クラン・コラ・ブログ(アイルランド音楽の森)

 アイリッシュ・ミュージックなどのケルトをはじめ、世界各地のルーツ音楽を愉しむブログです。そうした音楽の国内の音楽家も含みます。加えて主宰者の趣味のグレイトフル・デッド。サイエンス・フィクション、幻想文学などの話もあります。情報やメモ、ゴシップ、ただのおしゃべりなどもあります。リンク・フリーです。

タグ:ゲーム

 安田さんが古希と聞いて愕然とした。が、何も驚くことはないわけだ。人は誰しも年をとる。むしろ、古希を迎えても、「楽しいのは、これからですよ」と言い切るポジティヴな姿勢にならいたい。年寄りがこう言うと、ともすればそれで自らを鼓舞しようという、どこか白々しい大言壮語に響くのだが、ここでの安田さんの言い方にはまるで無理がない。ごく自然に、心底そう思っていることが伝わってくる。実にいい年のとり方をしている。年寄りはすべからくこうありたい。そう、いろいろな意味で、今は転換の時期であり、ゲームに限らず、面白いものがどんどんと出てきているし、これからも出てくる。お楽しみはこれからなのだ。と、大いに励まされる。

 あたしはゲームには縁が無い。安田さんより5歳下の世代として、一通りはやっている。モノポリーは難しそうで手が出なかったが、バンカーズは友だちの家でやった。将棋、軍人将棋、五目ならべ、双六、野球盤、トランプ。花札は身近にやる人がいなかった。麻雀は大学に入ってから。しかし、どれも一通りで、のめり込むことはなかった。大学2年の時、周囲でトランプの「大貧民」が流行し、ヒマさえあれば、時には講義をさぼってもやっていたのがゲームというものに最も入れこんだ時だろう。

 ということで、本書の後半、ベストゲーム101はあたしには猫に小判である。不悪。

 一方、前半、安田さんの自伝は実に面白い。一番面白いところはまず金の使い方の巧さだ。たとえば45頁。ドイツの Funagain Games から大量にゲームを買った。あまりに量が多いので、あんたはいったい何者だと不審に思われる。ドイツのゲーム大会に行って、中古ゲームを山のように買う。日本へ送る送料だけで十数万。

 あるいは56頁。

 コロナで給付金がもらえたので、ここは時代が暗いから、パァーっと使おう。何に? ミステリーをこのところ趣味で読んでるから、論創ミステリーシリーズの残ってる100冊ほど買えば、それくらいになるんじゃないか。で、買っちゃうわけです。

 1960年代70年代のアメリカSFのペーパーバック・コレクションでは日本一ではないかと思うと、安田さんご本人から伺ったこともある。

 こうしたまとめ買いをすれば、中身は当然玉石混淆になる。そこから玉を拾いあげるのも楽しいが、それとは別に、ミソもクソもひっくるめた全体から見えてくるものがある。全部読めるはずもないが、読まなくても見える。ただし、それはとにかく全部を手許に置いてみなければ見えてこない。そして、そこで見えてくることが、実は玉だけを拾いあげるよりも大事なことなのだ。玉だけを見ていては見えないものの方に、一番のキモがある。ものごとの本質は玉よりも石ころの方により剥出しに現れる。あたしにこのことがわかるのは音楽の方面でたまたま同様の体験をしたからだが、それはまた別の話。

 もう一つ面白いのは、あるものが流行っては引き、流行っては引く、その繰返しと、安田さんがそれに対処し、次の波を呼ぶ努力をし、そして幸運に恵まれて次々と波を乗りこなしてゆく有様だ。幸運に恵まれたことは確かだが、幸運というのは努力をしている者にしか訪れない。別の言い方をすれば、努力をしていることで初めて幸運をモノにできる。

 流行に対して、わが国の出版社が一時にどっと集まり、去ったとみるとぱっと引くのも、本書ではからずも強調されていることだが、こういう「打って一丸となる」反応がいかに危ういか、わが国出版の現状にモロに現れているのではないか、と愚考する。先進国のみならずインドなども含め、出版がここ数十年、全体として売上を減らしているのはわが国だけだ。その原因はむろん単純であるはずもないけれど、何でも他人のやっているのと同じことをやらないと気がすまない性格は、少なくともその小さくない要因の一つではないか。他の何にも増して、出版という活動は多様性が大きいことにその生命がかかっているのだから。

