クラン・コラ・ブログ(アイルランド音楽の森)

 アイリッシュ・ミュージックなどのケルトをはじめ、世界各地のルーツ音楽を愉しむブログです。そうした音楽の国内の音楽家も含みます。加えて主宰者の趣味のグレイトフル・デッド。サイエンス・フィクション、幻想文学などの話もあります。情報やメモ、ゴシップ、ただのおしゃべりなどもあります。リンク・フリーです。

タグ:ギネス

 Facebook には書きましたが、ここは今、Facebook と連動していないので、おおしまの個人的な宣伝をさせてください。

 2つあります。一つはシンコーミュージックのムック『フェアポート・コンヴェンション』に寄稿しました。アシュリー・ハッチングス関係とフェアポートのアルバム解説の一部です。世界で初めて活字になったものなど、インタヴューがたくさん収録されているので、買って損はないでしょう。


 これを書くために久しぶりにあれこれ関連のを聴きなおしたり、新たに買って(ギャラよりた〜か〜い資料代)聴いたりしましたが、やはり偉い連中だとの想いを新たにしました。〈Tam Lin〉や〈Matty Groves〉はバラッドを現代にどう歌うかのお手本として、リスナーはもちろん、歌ったり演ったりする方にとっても大いに参考になると思うし、〈Flatback Capers〉でのホーンパイプの処理は、躍動感にあふれることではいまだにこれを超えるものは無いんじゃないか。これをロック・バンドがやったというのは凄いことだけど、あるいはロック・バンドだからできたのかもしれません。といって、並のロック・バンド、たとえばゼペリンには到底不可能なことも確かで、これ1曲でフェアポートは現代音楽の歴史に名を刻んだといってもいい。

 それにしてもサンディ・デニー。ルーカスがもう少ししっかりしていたら、とどうしても思ってしまいます。あるいは他に男はいなかったのか。いや、たぶん、もの凄く手のかかる人間だったろうことは推測もつきますがね。生き延びてさえしていたら……。

 もう一つは以前訳した『ギネスの哲学』の電子版が出ました。


ギネスの哲学 ― 地域を愛し、世界から愛される企業の250年
スティーヴン・マンスフィールド
英治出版
2017-10-06



 皆さま大好きなギネスの歴史ですけど、あたしが言うのもなんですが、面白いです。ギネスって、今は合併ででかくなっちゃってますけど、20世紀半ばまで家族企業で、しかも事実上「ギネス」という唯一の商品しか売っていない。それで世界企業になっちゃった。なんで? とは誰しも思うところでしょう。他のものは、ビールとかスタウトとかの銘柄の一つですが、ギネスだけはギネス。これも不思議。

 それとアイルランドの酒なんだけど、大英帝国の飲物にもなっちまった。帝国の端っこのヒマラヤの麓でギネスの壜をみつけて「故郷の味」だと大喜びするイギリス人の話も出てきます。ギネス家はもちろんプロテスタントですけど、ギネスはアイルランドでもブリテンでも、信仰に関係なく、好まれた。これまた不思議。

 それだけでなく、この会社はただ金が儲かりさえすりゃいい、という近頃の風潮とは無縁で、稼いだカネをどう使うかという点でも実に先進的。というよりも、カネってこういう風に使うために稼ぐんだよな、と思わされる。あるいは、儲けたカネの使い方のお手本、というべきか。カネというのは、儲けるだけでは人間をダメにする。儲けたカネはこうして世界をベターにするために、みんなが暮らしやすくなるように使って初めて儲ける意義があるのだとわかります。こういう本を読んでから呑むとギネスは一層旨くなるのですよ。

 もう過ぎちゃいましたが9月24日はギネス創業者のアーサー・ギネスの誕生日で、毎年、世界中のギネスを売ってる店ではお祝いがあるらしい。今年はギネスの醸造最高責任者が来日して、いろいろ実演するらしいです。この本もそれを祝って期間限定で3割引きになってます。どうぞ、買うてくだされ。年越しできるかどうかがそれにかかってます。年越しできないと、来年3月の「アイリッシュ・フィドル講座」もできない。どうぞ、よしなに。

 宣伝ばかりではつまらないので、こちらをどうぞ。(ゆ)


ギネスの哲学――地域を愛し、世界から愛される企業の250年    東京・根津のユニークな古本屋、古書ほうろうで、『ギネスの哲学』刊行記念イベントをします。
    
05/20(日)15:00スタート

    先日、新宿のベルクでやらせていただいたイベントの拡大版で、本の内容などをめぐってぼくと編集担当の下田さんがおしゃべりし、ベルクでも演奏してくれたフィドルの西村さん(本書のカヴァー・イラストも描いてくださいました)とパイプの内野さん、それに下田さんがギターで入って、アイリッシュ・ミュージックのライヴを楽しんでいただく、という趣旨です。
    
