毎月1回、ユニバーサル・ジャズとディスク・ユニオン新宿ジャズ館の主催で行われる新譜紹介イベント。今月のお題は「鍵盤ジャズ」。
ユニバーサルが紹介したのはまずチック・コリアと小曽根真のピアノ・デュオ・アルバム。これまでの二人の録音にバラバラに収録されていたデュオのトラックを集め、未発表の即興演奏の録音を加えたもの。初めての二人だけの日本全国ツアーに合わせたものだそうな。ピアノ2台というのはほとんど初体験だけど、悪くない。このあたりはあたしはまだぜんぜん未開拓なので、結構面白いではないですか。
その次のケニー・バロンのトリオは、うーん、「おジャズ」という感じであたしはパス。BGMになっちゃうのよね。
面白かったのはその次の2枚、Snarky Puppy の鍵盤奏者二人それぞれのソロ。Bill Laurence《AFTERSUN》はトリオプラス1形式で、ベースとドラムスもスナーキー・パピーのメンバーなので、たぶんSPの音楽をやるのにどこまで編成を小さくできるか、やってみましたというけしきでしょうか。
Cory Henry の方はこの人の原点にもどって、教会でハモンド B3 を弾きまくったライヴ《THE REVIVAL》。パーカッションが入るトラックもあるそうだが、聴いたのはソロによるゴスペル。いや、楽しい。ハモンドって、音程によって音色が変わるようで、その効果を知り尽くして即興をやる。1台のはずなのに、何台もの違う鍵盤を操っているように聞える。根柢ではビートをしっかりきざんでいて、うーん、こんなのを生で聴かされたら、イスラームのアザーンではないけれど、一緒になって "O Lord!" とか叫んでしまいそうだ。
Snarky Puppy というバンドは面白い。ジャズ、ロック、ポップスなどなどポピュラー音楽のあらゆるジャンルを横断する音楽をやっているようだ。公式サイトにあるビデオ〈I Asked〉は、ヴェーセンとベッカ・スティーヴンスを組み合わせてすばらしい音楽を作っている。
これは《FAMILY DINNER 2》の中の1曲で、即注文。
ヘッドフォン・マニアとしては、このビデオではミュージシャンはもちろん、聴衆も全員ヘッドフォンをつけているのは見逃せない。教会の中で、しかもミュージシャン同士が向かい合って録音するため、PAを使わないようにしたからなのだろうが、あたしも体験してみたい。ヘッドフォンがオーディオ・テクニカ製というのは、何かトクベツの理由があるのか。ATH-M50xBL ですね。こうなると、このモデル、聴いてみたいぞ。BL は限定版ですでに生産完了。まあ、音は変わらないんだろうけど、でもこのブルーとブラウンは綺麗。映像では映えますな。ん、ひょっとして見映えから選んだのか。それにしても、聴衆まで全員かぶらせるとなるとハンパではない台数が必要なはずで、アメリカのオーディオ・テクニカが協力したのかしらんと勘繰ってしまう。
ユニバーサルからのもう1枚は菊池雅章のラスト・コンサート、2012年10月、上野の文化会館小ホールでのノーPAのソロの ECM からのライヴ盤《BLACK ORPHEUS》。何も申し上げることはございません。へへー。
ユニオンからはまずアルメニアのティグラン・ハマシアンの先輩ピアニスト、Vardan Ovsepian がブラジルの Tatiana Parra とのユニット Fractal Limit で作った録音《HAND IN HAND》。悪くないです。そのうちアルメニア・ジャズの特集とかできるようになるといいなあ。
次はイギリスの Greg Foat という鍵盤奏者のバンドの《CITYSCAPE/LANDSCAPE》。Go Go Penguins もそうだけど、このあたりの英国ジャズも面白い。まとめて聴いてみたいな。
喜んで即購入してしまったのはその次の2枚で、まずスイスの Stefan Rusconi のトリオにフレッド・フリスが参加した《LIVE IN EUROPE》。ピアノ・トリオはフリスに似合う器量で、フリスも大喜びというところ。アヴァンギャルドの比率がちょうどいい。整った部分とすっ飛んでいる部分がきっちり別れていないで、混じり合っている、その具合がちょうどいい。
もう1枚はスペインの Naima の《BYE》で、Enrique Ruis を核としたトリオ。Rafael Ramos のドラムスの切れ味がいいのと、Louis Torregrosa のベースが凄い。チェロを通りこしてほとんどヴィオラか。Afrodisian Orchestra とか Jorge Pardo とかのスペイン風味はあまりというかほとんどないけど、これだけ面白ければ文句はないです。
もう1枚は Jamie Saft 率いる New Zion Trio にブラジルの Cyro Baptista と Saft の奥さんが参加した《SUNSHINE SEAS》。レゲエ/ダブとジャズとの融合、だそうですが、あたしにははずれ。
今回も面白かったです。ユニバーサル、ユニオンの皆様、ご苦労様でした。ありがとうございます。また来月も楽しみです。来月は 06/08、お題は「ECM とその周辺、その2」。なんでも世界初お目見え先行披露音源があるそうな。(ゆ)