 狭い国内の波の寄せ返しにばかりとらわれるのではなく、広く世界の動きに目を配り、他人のやらないことをやること、選択肢の幅を広くとることが、次の波を呼びこむための秘訣であることは、本書に描かれた安田さんの行動に明らかだ。

 今のところボードゲームの時代のように見えるが、これがずっと続くものでもあるまい。波は引いては返すとともに、満ちては退く潮つまり周期がある。一周回ってRPGがまた来るかもしれない。たいていは、もどってくる時にはまったく同じ姿ではなく、その間に現れたものと何らかの形で折衷している。コンピュータ・ゲームもますます盛んなようだし、新しいボードゲームとコンピュータの合体、たとえばARを使ったボードゲームも現れるだろう。いずれにしてもやはり好きこそものの上手なれ。好きなものにこだわるのがベストだ、と本書にはあらためて尻を叩かれる。

 好きなものにこだわる、というと、何か必死になってしがみつくようなイメージを抱かれるかもしれない。それはまったく反対のイメージであることは強調しておこう。実際には、好きなものにこだわるのは最も無理のない、自然なことである。あるいは、最も無理のない、自然なことをしていたら、こだわっていたことになった、と言うべきか。そうでなければ、どこかで無理をするならば、必ずうまくゆかなくなる。ただし、無理のない、自然なことをするのは必ずしも楽なことではない、というだけのことだ。時にそれは孤立したり、逆行したりするように見えることもある。それでも好きなものの呼ぶ声に素直に忠実に従うのは、生きてゆくことの醍醐味ではないか。

 もう一つ、ここには重要な教訓がある。少なくともあたしにとっては、あらためて肝に銘じるべき教訓がある。全体像を摑むのにコレクションの充実は必須だ。しかし本当にモノにするには、デターユに分け入らねばならない。すなわち、本は読んでナンボ、ゲームは遊んでナンボ、なのである。本書40頁、積んであったボードゲームの面白さにひっくり返るところ。時間がなくて遊べもしないゲームを買って積んでおくことも大事だが、やはり実際に遊んでみなければ、面白いことはわからない。読めもしない本を買って積んでおくことも大事だが、やはり実際に読まねばその面白さはわからない。

 折りしも、今、翻訳のファンタジーは売行不振のどん底にあるそうだ。これまた原因は単純ではないが、『ハリポタ』やGOTで我も我もとファンタジーに集まった反動という面も大きそうだ。しかし、あたしは今、ファンタジーに強く惹かれる。というよりも、読みたいと思う本がなぜかどれもファンタジーなのだ。もっとも科学は十分に発達すれば魔法と区別がつかなくなるというフリッツ・ライバーの言葉もある。SFはテクノロジーの装いを凝らしたファンタジーだ。サイエンス・フィクションが本当に面白くなるのは、科学の現在から飛躍するところだ。超光速飛行であり、時間旅行だ。どちらも科学からすれば不可能だからこそ、サイエンス・フィクションの最も強力で柔軟なツールになる。という議論はとりあえず脇に置いて、あたしはとにかく読みたい本、読んでくれとしきりに呼んでいる本を読むことに精を出そう。読んで面白ければ、報告もしよう。読まずには死ねない本は山のようにあり、日々増えつづけている。(ゆ)

安田均のゲーム紀行 1950-2020
安田 均
新紀元社
2020-12-12


 春分の日に NHK-FM で放送した「今日は1日ケルト音楽三昧」で放送された楽曲解説の続き。
#zanmai

 プレイリストは番組の公式サイトに上がっています。


13. Hugh / Nightnoise
 ここで最初のゲスト、遊佐未森さんをお迎えしました。

 まずはリクエストでナイトノイズの曲。《The White Horse Sessions》(1996) 収録。

 トゥリーナのピアノが美しい曲で、タイトルはトゥリーナやミホールの父君のことと思われます。このお父さんは伝統歌の収集家でもあり、アイルランド語のネイティヴ・スピーカーでした。実家はアイルランド北西部のドニゴールで、兄妹は毎年夏休みなどにここに通います。ドニゴールはアイルランドの中でも音楽伝統の濃いところで、兄妹は伝統にどっぷり漬かって育ったのでした。