    ベルクではさすがに全体で30分ぐらいでしたが、今回はもうすこしゆったり、のんびりできるでしょう。
    
    ほうろうは古本屋さんですからふだんはギネスは置いてませんが、この日だけは特別に販売するそうです。
    
    真昼間から飲むギネスは旨いでしょう。アイリッシュ・ミュージックの生演奏を聴きながら飲むギネスもまた旨いです。ですから、旨さが自乗される、という仕掛け。
    
    どうしてもお酒は飲めない、という方にも、ノンアルコールの飲み物が用意されるそうです。ギネスは飲めなくても、ギネスの話は面白いと思いますし、アイリッシュ・ミュージックのライヴは楽しめます。ご遠慮なく、どうぞ。
    
    そうか、ギネス社はノンアルコールの飲み物だけは作ってないんですねえ。まあ、それをやってしまうと、やはり「一番得意なものに集中する」というポリシーからはずれてしまうんでしょう。
    
    それにしても、ギネスに匹敵する、相当するノンアルコールの飲み物って何だろう。コカ・コーラじゃないしなあ。(ゆ)

遅くなりましたが、日曜日は新宿ベルクでの『ギネスの哲学』刊行記念イベントに多数ご来場いただき、ありがとうございました。
    
    はじめは店内の様子にちょっと不安になりましたが、たまたま店に居合わせた方にも好評だったようで、本もたくさん売れたそうです。重ねて、御礼申しあげます。
    
    イベントが一応終わってから、記念撮影とのことで、店のすぐ外、地下通路との境あたりで、もう1セット演奏があったんですが、これが意外にすばらしく良い音でした。店内ですと、音が吸われるのが、カンカンのライヴな地下街では良く響きます。できることなら、しばらく聴いていたかったです。
    
    ベルクの名前は知っていましたし、新宿で「アカシア」に向かう途中、いつも脇を通っていたんですが、初めて中に入って、すっかりファンになってしまいました。とにかく、飲み物も食べ物も、全部旨い。そして安い。お客さんの雰囲気もいい。ちょっと立ち寄って軽く食べるのにも、腰を落ちつけて飲み物を味わうのにも、恰好の店ですね。
    
    とにかく何もかもが旨かったんですが、ちょっとびっくりしたのは「リアルハーフ」という、ギネスとエーデルピルスのハーフ&ハーフ。比重が違うそうで、この二つがグラスの上下にきれいに別れてきて、それはそれは美しい。飲むときは混ざりますが、グラスを置くとまた別れる。もちろん、注ぐにはそれなりのスキルが要るそうで、世界でもベルクでしか飲めない、見られない由。逸品といっていいと思います。
    
    お酒だけでなく、コーヒーも美味。生チョコ付きコーヒーというのもあって、この次、飲んでみようと思いました。
    
    レギュラーのメニューの他にも、国内各地の地ビールの生や、特別料理を臨時に出したりもするそうです。今月も骨付きハムの予告が出てました。それもすこぶるリーズナブルな値段で、ひじょうに食慾がそそられます。
    
    ぼくは所用もあり、夕方で失礼しましたが、他へ演奏に行ったパイプの内野さんがまたもどってきて、23時の閉店までセッションをしたそうな。
    
    
    昨日は東京・千駄木の古書ほうろうへ伺って、やはり『ギネスの哲学』にひっかけたイベントの仕込みをしてきました。ちょっと先で、いずれ、お店や版元のウエブ・サイトで告知が出るので、お楽しみに。
    
    あそこへ行くと、ついつい買ってしまいます。平凡社の東洋文庫をまた買ってしまった。日本語の本は原則買わないようにしてますが、東洋文庫だけはあの造本が大好きで、チャンスがあると買ってしまいますねえ。新宿のジュンク堂は棚一本ずらりと並んでいて、眺めるだけでも浮き浮きしてきたものですが、あれが見られなくなるのはやはり痛いなあ。東洋文庫もようやく、オンデマンドではない復刊を始めたようで、青木正児の『江南春 (東洋文庫 217)』があったのには思わず手が延びそうになって、ぐっと堪えました。桑原隲蔵の『考史遊記 (岩波文庫)』とならぶ、戦前中国大陸紀行の名著だと思います。
    
    本の他にCDもあって、友人に教えられていた鈴木常吉さんの2枚と二階堂和美さんの《にじみ》があったので、思わず購入。鈴木さんのにはほうろうだけのおまけのCDが付いてきました。
    
    店の奥では「しでかすおともだち」による「しでかす移動商店街」が展開中。オーラが溢れてました。最終日、03/25にはサイン会があるそうで、うーん、来てみようかな。
    
    そうそう、今週末には良元優作さんのライヴもありますね。やっぱりほうろうは面白い。(ゆ)

ギネスの哲学――地域を愛し、世界から愛される企業の250年    久しぶりに翻訳した本が出ます。
    
    題して、『ギネスの哲学』。
    
    といっても別に難しいものではなく、要は、儲けたものはシェアしようよ、ということ。
    
    長谷川眞理子氏によれば、生物としてのヒトは集団を作ることで初めて生存できるのだそうで、確かに、まったく単独で生きられる人間はいません。集団を作り、得たものを分けあうことでようやく生きつづけることができる。
    
