘッドフォン祭の記事でも書いたように、GoVibe Porta Tube と Porta Tube+ では、内部のジャンパ・スイッチによってゲインを下げることが可能です。

    
    その方法を Jaben のウィルソンおやじから教わりました。
    
    「危ないから開けるな」とわざわざ印刷してあるくらいですから、感電などならさぬよう、よくよくご注意のほどを。開けただけで保証がなくなるとは思えませんが、自己責任ということでお願いします。
    
    
    まず必要な道具ですが、トルクスのドライバーです。サイズは T6 です。トルクスは登録商標の由で、自転車方面などではヘックスとか、アレン・キーとか呼ばれているそうです。Mac で内蔵ハード・ディスクの交換をしたことがある方は使われたと思います。ホーム・センターなどで手に入ります。ヘッドフォン祭の会場では Jaben は先端が交換できる方式のものを使ってました。
   
    前後のパネルを止めている四隅のネジをゆるめて抜き、パネルをはずします。
    
    ヴォリューム・ノブが邪魔でしたら、ネジをゆるめるとはずれます。
    
    後ろからプリント基盤を押して、基盤を前に出します。すると真空管のうしろにジャンパ・スイッチが見えてきます。
   
    下の写真では真空管と緑色のバッテリの間、赤い素子の上に見えます。
   


IMG-20111105-00352

    
    Porta Tube と Porta Tube+ では、ジャンパ・スイッチの位置は同じですが、向きが違います。
    
    ゲインを下げるには、

    Porta Tube ではジャンパを右に移します。
    
    Porta Tube+ ではジャンパを下に移します。


PortaTube Low Gain Setting

    
    スペックとしては 6dB 下がるそうです。
   
   
    お楽しみを。(ゆ)

13時過ぎに会場に着いたら、エレヴェーターの中でウィルソンおやじにばったり。そのままブースに引っぱっていかれて、結局18時半のクローズまでつきあうことになりました。挨拶と試聴だけで帰るつもりだったんですが、会場の熱気にあてられたか、結構元気をいただいて、会場にいる間は楽しかったです。が、家に帰りついたらほとんど寝床に直行。やはり大勢の人と話すのはくたびれます。ブースで素人の相手をしてくださった皆さまには御礼申し上げます。ありがとうございました。
    
    今回は前回の Porta Tube のようなセンセーションはありませんでしたが、新製品ではやはり平たい GoVibe Vest が人気でした。DAC 付きと無しとあり、やはり音が違うようですが、ありが良いという方、無いが良いという方、双方がいらしたのは面白かったです。DAC は 24/192 まで対応で、価格は DAC 付で3万以下ですから、結構お買い得ではないかと思います。
    
    Porta Tube ユーザの方も結構いらして、人気の高さを実感しました。Porta Tube+ は DAC を付けた他、アンプ部は Porta Tube とまったく同じだそうですが、ただゲインを下げているそうです。プラスの方が音が良いと思われる(ぼくだけではなく、何人かいらっしゃいました。)のはそのせいでしょうか。
    
    プラスでは、中を開けてジャンパ・スイッチを切り替えることでさらにゲインを下げられます。では Porta Tube はどうしようもないのかというとさにあらず。このジャンパ・スイッチはすでに搭載されているので、Porta Tube もこれを切り替えることでゲインを下げられます。その方法は別記事に書く予定。
    
    本体には、危ないから開けるな、と書いてありますが、ブースでも開けた状態の Porta Tube を展示してあったくらいですので、開けたら保証がなくなるというものでもないでしょう。
    
    ACS の新製品 T15 も、気軽に使えて音が良いというので、なかなか人気でした。ER4 と比べられますが、あちらは「音」を聴く装置、これは「音楽」を聴くツール、とおっしゃった方がいて、なるほど、と思いました。ウィルソンおやじによれば、国内での正式発売が決まったそうです。めでたい。
    