Triona Ni Dhomhnaill: piano
Micheal O Domhnaill: guitar
Brian Dunning: flute
John Cunningham: fiddle

The White Horse Sessions
Nightnoise
Windham Hill Records
1997-01-14




14. Island of Hope and Tears / 遊佐未森
 遊佐さんの楽曲へのリクエスト。遊佐さんがナイトノイズと共演、共作した最初のアルバム《水色》(1994) から。

 遊佐さんによれば、この時、ミニ・アルバムを作るからやりたいことを言うように言われて出した三つほどの企画のうちの一つがナイトノイズとの共演だったそうです。最も実現しそうになかったものがとんとん拍子に運んでしまった由。

 この歌はコーラスがたいへん美しいですが、ミホールとトゥリーナの神秘的とも言えるハーモニーは何の加工も加えておらず、二人が唄うだけでああいう風になったとのこと。

遊佐未森: vox, chorus, synthesizer
Nightnoise
Triona Ni Dhomhnaill: piano, chorus
Micheal O Domhnaill: guitar, chorus
Brian Dunning: flute, low whistle, uillean pipes
Johnny Cunningham: fiddle

水色
遊佐未森
ソニー・ミュージックダイレクト
2010-07-14



15. The Road to Nowhere / 遊佐未森
 リスナーからのリクエスト。1998年の《エコー》から。

 このアルバムはほとんどのトラックがスコットランドで、スコットランドのミュージシャンを動員して録音されています。カパーケリーのメンバーを中心としたトップ・ミュージシャンばかりで、遊佐さん自身、夢のようだったそうです。とりわけドラムス、パーカッションのジェイムズ・マッキントッシュがカッコよかった由。スコットランド最高のドラマーです。それにマイケル・マクゴールドリックはまだ20代の若者。

 この曲はトゥリーナ・ニ・ゴゥナルの作品でトゥリーナもピアノで参加しています。

遊佐未森: vox, chorus, keyboards
James Mackintosh: drums, percussion
Ewen Vernal: bass
John Goldie: guitars
Colm Malcolm: synthesizer, programming
Tommy Smith: soprano sax
Nigel Thomas: percussion
Michael McGoldrick: whistle, B-flat flute, uillean pipes
William Jackson: harp, flute, whistle
Stuart Morison: fiddle
Triona Ni Dhomhnaill: piano, chorus, whistle
Tony McManus: guitar, mandolin
Jimmy McMenemy: bouzouki

ECHO
遊佐未森
EMI Records Japan
2013-07-24



16. ロカ / 遊佐未森
 最後に遊佐さんご自身のセレクションで、昨年行われたデビュー30周年記念ツアーで、トゥリーナと共演したライヴ録音。今月中にDVDとCDでリリースされる予定だそうです。

 トゥリーナはもう70近いはずですが、ますます元気の由。

【Amazon.co.jp限定】PEACH LIFE(CD+DVD)(特典付/A4ファイル)
遊佐未森
ヤマハミュージックコミュニケーションズ
2019-03-27



17. Nobody Knows / Paul Brady
 ここからしばらくリクエスト曲が続きます。

 まずはアイルランドのシンガー・ソング・ライターで、「最高のシンガー」(マーティン・ヘイズ)でもあるポール・ブレディのオリジナル。《Trick Or Treat》(1991) 収録。ライヴ盤《The Paul Brady Songbook》(2002) でも歌っています。

 ブレディは1960年代後半、ジョンストンズのメンバーとして世に出て、伝統音楽の世界でシンガー、ギタリストとして名を成した後、そこからは一歩離れた、現代のポップ・ソングのシンガー・ソング・ライターとしても大成します。我々から見ると、対照的な二つの面を持つと見えますが、本人の中では特に別々のことをやっているつもりはないらしい。

