Date: 2021-03-05 金曜日
陰暖。
 日付が変わってから楽天で山尾悠子『山の人魚と虚ろの王』などいろいろ注文。

山の人魚と虚ろの王 [ 山尾悠子 ]
山の人魚と虚ろの王 [ 山尾悠子 ] 

 昨夜、よく眠れなかったので、散歩はやめて仕事に精を出す。

 C. S. E. Cooney, The Witch in the Almond Tree を読む。これはエロティカと作者が呼ぶ。ポルノとの違いはと言えば、セックス描写そのものが目的なのではなく、物語の本筋は別にあり、セックス描写はその物語を語るために必要なもの、としておこう。ただしセックス描写は作品の読書体験の大きな部分をなす。謝辞によれば、こうしたエロティカはオンラインの自己出版の初期に多く出てきたそうだ。普通のルートでは出せない作品を出すための方便でもあるのだろう。そういう作品は作家が愉しみとして書くことが少なくない。ここでの濡れ場もなかなかに愉しい。作者も愉しんで書いているのがわかる。 

The Witch in the Almond Tree : and other stories (English Edition)
Cooney, C. S. E.
C. S. E. Cooney Presents
2020-10-23

 

 半村良の『石の血脈』や、あるいは一時期の夢枕貘、菊池秀行などの伝奇ものはエロティカと呼べるだろう。こうした伝奇ものではセックスと並んで暴力の提示も娯楽の重要な要素だが、クーニィは暴力描写にひるまないにしても、話の本筋に必要なもの以上には書かない。もっとも彼女の描く暴力は物理的なものよりももっとおぞましい形をとる。

 アーモンドの樹というのはどんなものだろうと思って見たら、梅や李に近いそうで、花が咲いた樹は遠くから見ると桜や梅によく似ている。これがたくさん集っているところは花の時期には壮観だろう。

 暴力抜きのセックスを出すとなれば話は必然的にラヴ・ストーリーになる。ここでの愛情関係は二重三重にからみあっていて、相手には死者や亡霊も含まれる。もっともこの話自体は手法を変えれば大長編にもできるものをさらりと軽く書いているところも魅力の一つだ。

 濡れ場のあるラヴ・ストーリーといえばパラノーマル・ロマンスはその最たるものだが、こういうエロティカの場合は話の本筋がロマンスそのものとは別にあるということだろう。まあ、パラノーマル・ロマンスもマーケティング上の分類、売り方の問題なので、話の中身で厳密に分ける必要もない。パラノーマル・ロマンスも、30代後半独身のヒロインとハッピーエンドの鉄則以外は何でもありで、濡れ場がウリではないものもあるし、今は多様化で中心のカップルも異性同士とはかぎらない。そういえば、このクーニィの話にもトランスジェンダーの要素がある。

 それにしてもクーニィはどれを読んでも愉しい。