    イヤフォンではもう一つ、5ドライバのIEMの試作品も持ってきていました。後半はどこか切れるかしたか、調子が悪かったようですが、午後のはじめに試聴された方には好評でした。ドライバの構成は2ベース、1ミドル、2ハイの由。
    
    なお、今回展示してあったものは Porta Tube と Porta Tube+ を除き、どれもまだ試作品段階で、これから細かい調整をするそうです。それでも来月には発売とのことで、国内に入ってくるのは来月後半から12月はじめぐらいでしょうか。
    
    Porta Tube+ だけはすでに発売になっており、国内でももうすぐ発売になるそうです。価格は Porta Tube の150USDプラスとのことですから、6万円代半ばというところでしょう。DAC だけで150ドルというのはやはり結構良いものを使っていると思われ、実際、ウィルソンおやじの MacBook Air で試聴された方には好評でした。
    
HippoPipe    個人的には Hippo Pipe が今回のヒット。たぶん世界最小のヘッドフォン・アンプ。E3 のようにイヤフォン・ジャックから直接つないで、プレーヤー側で音量調節します。すでに発売されている Hippo Box+ と同じ傾向の、元気の良い音で、聴いて楽しくなります。ハイレゾ音源をどうとかでなく、ヘッドフォン・アンプの入門とか、iPod Shuffle などでMP3音源を気軽に聴くにはもってこいでしょう。

    もう一つ、英国のメーカー JustAudio という、A級動作のヘッドフォン・アンプもウィルソンおやじが持ちこんでました。写真はフジヤさんのブログにあります。大きい方はイヤフォン/ヘッドフォンのインピーダンス切替ダイアル付き。 Porta Tube よりもデカくて、重さも同じくらいという、ポータブルとしてぎりぎり限界ではないかと思われるものですが、ブースに来られたなかに3人、これを持っている方がいました。国内では未発売なので、直接に買われたもの。中のおひとりはシリアル番号が2番というツワモノでした。ちょっと聞いたかぎりでは小さい方がきびきびした音で買うならこちらかなと思いましたが、じっくり聴きたいものであります。

        体力が無いこともあって、会場を回ることもしなかったのですが、ウィルソンおやじが引っぱってきてくれた音茶楽さんの「革命的」イヤフォン、フジヤさんのブログで紹介されていたアレをちょっと聴かせていただきました。これは凄いですね。とてもイヤフォンとは思えない。こういう音がスタンダードになれば、音楽の聴き方もまた変わるのでは、と思ってしまいました。ぜひ量産化していただきたいものです。応援します。
    
    女性のお客さんはやはり少なくて、来場者が増えたこともあるのか、10対1ぐらいに見えました。たいていはカップルで、単独で来られていた方はごく稀でした。一人、カスタムIEMの交換ケーブルを探しにこられた方がいました。
    
    放射能にもかかわらず、今回はこれまでになく外国からのお客さんが目につきました。出展側ではなく、ほんとうのお客の方です。Head-Fi 関係からも主催者はじめ幹部が何人も「遊び」に来ていたそうで、Moon Audio の主催者もいました。大陸や台湾からはこれまでにも出展者の他にプレス関係が来ていましたけど、アジアからのお客さんは、見分けがつかないこともありますが、どうなんでしょう。
    
    これでぼくが見たのは4回目ですが、お客さんの「濃度」がだんだん濃くなる気がします。フルサイズのヘッドフォンをジュラルミン(?)のケースに入れて持ち歩いてる方もいましたし、カスタムIEM はもうデフォルト、接続コードもそれぞれに凝って、と感心するばかり。
    
    イベント全体としても、最先端を示すことはもちろん意味がありますが、たとえばこれからヘッドフォンやイヤフォンをアップグレードしたいという人や、DAC やポータブル・アンプを買おうという方が来ても、何がどうなっているのか、まるでわからないのではないか、とも思いました。
    
    来年の春の次回ヘッドフォン祭には、放射能ももう少し収まって、こちらの体力ももう少し回復して、楽しめますように。(ゆ)