 この歌はポップスの方に属するもの。ただし、詞はアイルランド人らしく、単純な惚れた張ったではなく、いろいろな解釈が可能で、一筋縄ではすみません。

Paul Brady: Vocals, Guitars
Freddie Washington: Bass
Jeff Porcaro: Drums, Percussion
Elliot Randall: guitars
David Paitch: piano, Keyboards

Trick Or Treat
Paul Brady
Polygram Records
1993-08-12



18. Broken Levee / Wolfstone
 このバンドの〈Broken〉を、というリクエストだったので、この曲ではないかと推察しました。今のところ最新作《Terra Firma》(2007) 収録。

 スコットランドのケルティック・ロック・バンド。1989年結成。実はCDは持っていたものの、あまり真剣に聴いたことがなく、もっと早く、きちんと聴いておくべきだったと反省してます。ランリグがスコティッシュ・ゲール語を前面に出して、どちらかというと神秘的に想像をふくらませるのに対して、ウルフストーンは英語で、きりりと引き締まった音楽を作ると言えましょう。

Stevie Saint: pipes, whistle
Ross Hamilton: vocals, guitar, programming, percussion, bass
Stuart Eaglesham: acoustic guitar
Duncon Chisholm: fiddle
Colin Cunningham: bass
Alyn Cosker: drums

Terra Firma
Wolfstone
Once Bitten
2007-05-29



19. Dulaman / Celtic Woman
 《A New Journey》(2007) から。

 『リバーダンス』からのスピンアウトの一つで、あちらがダンスをフィーチュアしているのに対し、こちらは歌をメインにしたもの。わが国では2006年冬季オリンピックのフィギュアスケートで金メダルを獲得した荒川静香選手がエキジヴィションでファースト・アルバム収録の〈You Raise Me Up〉を使用して一気に人気が出ました。

 曲はクラナドが初期のアルバム (1976) のタイトルにしているドニゴールの歌で「デュラマン」は海藻の一種。ドニゴールは土地が瘠せていて、海岸に流れつく海藻を集めて肥料とし、場合によっては食糧にもすることが古くから行われていました。元々はわらべ唄。

Meav Ni Mhaolchatha: vocals
Andreja Malir: harp
David Downes: whistle, vocals

ニュー・ジャーニー~新しい旅立ち~
ケルティック・ウーマン
EMIミュージック・ジャパン
2007-02-14



20. Cardinal Knowledge / Bruno Coulais & KiLA
 元はキーラのアルバム《Gamblers' Ballet》(2007) 収録で、アニメ『ブレンダンとケルズの秘密 The Secret Of Kells』に使われました。

 アニメは『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』を作ったプロダクションの一つ前の作品。アイルランドの至宝『ケルズの書』制作の秘密をめぐる歴史ファンタジー。

 なお、サントラでは音楽が終った後、1分半ほどの空白の後、アイルランド語のナレーションが入りますが、番組では音楽のみで切り上げました。

Eoin Dillon: Uilleann PIpes & Whistles
Ronan O'Snodaigh: Bodhran & Percussion
Rossa O'Snodaigh: Guitar, Whistle, Percussion, Piano, Bouzouki, Trumpets, Clarinet, Mandolin etc.
Colm O Snodaigh: flute
Dee Armstrong: Fiddles, Violins, Glockenspiel, Free-Notes etc.
Lance Hogan: Guitar
Eoin O'Brien: Guitars

Karl Odlum: Loops, Drum Programming, Effets sonores
Mark Gavin: Synthetized bass
Dan Klezmer Page: Clarinette

The Secret Of Kells
Bruno Coulais & Kila
Kila Records
2012-04-03



21. Only Time / Enya
 《A Day Without Rain》(2000) より。エンヤの音楽はエンヤの曲とプロデューサー Nicky Ryan のエンジニアリング、それにニッキィ夫人の Roma Ryan の詞が一体となってできています。ニッキィ・ライアンは1970年代にモダン・アイリッシュ・ミュージックの初期の録音を担当して、数々の傑作、名盤を生み出した原動力の一人でもあります。アイルランドのアコースティックな音楽の録音には定評がありますが、ブライアン・マスターソン、アンドリュー・ボーランドと並んで、アイルランドを代表する録音エンジニアです。