    現代の人間の生活様式が、ヒトとしての根本的性質から外れてしまったことから諸々の問題が生じているわけで、カネというシステムなんかもその典型。カネを儲けると、それを自分の力だけで手に入れたと勘違いしてしまう。それだけならまだしも、だからってんで、自分だけで独占しようとする人が多い。
    
    「リーマン・ショック」に象徴される「強欲資本主義」(というのも冗長な呼称ですな)はその行きついた姿で、「オキュパイ・ウォール・ストリート」の運動が起きない方がおかしい。
    
    著作権をめぐる軋轢なんかも、著作物が生みだす利益を(著作者と同一とは限らない)著作権者が独占しようとするから起きる、とぼくなどは見ています。
    
    で、ギネスの話です。
    
    ギネスはアイルランド独自の産物ということでは伝統音楽と肩をならべます。生まれるのが18世紀後半というのも、現在の形の伝統音楽とほぼ同時期です。ギネスそのものを生みだしたのはプロテスタントですが、そのビールを愛し、育んだアイルランドの人びとの圧倒的多数はカトリックでした。その結果、ギネスはアイルランドのビールとなり、やがて大英帝国のビールとなり、ついには世界のビールになります。この道筋も伝統音楽が後を追っていますね。
    
    当然その過程でギネス社は大いにカネを儲けます。歴代経営者は当時の英国最大の大金持ちになります。かれらは儲けたカネをどう使ったか。
    
    並の経営者なら、儲けたカネをさらに増やすことだけを考えて投資するでしょう。あるいはバブル期のわが国の企業のように、有名な美術品をやたら買い込んだりすることもあります。
    
    ギネスの人びとは違いました。
    
    もちろん、実際の使い方は時代によって違いますが、基本方針としては儲けたカネをシェアしたのです。今風に言えば「利益の社会還元」ということになるんでしょうが、そのやり方はハンパではなかった。従業員の福利厚生(これがまた凄い。一例をあげればデートの費用まで会社が負担した)はもちろん、工場周辺の住民の健康促進、ダブリン市全体の貧困対策、さらにはアイルランド全体を対象とした文化振興や福祉事業と、留まるところを知らない、と言ってもいいくらい、気前良くカネを注ぎこみました。「バラ撒き」というのは、今のわが国では公的なカネの使い方としては良くないイメージがありますが、ギネス社のカネの使い方は頼まれると「ノー」とは言えないんじゃないかと思えるくらいです。
    
    中には従業員対策として行なったことが思わぬ広がりを持ち、アイルランドの未来を具体的な姿として提示し、その行方を左右することになった例もあります。19世紀末から20世紀前半にかけてギネス社の専属医師だったドクター・ラムスデンの事績は、持てる者が得たものを分け合うことでどれほどのことが可能になるか、まざまざと示しています。
    
    翻訳する対象に感情的に入れこんでしまうのは「プロ」としては失格なのでしょうが、このドクター・ラムスデンの活動を描いたところは、下読みをした時も、実際に翻訳している時も、校正で何度も読みなおした時も、その度にいつも涙が浮かんでくるのを止めることができませんでした。こうして書いているだけでも、胸が熱くなります。
    
    つまりギネス社は儲けたものを分け合う、シェアすることで「世界を変えた」のです。「世界を変える」のは悪い方へ変える場合もあるわけですが、普通はより良い方へ、涙が減り、笑顔がより増える方へ変えることであります。
    
    この本はそうしたギネスが生まれ、育ち、ついには世界最大のアルコール飲料企業になりながら、「世界を変え」てゆく、その過程を生き生きと描いたものです。
    
    なにせ、大好きなギネスが、ただ旨いだけでなく、「世界を変え」てもいた、というのは嬉しい話で、ぼくとしてはまことに楽しい仕事でした。病気でやむなく中断していた間も早く再開したくてうずうずしていました。唯ひとつ、残念なのは、ギネスと音楽、とりわけ伝統音楽との関りにほとんどまったく触れられていないこと。ですが、それはギネスが間接的に「世界を変え」てゆく話で、そういうことまで含めれば、話は音楽に限られないでしょうから、とても一冊の本で語りきれるものではなくなってしまいます。
    
    というわけで、この次ギネスを飲みながらこれを繙けば、旨いギネスが一層旨くなります。ギネス2杯半分ですが、それ以上の「旨味」があることは保証します(^_-)。
    
    刊行を記念してちょっとしたイベントをやります。明後日の日曜日、という急な話ですが、東京・新宿の「ベルク」というカフェで、14:00からトークとアイリッシュ・ミュージックのミニ・ライヴがあります。演奏はフィドルの西村玲子さんとイルン・パイプの内野貴文さん。西村さんはこの本のカバーのイラストも描いてくださいました。さすがに雰囲気出てます。お二人とも生を聴くのは初めてなので、ぼくも楽しみです。
    
    他にも二、三、イベントを企画してます。ギネスを飲みながら、ライヴを聴くという形になると思います。
    
    ということで、『ギネスの哲学』をよしなに。(ゆ)

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