今日のヘッドフォン祭ですが、先週の抗がん剤投与の後遺症がまだ尾を引いています。Jaben のブースで MacBook Pro を持ちこんで GoVibe Porta Tube+ の DAC の試聴ができるようにする予定でしたが、体力が保ちそうにありません。楽しみにされていた方がいれば申しわけないのですが、それは無しにさせてください。
    
    ぼくがいなくても、Porta Tube+ 単体の試聴や ACS T15 の試聴はできるはずです。T15 は他でも試聴できるかもしれません。これはほんとうに凄いです。一聴の価値はあります。というより、必聴でしょう。他にもいろいろ面白そうな製品があります。
    
    お楽しみを。(ゆ)

Jaben のウィルソンおやじが今週末のヘッドフォン祭に持ってくる新製品はまだある模様。たとえばこれ。

jaben111021



























    E7キラー、ですかね。写真だけで詳細不明。Jaben のブースで試聴できるはず。
    
    FiiO も新製品が次々出ますなあ。オヤイデさんもたいへんでしょうけど、国内でもどんどん出してほしい。(ゆ)

ぼくが受けている Folfox という化学療法は本来は2週間に1度、つまり1週間おきに点滴を受けます。そうすると9回目ぐらいになると手足の痺れが耐えられなくなり、メニューを変更する由。ぼくは3週間おきという、ゆるいスケジュールもあって、当初のメニューで「順調」に進んでいます。前回から処方された、痺れをとる漢方薬も比較的効果があり、痺れの方はそうきつくならず、手足の指先に留まっています。こういうものにも人間は慣れることができるらしい。痺れは常にありますが、気にしないようにすれば一時的ですが忘れることもできます。
    
    それでも回数が重なってくると薬が蓄積されてきて、副作用も強くなるようです。今回は吐き気が来ました。
    
    点滴を受けはじめる水曜日の朝から3日間、イメンドという吐き気止めの薬を飲み、また点滴の最初に投与されるのは吐き気止めの薬です。そのおかげもあって、これまではせいぜい病院の食事を食べる気になれないくらいでした。
    
    今回は2日めの木曜あたりから軽いものではありますが明確な吐き気が出て、土曜日までそれが続きました。病院では食慾はまったくありませんでした。食事が出るとほとんど無理矢理食べものを口に入れます。すると腹は空いているので、食べはじめると結局勢いで全部食べてしまいます。病院食ですから量も多くはありません。それでも3日め金曜の朝食、点滴入院中病院でとる最後の食事ですが、口に入れるには「努力」が要りました。
    
    日曜日には空腹時には吐き気は感じなくなりましたが、腹に食物が入ると吐き気まではいかない不快感が出てきます。
    
    また、退院してから出てくるダルさもこれまでになく重いものでした。倦怠感と書くとこの重みが抜けおちる気がします。
    
    帰宅後は好きなものを食べられるわけですが、塩味の強いもの、酸味のあるものが食べたくなります。漬物などが嬉しいので、白菜のゆず漬けなど、一袋買ってきて1度に食べてしまったりします。醤油味の煎餅も、もともと好物ですが、無性に食べたくなる。今回は思いきって寿司を食べてみました。寿司飯の酸味がありがたかったです。
    
    今日で点滴開始1週間ですが、まだ入院前の状態にはほど遠い感じです。3日間飲むイメンドはそれによって1週間効果が続くそうですから、明日あたりは不快感も軽くなってくれるかと期待。
    
    病院ではほとんど眠っていました。眠ろうとするといくらでも眠れます。また水曜日の夜はトイレに起きるごとにその後1時間ぐらいは眠れないので、木曜日の昼間は眠い。この点滴には利尿剤も入っているそうですし、またイメンドが便秘を引き起こすので水分をなるべく多くとるようにしていますから、尿の量はハンパでなく増えます。多い時には30分ごとにトイレに通います。夜間も21時の消灯から朝6時の検温・血圧測定までの間に、最低2回、たいていは3回トイレに起きます。24時間に出る尿の量も計ります。ぼくの場合、これまでのところ4,000cc前後。
    