A Day Without Rain
Enya
Imports
2000-11-17



22. Runaway / The Corrs
 1995年のデビュー・アルバム《Forgiven, Not Forgotten》から。

 兄弟姉妹が核となっているバンドは少なくありませんが、兄弟姉妹だけでバンドが組めてしまうのは、珍しいと言えるでしょう。あえて言えば、ケルト圏に特有の現象かもしれません。

 もっと大所帯で伝統音楽寄りの兄弟姉妹バンドとして、カナダの Leahy がいます。

Caroline Corr: Drums, Bodhran, Vocals
Jim Corr: Keyboards, Guitar, Vocals
Andrea Corr: Lead Vocals, Tin Whistle
Sharon Corr: Violin, Vocals

Forgiven Not Forgotten
Corrs
Atlantic / Wea
1996-01-09



23. Irish Heartbeat / Van Morrison & The Chieftains
 もちろんリリースは1988年です。

 リリースされたレコード・ジャケットを見てまず驚いたのが、ヴァン・モリソンがまるでチーフテンズのメンバーの一人であるように映っていたことでした。いわば、もっと「不均等」な関係を想像していたわけです。音楽もチーフテンズがバック・バンドというよりは、それまでチーフテンズが出してきたシンガーをゲストとしたアルバム、たとえばドロレス・ケーンを起用して彼女に録音デビューさせた《Bonapart's Retreat》(1976) と同様に、モリソンがチーフテンズのリード・シンガーの一人という形です。

 ヴァン・モリソンと対等のチーフテンズというのは、チーフテンズの何者かを知っていた我々ですら驚きましたから、ここで初めて彼らの音楽に接するリスナーにはいかほどの衝撃であったでしょうか。ピーター・バラカンさんもこれで初めてチーフテンズの存在とその背後にあるアイリッシュ・ミュージックを知ったと言われていました。

 アメリカのポピュラー音楽の成立にアイリッシュ・ミュージックが大きな役割を果たしていることは今や常識と言ってよいかと思いますが、これが出た当時はそんなことを言えばバカにされるのが関の山でした。モリソンの音楽の奥底にアイルランド伝統音楽の血脈が通じていることを示したこのアルバムは、そうしたシェーマの転換のきっかけにもなっていたと思います。

 モリソン自身、これによって改めて己れのルーツを確認し、それまでの低迷を脱して、《Hymns To The Silence》(1991) を頂点とする傑作群を生み出してゆきます。

 チーフテンズにとってはさらに大きく、これによって彼らは世界的認知を得て、アイルランド以外の世界にとってアイリッシュ・ミュージックのアイコンになってゆきます。

Van Morrison: Lead Vocals, Guitar, Drums
Paddy Moloney: Bagpipes, Tin Whistle
Kevin Conneff: Bodhran, vocals [A1 A3 B1]
Sean Keane: Fiddle
Martin Fay: Fiddle, Bones
Matt Molloy: Flute
Derek Bell: Harp, Dulcimer [Tiompan], Keyboards

June Boyce: chorus

Irish Heartbeat
Van Morrison & Chieftains
Uni/Polygram Pop/Jazz
1988-06-20



24. Over The Hills And Far Away / Gary Moore
 《Wild Frontier》(1987) より。

 ゲイリー・ムーアがアイルランド出身であることは承知していましたが、このアルバムにはチーフテンズのパディ・モローニ、ショーン・キーン、マーティン・フェイが参加していることを今回初めて知って、改めて興味が湧いているところです。とりわけ、マーティン・フェイが参加しているのは興味深い。フィドルが2本要るとモローニが判断したのでしょうが。