    それでもさすがに眠くないときもあるので、そういう時には持っていった ACS T15 + GoVibe Porta Tune+ で音楽を聴いていました。これはまことにありがたかった。
    
    この組合せはたまたま手元にそろったので試してみたわけですが、どんぴしゃにはまりました。詳しくは別に書くつもりですが、もともときわめて高い T15 の性能が Porta Tube+ で文字通り増幅されて、楽園に浮かんでいる気分。音楽が鳴っている間だけは何もかも忘れて没入できました。
    
    T15 はサウンドステージがとんでもなく広くてステージというよりスペースと呼びたくなるほどである上に、分解能が高いというのでしょうか、ディテールがそれぞれ適切なヴォリュームで明瞭に聞こえます。フルオケのマッスになっても、フルートのような楽器の音も埋もれることがありません。一つひとつの音に芯があります。
    
    またヴォーカルの表現が精密で、録音によってはうたい手の唇だけでなく、舌の動きまで見える気がします。コーラスでは一人ひとりのうたい手の声がはっきり聞こえるまま、しっかりハモっています。しかもハイレゾでなく、MP3音源でも変わりません。Jaben のウィルソンおやじは「オーディオの救世主」と呼んでいますが、そう呼びたくなる気持ちもわかります。
    
    今週末のヘッドフォン祭では試聴機も用意されるとのことなので、ぜひぜひお試しあれ。
    
    久しぶりにジョン・ドイルのソロ・ファースト《Evening Comes Early》を聴きましたが、ジョンのギターがいかに緻密か、あらためて脱帽しました。それに、ジョンとカラン・ケーシィのハーモニーの妙。
    
    新発見では Mamia Cherif という人の最新作《Jazzarab》が面白い。この人はパリ在住のシンガーですが、出身はマグレブらしい。ここではタイトル通り、ジャズのコンヴェンショナルな語法を守りながら、アラブ音楽の風味を加えています。〈My favourite things〉をアラビア語でうたったり、〈Afro blue〉にアラビア語の歌詞を付けたりしていて、これも面白いですが、ギターの代わりのウード、それにアラブ的フレーズを展開するヴァイオリンが良い味。同時にジャズの本流に従うピアノもよくうたっています。
    
    音質と音楽自体の良し悪しは比例しませんが、良い音で聴くとやはりいろいろと発見があり、新たな体験ができます。何よりそれはそれは気持ち良くなります。背筋を感動の戦慄が走りぬけるたびに免疫力が上がる気がします。
    
    今週末のヘッドフォン祭までにはなんとか回復したいところ。同じく週末の下北沢の音樂夜話特別イベントも気になりますが、先週の経験からも、連チャンは無理でありましょう。(ゆ)

今月末のヘッドフォン祭にはまた Jaben のウィルソンおやじがやって来ます。毎回、新製品をたくさん持ってきますが、今回はまた一段と多彩です。どれがどれだか、わかりにくくなるので、整理しておきます。ただ、まだあまり情報が無いので、濃淡のある紹介になるでしょう。それと価格もまだわかりません。
    
    新製品の写真はここにまとめられています。

    これは Jaben のオーストラリア支社がアメリカのロッキー・マウンテン・オーディオ・フェスティヴァルに出品するもの。RMAF はちょうど今開催されているところです。ここ数年、各社が力を入れている新製品を披露するので注目が高まってるようですね。
    
    新製品はいずれも GoVibe のブランドで、全部で5機種あります。
    
    GoVibe Vest
    GoVibe Volante
    GoVibe mini U-DAC
    GoVibe mini box amp
    GoVibe Porta Tube+
    
    まず、Vest は御覧のように平たいアンプで DAC 付きと無しと出るそうです。DAC は 24bit/192KHz までのもの。全体としてはシンプルに出入力とヴォリューム・ダイアルだけ。今回出るものはどれもそうですが、ゲイン切替とか、ベース・ブーストとかは付いてません。それだけ、音に自信があるとも言えます。
   
    次の Volante は小型のデスクトップ真空管アンプ。名前はサッカーの「ボランチ」と同じですが、もともとは音楽用語で「あまかけるように速く軽やかに」という意味。そういう音は聴いてみたい。
    
    形もキュートで、ちょっとオーディオ・デバイスらしくないですね。これでパステルかメタリック調のカラー・ヴァリエーションが出たら、人気が出るんじゃないでしょうか(^_-)。
    
    真空管を使ったものは Jaben では Porta Tube が最初ですが、あの出来栄えの見事さからすると、このデスクトップも音の面でも大いに期待できます。
    
    U-DAC は DenDAC と同じく、USB端子付きのDAC兼アンプです。DenDAC は音は良いですが、ハイレゾ対応していないし、プレーヤーによって合わないものが出てきているので、これに替わるものができないかと頼んだらほんとに作ってくれました。詳細はまだわかりませんが、少なくとも 24/96 までの対応ではあるはず。
    
    mini box amp は FiiO E3 と同じ形ですが、リチウム電池内蔵で、聴いた人間は皆 E3 より音が良いと言ってるよ、とはおやじの言。造りもよりかっちりしています。
       
    一番下の Porta Tube+。これが今回の一番の目玉でしょう。Porta Tube にDACが付きました。チップはテキサス・インスツルメント製ですが、それ以上詳しいことはわからず。24/96までの対応です。
    
    実は先日からサンプルを聴かせてもらってますが、これが単純に Porta Tube にDACを付けただけではありません。
    
    一つはゲイン切替が可能になりました。ただし、中を開けてジャンパ・スイッチで行います。音量を6dB下げることができます。
    
    そしてもう一つ。アンプ自体がアップグレードされてます。これは聴けばすぐわかるくらい、音が良くなってます。サウンドステージがさらに広く深くなり、音の分離がさらにクリアに自然になり、とにかく全体的にブラッシュアップされてます。
    
    Porta Tube だけを聴くと、もう十分なくらい良質の音で音楽に没頭できます。これも質は相当高いでしょう。お披露目した前回のヘッドフォン祭の会場でも iQube より上という声もありました。iQuebe は一度アキバのダイナで試聴したことがあるだけですが、その記憶は鮮烈に残っています。その記憶に比べても、Porta Tube は優に肩を並べるか、場合によっては、つまり聴く音楽によっては凌ぐと思ってました。
    
    Porta Tube+ は、それをあっさり超えてると思います。iQube には独得の艶、エロティックと言いたくなる艶があって、蠱惑的とも言えますが、時にそれが鼻につく、というか耳につくことがありました。Porta Tube+ はそういう艶はなく、音源に入っているものに「何も足さず、何も引かず」にそのまま出してきます。その出し方の質感が絶妙なのです。無色透明にかぎりなく近い。完全に無色透明ではないですが。
    
    各社の製品と比べたわけではないですし、iQube も新版が出ますが、ぼくはもうこれ以上他には何も要らん、という気持ちです。
    
    外観も変更になって、フロントとエンドのパネルはシルバー、ヴォリューム・ダイアルは黒、本体はブルーです。このブルーは Vulcan+ のものと同じ、群青色に近い色。それと、本体上側の通気孔のあいている部分は、Porta Tube では一段低くなっていましたが、+ では他と同じ平面です。USB入力はミニ・ジャックで、背面にあります。その他はサイズも含めて変更無し。
    
    細かいことですが、ぼくの使っている Porta Tube のヴォリュームはやや軽すぎるところがありました。個体の問題かもしれません。Porta Tube+ のヴォリュームは適度に重く、調節がしやすいです。
    
    せっかくですので、MacBook Pro を持ち込んで、会場でDACも含めた試聴ができるようにする予定です。ハイレゾ音源も少しですが、用意します。(ゆ)

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