 それにしても、これくらい気合いが入っているジャケットは滅多に無いですね。

Gary Moore: Guitar, Vocals
Bob Daisley: Bass
Neil Carter: Keyboards, Vocals

WILD FRONTIER
GARY MOORE
VIRGI
2003-04-28



25. Doon Well / Maire Brennan
 1998年の《Perfect Time》から。

 モイア自身のハープをフィーチュアしたインストゥルメンタル。どちらかというとアルバムの中でも地味な曲で、こういう曲をリクエストされるのは相当に聴きこまれているのでしょう。

 ここでロウ・ホイッスルを吹いているデヴィッド・ダウンズは後に Celtic Woman をプロデュースします。

Maire Brennan: Keyboards, Harp
David Downes: low whistle

Perfect Time
Maire Brennan
Sony
1998-04-21




26. 二月の丘 / ZABADAK
 《遠い音楽》(1990) から。

 ザバダックを聴きだしたのは昨年からなので、まるで初心者ですが、個人的には上野洋子さんがいた頃が好き。あたしにはケルトよりもどちらかというとイングランド的感性が感じられます。

 上野さんは後に《SSS-Simply Sing Songs》(2003) という、すばらしい伝統歌集をリリースされてます。

吉良知彦
上野洋子
金子飛鳥
梯郁夫
保刈久明
安井敬
渡辺等

遠い音楽
ZABADAK
イーストウエスト・ジャパン
1990-10-25



27. Culloden’s Harvest / Deanta
 かつては「ディアンタ」と表記されていましたが、アイルランド語の発音により近く書けば「ジュアンタ」でしょうか。

 1990年代に現れたアイルランドの若手バンドの筆頭で、この曲は最後のアルバム《Whisper Of A Secret》(1997) から。ここではメンバーはギタリストを除いて全員女性になっていました。いささか唐突に解散してしまいましたが、リード・シンガーの Mary Dillon は最近復活しています。

 なお Culloden はスコットランドの地名で、1746年4月にここで行われた戦いで有名です。1745年に始まったスコットランド・ハイランドの氏族たちによるイングランドに対する最後の大叛乱の最後の戦いで、これによって伝統的なスコットランドの社会は敗北します。このいわゆるボニー・プリンス・チャーリィの叛乱からはたくさんの歌や曲が生まれ、伝えられています。


Mary Dillon: Vocals
Kate O'Brien: Fiddle
Deirdre Havlin: Flute, Whistle
Eoghan O'Brien: Harp, Guitar
Rosie Mulholland: Keyboards, Fiddle

DEANTA
DEANTA
WHISPER OF A SECRET
2017-06-16


28. Johnny, I Hardly Knew Ye!(ジョニーは戦場に行った) /
 楽曲は有名なもの(ここでもあたしが何やらあらぬことを口走ったような気がします)ですが、うたい手はクラシックの訓練を受けていて、こういう人がこういう歌をうたうというのには、意表を突かれました。

 とはいえ、アイリッシュ・テナーと呼ばれる一群のシンガーたちの存在もあるわけで、ケルト圏の伝統曲のクラシック的解釈は、おそらくかなり広まってもいるのでしょう。メルマガの『クラン・コラ』でも「オーケストラで聞くアイリッシュ・ミュージック」の連載があります。

 個人的にはこの曲は歌としてよりも、スタンリー・キュブリックの映画『博士の異常な愛情』でライト・モチーフ的に使われていたのが印象に残っています。

庭の千草〜アイリッシュ・ハープ
ミッチェル(エミリー)
BMGビクター
1993-04-21



29. Molly Malone / Sinead O’connor
 楽曲だけでアーティストの指定が無かったので、このヴァージョンを選びました。《Sean-Nos Nua》(2002) 収録。

 このアルバムはシネイドが伝統歌ばかりを唄って新生面を開いたもので、ドーナル・ラニィのプロデュースのもと、バックはアイリッシュ・ミュージックのトップ・プレーヤーが集まっています。

 曲はダブリンの貧しい魚売りの少女の薄幸を唄って、イングランドでも広く唄われました。わらべ歌の一種でもあります。

Sinead O'Connor: vocals
Donal Lunny: acoustic guitar, bouzouki, keyboard, bodhran, bass guitar
Steve Wickham: fiddle, mandolin, banjo
Sharon Shannon: accordion
Abdullah Chhadeh: quanun
Nick Coplowe: Hammond organ
Cora Venus Lunny: violin
Skip McDonald: electric guitar
Carlton "Bubblers" Ogilvie: drums, bass guitar, piano
Bernard O'Neill: bass guitar
Professor Stretch: drums, programming

Sean-Nos Nua
シニード・オコナー
BEAT RECORDS
2002-10-16



30. Caoineadh Johnny Sheain Jeaic> Lorient Mornings> Illean Aigh / Duncan Chisholm
 このリクエストは嬉しかったです。スコットランドにフィドルの名手の多い中で、個人的に今一番好きな人なので。

 ダンカン・チザムは上に出てきた Wolfstone のフィドラー。バンドでは結構ハードなサウンドですが、ソロでは贅肉を削ぎ落した、ストイックな演奏で、スコットランド音楽の奥深さを体験させてくれます。こういう、一種、崇高と呼びたくなるような音楽はスコットランドならでは。

 アルバムは《Canaich》(2010) で、2008年の《Farrar》、2012年の《Affric》とともに三部作を成します。

Duncan Chisholm: fiddle
Phil Cunningham: piano
Patsy Reid: cello

Canaich
Duncan Chisholm
Copperfish
2010-06-21



31. MELKABA(オリジナル・サウンドトラック「ゼノギアス アレンジヴァージョン クリイド」から)
 ここから光田康典さんをゲストにお迎えしました。まずはその光田さんの楽曲へのリクエスト。

 この曲ではアイリッシュ・ベースのメロディに、フィンランドのヴァルティナ流のコーラスが乗っていますが、それが見事に融合して独自の世界を作っています。

 この前年の植松伸夫さんの《Celtic Moon》もそうですが、こんな豪華なメンバーは今では到底集められないでしょう。

光田康典: piano, keyboards, programming, voices, hand clap
上野洋子: vocals
Davy Spillane: uillean pipes, low whistle
Maria Kalaniemi: accordion
Maire Breatnach: fiddle
Laoise Kelly: Irish harp
HATA: guitars
渡辺等: bass
藤井珠緒: congas, bongos, glockenspiel, clasher, China cymbal, Paste 5cup cymbal, tree bell, Angel Heart, India bells, darbuka, flexatone, wind chime, nail chime, cha-cha, finger cymbals, Sleigh bells, caxixi
KALTA: drums, tambourine, programming, voices, hand clap
本間 “Techie” 哲子: vocals
素川欣也: 尺八, 篠笛
Laurie Kaszas: tin whistle
吉良知彦: bouzouki, guitar
Eimer Quinn: vocals
小峰公子: vocals
山中ちこ: chorus, hand clap
工藤ともり: chorus, hand clap
Anne-Marie O’Farrell: celtic harp

ゼノギアス アレンジヴァージョン クリイド
光田康典&ミレニアル・フェア
スクウェア・エニックス
2005-06-29



32. Shadow of the Lowlands(オリジナル・サウンドトラック「ゼノブレイド2」から)
 こちらはぐんと新しいところで、アイルランドのユニークなコーラス・グループ Anuna によるアカペラ・コーラス。

 YouTube にも上がっているPVは、アヌーナのリーダーであるマイケル・マッグリンが、自ら作りたいと言い出したそうで、光田さんの楽曲にそれだけ惚れこんだのでもありましょう。

Anuna: chorus

33. LAHAN(オリジナル・サウンドトラック「ゼノギアス アレンジヴァージョン クリイド」から)
 《クリイド》からもう1曲。これもリクエスト。


34. Welcome To Our Town!(オリジナル・サウンドトラック「ファイナルファンタジー4 ケルティック・ムーン」から)
 光田さんの《クリイド》と並ぶゲーム音楽のイメージ・アルバムの傑作。粒選りのメンバーですが、中の写真を見ると、みんな若い! とりわけ、まだデビュー・アルバムを出したばかりくらいのシャロン・シャノン。植松伸夫さんもあらためてお話を伺いたい方であります。音楽のプロデュースを務めたモイア・ブラナックはこの録音の後、『リバーダンス』のバンド・マスターになります。

Maire Bhreatnach: fiddle, viola, tin whistle, keyboards, vocals
Cormac Breatnach: flute
Ronan Brown: uillean pipes, tin whistle
Noreen O'Donoghue: harp
Mark Kelly: guitar
Sharon Shannon: accordion
Niall O'Callanan: bouzouki
Tommy Hayes: percussions

ファイナルファンタジーIV ケルティック・ムーン
ゲーム・ミュージック
NTT出版
2004-10-01



35. 麦の唄 / 中島みゆき
 映像に使われたケルト音楽ということで、朝ドラ『マッサン』のテーマ曲。

 個人的には中島みゆきの声は実に日本的だなあと再確認しました。

連続テレビ小説「マッサン」オリジナル・サウンドトラック
富貴 晴美
ヤマハミュージックコミュニケーションズ
2014-12-10



36. マッサン-メインテーマ-(オリジナル・サウンドトラック「マッサン」から)
 こちらは富貴晴美氏によるメイン・テーマ。


37. Donogh And Mike’s / Lunasa
 『マッサン』の楽曲を手がけられた富貴氏からの録音メッセージが流されました。実に熱い内容で、富貴氏ももっともっとお話を伺いたいところです。その富貴氏からのリクエスト。アルバム《The Merry Sisters Of Fate》(2001) 収録。このトラックで演奏されているのは〈1st August> Windbroke〉。前者はメンバーの Donogh Hennessy の曲、後者はルナサ初期のメンバーで現在はカパーケリーの Michael McGoldrick のオリジナル。それでこういうトラック名がつけられています。

Donogh Hennessy: guitar
Cillian Vallely: Bagpipes
Trevor Hutchinson: bass
Kevin Crawford: Flute
Sean Smyth: fiddle


38. チェイサー(オリジナル・サウンドトラック「マッサン」から)
 もう1曲、『マッサン』から。リスナーからのリクエスト。

野口明生: tin whistle, Irish flute
中藤有花 (tricolor): fiddle
長尾晃司 (tricolor): guitar
中村大史 (tricolor): bouzouki, accordion
菅谷亮一: percussions

 余談ですが、このサントラの〈Ellie's Ambition〉は tricolor の3人によるインストゥルメンタルで、短かいメロディを、はじめブズーキ、次にフィドルで繰り返し、さらにそこにフィドルが装飾音を入れてゆきます。この演奏を聞くと、ケルト系のダンス・チューンの装飾音の入れ方、またその役割などが手に取るようにわかります。


39. Chetvorno Horo / Andy Irvine & Davy Spillane
 光田さんコーナーのラストは光田さんのリクエストで、《クリイド》でも大活躍のパイパー、デイヴィ・スピラーンの録音。光田さんがスピラーンにでくわして「何だ、これは?」と衝撃を受けたもの。

 アルバムは《East Wind》(1992)。モダン・アイリッシュ・ミュージックの開拓者の一人、アンディ・アーヴァインがデイヴィ・スピラーンとともに、かれのルーツの一つである東欧、ブルガリアやハンガリーの音楽を演奏したものです。アイリッシュの精鋭が集まっていて、その一人、鍵盤のビル・ウィーランはここでの体験を下にして、後に『リバーダンス』の東欧シークエンスの曲を作ります。このアルバムに参加したのは、私の誇りだ、と本人が言っていました。

Andy Irvine: bouzouki, hurdy-gurdy
Davy Spillane: uillean pipes, low whistle
Nikola Parov: gudulka, kaval, gaida, bouzouki
Bill Whelan: keyboards, piano
Anthony Drennan: guitar Tony Molloy: bass
Paul Moran: percussion Noel Eccles: percussion
Mairtin O'Connor: accordion
Carl Geraghty: sax
John Sheahan: fiddle
Kenneth Edge: sax
Micheal O'Suilleabhain: piano

Andy Irvine / Davy Spillane
Treasure Records
2003-10-18


 以下、続きます。(ゆ)

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